Memory16
「これより、第一回恋愛会議を始める!」
「おー!」
「なんでこうなったんだ………」
上から順に真白、辰樹、朝太のセリフである。
辰樹がクロに惚れていることを知った真白は、その翌日の放課後、クロと辰樹の仲を深めるために恋愛会議を開催することにしたのだ。
「まず第一に、辰樹、貴方はクロに対してドギマギしすぎ。私とは普通に喋れるんだから、クロに対しても普通に接すること」
「そんなこと言われたって……す、好きな女の子の前じゃ、緊張しても仕方ないだろ?」
「ふと思ったんだが、双山さんと影山さんって顔似てるよな? 血の繋がりでもあるのか?」
「あー一応親戚、的な……あんまり深くは知らないけど。まあ、そんな感じだと思う」
朝太に指摘された真白は狼狽える。
はっきり言ってその辺の設定をどうすればいいのかがよくわからなかった。
馬鹿正直に姉妹です、だなんて言ってもクラスで過ごしてきて家族っぽいやりとりなどしていなかったし、仮に無理に姉妹設定で通しても名字が違ったりと、クラスメイトに複雑な家庭を想像させてしまうだろう。
真白としては一応保護者である双山魔衣にあらぬ噂を立てたくはなかったため、クロとは他人として振る舞うことにしたのだ。
「双山さんもあまり詳しくは知らないんだな。まあそれは置いておいて、少し提案があるんだが……」
「提案?」
「あぁ。その、カツラを被って少し影山さんに似せた状態で辰樹と話してみてくれないか? あー、その、嫌だったらいい。不快な思いをさせてしまったなら、その、申し訳ない」
先程クロと真白の顔つきが似ているといったのも、おそらくこの話に繋げる為の前置きだったのだろう。要は偽クロとなって練習台になれということだ。
真白としてはクロになりきることに関して特に不快感はない。それに、今の真白としてはなんとしてでもクロに恋愛をさせようと謎の熱意に燃えている。
断る理由はないだろう。
「うん、いいよ」
「いいのか?」
「うん。というか一応もう持ってきてるけど」
そう言って真白は自身のカバンの中から黒色の髪のカツラを取り出してきた。
「も、もう既に用意してたのか…………」
「ほい、被ってみたけど、どう?」
「本当だ! 似てる!」
「俺達は普段から2人を見ているから見分けが付くが、全く知らない赤の他人からしたら見分けはつかないかもしれないな」
当然といえば当然のことだろう。
何せクロは真白のクローンなのだから。真白がクロに似ないはずがないのだ。
尤も朝太が言っているようにある程度共に過ごしていると案外見分けはつく。
クローンといっても全く同じ生活をしているわけではないし、考えていることも全く違う。食べる物も全て統一されていたわけではない。
その為、少しずつ二人の間には差異が出てきていたのだ。
「で、今の私とは話せるの?」
「おう、全然問題ないぞ!」
「んーやっぱりこれ効果ないかもね」
「そうか? 俺は多少なりとも慣れが生じてくるかとは思うが……」
「んー俺もあんまり意味ない気がする。やっぱり本当に好きな子じゃないと緊張ってしないもんなんだなぁ」
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「よぉ、クソ姉貴」
「はぁ…。しばらく顔見せねぇと思ったら。何の用?」
対面する黄色髪の姉妹。
姉ーーー来夏の方は体中からバチバチと静電気を鳴らし、苛立ちを隠す様子もない。
対して妹ーーー千夏の方も自身の周りの地面を盛り上げて臨戦態勢になっている。
「おいおい、街を壊すつもりか? こういう道一つ作るのにも人材とかお金とかかかってるんだぞ」
「うるさいなぁ。それはお前達も同じでしょ? 怪人を倒すことを口実に、街をメチャクチャにしてるじゃない。私もそれと同じ。目的のために仕方なく、よ」
「生意気な口聞きやがって。大体、いつからお姉ちゃんのことをお前呼びする様になったんだ?」
「ついさっきからよ!」
会話をぶったぎるかのようにそういった千夏は、来夏の周りの地面を盛り上げ、来夏の身柄を拘束する。
「どう? これで手も足も出ないでしょ?」
「この程度で完封されてちゃ魔法少女はやってられねぇよ。『着火』」
『着火』。来夏がそう告げると同時、来夏の髪と瞳が緋色に染まり、手には小さな槌が現れる。
「打ち砕け! トールハンマー!」
来夏は手に持っている槌を大きく振るい、千夏の形成した壁を打ち砕く。
「なっ、いつの間にそんな力っ!」
「久しぶりに会ったんだ、お前の知らない力を使えていたって不思議なことないだろ?」
