Memory17
学校からの下校途中、クロは八重と帰る方向が同じであるため一緒に帰宅することになった。
「そういうわけで、爆弾の件だけれど、割となんとかなりそうよ」
「…………え? マジ?」
クロは驚いてつい素の口調が出る。
実はクロの本来の口調は結構軽かったりするのだ。
初めて学校に通った際にも、シロに対してお茶目に「来ちゃった♪」などと言ったりすることからもその片鱗はうかがえるだろう。
「ええ、マジよ。ていうか貴方ってそんな話し方もするのね……」
「え? いや、うん」
「爆弾が取れたら、魔法少女としてしっかり戦ってもらうわよ」
「言われなくても全力で戦うよ」
「そう? 期待してるわ」
そうしてしばらく歩いていると、二人はいつの間にかアパートに着いていた。
八重とクロはそれぞれの部屋へ向かおうとするが、アパートの前に虹色の髪を持った奇抜な少女が立っていた。
「おっ、帰ってきたか。久しぶりやね八重。どや見てみこれ。肉や肉! 今日は八重ん家で焼肉するで! 隣の黒髪ちゃんも一緒にどうや?」
虹色の髪を持った少女は中々フレンドリーなようで、初対面であるクロにも明るく話かけてくる。
「久しぶりね、照虎。随分と顔を見てなかった気がするけれど……」
「は、初めまして」
「まあ色々あってん。隣の黒髪ちゃんは私のこと知らへんよな。私は虹山照虎! 仲良うしてな」
「影山クロ。よろしくね」
「おっ見かけによらず結構フランクなんやな。こちらこそよろしく」
「前まではもっと壁があったような気がするけど……もしかして心を開いてきてくれてるの?」
「まあ、そうかも」
「結局黒髪ちゃんは焼肉食べるん?」
「せっかくだし、食べるよ」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
放課後、教室にて。
真白、辰樹、朝太の3人は第一回恋愛会議の時と同じように教室に集合していた。
「何やってるの!?」
「いや……友達と帰ってたから話しかけれなかったんだよ…」
真白が辰樹を攻める。
実は放課後、辰樹達はクロに話しかけて途中まで一緒に帰る計画を立てていたのだ。
もちろん、辰樹はクロに話しかけるのはハードルが高いし、いきなり二人っきりになるのは無理だろうとふんで真白と朝太も協力することになったのだが………
「そんなに言うなら双山が誘えばよかったんじゃないか?」
ちなみに前回の第一回恋愛会議以降、辰樹と朝太は真白に対してさん付けをしなくなった。辰樹に関しては真白と呼び捨てにしている。
ちなみに「何故双山のことは呼び捨てにできるのに影山さんに対してはあんなにドギマギしてるんだ……」と朝太は困惑していた。
「私だとクロを誘えないよ」
「何故だ?」
「色々あってね」
実際、クロは騙し討ちのこともあってか、真白の誘いにもそれなりに警戒してしまっている。
元々あまり真白と関わりたがらないのも相まって、真白がクロを誘い出すのはなかなか難しくなってしまっているのが現状だ。
(そういえば従姉妹なんだっけか。あまり触れない方が良さそうだ)
そして朝太も日頃からクロが真白に対して積極的には関わりに行っていないことから、なんとなく察したのか、それ以上は言及しないことにした。
「やっぱ俺には無理だよ……初恋は実らないって言うし、はぁ…………」
「情けない。クロは意外と人気があるから、ボーッとしてたら取られちゃうよ?」
ちなみに真白はそう言う情報を手に入れているわけではない。
でまかせである。
別に真白からすればクロが恋愛してくれればそれでいいので、他の男の子がクロのことを好きならその子に頑張ってもらえればいいと思っている。
辰樹に協力しているのは他にクロのことを好きな男子を知らないからだ。
「なんで双山がそんなこと知っているんだ……?」
ただ、実際にクロの人気が高いのは事実であったようで、朝太はどうやらそれを知っていたようだった。
