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Memory24


照虎と八重の2人の戦いは、未だに拮抗していた。


「なあ。八重、いつまで手抜いてるつもりや? 私のことなめとるんか?」


「そっちこそ。何か奥の手を隠してるんでしょう? 前まではそんなものなかった気がするのだけれど、修行でもしたのかしら?」


「そうか。そうやな。それじゃあ、私が奥の手を使ったら、八重も本気で私を倒しに来い!」 


「それはできない話よ。だって今の私にとってはこれが全力…………は……?」


八重の会話は途中で遮られる。

八重にとって目の前で信じられない事が起こったからだ。


「貴方………それ………」


「ああ。これか? 見てみぃ、風魔法や」


通常、クロのような例外を除いて、魔法少女は1つの属性しか扱う事ができない。

それが魔法少女の性質だからだ。


しかし、照虎は雷属性の魔法に加えて、風属性の魔法を使っている。


「どういう……こと?」


「なあ、八重、これを見てもまだ本気を出せないって言うんか? なあ、頼むで、八重。本気のあんたを超えへんと、意味がないねん」


照虎の様子は必死だ。

八重に本気を出してもらわないと困ると。

しかし、八重にも本気を出したくない理由がある。


「ごめんなさい照虎。悪いけれど、私は“あの力”を使いたくはないの」


「ふざけんな! やったら! 私は! 何の為に……!」


「照虎、貴方がどんな修行をして、どんなに本気の私と手合わせしたがってたのかは、私には分からない。でも今はそんな状況じゃないの。お願い、相手なら後でするから」


「後で……? ああ、そうか。八重にとっては私との決闘なんてその程度のもんやもんな。でも、今じゃないとあかんのや! 平和な時に決闘なんか申し込んでも、八重は……あんたは本気を出さへん!」


そう言って、照虎は風魔法を八重に向かって放ち続ける。

その風魔法に、八重は既視感を覚える。


どこかで見たことのある風魔法だったのだ。


しかし、束のものではない。


この風魔法は………


「杏奈……?」


「杏奈……? そうや! 杏奈や! もしここで本気で戦ってくれへんのやったら! 私は杏奈に顔向けできへん!」


杏奈ーーーフルネームは笹山杏奈。

照虎と共に魔法少女として活動していた少女で、八重も二回ほど顔を合わせたことがある。


真紅の瞳を持ち、赤い髪を三つ編みにした、そばかすが特徴的な少女だ。


何故、彼女の名前が出てきたのか。

彼女に風魔法を教えてもらったのか。

八重は思考を巡らせるが、次の瞬間には頭の中で考えたことは全て吹っ飛んでいた。


「杏奈…? ああ、違う! ちがうんや……私じゃない……わたしのせいやない……ゆるして……あんな…………ごめんなさい…………ちがうんや……ああああああ!!」


照虎の様子がおかしい。


「照……虎?」


八重も彼女に何が起こっているのか分からない。

ただ、一つ。

彼女が相当追い詰められているということだけが分かる。


しかし、八重は彼女に寄り添うことはない。

元々、八重はそこまで情が厚い人間ではない。


彼女は、おかしくなってしまった照虎に水魔法を使い気絶させ、その場を去る。


(クロは大丈夫かしら?)


八重に、照虎のことを心配する様子はない。

別に照虎が嫌いなわけではない。

八重はそれなりに照虎のことが好きではある。


しかし、今はそれよりも気になることがあった。ただそれだけだ。




八重vs照虎は、照虎の自滅によって、呆気ない最後を迎えた。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





