Memory35
『ーデーター』
『“人工的魔法少女製造計画”第1被験体 白川八重 水属性の適性があったため、氷属性の付与を試みるも、本人が拒否。氷属性が扱えていたとしてもforce level1であるため、失敗作と言える』
(force level………強さの指標になる基準みたいなものね。まあ、気にしなくてもいいか)
八重はDr.白川から受け取ったチップに入っているデータの確認をしていた。
彼女は淡々とデータを読み取っていく。
『第2被験体 白川千鶴 光属性の付与に成功。force levelは1であるが、魔法少女の素質がない状態から魔法少女への転身に至ったため、実験は成功と言えるだろう』
白川千鶴。
八重の妹だ。八重は妹は実験によって死んだと聞いていたのだが、このデータを見る限りそのような情報はない。
不審に思って少し下にスクロールしてみると、一人の少女の画像が載っていた。
そこに載っていたのは、八重と共に魔法少女として活動していた少女、双山真白の姿だった。
「う……そ………これって…………」
写真に真白が載っている。
そしてその写真は、第2実験体、白川千鶴の解説欄のすぐ下にある。
つまりーーー
「ーーー真白が、私の妹だったってこと……?」
八重は元々、他人に冷たい性格だった。しかし、それは櫻達によって多少は緩和されたのだが、それでも、真白に対して、すぐに優しくできるような性格ではなかったはずだ。
にもかかわらず、八重は真白が組織を裏切って仲間になった際、すぐに彼女を受け入れることができた。
今思えば、それも真白が妹であったからなのかもしれない。
「ていうことはつまりーーー」
八重は画面をどんどん下へスクロールしていく。
『第19999被験体ークローンー 失敗』
下へ。
『第40001被験体ークローンー 失敗』
さらに下へ。
『第70380被験体ークローンー 失敗』
さらにさらに下へ。
そしてようやく、見つけた。
『第84290被験体ークローンー 成功 魔法少女としての素質を持った個体を生み出すことに成功。意思の疎通も可能。 被験体の固有名を【クロ】とし、急成長装置を用いて第2被験体白川千鶴と同じ年齢に引き上げ、経過を観察することとする』
「ははっ………やっぱり………」
この説明文を読めば、“白川千鶴”が実験の成功体になったからこそ、“白川千鶴”のクローンを用いて人工的な魔法少女の製造を試みたことはわかる。
つまり、“クロ”は“白川千鶴”のクローン。すなわち真白のクローンであることは確定しているのだ。
そして、真白のクローンであるということは、クロは八重の妹と呼んでも過言ではないだろう。
おそらく、八重が今まで敵対していたにも関わらず、クロに甘かったのは、クロと自身の血の繋がりを無意識のうちに理解していたからではないだろうか。
(まさかクロが、私の妹だったなんてね………どうりで気にかけちゃうわけだわ)
しかし、資料はそこで終わりではない。
どうやらさらに下があるようだ。八重は、さらに下に画面をスクロールしていく。
『第84291被験体ークローンー 失敗』
このデータの日付を見ると、大体真白が組織を裏切った時期と重なっている。クロという成功体ができたのにも関わらず、実験体を作っているのはおそらく真白が組織を裏切ったからだろう。
『第84400被験体ークローンー 失敗』
引き続き資料を見ていくも、一向に成功の文字が見えることはない。
(結局、成功したのは真白とクロだけってことね)
心の中でそう結論づけようとする八重だったが、ピタリとスクロールする手が止まる。
『第84999被験体ークローンー 成功 【クロ】と同様、魔法少女としての素質を持った個体を生み出すことに成功。意思の疎通も可能な上、データを参照するに、force level5に至れるほどの魔力量を保有している可能性大。第84999被験体ークローンーの固有名を【ユカリ】とし、急成長装置を用いて【クロ】と同様の年齢にまで成長させ、運用を試みることとする。これを以って、“人工的魔法少女製造計画”は終了とし、次回からは“門”についての研究を主軸に進めていくこととする』
