Memory4
3日ほど部屋で休暇をとっていたところ、幹部の男がクロの部屋に入ってきた。
ノックもせずにいきなり部屋に入ってくるのはどうなのだろう。
クロはそう思ったが、不満を口に出すわけにはいかない。出来るだけ口を閉じるようにする。
「さて、次の任務だが、お前には魔法少女達がいる学校に潜入してもらう」
「……?」
「1から説明しないと分からないか……脳をいじった影響で頭まで馬鹿になったか?」
すごく馬鹿にされているが、反論はしない。というかできない。
別に意味を理解していないわけではないのだが。
「まあいい。シロも魔法少女達と同じ中学校に通っている。シロの交友関係を見れば魔法少女が誰なのかについて大体目星が付くだろう。だからお前に潜入してもらい、シロの学校生活について探ってもらう」
クロとしてはシロと一緒に通えることは嬉しい……が
「私の顔は既に魔法少女達に知られていますが……」
こちらが魔法少女の顔を知らない(ということになっている)からと言って相手がこちらの顔を知らないわけではない。素性がバレている以上潜入など不可能だと思ったのだ。
「あぁ。言ってなかったがお前は替えが利く。つまりお前の潜入が上手くいかなくてもいい。まあ基本的に学校内で戦闘は起こらないだろう。向こう側は正義の味方さんだ。こちらが仕掛けなければ大丈夫だろう。それに、仮に魔法少女達の陣営に捕獲されたら、その時はお前の中にある爆弾を起動させればいいだけだ」
はっきりとお前はいらない存在だと言われたようで、少なからず自分が替えが利かない存在で、必要とされている節があると思っていたクロは少し落ち込む。
「………わかり……ました」
ますます自分が生きている意味が分からなくなってくる。
死にたいと思うこともある。でも、本当は死にたくない。心のどこかで生きたいと思っている。だからこそ、街を破壊し、他の魔法少女を傷つけてまで無様に生き延びようともがき続けている。
生きたい。自分のために……
「あの……」
「なんだ」
「私の爆弾を起動するときは……シロが私の周りにいない時にしてくれませんか…?」
でも、もし他の人を犠牲にして生き延びるにしても……シロだけは犠牲にしたくない。
シロはクロにとって大切な家族で、たった1人の妹。
そして…
生きる希望だ。
もちろん生きたいと言う願望はある。でももしシロを犠牲にしなければ生き延びれないのなら、クロは迷わずに死ねるだろう。
生きる希望のために死ぬーーーというのもおかしな話ではあるが。
「……わかった。約束しよう」
男はそう言う。
紙で契約書など交わしてない。
裏切られる可能性が高いだろう。
それでもクロはその言葉を聞いて安心した。
「ありがとう」
「………」
男は無言で部屋を出て行く。
きっと約束なんて守る気はないのだろう。
だがクロは既に爆弾が起動した際に他を巻き込まずに自分だけ犠牲にする術を持っている。これは爆弾を取り除こうとして闇属性の魔法を必死で特訓した結果だ。
結局取り除くような魔法を扱えることはなかったが、それでも周りを巻き込まないようにする魔法を編み出すことはできた。
「シロと一緒に学校……か……楽しみだな……」
少し気分が高まってきた。それも仕方がないだろう。
転生してからシロと過ごすこと以外に安らぎを感じることのできる時間などなかったのだ。先程まではシロとは魔法少女として対峙する時にしか会えなかった。
でもこれからは違う。
毎日学校で顔を合わせ、おはようを言い合ったり、一緒に授業を受けることができるのだ。それがクロにどれだけ嬉しいことだっただろうか。
「とりあえず、外に出よう」
気分が高まってきたせいか、少し落ち着かない。
クロは散歩でもすることにした。
しかし、すぐに後悔することになる。
なぜかーーー魔法少女達とバッタリ遭遇してしまったからだ
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
茜は目の前の少女ーーークロを睨みつける。
対するクロは無表情だ。何を考えているのか分からない。
「……………」
現在この場にいるのはクロを含めて3人。
他には茜、真白がいる。
2人は先程怪人との戦闘を終えたばかりだった。
来夏や八重、櫻がいないのは各々過去の戦闘で疲弊しており、万全の状態ではなかったからだ。束に関しては学校に用事があった。学年が違う為、常に茜達と行動を共にできるわけではないのだ。
「はぁ…別に今日は戦おうなんて思ってないし、そんなに睨みつけなくてもいいよ」
「そう。なら、私達の話に耳を傾けてもらえるかしら?」
「………まあ………別にいいけど………」
クロは別段予定が入っているわけではない。
茜と会話したいわけではないが、向こうにはシロもいる。少しぐらいは付き合ってあげてもいいかなとそう思ったのだ。
「まず、どうして街を破壊したの?」
