Memory2
真白と来夏が合流して6人になった魔法少女達は茜の部屋で今後について話し合っていた。
「ーーーというわけで、例のクロとかいうのと戦ってきた」
そしてちょうど今、金髪の髪をローテールにした少女、来夏が話し終えたところだ。
「闇属性の使い手ですって!?」
「茜さん、ちょっと落ち着きましょうよ」
「茜、普段はリアクションしてくれるのありがたいんだけど、今はそんなにいらないかな」
「あー、茜が大きい声出すから傷口ひらいちゃったー。慰謝料請求しよっかなー」
「皆私に対して辛辣すぎない……?」
茜は魔法少女達の中でもムードメーカー的な存在である。
基本的に特に面白みのない話でも楽しそうにリアクションしてくれるため、困ったときは話を茜にふったり、茜をいじったりして場を和ませることが多い。
主にいじるのは束と八重だが、たまに面白がって来夏が参戦することもある。
「来夏……クロが闇属性の魔法を使ったって本当なの…?」
真白が尋ねる。
「あぁ、確かに見た。闇属性の魔法の特性である魔力吸収もな」
真白は驚いた。組織にいたときはクロも真白も光属性の魔法を使っていたのだ。
最初に桜達と共にクロと対峙したときも闇魔法で目眩しをして逃げていたが、あれはてっきり怪人の力を間借りしていたのだと思っていた。
魔法少女は普通、闇属性の魔法が使えるようになることはない。
基本的には怪人しか使えないのである。
そして、ここでいう怪人は組織の作った世界征服のための兵器のことである。
別に元が人間だったとか、動物をベースとして作ったとかではない。
組織が1から、ただ本能のままに街を破壊し、征服していくだけの生命体を生み出したのだ。
故に組織は幹部と少数の研究員だけで構成されているにもかかわらず、長期にわたって魔法少女と闘える程の戦闘力を有しているのだ。
それを踏まえると闇属性を生み出したのは組織だと言える。
つまり、闇属性を生み出した組織ならば、怪人でないものにも後から闇属性付け加えることもできる可能性は十分にある。
「クロは……闇属性の魔法について……なんて言ってた?」
「…脳みそ弄られて与えられた的なことを言ってやがったな。全く本当に胸糞の悪い組織だよな」
来夏の言葉を聞いた櫻と茜はひどく悲しそうな顔をしている。
束は頭を抱えて「脳みそ弄られるって怖いっ」と震えているし、真白に関しては「やっぱり…」と呟いて俯いてしまった。
「それで、そのクロって子は結局敵っぽいの?真白みたいに組織を抜け出したいとか、そんなことは言ってなかったの?」
6人の中で一番冷静な八重が来夏に問う。
「そうだよ…もし真白ちゃんみたいにクロちゃんが組織から抜け出したいなら、私達が助けないと…」
八重に続けて櫻が発言する。
が、来夏は少し歯切れが悪そうに答える。
「いや……それがわかんないだよなぁ…。戦うことを楽しんでそうな雰囲気だったし…まあ…少なくとも私はあいつを助けたいとかは思ってない。街だってあいつがめちゃくちゃにしたしな」
来夏からすれば、クロは突然街にやってきて、人々の日常を破壊した敵だ。
それについ先程死闘を繰り広げてきたばかりである。
負けても見逃してもらったことはあるが、それだけではクロに対する評価は変わらない。むしろ、負けたにも関わらず殺されずに放置されたことが、まるで来夏のことを舐めているかのようで、来夏としてはプライドを傷つけられた気分になるため、クロに対しての印象は悪い。
「来夏はクロのこと……何にも知らないくせに…」
来夏の言葉に反抗するかのように真白が発言する。
「クロは…私がくだらないことを言ったりしても愛想笑いしてくれたし、私が寂しい時はいつもそばにいてくれた。私が訓練で失敗して泣きそうになった時に慰めてくれた。でも本当はクロも寂しくて、泣きたいときもあったと思う。それでもクロは私のために涙を流すのを我慢してた。クロは本当は誰よりも優しくて………たった1人の私の……家族。だから…」
