Memory43
memory42でめっちゃ締めですって感じで挨拶したのに次話投稿してしまうとはこれいかに。
勢い余って書いてしまったんだもの。仕方ないよね。
ということで、今度こそ正真正銘今年最後のお話になります。
前回のままだと、胸糞悪いまま終わるしね。
「あーあ。可哀想。せっかくの可愛い顔が涙で台無しだね。でも大丈夫。私は君の敵じゃないからさ」
アストリッドは、完全に虚な目をして、涙で濡れた顔を拭くこともせずに地面にへたり込んでいるクロにそう声をかける。
口調は優しい。クロに対しては。
「クロ!」
「待って、辰樹。あいつは、多分クロに何かしたりとかは、今のところ、ないと思う。だから、今は来夏のお姉さんが来るまで待って……」
「好きな子泣かせられて、黙って見てろっていうのか? 櫻達がやられたっていうのに、黙って見てろっていうのか? 俺は特別な力なんて持ってない。でも、だからって、それで怖気付いてちゃ、何もできないだろうが!」
辰樹は真白の言葉を無視して、アストリッドに立ち向かう。
「へー。魔法少女でもないのに、私に立ち向かうんだ? 馬鹿だねぇ。でも、そうだね。その勇敢さに免じて、お前は殺さないでおいといてやるよ」
「てめぇ! 何を言って……」
「あぁ。後ろを見なよ。死んだよ、また1人。君達のせいでさ」
辰樹はアストリッドに言われた通りに後ろを見る。
そこには
先程まで会話していた、真っ白な少女が、真っ赤に染まっている姿があった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「おいおいおい。このスピードにすらついていけないなんて、情けねぇなぁ」
金髪の男は、電撃を放ち、高速で動き回りながら来夏達を翻弄する。
「あのスピード………うちじゃ追うことすらできないわ」
来夏はかろうじてその動きについていくことができているが、美希は既にそのスピードに置いていかれてしまっていた。
「クッソ!! こうなったら! おい美希! こっから離れろ!!」
痺れを切らした来夏は、美希にそう告げる。
来夏の考えていることを汲み取った美希は、素早くその場から離れる。
「猿姉なしでも、お前を倒してやるよ」
来夏は、全身に電撃を張り巡らせる。
バチバチと、体中から電撃を発生させる。
「うん? ほう、切り札ってやつかな? いいだろう。受けて立つ」
そして、自身の両の手に、全身に張り巡らされた電撃を、一点集中させる。
「くらえ---」
来夏は、掌に集まった電撃を、上に振りかざし---
「---『雷槌ミョルニル』!!」
そして、地面に向けて、解き放つ。
砂浜に、稲妻が走る。
波の音以外聞こえなくなった静かなビーチは、一瞬で雷撃が起こした激しい音にその場を支配されていく。
来夏の電撃は、視界すら見えないほどに、苛烈で、激しくほとばしっている。
ここまでの攻撃は、並の怪人なら、絶対に耐えられないだろう。
だが
「うっひょーえげつないね。これ。弱い魔族なら倒せるんじゃないの? このレベルまでいっちゃったらさ。でも残念。自分で言うのもなんだけど、俺、魔族の中でもかなり強い部類なんだよね」
しかし、目の前の魔族には、
遠く及ばなかった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「言ったでしょ? 君と後ろの子、どちらか1人を殺すって。でも、クロはもう喋れないみたいだからさ。代わりに私が殺っといたってわけ」
アストリッドは、平然とそう告げる。
人間の命を奪うという行為は、アストリッドにとっては蠅を叩くのとなんら変わりはないのだ。
「もう…………やめろ……………」
「!」
しかし、ここにきて、クロが、言葉を発する。
声は枯れ果てたのに。
もう、立ち上がる気力もないはずなのに。
クロは、それでも、立ち上がる。
アストリッドによって、動けなくされていた体が。
活動を、始める。
「許さ…………ない………」
「クロ、無理するな! そんな状態じゃ!!」
「大丈夫、動ける…………!」
クロは、虚空から大きくて黒い鎌を取り出す。
しかし、今まで使っていた大鎌とは、少し違う。
刃先は緋色に染まっており、持ち手の部分は、ユカリの髪色と同じような紫色となっている。
そして一番の違いは……………。
今回の鎌は、相手を殺すためのものだということ。
「一度命を奪ったら、もう、取り戻せない。それなのに………!」
クロは、大鎌を、アストリッドに向かって振り下ろし、攻撃する。
アストリッドも、自身の血から、剣を生成し、クロに対抗する。
「お前は…‥!」
『………私、クロちゃんとも友達になりたいって、思ってるから』
『やった! やったよ私達! クロちゃんのおかげだよ。ありがとう!』
下手に、関わりを持っちゃったから、こうなったのかもしれない。
「なんで……どうして……!!」
『大丈夫、私達は貴方の敵じゃない』
『仮面のこと、内緒にしてあげるから、逃げないでね』
最初から、生きたいなんて。
死にたくないなんて思ってなければ、こんなことにはなってなかったのかもしれない。
「こんな……こと!!!!」
『なんでもいいよ。私はお姉ちゃんとお話できるだけで満足だから』
