エピローグ前編
「………ははっ……。予想外、だわ……。まさか、仲間を殺してもなお、貴女は折れないというの……? ねぇ………百山櫻」
大規模侵攻は終了し、組織は壊滅した。もはや残党すら残さず、綺麗さっぱりと。
まだ、人間と魔族の関係が良好に至ったわけではない。魔族の存在が世間に公表され、異世界の存在も示唆された。これからどう向き合っていくのか、それが今後の課題になるだろう。
そして、おそらく全ての事件の首謀者、ルサールカを捉えた。
「貴女の野望は、私達が止めたよ。貴女が起こした大規模侵攻に、私達は勝った。犠牲者は0。私達は、貴女に完全勝利したの」
「犠牲者は0……? あはは………あはははははは!!!! これは傑作だわ!! 自分で仲間を殺しておいて!? 犠牲者は0!! あはははは!! 冗談きついわ!!」
「櫻、もういい。こいつは俺達が連行する」
馬鹿にしたように嘲笑するルサールカを見て、櫻の兄、椿とその友人である魔族ドラゴはルサールカを連行する。
「そうだね。私が殺した。けど、それは大規模侵攻の犠牲じゃない。私が、クロちゃんを殺してしまった。ただ、それだけなの」
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「…そっかぁ……。お兄ちゃん、逝っちゃったんだ」
「ごめんなさい。私には、助けられなくて……」
櫻が訪れたのは、クロの前世での妹、雪の住居だ。
彼女はクロのことを前世での兄であると認識していた。そのため、クロが死んだ今、そのことを報告するのは自分の務めだと、櫻はそう思い、自ら足を運ばせたのだ。
「お兄ちゃん、何か言ってた?」
「元気そうでよかったって。旦那さんとお幸せにって、そう言ってましたよ」
「えっ!? 私が結婚したのいつの間に気付いたの!? お兄ちゃんに言ってなかったのに!!」
「定期的に様子見に来てたみたいですよ。あー、あと、仲がいいのはよろしいことだけど、あんまり羽目外し過ぎないように。具体的に言うと、夜、あんまり声出しすぎないように、だそうです」
「ぎゃあああああああ!! お兄ちゃんのばかあああああああ!!」
(早速大声出てる……)
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「魔法少女は引退します。少し、疲れました」
「そっか。今まで助かったよ。ありがとう束ちゃん」
櫻が雪の家に寄った後、双山魔衣の元へ向かおうとしたのだが、同じく彼女の宅へやってきていた束と出会い、櫻は少し立ち話をする。
「私は、親しくなった友人を亡くしてしまう星の元にでも生まれたのでしょうか……。あ、櫻さん、気に病まないでくださいね! 私はクロさんの死を、引きずっていませんから。隣で……朝太さんが支えてくれているので……。あ、クロさんのことを忘れた、とか、そういうわけじゃなくてですね…!」
そう言う束は、本当に、精神的に参っているわけではなさそうだ。一度友人の死を経験していて、耐性をつけていたのか、それとも、隣にいる恋人に支えてもらっているからか、あるいはその両方からか。
どちらかはわからなかったが、少なくとも櫻は、今の束は大丈夫そうだなと感じた。
「束ちゃん、また今度、遊びに行くね!」
「ええ、ぜひ。いつでも大歓迎ですよ。また、皆で集まりましょう。そういえば、櫻さんはどうしてここに?」
「えーとね。真白ちゃんに会いたくて……」
櫻はついつい夢中で束と話し込んでいたせいで、忘れてしまっていたことを思い出す。
それは、真白……シロと会うこと。
クロの遺言………、それを伝えるためだった。
「真白さんですか……。そういえば、見かけませんね……」
「よう。櫻、束。こんなところで何してるんだ?」
と、櫻と束が話し込んでいるところに、来夏もやってきた。
「来夏ちゃん、あのね……」
