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Memory45




「どういう、ことですか?」


「だから、散麗の回収は諦めなさい。あれはもう無理なの。わかる? 『ノースミソロジー連合』相手ならともかく、『吸血姫』なんて相手にしてたら命がいくつあっても足りないわ。まあ別に、捕捉されても逃げる事はできるでしょうけど? 散麗の死体一つのために他の死体人形が持っていかれるんじゃ割に合わないの」


「それは! 今は、美麗様とクロコさんしかいないので、そうかもしれませんが、ゴブリンさんや、ホークさんを呼べば……」


「束っち、しつこいっす。束っちは『吸血姫』のことを何も知らないからそんなことが言えるんすよ。私もごめんですよ。『吸血姫』を相手にするなんて。なんたってあの魔王様と同格っすからね」


「………わかり、ました」 


束は、素直にリリス達の言うことを聞く。

しかし、


(私は、元々、死体でも散麗ともう一度会えるならと、櫻さん達を裏切ってまでこちら側についた。それなのに…………これじゃ………。分かってた。分かってたんです。あれは、散麗と似た別のなにかであって、本当の散麗じゃないなんてこと。それでも、私は………)


束は、確実に自分の中の芯を、失いつつあった。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「そういえばお兄ちゃんさー、彼女とかいないの?」


突然妹からそんな話を振られて、俺は困惑する。

正直、恋愛とか考えたことがなかったからだ。一応親戚からお金は送られてくるが、基本的に俺は妹と2人暮らしだ。


そうなると、どうしても妹の面倒は俺が見ることになる。そのため、小さい頃から俺は妹にべったりだった。


だからだろうか。俺は恋というものを経験したことがないし、彼女だっていたことはない。というか今まで、女友達だっていやしなかった。というより、友達自体数えるほどだった気がする。


親友と呼べるほど仲のいい奴は1人いるが、頻繁に遊びにいくわけでもない。


「いない、っていうか、恋愛なんてする暇なかったからなー。どっかの誰かさんの世話で精一杯だったしね」


妹は俺の発言に、頬をぷくっと膨らましながら返事をする。


「むー。悪かったね、お兄ちゃんの恋の邪魔をして」


「冗談だよ冗談。好きな人なんていないし、恋人が欲しいって思ったこともないから。今はまだ必要ないと思うし。そんなに気にしなくていいよ」


少なくとも、妹がいい相手を見つけて結婚するなり、自分で貯金して自立するなりしない限りは、恋人を作るつもりもないし、結婚だって考えていない。


今の俺にとって、1番大切なのは、妹の存在だから。




☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★




「あ、れ……? ここは…………」


クロが目を覚ますと、薄暗い洞穴のような場所で、唯一、壁にかけられている松明も消えかかっていた。


しかし、クロは身動きを取ることができない。

腕が拘束され、天井に吊るされている。足は地面につくが、それでもここから動くことはできない。


「目覚めたみたいだね。クロ。うん。精神的にやばい状態だったって聞いてたけど、寝たら大分マシになったのかな? それで、ここは私の中継拠点。まあ、その名の通り本拠点に向かう前の中継地点だ。ここで、君を私の眷属、いや、側近に相応しい存在にしてあげようと思う」


アストリッドは暗闇の中から姿を現し、クロにそう告げる。

そして、クロの首元に、ゆっくりと顔を近づける。


「大丈夫。痛くしないから」


やがて、耳元までやってきて、そう囁いた後に、


カプッ


「っんぁ……」


噛みつかれた。


ちゅーちゅーと、血を吸っているかのような音が聞こえる。というか、吸っているんだろう。


(気持ち悪い……)


自分の体から、血が抜かれて行く感覚は、あまりいいものではない。献血などで血を抜かれることがあるが、これに関してはそこまで気持ち悪いと感じたことはない。

それとはまた違った、なんとも言えない気持ち悪さを感じたのだ。


「はぁ………。うん、ちゃんと美味しいね。よかった。別に不味くてもいいんだけど、折角だし美味しい方がいいよね」


アストリッドは、口元に少し付着してしまった血を、舌でペロリと舐める。


「これから毎日、クロの血を吸いにくるけど、食事はちゃんと与えるし、風呂とかトイレも置いてあるから、この洞穴で自由に過ごしていていいよ。拘束具は緩くしておくからさ」


「一体、何が目的だ?」


「そう睨みつけないでよ。目的? そんなの簡単。クロを、私の側近として育てたい。ただそれだけ。さっきも言わなかったっけ? まあ、でも、自分の意志でなってもらわないと、意味ないしさ、クロが、私の側近になりたいって、そう思うまでここで過ごしてもらおうかなって」


クロにとって、アストリッドの部下に成り下がるなど、そんなつもりは一切ない。

櫻や茜、ユカリにシロ。彼女らを目の前で殺害された時点で、クロの中でアストリッドに向ける感情は敵意しかない。


そして、今現在クロの心の中を支配しているのは、強い憎悪だ。


先程アストリッドは精神を病んでいると聞いていたと言っていたが、その通りだった。実際、クロの精神状態は、常人では考えられないくらいにおかしな状態にある。

それゆえに、本来なら、何をするにしても無気力で、何もやる気が出ない鬱状態になるはずだった。


たが、それは、目の前に妹の仇がいない時の話だ。


目の前に、妹の仇がいる。

それだけで、クロには、復讐をするための、アストリッドへの憎悪による活力が湧いて出てくるのだ。


(絶対に……お前の下にはつかない……! 殺してやる……! 殺してやる!!)


