Memory21
ちょっとストックできたので今週は投稿多めにしました。
この後のお話で戦闘回が何度か入って少しテンポ悪くなるかなぁと思ったというのもあります。
まあ元々そんなにテンポは良くないのかもしれませんが。
アスモデウスは現在、廃墟で1人の魔法少女と対峙していた。
「貴方が美麗様の言っていたアスモデウスとかいう奴?」
アスモデウスにそう問いかける彼女は真紅の瞳を持ち、赤い髪を三つ編みにした、そばかすが特徴的な少女だ。
しかしその肌にはところどころヒビが入っており、全身に縫ったような跡がある。
「そうだ」
「ふーん。偽名でしょ?」
「そうだ」
「それで、私を倒しにきたの?」
「ああ………その通りだ!」
アスモデウスがそう言った瞬間、少女の片腕が千切れる。
何が起こったのか、少女は理解ができない。
(あ……何で……私の…‥腕………)
そしてすぐに、アスモデウスが自身の片腕を千切った張本人であると悟る。
片腕を千切られてはいるが、少女に痛みはない。
「やってくれるじゃない! 今度はこっちの番よ! 風よ!」
アスモデウスが攻撃してきたと知り、少女はすぐに反撃の態勢をとるが、
「死者は死者らしく朽ちていろ」
アスモデウスがそう言った途端に、少女の体はバラバラに、四方八方に飛び散っていく。
(ああ………勝てるわけ………なかったんだ……)
少女はバラバラにされていく直前の僅か0.1秒ほどだけ、思考を働かせる。
(こいつは………美麗様と同格………いや、それ以上に………)
続きを考えることなく、少女は力尽きる。
決着は一瞬だった。
「死体の処理もしておかないとな。また再利用されても困る」
そう言ってアスモデウスは電撃を放ち、死体に火を付ける。
たちまちに火は広がり、やがて四方八方に散らばった少女の遺体を全て燃やし尽くしてしまった。
「あーあ。遅かったか〜。やってくれたわね、アスモデウス」
「…………リリスか……」
アスモデウスに話しかけた女、リリスはとても妖艶な女性だ。足は細長い、所謂美脚と言われるような足で、体型も全体的にスレンダーな体型をしている。
全体的に紫がかった印象を受けるファッションをしており、真っ赤な瞳の奥を覗き込むと、吸い込まれそうになってしまうような魅力を放っている。
「今の私は赤江美麗よ。いつまでもリリスと呼ぶのはやめて頂戴」
「リリス、目的を話せ」
「はぁ。まあいいわ。アスモデウス、貴方は私の可愛い可愛いお人形ちゃんを一つ壊したのよ? しかも、私のお気に入りの杏奈ちゃん。こんなことしておいて、許されると思う?」
「パリカーがお前に戻ってきて欲しいと言っていたぞ」
「はぁ………本当、人の話を聞かないんだから。言ったでしょ、私は組織に戻るつもりはないって。大体、イフリートのやつが嫌いなのよ、私。嫌いな奴と一緒にいたくないの。わかる?」
リリスーーー赤江美麗は会話のキャッチボールをしないアスモデウスに苛立ちを覚えながらも、密かにほくそ笑む。
「ねぇアスモデウス。貴方は魔法少女なんかに自分達が倒されるはずがないと思っているみたいだけれど、その認識は改めた方がいいわよ」
「何……?」
見ると、いつのまにか周囲に大量の真っ黒な人の形をしたものが突っ立っていた。
リリスは組織に属している頃から、死体を利用する術、死霊術に長けており、大量生産したが使い道がないため、不必要と判断されたクローンの死体の処理を担当していた。
おそらく周りにいる黒い人形達は、その成れの果てだろう。
ただ、それだけではないだろう。
リリスは死体収集家だ。
クローンの死体の処理を担当する以前から、大量の死体を自分のコレクションにしていた。
大体クローン半分、元々持っていた死体が3割、残りの2割が組織を抜けた後に集めた死体人形だろう。
しかし、それが何だ、とアスモデウスは思う。
たとえ今いる魔法少女全てが束になろうと、アスモデウスに敵うはずがないのだから。
だからといってアスモデウスがすぐに魔法少女を処理しにいけるわけではない。
魔法少女は魔法少女で使い道が残っているというのもあるし、何より組織の敵は魔法少女だけではないのだ。
もし下手に魔法少女を処理して、いらぬ面倒を背負うことになっては困る。
「ふふっ。その余裕そうな表情、いつまで続くかしら?」