「あー。真白のことか? 悪いが、そっとしておいてやってくれないか? クロのことが相当こたえてるらしくてな。しばらく誰とも会いたくないって言ってるんだ。私は八重から買い出しに頼まれてな。その時に、真白の顔を見たんだが、まあ、だいぶやつれてたよ。大事な家族を亡くしたんだ。私達よりも、心の傷は深いんだろうな」
困ったな、と櫻は思う。
どうしても、櫻はシロに会いたいのだ。それがクロの望みでもあり、櫻が託された使命であるから。しかし、当のシロは誰とも会いたがっていないという。無理もない。大切な家族が死ぬその瞬間を、自身の目で見てしまったのだから。
それに、櫻がシロに会いに行くのは、シロの精神的にもよろしくないだろう。なんせ、シロの大切な家族を殺した張本人なのだから。
「だったら、八重ちゃんに伝言を頼めないかな? どうしても伝えたいことがあって……」
「無理だろうな。八重のやつも相当こたえてる。私だって買い出しこそ頼まれてるが……世間話をしようとしても、すぐに引きこもっちまうからな…。本当は引きずり出して、少しでも構ってやった方が精神的にもいいんじゃないかとも思うが……。正直それが正しいかもわかんねえしな……」
伝言すらも難しい状態らしい。立ち直るには、相当の時間がいるだろう……。
「……そっか……。ありがとう。やっぱり…あの時私が、別の方法を見つけれていれば……」
「過ぎたこと気にしたって仕方ないだろ。いつまでも引きずってたって、何も変わりはしないんだからな。それに、クロだって櫻が引きずっちまうことは望んじゃいないだろ、束を見習え」
「私を見習えと言われましても。私だって、散麗の時はかなり引きずってましたし。散麗のことがあったから、クロさんの死に対して、真正面から向き合えたって部分もありますから」
「確かに、そうだけど……。でも、そう、だよね。ごめんね来夏ちゃん。……そういえば、来夏ちゃんはこれからどうするつもりなの?」
「ん? ああ。私も魔法少女は引退するつもりだ。ま、って言っても、後進育成に力を入れるため、だから、魔法少女そのものをやめるかっていうと微妙だけどな」
「私は完全に魔法少女をやめちゃうので、来夏さんとは違う道になりますね」
「そうなるな」
「そうなんだ。じゃあ、弟子みたいな子達がいるの?」
「弟子……かどうかは分かんないけど、まあ、幸い私の妹はちょっとした有名人で、魔法少女達から人気を集めてるからな。だから、千夏が広告担当をして、私と猿姉で運営って形の、まあ、一種の訓練場みたいなのをやるつもりだ」
組織が壊滅してから、怪人は完全に消えた………かのように思われたが、いまだに怪人を作り出す組織は他にも存在している。櫻達の知るそれよりも、かなり実力は劣るが、それでも一般人からすれば驚異的な存在であることには変わりない。そのため、まだ世間には魔法少女の存在は必要だった。
けれど、皆が皆、同じ道を進むというわけではなかった。今までは行動を共にすることの多かった櫻達だが、今後はそれぞれ別の道を歩むことになるのだろう。
「そっか。来夏ちゃん達も、頑張ってるんだね。私も、こんなところでくよくよしてられないや……。……また、皆で一緒に集まれるといいね」
「……ああ、そうだな」
「ですね」
「それじゃあ、私は帰るね。2人とも、またね」
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「櫻、帰ってきたのね。それで、真白はどうだった?」
櫻は帰ってきた……といっても、それは自宅ではない。
彼女の正面には、燃えるような真っ赤な髪をツインテールにした少女、津井羽茜がいた。
「……やっぱり、クロちゃんのこと、引きずってるみたいで……会えなかった」
「ま、そうよね。仕方ないと思うわ。私だって、クロが死んだって聞いて、かなりショックだったし」
茜は束や来夏とは異なり、魔法少女を引退してはいない。
といっても、表だって魔法少女の活動は行わない。というのも、いくら組織が壊滅したとはいえ、魔法省がきな臭いことには変わりはない。そのため、茜は魔法省に対する抑止力として、非政府による魔法少女治安維持組織を立ち上げたのだ。
