Memory23
今30話まで書いてしまっているのでわかるのですが、しばらく戦闘とかそんな感じです。
ストックだけはあるって感じですね。
「照虎……? こんな時に何言って」
「ええから黙って私と戦え!! 八重!!」
照虎の普段のおちゃらけた雰囲気からは想像もできない剣幕に、八重は思わず後退りする。
彼女がこんなにも感情をあらわにして叫ぶことは今までなかった。
何か、特別な理由でもあるのだろうか。
そう思った八重は、照虎の決闘を受け入れることにした。
「ええ。わかったわ。貴方の決闘、受けて立つ!」
「そうや………それでいい………これで私が八重を超えて………八重に勝って証明するんや! 私が最強やってことを!!!!」
バチっと、照虎の周りに電撃が走る。
(照虎は雷属性の使い手………水属性の私では少し分が悪いわね……)
1人分析する八重だったが、照虎はそれを許さない。
「私は知ってる! 八重、あんたに分析されたら、私の手がそのうち通用せんくなってくる。だからこそ、短期決戦や!」
バチバチと、照虎は電撃を八重に浴びせようと何度も放つ。
八重は魔法で防御しようにも、八重の使う属性は水。
仮に水属性の魔法で防御を張ったとしても、電撃は水を伝って八重の元へとやってきてしまう。
つまり防御不能。
避けるしかない。
避けて、
避けて、
避け続ける。
しかし、さすがに避け続けるのも疲れてくるのか、八重の動きが段々と鈍ってくる。
(しめた! これでもらいや!)
「くらえっ!」
照虎は渾身の一撃を喰らわせようと、拳に電撃を纏い、八重を直接殴ろうとする。
疲弊した八重には拳は当たるーーーはずだった。
「ははっ! そうやなぁ! 簡単に倒れてもうてはおもろないもんなぁ! いいぞ! それでこそ八重や! もっと、もっと!」
「はぁ……照虎、電撃を直接浴びせようなんて、ちょっと物騒すぎやしない?」
「よう言うわ。実際、喰らわんかったやろ?」
「それ、結果論じゃない? それに、普通に避けようとしてたら、多分顔面にモロ食らってたわよ。はぁ危ない危ない。嫁入り前に顔を傷つけちゃうところだったわ」
八重の足元を見ると、八重の足から水が噴き出ている。
移動を足元に放った水の流れに任せることで、疲労していた足を使わずに、動くことができたのだ。
「なるほど、水魔法を回避に使ったわけか」
「まあね。単純な話だけれど、上手くいってよかったわ」
「ああ。でも、そんなことしたら、電撃が思いっきり通ってしまうけどなぁ!」
そう言って、照虎は地面に向かって電撃を流す。
(これで決まりや!)
勝利を確信する照虎だったが、予想に反して、八重は倒れなかった。
それどころか、一切のダメージが通っている様子がない。
「なんや! 何で効かへんのや!」
「ゴムは電気を通さないって、よく言うでしょ? 私、来夏と共闘する機会がそれなりにあったから、巻き添え食らわないように、対策はきちんとしてるのよ」
「ずるいなぁ。ほんま。ずる賢い奴やで」
「褒め言葉として受け取るわ」
「ええ性格しとるでほんま」
お互いのことを知り尽くしているからこその、対等な勝負。
2人の戦いは、まだ終わらない。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
(束………)
「無様ですね茜さん。普段はギャーギャーうるさくて仕方がなかったんですが、今やこのザマです。ほら、一言も発せないでしょう? 茜さんのことだから、どうして裏切ったんだだとか、考え直せだとか、挙句の果てには説教を垂れ出したりでもするんでしょうね。それが嫌だから、声を封じさせていただきました」
(束……! お願い! 聞いて!)
「あはは。何喋ってるかわかんないですよ茜さん。IQが違いすぎると話が通じないとか言いますよね。もしかしたら、茜さんの頭が悪すぎて、私に話が通じないのかもしれません」
(束! 私が喋れないのをいいことに……言いたい放題ね!!! もう許さないわ! 謝ってももう遅いわ! くらいなさい!)
「残念ながら、貴方は手も足も出ませんよ、茜さん。『禁忌魔法・生贄・魔力還元』」
束がそう唱えると同時、一階にいた黒い人形だろうか、がこちらまでやってきて、その場で爆散した。
(な、なにそれ……? マジカルパラノイア……? 櫻の魔法と同じ……?)
何が起きたのか、茜には理解できなかったが、すぐにその効果を理解することとなる。
(なっ………! 魔法が………使えない!)
「人一倍正義感の強い貴方が、魔法を使うことができずに、ただ傍観することしかできない。屈辱でしょうね。もちろん、話術を使うこともできないし、私も今ここで茜さんを殺すつもりはありません。せいぜい足掻いてください。私はここで見ているので」
(なっ! この子……前から生意気だと思っていたけど……ここまでなの! あーもームカつく!)
「安心してください。貴方も、クロを殺した後に美麗様がきちんと殺してくださいます。貴方はクロのことが嫌いかもしれませんが、我慢してください。まあクロが殺されることに関しては、貴方も賛成なんじゃないですか?」
(ああ。そのことについてはもう、踏ん切りはついたわよ……って言っても通じないんでしょうね)
実は茜は既にクロのことを恨んではいない。そもそも、元々死んで欲しいだなんて思ってはいない。
時間が解決したともいうが、あの日からそれなりに日数が経っている。
あの時の自分は冷静ではなく、正常な判断に欠けていた、と自分でもそう思ったのだ。
真白の言うことが本当なら、街の破壊を喜んでするようなサイコパスな魔法少女だと思えなかったというのもある。
だから、もういいのだ。
茜はクロのことを許すつもりでいる。
それはそれとして、ちょっとくらいは説教をしようと思っているが。
ただ、茜だって皆仲良しで済むならそれが一番いいと思っている。
しかし、どうやらこのままではそれは達成できなさそうだ。
(私がクロを助ける義理はないけど……でも……だからって、見捨てる理由もない………そうよ……私は正義の魔法少女。こんなところで……立ち止まるわけには行かない!!)