普段はあまり積極的には発言しない真白が来夏に向かって怒ったような…悲しそうにしているような顔をして捲し立てる。
「うるせぇな。私は一回あいつにやられてんだ。やられっぱなしじゃいられねぇ。それに殺すわけじゃないんだ。別にいいだろ。ボコボコにした後に説得なりなんなりすれば良い」
普段は大人しい真白が捲し立てたのを見て熱が入ったのか、来夏も口調が荒くなっていく。
「そんなことない………クロはちゃんと話せばわかってくれる。組織に属しているのだって、何か理由があるから…クロは……自分から進んで街を破壊するような性格じゃない!」
来夏ももしかしたらそうなのかもしれないと考えてはいた。実際クロとの戦闘が終わった際にクロに尋ねたこともある。
街を壊したのは本当にお前の意思なのか、と。
だからといって来夏は最初から話し合いをするつもりなどない。
説得など後から行えばいい、というのが来夏の考え方だからだ。
「仮にそういう性格だったとしても、あいつが怪人と一緒にやってきたら話し合いなんてする暇ないぞ。実際最初にあいつが来た時は怪人と一緒だったしな」
「でも…!」
真白と来夏の言い合いは段々とヒートアップしていっている。
その様子を見て、このままでは空気が悪くなってしまうと思った櫻と茜が来夏と真白をそれぞれとめに入る。
「お、落ち着こうよ来夏ちゃん。一旦深呼吸して頭冷やそ?」
「真白、来夏を責めても仕方がないわ。でもそうね。真白にとってはたった1人の家族。気持ちはわかるわ」
でもね、そう言って茜は言葉を紡ぐ
「私達からするとあの子がどんな子かなんてわからないし、わざわざ相手に隙を見せてまで説得するよりも、コテンパンにしてやって後から情報を聞き出してやる方がよっぽど良いわけ。だから、私達があの子を説得してもいいと思えるように、私達を真白が説得してほしい。もちろん、冷静にね」
小さな子供に言い聞かせるように茜が真白に言う。
「茜さんってたまに大人っぽくなりますよね」
「大人っぽいっていうか、大人ぶってるだけなんじゃない? 普段は赤ん坊みたいにギャーギャー騒いでうるさいし」
「なるほど…! 言われてみればそんな気がしてきました。茜さんは大人っぽく振る舞おうと柄にもなく背伸びしてるんですね!」
「でも背伸びしてる割には髪型はツインテールだよね。大人ならツインテールなんてしないのに」
「本当ですね。残念ながら茜さんはまだお子様みたいです」
「やっぱり皆私に対して辛辣すぎない…? もしかして嫌われてる?」
少しシリアスになりつつある雰囲気を和めるためか、束と八重が茜をいじる。
ちなみに茜は本当に大人ぶっていたわけではないが、真白を諭す時は「正直私、大人っぽくない? ちょっとかっこいいかも!」なんて思っていたりするので八重と束の指摘はあながち間違いでもなかったりする。
そんな3人の様子を見ていた真白は段々と落ち着きを取り戻していた。
「ごめん来夏、ちょっとカッとなってた」
「…謝るのは私の方だ。私からすればただの敵でも真白にとっては大切な家族だもんな。無神経だった。ごめん。……でもやっぱり私はあいつと戦うつもりでいる。正直話し合っても無駄なんじゃないかと思ってるからな。ただ、真白が説得したいっていうなら、次会ったときは話し合ってくれていい。怪人がいたら私が相手してやるから」
「うん。わかった」
ただな。と来夏は続ける
「最初だけだ。もし次あいつに会った時に説得できなかったら、私はもうあいつのことに関しては真白に協力できない。それでもいいか?」
「うん。ありがとう」
来夏は一度そうと決めたら最後まで曲げない性格だ。そんな彼女が真白の意見を尊重したのだ。
真白は来夏に感謝を述べた。
「それじゃ、次は私達を説得してもらおうかしら」
話終えた真白と来夏を見て、茜がそう宣言した。
「茜さん、別に私はどっちでも良いです」
「私もかな」
「もうちょっと乗ってくれてもよくない?本当に私嫌われてない…?大丈夫…?」
せっかくかっこつけたのに……と小さく呟きながら仲間の雑な対応に少し不貞腐れる茜だった。