Memory37
薄暗い路地裏で一人、体を抱き寄せるようにしながら壁にもたれかかるようにして座っている、虹色の髪を持った少女がいた。
綺麗な虹色の髪色とは対称的に、その姿は少しボロついているように見える。
「ねぇ、照虎。聞いてるんでしょ?」
うるさい
「いじけちゃってさぁ。八重ちゃんに負けたのがそんなに悔しかった?」
うるさい
「でも、まだ全部の手を出し切ったわけじゃないし、別にそんなに落ち込まなくてもいいと思うんだけど」
うるさい
「ねえ、聞いてる?」
「うるさい。黙ってや。もう話しかけんといてくれ。頼むから。ほんまに」
「うるさいって、そんな言い方はないでしょ。仮にも貴方の被害者なんだから」
そう言いながら、赤毛の少女は悲しそうな表情を作る。
「もう………いい……………」
「ヒヨリとカゲロウまで犠牲にしておいてそれ?」
「ちがっ……私は騙されたんや………こんなつもりじゃ………」
「いくら言い訳しても、変わらないよ」
だってもう、と、そう言ってそばかすが特徴的な、三つ編みの少女は言葉を続ける。
「私はこの世にはいないんだから」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「いやーまさか偶然ね! こんなところでクロとデアウダナンテー」
「まさか茜ちゃんの友達だったとは………友達の友達は友達! ということで、私達はもう皆友達だー!」
「わーいやったー!」
若干棒読み気味な茜だが、焔はその様子を気にすることはなく、クロ達のことを友達認定する。ユカリはそのことを喜んでいるようだが、クロは素直には喜べなかった。
先ほどまで焔達三人組とクロユカリの二人組の計五人で固まっていたのだが、今はその五人に真白と茜が加えられている。
茜と真白が合流した時点で、逃げ出したい気持ちでいっぱいだったクロだったが、ユカリが仮面を落としてしまったことにより、即撤退が不可能な状況にあった。なぜか、それはーーー
(仮面のこと、内緒にしてあげるから、逃げないでね)
(はひ………)
ーーー小声で二人が語る。そう、クロは茜に“悪役ごっこ”をしていたことがバレたのだ。これは恥ずかしい。しかもそれをダシに、クロとの交流を図ろうとしてきた。
前まではバチバチに敵対していた癖に、この手のひらの返しようはなんなのだろうか。
そもそも、焔達と茜が繋がっていることは想定外だった。焔達が茜の知り合いだとわかっていれば、間違っても”悪役ごっこ“などに手を出さなかっただろう。確実にバレてしまうのだから。
(で、あの子誰よ?)
(妹だよ)
(真白、知ってる?)
(いや、あんな子見たことないけど…)
茜もシロも、ユカリとは初顔合わせであり、一応シロの妹でもあるのだが、シロはその存在を認知していない。
(あの子って私の妹でもあるの?)
(まあそうだね。というか、実を言うと私もシロの妹になるんだけど………)
(クロのが姉じゃなかったの?)
(少なくとも私はそう思ってたけど………)
三人は呑気にコソコソ話を続けている。と言っても、ユカリと焔一行は結構はしゃいでいるためそこまで小声で話す必要もないのだが。
それにしても、かつてはクロを目の敵にしていた茜も、こうしてクロと普通に交流を図ろうとしてくれていることに、クロは少なからず嬉しさを覚えていた。
残りの寿命のことを考えると少し憂鬱だが、それでも、今まで悲しませてしまうからと言って、彼女達との交流を避けてきたのは良くなかったのではないかと今更ながらにそう思う。
だって、クロは最後まで彼女達を徹底的に突き放すことはできないのだから。
(ちょっとその辺ぶらぶらしてくる)
クロの発言に、一瞬茜は了承を示そうとするが、シロがそれを止める。
(クロ、 に が さ な い か ら)
(ひぇっ…………)
そう言いながら、シロはクロの手を握りしめてきた。
心なしか、クロの手を握りしめる力が、どんどん強くなっている気がする。
(って……痛いんだけど!?)
