Memory33
「上手くいったね! お姉ちゃん!!」
「いや、うん。ほんの出来心でやってしまったんだけど………あれは……………なんていうか………あの子達にトラウマ与えてない? 大丈夫かな」
ユカリは満足気な様子で、クロは少し歯切れが悪い様子だ。
というのも、クロとユカリは暇だしとりあえず魔法少女にちょっかいかけてやるか、とそんな軽いノリで、丁度三人組で怪人の討伐を行なっていた魔法少女達がいたため、ちょっかいをかけようとなったのだが、そのちょっかいのかけ方に、ユカリは満足、クロは少し思うところがあるのか、満足とはいっていない様子のようだった。
「あの三人の魔法少女を圧倒するお姉ちゃん、かっこよかったよ!」
素直にそう褒めてくれるのは嬉しいのだが、クロとしてはやはり恥ずかしいという思いが強い。
いくら今は少女だからと言って、前世を合わせればおそらく精神年齢的には大人なはずなのだ。
なのにあんな厨二病じみた真似をするのは……という気持ちがかなりある。
それに、あの三人組の魔法少女に変なトラウマを与えてしまったのではないか? という不安もある。クロとしてはそんなこと気にする必要はないし、その程度で怖気付くくらいの子達なら、むしろ魔法少女をやめさせるべきなのである意味クロの襲撃がきっかけになって良かったのかもしれないが、それでも少しそんな漠然とした不安は多少なりともある。
ちなみに、クロとユカリが行ったちょっかいというのが、“かっこいい悪役ムーブ”だ。悪の組織に所属しているため、既に悪役も同然かとも思うかもしれないが、ユカリからすれば組織は別に悪というわけではないのだ。むしろ組織のやることは素晴らしいことなんだ、とそういう認識でいる。
つまり、普段から悪役をしている自覚はなく、悪役に魅力を感じてしまうほどに、組織を善なる組織とまではいかなくても、ある程度良いものとして捉えてしまっているのだ。
そのせいで、悪役への興味や関心が強かったのだろう。
ユカリは“かっこいい敵役ムーブ”でちょっかいをかけたいと言い出した。
クロもユカリの提案にノリノリで賛成したのだが、今となってはちょっかいをかけた魔法少女に対する罪悪感と、羞恥心とで死んでしまいそうだった。
生まれてそれほど経っていないユカリがするのと、精神年齢的には大人であるクロがするのとではまた違ってくるし、そういう意味でも恥ずかしい。
(やっぱり男の頃の厨二心が残ってるんだろうな……)
恥ずかしさはあるものの、正直満足している部分もある。
そういう面でも、男の子らしさというものが、まだクロの中には残っていたのかもしれない。
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「結局、あの髑髏仮面の魔法少女ってなんだったんだろうなぁ」
三人組の魔法少女の一人、 魏阿流 美希は公園のベンチに座りながらボソッと呟く。
両脇には勝ち気で、燃えるような赤髪が特徴的な少女、 福怒氏 焔と、青色の髪をおさげにした、少し気弱そうな少女、|佐藤 笑深李《サトウ
エミリ》がいる。
「まさか魔力切れにされるなんてねぇ……。私、自分の魔法には結構自信あったんだけどなぁ………」
焔は足をぶらぶらさせながら、先日の戦闘を思い返している。
「なんであの後急にいなくなったんだろう………」
焔と同じように、先日のことを思い浮かべていた笑深李は、疑問を溢す。
「さぁ? あの髑髏仮面と一緒に霧が出てきたから、もしかしたらそれが関係してるんじゃね?」
「なるほど、霧が出ている間だけ活動できるとか、そんな感じね」
三人はそれぞれ会話を続ける。
「その魔法少女のこと、茜ちゃんに聞いてみてたんだけど、わかんないってさ」
そう、焔達は茜の知り合いなのだ。
というのも、茜達が政府公認持ちの名義を借りている三人組というのが、彼女達だ。
最近は茜達からしばらくの間活動を休むとの連絡が入ったため、その間だけ代わりに活動しているのだ。代わりといっても、元は彼女達が代わってもらっていた立場なわけだが。
「でもね、その話をした時の茜ちゃんの顔が、なーんかその魔法少女に心当たりありそうな感じだったんだよねぇ」
「茜ちゃんって翔上中学校のとこの?」
「そうそう。私が名義貸してる子だよー」
「ふーん。でも何を隠してるんだかね」
「さぁね。わっかんないや」
美希と焔の会話を一人黙って聞きながら、笑深李は一人決意する。
(二人に迷惑かけてばっかりじゃいられない…………怪人と戦うのは怖い…………髑髏の仮面の魔法少女のこともあるし…………でも………私が………やらなきゃ……!)