クロは、アストリッドに対して、燃え上がるような殺意を向ける。

かつて、(ユカリ)に言った言葉すら忘れるほどの。




☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★




「櫻達を助ける……? どうやって……」


「全部、お前次第なんだ。できるか?」


「できるかって言われても……」


辰樹は、急な椿の無茶振りに戸惑う。

元々、魔法少女でもなんでもないし、持っている特別な力なんて何一つない。


ましてや、ほぼ瀕死状態の櫻達を助けるなど、到底できるはずもない。


「俺には無理だよ」


「とりあえず、一つ質問させてほしい。4〜6歳辺りの頃、何か不思議なことはなかったか? どんな些細なことでもいい。幽霊が見えただとか、異常に力が強くなっただとか、なんでも」


「は……? なんでそんなこと聞くんだ?」


「必要なことなんだ。頼む」


「……まあ、そんなに言うなら……」


辰樹は、幼い頃の自分の記憶を手繰り寄せる。

遡って、遡って、ふと、とあることを思い出す。


「そういえば俺、3vs1の喧嘩に勝ったことあったな。5歳ぐらいの時。まあ、どうでもいいか」


「5歳で喧嘩……? いや、とにかく、どうでも良くはない。その時のこと、詳しく聞かせてくれないか?」


「えー別になんてことない、普通の話なんだけどなぁ……」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





俺は昔、喧嘩っ早いところがあった。

短期だったんだと思う。今でも、あの頃のことを思い出すと、少し恥ずかしい気持ちになる。


当時俺は、悪ガキ3人衆とよく喧嘩しては、その圧倒的な数によってボコボコにされ、毎日『覚えてろ!』なんて、成敗された悪者みたいなことを言いながら逃げ帰ってた。これじゃどっちが悪者か分かりやしない。


でも、ある日突然、俺は3人に勝ったんだ。

喧嘩で。今まで歯が立たなかった相手に。


その時俺は、毎日筋トレしてたおかげだったからかな、なんて、特に深く考えずに、目の前の勝利に浸ってた。


ただ、ちょっとアクシデントがあった。

俺に負けた3人の悪ガキが、親に泣きついたらしい。


何もしてないのに殴られただとか、そいつが女の子を虐めてただとか、有る事無い事親に言いつけやがった。


で、まあ当然親には滅茶苦茶怒られて、暫く飯抜きにされそうになったこともある。

それで、余計に腹が立った俺は、次の日、悪ガキ三人衆に決闘を申し込んだんだ。


一度勝った相手だし、次も余裕で勝てるだろって、たかを括ってた。

でも、決闘が終わってみると、結果は、敗北。


それも、前に悪ガキ三人衆に勝った時のように、3vs1なんかじゃなく、1人1人と戦う、1vs1の3点マッチで、全敗だった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「……って話なんだけど。今思うと、結構不思議だな………なんで3vs1で勝てて、1vs1で勝てないんだよ………」


「イカサマされたとかじゃなくてか?」


「分かんないな………。正直あんまり記憶に残ってないっていうか、でも、少なくとも俺の記憶の中では、正々堂々真剣勝負だった気がする」


「多分、それなら、櫻達を救えるかもしれない」


「どうして?」


「お前はその時、魔法を使ったんだ。無意識のうちにな。俺も使ったことがあるからわかる。案外、自分でも気づかないことはあるもんだ。それで、魔法少女でもないのにお前が魔法を使えた理由は、多分俺と同じだ。誰かから、魔法を扱う力を貰い受けたから、だ」


辰樹は、そういえば無意識に使ったことがあるかもしれないと、過去の記憶を探る。


(クロのこと助けた時も、何故かあの女のこと吹っ飛ばせたんだよな……‥あの時は必死だったから気づかなかったけど、今考えてみればいくらなんでもあの時の吹っ飛び方はおかしかった)


「俺が、魔法を……?」


「ああ、そうだ。そして、お前の魔力は、多分、櫻達や、俺と比べても、多分ダントツだ。正直、俺にはお前が魔力を持っているなんて最初は気づかなかった。それは、お前の魔力量が多すぎて、辺り一面に漏れ出ていたからだ。周囲に魔力が溢れ出まくっているせいで、逆にお前が魔力を持っていることに気づけなかったんだ」


「仮に、俺が魔法を扱えたとして、どう扱えっていうんだよ……」


「魔力っていうのは、魔法少女達にとっての生命力や、希望の力だ。つまり、お前はその有り余った魔力を、櫻達に沢山分け与えてやればいい。そうすれば、完全な治癒はできないが、病院で対処できるレベルの傷まで回復が可能だろう」


「わかった。よく分かんないけど……やれるだけやってみる」


「ああ、頼む。俺の妹を、助けてやってくれ」


辰樹は腕まくりをしながら、気合を入れる。







「腕まくり、意味あるか?」


「こういうのは気分が大事なんだよ!」

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