愉快そうに笑うリリスを不審に思い見つめるアスモデウスだったが、やがてリリスの後ろから誰かが歩いてくるのが見えた。
緑色の少しクセ毛の髪が特徴的な魔法少女、深緑束だ。
「『禁忌魔法・封印・ウインドバインド』」
束が唱えた途端、先程まで周りにいた黒い死体人形達が一斉に宙に舞い、鎖の形となってアスモデウスの体を拘束し始める。
「これは…………」
「アッハハ! 魔力が練れないでしょう? 当然よねぇ。死体を使ってまで発動した魔法なんだから、それくらいできないと遺体が報われないわ」
「なるほどな…‥俺を無力化してから殺そうという魂胆か……」
「いいえ。貴方の事は殺さないわ。昔馴染みだしね。でも今余計な事をされると困るの。私は今、魔法少女の死体集めに夢中なのよ」
「その割には、そこの魔法少女は死体ではないのだな」
アスモデウスはそういって束の事を指差す。
アスモデウスの記憶によれば、リリスは生者に興味がなかったはずなのだが、何故かあの魔法少女だけは死体にしていない。
方針が変わったのだろうか。
「束はまた別よ。この子は私に従順だもの。死体にする方が勿体無いわ」
「変わったな」
「それはお互い様でしょう?」
「……?」
アスモデウスとしては何も変わったつもりなどなかったのだが、リリスの目にはどうやらそうは映らなかったらしい。
「気づいていないの? 貴方、やけにあのクローンの魔法少女……クロと言ったかしら、に肩入れしてるじゃない? 私、次はあの子を死体にしようかなって思ってるの」
「っ!」
アスモデウスは自分でも驚くほどに動揺していることに気づいた。
自分では自覚がなかったのだ、クロというただの実験体に、いつのまにか肩入れしていたことに。
しかし、最早どうすることもできない。
このような廃墟で拘束されてしまえば、最早誰も助けに来れないだろう。
仮に誰か来たとしても、この鎖は解けそうにない。
「アッハハ! アスモデウスさえなんとかすれば、もう私の天下も同然よ! ゴブリンはあの魔法少女が嫌いだし、ルサールカやイフリートだってきっとそう。私の邪魔はしないはずよ。パリカーだって、故郷に帰る事以外に興味がないんだから!
チェックメイトよ! アハハハハハハハ!!!」
リリスは狂ったように笑いながら、束と共に廃墟から去っていく。
その光景を見ながら、アスモデウスは今までの事を振り返っていた。
『お願いします。殺さないで』
『なんでもします。組織のために働きます』
『絶対に裏切りません』
最初はその光景を見て、惨めだなと思った。
第一印象で言えば、醜い実験動物。ただそれだけだった。
しかし後から、姉妹であるシロのために訓練の手を抜いていた事を知った。
イフリートやゴブリンは気がついていなかった。
別に2人にこの事を話してもよかった。だが何故か、話す気になれなかった。
もし2人が気づいていたら、今頃殺されていただろう。だから何だ、所詮は実験動物だ。そう言い聞かせても、何故か話す事を心が拒んだ。
『調子はどうだ』
『………少し体が怠いです』
『そうか。魔法少女について何か情報は?』
『すみません。記憶が曖昧で…』
『ふむ。少し脳を弄りすぎたか…』
この会話をした後、何故か関係のないパリカーに突っかかってしまった事をよく覚えている。
『おい、パリカー。あの例の実験動物の脳、少しいじりすぎやしないか?』
『いやそんなこと言われても、ボクは“門”の研究で忙しいし……』
当時のパリカーの困惑顔を今でも覚えている。
そんな事をボクに言うなとでも言いたげな表情だった。
『あの……』
『なんだ』
『私の爆弾を起動するときは……シロが私の周りにいない時にしてくれませんか…?』
『……わかった。約束しよう』
これは口約束だ。
守るつもりはない。
そう何度も言い聞かせ、部下や他の幹部にもそう言い張ってきた。
ただ、心のどこかで、この約束を反故にすることに抵抗していた気もする。
『それで? 無様に帰ってきたのか?』
『ごめんなさい……マジカレイドブルーが予想以上に強くて……』
『それは……あの、魔法少女達は…強いんです…だから、仕方なくて…』
『お前の技のレパートリーが少なかったのが敗因だろう。マジカレイドブルーにも指摘されたのだろう? 経験不足だと』