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アスモデウスが先日、リリスに捉えられていた廃墟にて、二人の男女が邂逅を果たしていた。
「わざわざ私を手紙で呼び出してくれるとはね。愛の告白でもするのかな?」
そう言葉を発する女性は、白衣のようなものを着ており、首からぶら下げた名札には双山魔衣と書かれている。
「とぼけるな。お前が支援しなければ、櫻達はこんな戦いに巻き込まれずに済んだんだ」
魔衣の向かいに立っているのは、腰に帯刀しており、髪色はやや橙色に近い茶髪で、身長は170cmほどの青年だ。
「心外だなぁ。私は別に彼女達に戦いを強制しているわけじゃあない。彼女達が、政府非公認ながらも魔法少女の活動を続けたいという意志を持ち合わせていたから、協力してあげているだけさ」
「くだらない演技をするな。お前の身元は大体わかってる」
「ほう?」
「元『穏健派』の魔族にして、副リーダー。そして今や、政府の手駒。それがお前の正体だ」
男の言葉に、ニヤニヤとしながら魔衣は言葉を紡いでいく。
「そうだね。でもそれがどうしたっていうのかな? 私は別に君と敵対関係にあるわけじゃあない。むしろ、人間との共存を望んでいる、心優しい魔族にして、君達人間の協力者じゃあないか」
「じゃあなんで、ドラゴを裏切った? どうしてあんな、騙し討ちを…」
「何の話だい?」
「まだとぼけるつもりか………。どうやらお前とは、言葉じゃ分かり合えないらしい」
男は静かに抜刀する。
男の様子に、魔衣も戦闘体制をとる。
「さぁ、見せてもらおうか、人類の切り札の力!」
魔衣のセリフと共に、戦いの火蓋は切られた。
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「どうした!! 男は根性だろ!? もっと張り切っていこうぜ!!」
「ぜぇ………はぁ…………も…………むり…………ぎゅうげい………」
「猿姉、そいつは魔法少女でもなんでもないんだ。そろそろ休憩させてやれないか?」
政府が用意したトレーニングルームで、櫻、来夏、そして、櫻達の話を盗み聞きしていた辰樹も、無理を言って朝霧去夏によるトレーニングに参加していた。
真白と茜は、怪人が現れた時のためにトレーニングには参加しないことになっている。
櫻達は八重にも連絡を取ろうとしたのだが、何故か八重は櫻達を避けており、最近は夏休みに入ったせいで学校もないため、接触する機会がなくなってしまった。
そしてどうやら去夏の特訓はスパルタのようで、汗をダラダラ流しながら顔を真っ赤にしている辰樹を見てもなお、特訓をやめようとはしない。
その様子を見て、来夏も思わず止めるくらいだ。
「まだ腕立て伏せ100回もいってないじゃないか!! そんな軟弱じゃ、魔族には勝てんぞ!」
「来夏ちゃん……この人本当におかしいよ………」
側で別のトレーニングをしていた櫻も、思わずそうこぼしてしまうほどに、去夏のスパルタっぷりは異常なほどであった。
(確かに、猿姉の特訓は普通じゃこなせないくらいにきつい……けど……)
辰樹と櫻の特訓の様子を見て、来夏は一人思う。
(この特訓をこなせれば、間違いなく私達はとてつもない進化を遂げれる)
来夏の中にある去夏への絶対的な信頼、それによる、自分達の進化への確証。
それがあるからこそ、来夏はこのトレーニングに参加したのだ。
流石に今回の辰樹は死にそうなほど疲弊していたため、特訓の中止を提案したが、はっきり言って来夏が辰樹の立場であれば、無理にでも特訓を続けていた。
それくらい、来夏はこの特訓に賭けている。