思わず叫びそうになるが、慌てて小声でシロに抗議する形に変えた。普通に痛くなってきたのだ。
(逃げるな)
(違う違う! 本当に痛いんだってば)
(嘘つくな。そうやって、私達をだまくらかそうとしたって………)
いくらシロに説明しようとしても、シロは聞く耳を持たない。それどころか、手を握る力が更に強くなってきている。
(真白、多分本当に痛いだけだと思うけど……)
(茜、騙されてはダメ。クロはこう見えてかなり賢い。私達を欺くことなんて、クロからすれば朝飯前。油断大敵だよ)
(普通に痛いんですけど……………)
茜が援護するが、シロは思い込みが激しいのか、そう言ってクロの手を離さない。
というか、黒歴史をこれ以上広められるのはよろしくないし、ユカリがいるというのもあって、逃げることはないのだが。
「何こそこそやってるんだー」
「うちらも混ぜろー♪」
「まぜろー♪」
「ま、まぜろ〜」
茜とシロと小声でこそこそ話していると、焔達がこちらへ向かってくる。どうやら仮面のことは既に頭にないようだ。とりあえず、ひとまずは大丈夫ということだろう。後はいかに穏便に、この状況を抜け出すのか、だが。
別の方向から、この砂浜を駆けてくる音が聞こえてくる。
音は段々と大きくなってきており、クロ達の元へとやってきているというのは、すぐにわかった。
そしてクロは、その方角に誰がいたのかを知っている。
「クロ!!」
足音の正体は、元同級生の男子、広島辰樹だった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「だから! 約束するって言ってるでしょう!? もうクロには手を出さないって!」
「それは、奴らと戦いながら俺達の組織と戦うのがきついからだろう。奴らを倒した後、お前はクロを手に入れようとするに決まっている」
「はぁ、あのさ、アスモデウス。リリスもこう言ってることだし、一旦はこれで話は終わり! でいいんじゃないかな?」
「パリカー。お前はアイスクリームを食いにいきたいから早く会話を終わらせたいんだろう? 別にお前は話をしなくてもいい。アイスクリームが欲しいなら買って食べてこい」
「なんでこうもボクの考えていることを当ててくるのかなぁ……」
「お前とは長い付き合いだからな」
「…………話はまだ終わってないのだけれど、とりあえず、私の前でいちゃいちゃするのはやめてもらってもいいかしら」
アスモデウス、パリカー、リリスは三人で会話をしていた。
敵対関係だったはずのリリスだが、ルサールカやイフリートの介入を恐れたのか、もうクロは狙いません、と直接アスモデウスに言いにきたのだ。
「私は確かに死体収集の趣味はあるけれど、自分が死体になりたいわけじゃあないの」
「ま、このまま話してても平行線だろうし、ボク達だって騒ぎを起こしにここにやってきたわけじゃないんだ。もういいんじゃない?」
「ここで有耶無耶にしてしまえば、こいつはまたクロを死体人形として調達しにくるに決まっている。本音を言えば、今始末してしまいたい」
アスモデウスとリリスが睨み合う。
「はぁ、勝手にしなよ。ボクはアイスクリーム食べてくるから」
そう言ってパリカーはアイスクリームを買いに行く。
残されたのはアスモデウスとリリス。
両者は睨み合うも、これ以上話を続けようとはしない。元々、リリスとしてはアスモデウスの説得は不可能だろうと考えていたためだ。リリスからすれば、パリカーの意志を確認したかっただけであり、パリカーが邪魔をしないという保証が欲しかったのだ。
対してアスモデウスは、パリカーの助けが得られなくなると困るため、リリスとそのような約束をさせないためにリリスと対立して話し合っていたのだ。
「まあ、このくらいでいいわ。どうせ今日は貴方も邪魔をしてはこないだろうし」
「クロに手を出せば……‥分かっているな?」
「分かっているわよそのくらい。じゃあ、またね」
「二度と顔を見せるな」
両者はパリカーの離席により、解散することにした。とりあえず、アスモデウスはパリカーの食べているアイスクリームを自分も食べてみようかと、その場を去っていくのであった。
ストック終了のお知らせ。こんなダラダラとした展開に付き合ってくれてる読者には感謝ですね。読者が満足できるような展開が書けるように頑張りたいです………。