(ユカリ……? そんな存在真白からは…………いえ、真白が組織を裏切った後に造られたんだから、知らなくて当然ね。ユカリ……ねぇ。このデータを見る限り、その子も私の妹になるのかしら? まったく、知らないうちにウチの家族が大所帯になってきてるじゃない。でも、真白とクロが妹、ね。悪く……ないかも)
八重はそう思いながら画面をさらにスクロールしていく。
すると、気になる情報を見つけた。
「“魔族に匹敵する怪人製造について”? 魔族……? 一体何のこと?」
画面をスクロールしても、『force level3以上の怪人を作るためにはー』だとか、『今までの怪人のデータを参照するにー』など、魔族についての説明がなされているような描写はない。
(魔族ーーーそんなものがいるなら、それについても調べていく必要があるわね。どんなに強大でも、私が相手をしなくちゃならないわ)
八重は心の中で、大切な存在を思い浮かべる。
(私の、妹達のために)
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「ふぅ。これがここ数日間で集めた、近辺の魔法少女の情報ね〜」
ホテルの一室で『吸血姫』は一人で優雅にコーヒーを嗜みながら、一纏めの資料を読んでいた。
「魔法少女を眷属になんてしたことないし、“クロ”を眷属にする前にお試しで誰か一人眷属にしておきたいんだけど、手頃なのいないかな〜」
そう言いながら、『吸血姫』はペラペラと資料を捲っていく。
「 福怒氏 焔。活発な少女で、内心お姉さんっぽく振る舞おうと思ってるけれど全然うまくいかず、空回りしている可愛らしい女の子。ちょっとアホな部分があるんだっけ。正直欲しいけれど、政府公認の魔法少女ってのが厄介ね。
魏阿流 美希。ザ・ギャルって感じね。見るからに生意気そう。こういう子が私に屈服してる姿はなかなか良さそうだけど、残念ながら政府公認。ちょっと手が出しづらいかな。
佐藤 笑深李。引っ込み思案だけど、友達思いで、とても心優しい子。こういう子は私に心底心酔させて楽しみたいのだけれど、はぁ。この子も政府公認ね。
双山 真白。んーなんとなく闇が深い部分がありそうだし、前座で眷属にするにはちょっと重いかな。除外っと。
百山 櫻。正義感が人一倍強くて、仲間思いで、決して挫けない魔法少女。はぁ。最高。これ以上ないくらいに欲しい。
けど、百山椿の妹。この子も無理そう。
朝霧 来夏。プライドが高いし、屈服させがいはあるんだけど、この子も姉にforce level5の厄介な奴がいるし、除外かな。
虹山 照虎。うーん。既に壊れてる子は好みじゃないんだよね。除外。
深緑 束。この子も、リリスが囲ってるし、まあ、奪えないことはないけど、なんか闇堕ちしてるっぽいし、全然そそられないんだよね。闇堕ちさせるなら私でありたいっていうか、他人が闇堕ちさせたやつには興味ないんだよね」
『吸血姫』は8人の『除外者』を一人でつらつらと述べながら、今度は『採用』と書かれている部分を読み出す。
「津井羽 茜。政府非公認だし、闇も深くなさそうだし、面倒見が良くていい子。完璧。欲しい。
蒼井 八重。少し闇は深いかもだけど、あんまり気にならなさそうだし、何より使えそう。あんまりよくわかんないけれど、政府非公認だし、眷属にしてもいいかもってぐらいかな。
朝霧 千夏。自尊心が高くて、政府非公認の魔法少女。一応アスモデウスんとこと契約してるみたいだけど、この子弱いみたいだし、奪っちゃってもそんなに問題はなさそう。採用かな。
うん。決めた。この三人の中から一人眷属にする。んで、その後に本命の”クロ“を眷属にして………………ふふっ。あはぁ。興奮してきた。早く眷属にしてあげたいなぁ」
『吸血姫』は無邪気に笑う。
しかし、その笑みはどことなく不気味な雰囲気を醸し出している。
魔法少女達は、まだ知らない。
強大な王が、自分達の首元を狙っていることを。