本校舎1階


来夏とゴブリンは、互いに向き合い、戦闘を開始していた。


来夏の周りの地面が盛り上がる。

しかし、来夏にはすぐにゴブリンが何をしようとしたのかわかった。


「『着火』。そしてトールハンマー!」


来夏の髪と瞳が緋色に染まる。


そしてすぐに盛り上がった地面をトールハンマーで叩いて破壊する。


おそらく、前に来夏が千夏にやられたように、地面を盛り上げて拘束するつもりだったんだろう。


だが、来夏は警戒を解かない。

今まで尻尾すら見せなかった組織の幹部。

そのうちの1人がようやく顔を出したのだ。


実力は未知数。

何故今頃出てきたのかも不明。


だからこそ、出来うる限り最大の警戒をする。


「はぁ。リリスのやつ、こんなのをおもちゃにして何が楽しいんだ? 魔法少女なんてちょっと魔法が使えるだけのクソガキじゃねぇか」


「随分な言いようだなオイ。組織の幹部だかなんだか知らないけどよ、私は負けるつもりはないぞ」


「へっ。ガキが。お前の相手なんぞこいつらで十分だ」


「こいつら……?」


来夏が周辺を見渡すが、ゴブリンの言っているやつらがどこにいるのか分からない。

ヒヨリとカゲロウは戦闘不能の状態だし、他に戦える奴がいるようには見えないのだ。


しかし、そんな来夏の疑問はすぐに解かれることとなる。

先程破壊した時に生じた破片が、再び動き出したのだ。


それだけではない。

壁が、地面が、崩れ繋がっていく。


しかし、校舎が崩れないバランスは最低限保っているようだ。

ゴブリンとしては、校舎ごと破壊してもいいはずなのだが、あるいはできないのだろうか。


そして、それらの破片は次々に合わさり、やがて三つほどの塊ができる。


「なんだ……?」


三つの塊は全て人型へと変形し、それぞれが一つのゴーレムとして完成した。


「おいおい……マジか……」


三体のゴーレムは来夏に対して敵意を剥き出しにしている。

戦闘は避けられない。


「俺は見ているだけにしといてやる。せいぜい足掻くんだなクソガキ」


ゴブリンがそう言う。

エンタメじゃないんだぞ、と来夏は思うが言ったところで仕方がない。

おそらく校舎ごと破壊しなかったのも、来夏と3体のゴーレムの戦いを楽しもうと思ってのことだろう。


(悪趣味な野郎だ……)


2対1の次は、3対1。

過酷な連戦を強いられる。

だが、来夏は弱音を吐かない。


(私は……二度も敗北を味わうつもりはないぞ)





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「無駄だと言っているのに……愚かですね。見損ないましたよ、茜さん」


(くっ! やっぱり魔法が使えないってなると不利ね………束に一発入れようにも、風魔法で軌道を逸らされるわ……)


「というか、魔法少女なのに拳で殴りにいくっていうのはどうなんですか? はしたないですね。恥ずかしいと思わないんですか?」


(こいつ……! 言ってくれるわね!!)


イライラしながら拳を振るうが、束に当たることはない。

風魔法で軌道をそらされているのだ。

先程から何度も同じようにこれの繰り返し。


がむしゃらに拳を振り続けているため、茜はそろそろ疲れてきていた。

だが、茜がこうして拳を振るい続けるのには理由がある。


ただ単に何もしていないことが苦痛なわけではない。


(束は回避に魔力を消費してる。このまま続ければ………)


茜は束の魔力切れを狙っているのだ。

理由はわからないが、束が茜に攻撃を加えたりする様子はない。

ただ声を奪い、魔力を奪っただけだ。


手を出すなとでも命令されたのだろうか。


いや、そうではないと茜は考える。


(束、貴方本当は……)


茜は束のことを信じている。

今まで共に戦ってきた仲間であり、大事な後輩で、友達だからだ。


(声を奪われてちゃ、話し合うこともできない)


きっと何か事情があると。

彼女はそう信じて疑わない。


(クロの時はついカッとなっちゃたわ……あの時冷静に話していれば、もう少しクロと接近できてたのかもしれないわね……でも、今度はそんなヘマしない。クロとも、束とも、ちゃんと言葉を交わして…………そしたらきっと分かり合える!)


実際にはそんな簡単な話ではないだろう。

だが、茜は希望を捨てることはしない。


それは彼女が、人々に夢や希望を与えるために、魔法少女になったからだ。


(絶対に! 諦めない!!)


そんな彼女の姿はまさしく、純粋な魔法少女だった。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





死体人形をほぼ一掃した真白は、クロの安否を確認するため、屋上へと向かおうとしていた。

しかし、その歩みは止められる。


目の前に、真白と同じように白い、どちらかといえば銀色だろうか、そんな髪を持った、まるで死人のように生気のない肌の白さを持った、美しい女の姿があったからだ。


「……? 逃げ遅れた……人…?」


「残念ながら、そういうわけじゃないわ」


「………?」


「そう不思議な顔をしないで」


女は微笑みながら、その美しい唇を開ける。


「そうね。私のことを名前で表すなら、雪女ってところかしら?」


廊下の温度が、急激に低下していく。


彼女が使う属性は、氷。

水属性から派生した属性だ。


本来、魔法の属性は

炎を生み出し自在に操る火属性。

水を生み出し自在に操る水属性。

風を操る風属性。

地面や砂、大地にまつわるものを扱う地属性。

電気や雷など、電撃を扱って戦う雷属性。

精神を操作する心属性。

そして、光属性と闇属性。

それに加えて無属性の、計8つの属性によって構成されているはずだった。


しかし、ある日、水属性使いの中で、氷を扱う魔法少女が現れた。

本来なら、水属性の魔法として処理されるはずが、その氷の魔法があまりにも強力すぎたため、水属性からの派生属性として、新たに9つ目の属性とされたのが、氷属性だ。


そんな強力な属性の使い手が、真白の前に現れた。


「寒っ!」


「ふふっ。雪女だもの。温度を下げることくらい、なんてことないわ。さぁ、愉快な殺戮タイムよ。精々泣き喚いて頂戴ね、force level1の雑魚魔法少女ちゃん♪」


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