「知ってるよそんなこと…………だからこんなに悩んでるんじゃん」
「え……本当に人気あったんだ……」
「あぁ……やっぱり知らなかったのか……」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
先程まで虹色の髪を持った少女ーーー虹山照虎と行動を共にしていた二十代前半の男ーーー末田ミツルはひとりの少女を尾行していた。
(身獲散麗…………彼女は既に組織の怪人との戦闘で死亡しているはず……彼女の家族……………彼女の血縁を調べても彼女と同い年くらいの少女などいなかったし………これはどういうことですかね……)
ミツルは少女のあとをつけていく。
やがて少女は廃墟となったビルへと足を歩めていき、しばらく進んだところで立ち止まった。
ミツルのいる位置からは相手は見えないが、どうやら誰かと会話をしているらしい。
「朝霧千夏。朝霧来夏の妹で地属性の魔法少女。魔力量は悪くないけど、実力が伴ってない感じがしたよ」
「そうですか。私も実力はまだまだなので人のことは言えませんが、今のところ脅威にはならなさそうですね。放っておいても問題ないでしょう。それより、組織の方には探りは入れたんですか?」
「組織の方にはヒヨリとカゲロウを向かわせたよ。二人は息もピッタリだし、何より隠密行動に長けてるからね」
(ヒヨリ? カゲロウ? 仲間の名前でしょうか………)
ミツルは一人で考え込む。
そもそも身獲散麗は既に死んだ少女だ。
何故この場に彼女の姿が見られるのか、そこの部分がまず謎だ。
とりあえず仲間に関しては深くは考える必要はないだろう。
ヒヨリ、カゲロウ、その名前だけで十分だ。
(それにしても一体誰と話をしているんでしょうかね。声を聞く限り、話している相手は同じ魔法少女でしょうか)
「さて、立ち話はこれくらいにして、乙女のガールズトークを覗き見る不埒な輩をとっ捕まえるとしますか」
(っ!? バレていたんですね……!)
ミツルは咄嗟に足を駆けさせ、廃ビルから立ち去ろうとするが…………
「“ウインドバインド”」
風属性の魔法、“ウインドバインド”によって身動きを取れなくなってしまった。
身獲散麗と話をしていた少女の魔法によるものだ。
「へぇ。この人がさっきから私のことずーっと尾けてきてたロリコンの変態ストーカーさん?」
「…………どうやらバレていたようですね……どうして…………」
「どうしてって? それは貴方の“心の声”が筒抜けだったからです。なんたって私の使う属性は心属性なんですから」
身獲散麗という少女は心属性の魔法の使い手だった。
元々心属性はあまり戦闘向きと言えるような属性ではない。
もちろん熟練度が上がればその限りではないのかもしれないが、基本的には相手になんとなく何かしらの潜在的な意識を植えさせることができるくらいだ。
例えば、寿司が食べたいという漠然とした欲望を、心の中に干渉してほんの少しだけ傘増しさせるくらいの魔法だ。
「まぁ。考えている内容については全く分かりませんけどね〜」
軽い口調で話しながらこちらを見る散麗。
しかし、ミツルが見た散麗の容姿は、知っているものとは異なっていた。
髪は黒に近い深緑であることは同じなのだが、
おかしいのはその肌だ。
さらにところどころツギハギのようになっていて体中の至る所に縫い後がある。
肌は青白く、生気が感じられない。
そして、彼女の隣に目を向けると
「なるほど……確かに身獲散麗の交友関係を考えれば、貴方くらいしか彼女と関係が深い人物はいませんでした…………」
「物凄く丁寧な話し方ですね……少し親近感が湧いてきますよ」
「ええそうですね………僕もこんな形で貴方と出会わなければ、もう少し貴方に対する印象も良かったかもしれません。元から貴方のことは知っていたんですよ………
………風属性使いの魔法少女、深緑束さん」
曇らせさん「おらっ! 出番よこせっ!」