『うん。お姉ちゃんが捕まえられてるって聞いて、心配だったから』
『あの三人の魔法少女を圧倒するお姉ちゃん、かっこよかったよ!』
そもそも、生まれてなんてこなければ、こんな。
『………ねぇクロ、組織を裏切って私たちと一緒に……』
『クロ…………………またね!』
でも、やっぱり。
全部。
「お前の、せいだ!!!!!!!!!!」
クロは、右手に、先程の大鎌を、左手に還元の大鎌を持ちながら、両手でアストリッドのことを攻め続ける。
「ブラックホール!!!!!!」
ブラックホールを出現させ、アストリッドの魔法を防ぎつつ、消費した魔力を、左手に持った還元の大鎌を通してアストリッドから奪っていく。
「邪魔だなぁ、その大鎌は!!!!」
アストリッドは、クロが持っている還元の大鎌を弾こうとする。
クロは咄嗟に、右手の大鎌でそれを阻止する。
代わりに、右手に持っていた大鎌は後方へ飛んでいってしまったが。
「『召喚・桜銘斬』!!!!!!!!!」
クロは、桜銘斬を召喚して、武器として扱う。
かつて櫻が、そうしていたように。
「なっ! 無属性魔法も扱えるのね!」
アストリッドは、クロが桜銘斬を召喚したのを見て、一旦体制を整えようと、後方へ下がろうとする。
「逃すか! 『ホーリーライトスピア』!!!」
しかし、クロはアストリッドの後方に、無数の光の槍を出現させることで、逃げ場をなくす。
「っ! でも残念ね! 最初から、貴方に、クロに勝ち目なんてない、の、よ!!」
アストリッドはクロの攻撃をいなし、そして。
「吹っ飛べ」
クロの体を、後方へ、思いっきり蹴飛ばした。
「うぷっ…………」
しかし、クロの体を後方へ吹っ飛ばした直後。
アストリッドは吐血した。
何故か。
アストリッドの腹に、クロの大鎌が刺さっていたからだ。
「……? あーそう。そういうこと? ふふっ、あはは! 想像以上に、いいね。よかった。期待通りで、いや、それ以上で。うん。気に入った。クロ、これから、貴方は私と過ごすの」
アストリッドは、自身の腹に刺さった大鎌を、抜いて横へ放り投げる。
まるで何もなかったかのように、アストリッドについていた傷口が、次々に塞がっていく。
「勝てると思った? でも残念。わざとなんだよね、傷口を作ってたのは。って、それはさっきの赤い髪の子を殺した時に分かってることかな。うん。でも、中々可愛かったよ。必死になって私のことを殺そうとしてくる、その姿は最高だった」
「私じゃ、ない………」
しかし、クロは、アストリッドの言葉を遮る。
「お前を大鎌で刺したのは、私じゃ、ない…………」
「? 何? 皆の思いだー! とか、そういうやつ? ふーん。そんなことも考えちゃうほど、夢見がちなんだね。やっぱりかわい…………い………」
アストリッドは言葉を出そうとするが、できない。
何故なら、言葉の代わりに、赤色の液体が、出てきたからだ。
「な………に………?」
「お前を、刺したのは…‥魔法少女でも…………政府の人間でもない。ただの、男子中学生だ」
そう。
戦闘中、クロは右腕に持っていた大鎌を後方へ吹っ飛ばされた。
つまり、クロが扱えたのは桜銘斬と、還元の大鎌だけだ。
還元の大鎌には、魔力を奪う力はあっても、相手に傷をつける力はない。
つまり、アストリッドの腹を裂いたのは、右手に持っていた大鎌になる。
クロは、その大鎌を手に持っていなかった。すなわち、アストリッドの腹を裂いたのは、クロのことが好きな少年、広島辰樹だ。
そして、今、アストリッドの口から血液が滲み出たのも、辰樹が背後からアストリッドの背中を大鎌で貫いたからだ。
「なんで……? ただの人間が……。どうして私は、気付かなかった?」
「お前ら魔族が思っているほど、俺達人間は甘くない」
「ふふっ。アハハハハハハ!! でも、私の不意をついたって。結局人間は魔族には勝てない! お前はもう終わりだ!! このまま、クロの目の前で、グチャグチャに引き裂いてやる!!!!!」
「残念だけど、それはさせない」
アストリッドは、辰樹の体を引き裂こうとするも、とある青年によって、その行動は止められる。
「お前は…………百山………椿!!」
「お前はここで、終わりだ」
「ちっ、貴様を相手にしながらクロを回収するのは無理だな……ふっ。まあいい。精々絶望するがいい。妹の死に、な」
アストリッドは、自身の体を無数の蝙蝠に分解して、椿達の元から逃げ出す。
蝙蝠は、空の彼方へと、飛んでいってしまった。
「…………逃したか…………」
「あの………」
「君がクロか。話は後だ。とりあえず、向こうに蒼井八重という少女がいる。とりあえず、君はその子と合流しておいてくれ。この場は俺がなんとかしておく」
クロは、一瞬、ユカリと真白を見るものの、2人とも、もう既に………。
椿に言われた通り、八重と合流することにした。
クロは、八重のいる方向へ、トボトボと歩いて向かう。
「それじゃあ………俺も……」
「君は少し待ってくれ。というか、残っていてくれないと困る」
辰樹もクロに続こうとするものの、椿によって呼び止められる。
「何ですか?」
「ああ。これは、確信がないから、断言はできないんだが………」
椿は一瞬目を瞑り、一呼吸置いてから、再び言葉を紡ぐ。
「櫻達は、まだ、助かるかもしれない」