この時は無性にイライラしていた。
最初はマジカレイドブルーに負けた彼女に苛立っていたのだと思った。
確かにそれは間違っていない。ただ、今となってわかる事がある。
この時の苛立ちは、任務をこなせない実験動物への苛立ちではなかったということ。
例えると、親が子供が他の子供に負ける光景を見て、悔しがるかのような、そんな苛立ちに近かった。
『あの……失敗作とは……どういうことでしょうか…』
『あぁ、言ってなかったか? お前もシロを元にして造られた人造人間だ。お前はシロのことを妹だと思っていたようだったが、そうじゃない。お前が妹なんだよ』
サプライズのつもりだった。妹ができたと知ったら喜ぶだろうと。けれど彼女は負けて帰ってきた。
せっかくサプライズを用意したのに。
そんな気持ちもあったかもしれない。
けれど、それも間違いだった。
結局、アスモデウスは彼女達の事を道具として見る事を捨てきれていなかった。
それと同時に、彼女達を人として……一個人として尊重するという事も完全には捨てきれなかった。
ああ、今となってわかる。
誰かを大切に思う心というのが。
今までアスモデウスは誰かを大切に思う事などなかった。
家族は実力主義で、有能なものが上に立つ。
無駄なことなど必要ない。ただ上の命令に従っていればいい。
そう思っていた。
(そうか………これが………情というやつか……)
アスモデウスはポケットに手を伸ばし、携帯電話を取り出す。
実は鎖に拘束されているとは言っても、手はある程度自由なのだ。
リリスは世間に疎かったため、携帯電話の事をよくわかっていなかったようだ。
アスモデウスはボタンを押し、携帯電話をコールする。
『もしもし』
「ああ、パリカー、頼みたいことがある。一生の頼みだ」
『はあ? 一体どうしたの? 君らしくない』
「恥を忍んで頼みたい、例の魔法少女を……クロを……守ってくれないか?」
『……? 守りたいなら自分で守ればいいじゃないか』
「今、俺は動ける状況にないんだ……。それに、お前が来ても俺の事を助けられる状況でもない。今はお前に頼むしかないんだ」
『………ボクの目的は知っているよね?』
「ああ、故郷に帰ること、だろう?」
『そう。そのためには一分一秒が惜しいんだ。ボクは早く故郷に帰りたい。わかる?』
「ああ、わかってる! わかってるが!」
『そんなに取り乱さないでよ。引き受けてもいいよ、それ。ただし条件がある』
「本当か!? それで……条件というのは……」
『ボクに君の持つ権限を全て委ねて欲しいんだ』
アスモデウスには5人の幹部の中でも、中間管理職としてかなり重要な役目がボスから与えられている。今まで彼はその事を誇りに思い、ボスに忠実にその仕事をこなしていた。だが、
「ああ! それくらいいくらでもくれてやる! だから頼む!」
彼はあっさりそれを投げ捨てた。今までの彼からは想像もできないことだ。
誰かにこれほど入れ込むなど、今まで彼にあっただろうか。
『OK。君の熱意は伝わった。その依頼、受けるよ。ただし』
「ただし? まだ何か条件があるのか?」
『いいや。ないよ。条件はなしだ。もちろんさっきのも。流石にボクが君の権限を全て奪うっていうのは横暴だろう?』
「いいのか?」
『いいんだよ。今まで他人に興味なかった君が、ここまで入れ込んでるんだ。これでもボクは君の事は友人だと思っているんだよ? 友人からの一生に一度の頼み事、聞かないわけにはいかないだろう?』
「………すまん、助かる。ありがとう。この恩は一生忘れない」
『任せてよ。しっかり守ってあげるからさ』
この日、アスモデウスーーー組織の幹部の男は、始めて他人を頼る事となった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「違う…………私のせいやない………私は何も悪くない…‥仕方なかったんや! 私は騙されたんや! 違う……! 私のせいじゃない………!」
「違う………違うんや………許してくれ………! そんなつもりじゃなかった! こんなはずじゃなかったんや………!」
「………そうや………そうやな……最強になるんや………私が…………私が最強にならなあかんのや………」
「じゃないと私は……………私は…………」