「…………?……そう命令されたからだけど………」
組織に属しているのだ。何故街を破壊したのか、なんて今更すぎる質問だろう。
茜からすればちゃんと質問に受け答えしてくれるのかどうか、確認するために初めは軽い質問からいこうと思っただけなのだが、クロにはそんな意図は伝わらない。
「そう。じゃあ次の質問。どうして組織の指示にしたがっているの?脅されていたり、何か理由があるなら話して頂戴。大丈夫。私達は貴女の敵じゃない」
「私のこと詳しく知らないし、大して仲良くもない癖に助ける……? 笑わせないでよ。シロが言うならわかるけど、貴女に言われても何も響かない」
クロは冷たく突き放す。茜達に自分が助けられるわけがない、とそう思っているからだ。
「クロ……はぐらかさないで。正直に答えて」
シロが質問への答えを促してくる。
しかし先ほども述べた通り、クロは茜達に自分が助けられるわけがないと踏んでいる。助けられない人間を助けようとするのはとても辛い。だからこそ、悪役を演じて、助ける必要のない人間になって、茜達……いや、シロに悲しい思いをさせたくないと思った。
「じゃあ正直に答えるね。私が組織に従っているのは楽しいから。街を破壊して、無我夢中で逃げ惑う人たちを見るのがとても楽しいの。後、来夏だっけ?その子と戦った時も楽しかったなぁ。魔法少女同士の戦闘って結構面白いんだね」
半分嘘で、半分本音だ。実際クロは来夏との戦闘を楽しんでいた。半分本音で半分嘘。クロの発言は第三者から見れば本心だと受け取られるだろう。
嘘に信憑性を持たせたい時、どうすればいいか。もちろん表情や仕草など、自然な装いは大切だ。普段と違う姿を見せれば、人は当然不審に思う。それに関しては当然のことだと言えるだろう。では他にどうすればいいか。嘘の中に真実を混ぜればいい。国語の正誤問題でも良く用いられていることだ。前半部分は内容に合っていて、後半部分は合っていない。そうすると、人は騙されやすくなる。
「ふざけないで! そんな理由で私達の街を破壊したって言うの!?」
そしてどうやら、クロの言葉は茜にクロの本心として伝わったようだ。
「父さんや母さん……櫻達……皆が泣いたり笑ったりしながら、平和に暮らしてた街だったのよ!? それを……逃げ惑う人たちを見るのが楽しいから……? そんな理由で……! 私たちの街を……!」
「待って!茜、クロはそんなこと……!」
「許せない……!」
既に頭に血が上った茜には真白の言葉は届かない。
茜はステッキを構え、クロに向けて赤い炎の弾を打ち出す。
「はぁぁぁぁぁ!!」
2発3発と次々と弾が打たれていく。
が、その弾がクロの元へ届くことはなかった。
全ての弾の魔力を闇属性の魔法によって奪ったのだ。
しかし、頭に血が上っている茜はそのことに気づかないまま、火の弾を打ち続ける。
「言ったでしょ。今日は戦う気はないって。武器を下ろして」
「ふざけないで! お前は街を……!」
「茜! やめて!」
「真白! 邪魔しないで! 私はこいつを許せない!」
既に茜は冷静ではない。このまま戦えば、間違いなくクロが勝つだろう。
そう思った真白が茜の前に立ち塞がる。
「茜、今の茜じゃクロには勝てない。今日は大人しく撤退しよう」
「真白……どいて…! 勝てないと分かっていても、戦わないといけない時はあるの!」
「それは今じゃない!」
「うるさい! 私はやらなきゃいけないの…!」
真白と茜が口論を繰り広げる。
その間にクロは闇魔法を使って姿をくらまし、その場から立ち去っていた。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
部屋に戻ったクロは一人で考え込む。
(私達は敵じゃない……そう言っておきながら、結局武器を向けてきた……嘘つき…)
もちろんクロがそうなるようにしたからというのもある。しかし、本当は心のどこかで助けを求めていたのかもしれない。
クロは茜に憎悪を向けられたことに少しばかりショックを受けていた。
そして、先程まで感じていた高揚感は既にない。
シロと同じ学校に通える。
最初はそのことに対して、わくわくしていたし、楽しみにしていた。
だが今は違う。
(結局…同じ学校に通ったって敵同士だってことには変わりない……学校でシロと楽しくなんて……無理なんだろうな)
改めて自分が魔法少女達の敵であると言うことを今日再認識させられたのだ。
クロはどこか、街を破壊していた時の自分や、来夏と戦っている時の自分を別人のように見ていた節がある。
来夏との戦闘を楽しんでいたのもそのせいだ。
しかし、今回の一件で自分のことを他人事として見ることが出来なくなってしまった。
クロはその日一人で考え込んで込んだ。
思考が沈んでいく。
いつしか考えた死にたいと言う気持ちが再び湧き上がってくる。
でも
(死にたく……ない……)
本当は
(誰か……)
本当は
(たすけて…)
うにゃ〜