「ふーん。特訓してたわけ? うっざ。あーもう全部うざい。しねよ」
地面から木の根のようなものが四つほど生え、来夏を襲う。だがーーー
「おらっ!」
木の根は来夏のトールハンマーによって全て打ち砕かれてしまう。
「何その武器。魔法少女ならステッキだけ使っとけばいいのに。はぁ………ムカつく」
「カリカリすんな、姉に似た可愛い顔が台無しだぞ?」
「私が可愛いのは認めるけど………、お前に似てるっていうのは納得できないなぁ!!」
千夏ががむしゃらに木の根を来夏に浴びせ続けるが、その全てが尽く来夏のトールハンマーで塵と化す。
「クソっ! なんで! なんで! なんで! こんな奴に! なんで! 負けたくない! 負けたくない!」
「そりゃ当前だろ。怪人との戦いから逃げた奴が、怪人と戦い続けた私に勝てるわけがない」
「逃げてなんか………逃げてなんかない! 私は! 怪人が怖かったわけじゃない! 全部! 全部お前が悪いんだ! 私はお前のせいで!」
「八つ当たりもほどほどにしとけよ。見苦しいな」
「あーもう! うるさいうるさいうるさい! さっさとくたばれ!」
「これ以上やっても意味ないな。終わらせるか」
来夏のトールハンマーに魔力が集まっていく。
「『簡易必殺』雷槌・ミョルニル」
『簡易必殺』雷槌・ミョルニルは、来夏がクロに負けた後、考え出したものだ。
元々必殺として使っていた雷槌ミョルニルだが、極端に魔力を持っていくため、その後の戦闘が不可能になってしまうデメリットがあった。
実際、クロのブラックホールによって雷槌ミョルニルが防がれてしまった後、来夏には戦う力は残っていなかった。
しかしこの『簡易必殺』雷槌・ミョルニルは違う。
必殺技として機能するための最低限の魔力量を計算し、無駄な魔力を割かずに雷槌ミョルニルを形成することを可能にしたのだ。
したがって、仮にこの『簡易必殺』雷槌・ミョルニルが外れたとしても、来夏はまだ『簡易必殺』雷槌・ミョルニルを再び形成できるだけの魔力を持っている。
対して千夏は冷静さを欠いており、魔力の使い方も雑になり、無駄が多い。
結果は火を見るよりも明らかだった。
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「ありゃりゃ、さっきの戦い、バチバチちゃんの方が勝ってますわ」
「こんな少女達に戦いを強いてしまっているなんて…………情けない……」
先程の千夏と来夏の戦いを、物陰からひっそりと眺める2人の影があった。
1人は髪を虹色に染めた、来夏達と同じぐらいの年齢の少女だ。
もう1人は物腰の柔らかそうな二十代前半の男性だ。
「そんなこと言うならあんたらが手貸してくれりゃ済むんとちゃいます?」
「僕達の存在が、組織にバレるわけにはいかないので…」
「とか言いつつ、あんたは動くんやな」
「流石にこのまま黙っているのは良心が許しません。それに、僕には大した力がありません。できることは限られているでしょうし、僕から他の仲間について勘づかれることもないでしょう」
「ほーん。ま、私は私が最強ってこと証明できればそれでええから、どうでもええわ」
「それは魔法少女の中での最強ということですか?」
「当たり前やろ! 魔法少女って枠組みの中やないと最強は狙えん。私だってあんな化け物相手に最強目指す気は起こらんわ」
「まあ、確かにあの人は規格外ですね。魔法少女って呼ぶには少々特殊すぎますし……」
「そうやろ? 適性属性なしとか意味わからんねん。無属性でもないとかどういうことやねん」
しばらく2人はその場で共通の知り合いの話をするが、数分経った後、男が会話を切り上げる。
「とりあえず、僕は気になることがあるのでここら辺で行かせてもらいますが、貴方はどうしますか?」
「とりあえず八重の家行きたいなぁ。修行して強くなった私と全力勝負してほしいわ。後は束が強くなっとるんか気になるし、最近真白って言う新しい魔法少女が仲間になったらしいからその子とも顔合わせしたいなぁ」
「そうですか、ところでずっと思ってたんですけど、その似非とも言えない4分の1くらいの関西弁ってなんなんですか?」
「分からんわ。気づいたらこんな話し方なっとった。というかあんただって似たようなもんやろ。なんで年下に敬語やねん」
「お互い変わり者ということですね」
「なんや私も変わり者扱いか」
軽口を叩き合いながらも2人はその場を後にする。
4分の1くらい関西弁の少女は八重の家へ、
年下に敬語を使う二十代前半の男性は
死んだ筈の少女、身獲 散麗の尾行へと。