(私は、もう二度と、負けたくないからな)
そこにあるのは確かなプライド。
誰にも負けたくない、その意志は、確かに少女を更なる進化へと導いてくれるだろう。
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「くっ………ふふ……やはり私では歯が立たないようだね…………」
「吐け。お前の目的は何だ?」
「私の目的……?」
「どうして、政府の犬に成り下がった? お前は政府に従わなければいけないほど弱くはない。それに、どうして、政府の指示を受けて櫻達をこの戦いに巻き込んだ?」
男の言葉に、魔衣は答える。
「別に私は政府の犬に成り下がったわけじゃないよ。ただ利害が一致しただけさ。政府は櫻達を政府非公認の魔法少女として活動させ、秘密裏に魔族との戦闘に彼女達を巻き込みたかった。公認だと、魔族との戦闘はさせないって決まりが適用されてしまうからね。そして私は、魔法少女の手駒が欲しかった。ただそれだけのことだよ」
魔衣の言葉を聞いた男は、静かに目を閉じ、
「理由は理解した。だが、覚えておけ、次、櫻の身に何かあったらーーー」
そして、目の前の女にこう告げた。
「ーーーその時は、お前を殺す」
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「ふむ。私服はこれでいいか………」
「はぁ……結局、本当に海に連れていくんだね………」
アスモデウスの腕には、『偽装家族設定資料』と書かれた資料がある。
「確か、ボクが母親役で……」
「父親役は俺だな」
「はぁ、本当にそれで通すつもりかい? クロが翔上中学校の同級生辺りと遭遇すると面倒臭そうだし、ボクはできれば遠慮したいんだけどね」
「……………借りなら返す。それに、海に行く時だけだ。それ以降は家族ごっこはしない」
「まぁいいよ。昔馴染み…………ていうか、幼馴染だし、ある程度は付き合ってあげるよ」
「よし、それでは俺は今から下見に行ってくる。留守番は頼んだぞ」
アスモデウスのその一言に、パリカーははいはい、と適当に返しながら彼を見送った。
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「最近クロちゃんどうしてるのかなぁ」
クロが前まで住んでいたアパートの住人、黒沢雪は同じくアパートに住む蒼井冬子の部屋に邪魔してくつろいでいた。
「八重に聞いても何も言わないし…………何かあったのかしら……? 心配だわ」
「そういえば、八重ちゃんも最近顔見てないなぁ。元気にしてるんですか?」
「それがあの子、最近ずっとネットカフェでパソコンをいじってるみたいなの。はぁ、とうとう娘の反抗期がきたのかしら」
「えー!? あの八重ちゃんが!? たまに帰ってくるのが遅い時もあるけど、いつも帰ったらすぐに勉強してたのに………」
「そうなのよね………最近は宿題すらろくにやってないみたいで………はぁ……………もしかしたら、勉強に疲れてしまったのかもしれないわ。できた子だと思ってたけど、きっとストレスが溜まってたのね………心配だわ」
「んーもしかしたら、クロちゃんのこととか関係してるかもしれませんね」
「言われてみれば確かに、クロちゃんがこのアパートから出ていっちゃったくらいから、八重の様子もおかしくなっちゃったわね」
「今度八重ちゃんにさりげなく聞いてみますよ。何か知ってるかもしれないので」
二人はそれぞれクロと八重のことを心配している。
しかし、二人は知らない。
これからクロと八重、その両方が、激しい戦いに巻き込まれていくことを。