魔法は使えない。
言葉も発せない。
だが、体は動く。
なら、やることは一つだ。
(さぁ! 勝負よ! 束!)
己の身体能力。ただそれだけを頼りにして戦うだけだ。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「貴方は……どうして私と戦おうとするの?」
「敵だからだよ。それ以外に何かあるか? まあぶっちゃけ言うと、お前みたいな弱い奴をボコって、私の戦績の勝利の数を増やしたいって言うただそれだけの理由さ」
「なら、いいよ。それで気が済むのなら。ただ、そのかわり、気が済んだら、協力してほしい。この学校を、元の平和な学校に戻すために!」
「はぁぁぁぁーーああああぁあああ? あーそういうのが一番ムカつく。私はいい子ちゃんですよって、自分は汚れてないですよって、そうやってアピールしてるんでしょ? ああああ! そういう奴がいっっっちばん嫌いだわ。クソ姉貴よりも嫌いなタイプだわ。決めた。お前をボコす。んで、晒し者にしてやる。綺麗事ほざいて無様に負けた雌豚ですよってな! 協力? しねぇよんなもん。やりたきゃ一人でやれバーカ」
「そっか、それじゃ、少し痛い目見てもらうことになるかも」
「へっ! お前みたいな甘ちゃんには負けねーよ」
「ごめんね。これを使うの。貴方が初めてになるかも。『特別召喚・桜王命銘斬』!!」
桜銘斬に似た、けれど桜銘斬よりも切れ味の鋭そうな一本の刀が現れる。
それなりの実力を持った魔法少女なら、この刀の召喚で実力差を感じ取るだろう。
しかし、千夏にはその差を感じ取ることはできなかった。
「へっ! 結局強そうな武器に頼ることしかできないのかよ。これだから甘ちゃんは」
「ごめんね。少し眠ってて。峰打ち!」
決着は、一瞬だった。
千夏は一度の攻撃でダウンする。
それも峰打ちで。
結果的に千夏は、人生三度目の敗北を迎えることとなった。
結局、姉へのリベンジも、自分を負かした茶髪の姉妹へのリベンジも、果たせずじまいで終わってしまうのだった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「さて、こんなものか」
来夏の足元に転がるのは、ヒヨリとカゲロウの死体だ。
もちろん、来夏が殺したわけではない。
というか元々死んでいる。
倒れた二人は何やら文句を言いたそうに口を開こうとしているが、死体である。
「最近、勝ち星が続いて辛いぜ」
「なら俺が、お前を負かしてやろうか?」
「っ!?」
突然の威圧感に思わず思い切り後ろへ下がる来夏。
声のした方向へと目を向けると、いかにも悪人面といった顔で、少し不細工な成人男性が突っ立っていた。
まるでゴブリンのような、醜悪な見た目、しかし、それでいて、凶悪なオーラを放っており、威圧感も凄まじい。
「誰だ……!」
「俺か? そうか、俺かぁ。俺の名前はゴブリン。テメェらの戦ってる組織の幹部で、全ての魔法少女を殺す者だ。覚えておくんだな」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「どうして貴方が邪魔しに来るのかなぁ? パリカー」
「友人に頼まれたんだよ。滅多にモノを頼まない友人にさ。断るわけにはいかないだろう?」
「あぁ。忘れてたわ。貴方、組織の幹部の中でも一番情が深かったわね。まったく、まさか貴方が邪魔をしに来るとは思わなかったわ」
「クロ! 今のうちに逃げるぞ!」
「え? あ、うん」
リリスとパリカー、2人が会話をしている間に、辰樹とクロは逃げる体制を整える。
いつの間にか辰樹がクロのことを呼び捨てで呼んでいたりするが、それも彼の成長の結果によるものだろう。
「逃がしはしないわよ!!」
リリスがクロ達2人に向かって魔法を放とうとする。
「させないよ! 『特別召喚・グリフォン』! 『特別召喚・ケルベロス』!」
だが、それはパリカーの手によって遮られてしまう。
「もし君が組織を抜けずに、ボクと一緒に『門』の研究を続けていれば、多分敵対することはなかっただろうね」
「そうね。でもそれだと、私が魔法少女の死体を集めることが叶わないじゃない!」
(くっ、結構きついなぁ……)
パリカーは元々戦闘が特別得意というわけではない。
パリカーは自らが戦うタイプではないからだ。召喚によって、ワイバーンやキメラを喚び出して戦わせるのが彼女の主な戦闘の仕方である。
それは死体を戦わせるリリスも同じなのだが、それでもパリカーより実力は上だ。
もし、相対していたのがアスモデウスやイフリート、ルサールカなんかであったなら、彼女は既に負けていただろう。
(あくまでボクの役目はクロを“守ること”。リリスを倒そうとはしなくていい)
アスモデウスとの約束は、あくまでクロの護衛だ。
リリスを倒すことではない。
だから、パリカーはリリスを足止めするだけでいい。
校舎には他の魔法少女もいる。
リリスの操る死体の魔法少女や、組織の怪人レベルの敵ならばどうにかなるだろう。
尤も、この襲撃はリリス個人のものであるため、怪人の介入などあり得ないのだが。
しかし、パリカーは知らない。
この学校に、組織の幹部が1人やってきていることを。
死体ではない、裏切った魔法少女が存在していたことを。
そして、リリスが引き連れてきたのは、死体と魔法少女だけではないということを。