彼女の組織には、ガンマやベータ、アルファにカナなどの人工魔法少女達に加えて、1人の娘を持つ父である魔族ノーメド、その娘で人間とのハーフである龍宮メナとその相棒の真野尾美鈴らが所属している。ちなみに、ちゃっかり古鐘と照虎もその一員として一応名簿に名を連ねているんだとか。
「ごめんね、しばらく勧誘は、無理そうかも」
「いいわよ別に。真白がそんな状態なのに、私達の組織に勧誘しようだなんて思ってないわ。はあ。にしても、まさか私、友達を2人も失うだなんて思ってなかったわ。昔束に、茜さんは失ったことがないから辛さがわからないんだ〜って言われたことがあったけど、なるほど、確かに、正直けっこうしんどいわ」
実は、櫻が真白にクロの伝言を伝えに行こうとしたとき、茜から、ついでに真白の組織への勧誘をお願いしたいと頼まれていたのだ。といっても、当の真白は到底どこかに所属できる状態ではなかったわけだが。
「2人? クロちゃんと……。ううん。ごめん、デリカシーなかったね」
「気にしないで。私と櫻の仲だし。それに、櫻も知らないわけではない子のことよ。愛って知ってる? クロの友達の」
「あっ! 愛ちゃん……」
「あの子と、それなりに仲良くさせてもらってたのよ。まあ、関わった時間は、そんなに多くはないけど…。それでも、友人って呼べるくらいの関係性にはなったし、いなくなったらやっぱり、心に来るものだわ」
彼女は彼女なりに、友人の死を悼んでいるようだった。逃避しているわけではない。真正面から受け止めた上で、彼女は今、成すべきことを成そうと努力していた。
(やっぱり茜は、強い子だな……)
「茜ちゃんは、凄いね」
「櫻ほどじゃないわよ。櫻がいなかったら、きっと皆バラバラだった。けど、櫻がいたおかげで、一つになれた。私も、真白も……それに、クロも」
茜のメンタルは、誰よりも強靭だ。ある意味、最もメンタル強者なのは茜なのかもしれない。
「真白ちゃんが落ち着いたら、また、皆で集まろうと思うんだ。その時は、茜ちゃんも呼ぶね」
「ふふっ。ほらね? 櫻、また皆の輪を繋げようとしてる。櫻は自覚ないかもしれないけど、それのおかげで、私達は強い絆で結ばれてるんだから」
「あ、茜ちゃん、恥ずかしいこと言うんだね……」
「それ、櫻にだけは言われたくないわ」
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『もっしもーし! どうだった〜?』
「もしもし、ミリューちゃん? 真白ちゃんのことなんだけど……」
『塞ぎ込んじゃってるわけか』
「うん。なんとかして、真白ちゃんと話をしたいんだけど……」
『まー無理だろうね。ちなみに吸血姫はお帰りになったそうですよん。魔衣さんからそう連絡が来たので。あっ、そうだ! 魔衣さんに連絡してみます? そうすれば、まっしろちゃんとも連絡とれると思いますよ〜?』
「ううん、真白ちゃんの心の整理がつくまでは、そっとしておいてあげた方がいいかなって思うから」
『そうですかねー? 話してあげた方がまっしろちゃんの精神衛生的にも良いと思うんですけど』
「そう、なのかな……?」
『ていうか、こういう話は当事者同士でした方がいいでしょ。当人が話したいと思ってるかどうかだと思いますよ。で、そのことについて、何か聞いてるんですか?』
「それは……」
『とにかく、とりあえず話しましょ。八重もまっしろちゃんも、このままじゃ精神崩壊BADEND直行ですよ。なんなら魔衣さんだって絶賛メンタルブレイク中なんですから』
「でも……」
『でもも何もないでしょーに。私もついていきますし、不安だったらユカリも連れて行くからさ。だから行く! これは決定事項! はい! 拒否権はありません!』
「は、はひ……」
(うわぁ……大丈夫かなぁ……。不安だな……)
こうして櫻は、ミリューの手によって、強制的に真白と話し合うことになった。
実はこの作品中盤はなろう内で書き込んでましたが、序盤と現在書いてる終盤はメモ帳で書いてからのコピペなんですよね。ここに来て原点回帰。