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Memory163

『えー、もしもし、クロコっす。単独行動してるとこを除いて、一応各地点を見回ってきたっすけど、今のところ重症者0。多少の軽傷を負っている方は数名見受けられましたが、全員5体満足で、戦闘継続可能って感じっす』


「了解だ。じゃあ、持ち場の地点Fに戻ってくれ」


『了解っす』


魔衣、古鐘、照虎の3人は、それぞれの地点の魔法少女に、的確に指示を出していく。各地点の連携が上手く取れているおかげか、今のところ死者は出ておらず、大きな怪我をした者もいなかった。


「概ね順調って感じやな。ただ、まだ油断はできひん…。隠し玉があるかもしれへんしな…」


「……いや、順調じゃなさそうだよ…」


しかし、心に余裕のありそうな照虎に対して、古鐘の表情は暗かった。ずっとこういう感じだったわけではない。古鐘の顔色が悪くなったのは、ほんの数分前のことだ。戦況としては上手くいっている、そう照虎は認識していたし、今のところ大きな脅威は見当たらないのだが……。


「どうしたんや? 何か心配事でも…」


「来夏と、連絡が取れなくなった」


「んな…」


基本的に、各魔法少女達は、それぞれの持ち場について、ある程度グループになって固まって動いている。だが、朝霧来夏や、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターは、その実力の高さから、単独行動で他の援護をしつつ、通常の魔法少女達では対処が難しい敵の相手をしてもらう役割を担ってもらっているのだ。だからこそ、無線で連絡を取る頻度は、比較的高くなるし、都度安否確認も行っている。だが……。


「もう数分も連絡が取れていない。よっぽどの強敵との戦闘で、連絡を返す余裕がないのか……。あるいは……」


「……最後に来夏と連絡が取れたんは、どの地点や…?」


「確か……E地点とF地点の、丁度中間くらいの位置、だったかな、ただ、少し西側に逸れてるから、単純な中間位置というわけではないんだけどね」


「それじゃ、もう一度F地点の連中に様子を見てきてもらう必要があるな」


「そうだね、来夏の安否確認もしてもらって、やばそうなら援軍を送ることとしよう……。っと、そちらの無線に連絡が入っているよ」


照虎と古鐘が話している間にも、無線で連絡は入ってくる。悠長に話している暇は、ないのだ。誰1人欠けずに、騒動を終わらせる。その目標の達成のためにも。


『あーあー。聞こえますかー? クロです。シロの無線を借りて話しています。緊急で連絡。今すぐ来夏をこっちに……組織のアジトにまで送って欲しい。他の援軍は必要ない、けど、絶対にこっちに来夏を連れてきて欲しい。じゃないと、多分私達は、この戦いに勝てない』




★☆ ★☆ ★☆ ★☆ ★☆




ルサールカと来夏は、互いに拳を交わす。しかし、体術において、思ったよりもルサールカの実力は高く、来夏は苦戦を強いられていた。


(魔力を練ろうにも、隙がない……。強制的に魔法を使わない肉弾戦に持ち込まれてる……。このままじゃ、ジリ貧だな)


「知りたい? どうして私が貴女の元にやってきたのか」


「興味ないな。私は目の前のお前を倒すことだけに集中すればいい。元より、私はそういう、他の奴らじゃ対処が難しい敵を請け負うのが役目だったからな」


「貴女がそれでいいというのなら、別に私は構わないけれど。でも、いいのかしらね? 貴女がここで私と戦っているせいで、今頃アジトで櫻達が苦しんでいることでしょうに」


「どういうことだ?」


来夏は怪訝な表情をする。元より自分が傷つき、苦しむ分にはどうなったっていいと思っていた来夏だが、仲間に危害が加わるとなれば話は別だ。


(苦しむのは、私だけでいい)


傷を背負うのは、自分だけであって欲しい。大切な仲間を……友達を、傷つけさせたくはない。だから、今のルサールカの発言は、来夏にとって、看過できないものだった。


「私はね、ある意味、貴女達のファンだったわ」


「……おい、何の話を……」


「せっかちね。少しは私と楽しくおしゃべりしてくれてもいいんじゃないかしら?」


魔族との戦闘に続いて、ルサールカとの戦闘で、来夏は体力をかなり消耗してしまった。そのため、むしろ好都合かも知れない。ルサールカに語らせて、その間に少しでも体力の回復をしておく。来夏はそう決断した。


「わかった。話そう」


「いい子ね。そう、それで、私が貴女達のファンだっていう話からだったわね。そうね、私はね……」




★☆ ★☆ ★☆ ★☆ ★☆





昔から、私は快楽主義者だった。楽しいことがあれば、それをしたい。苦しいのは嫌。でも、他人が苦しむ姿を見るのは、楽しいから好き。それが、私だったわ。


他者を道具としてしか見ず、自身の欲を満たすためのものとしてしか扱わない。そんな風に過ごしてきて、でもふと、退屈に思ったの。


魔族の掌握は、簡単だったもの。


力を示せばいい。小細工でも、少しでも敵わないと思わせれば、皆簡単に私に従い、私の手となり足となり、そして、傀儡と化していったわ。


でもね、何事もうまくいくなんて、そんなに面白いものでもないのよ。

いつしか私が魔族を従える工程はテンプレ化していき、悪巧みもワンパターン化。つまらない、つまらないって、そうね、飽きてきたのかもしれないわ。だから、私は人間界へとやってきた時はワクワクしたものだわ。


そこで見つけたのが、魔法少女だったの。


強大な怪人。絶対に勝てない怪物に対して、必死に戦う姿。

もちろん、当初は怪人によって人間が慌てふためく姿を見るのが滑稽で楽しかったから、組織に身を置いていたわけだけど、でも、魔法少女達の輝きを見て、思ったの。


ああ、この輝きを、汚してしまいたい。そして、どこまで保つのか、試してみたい、ってね。


私が1番注目したのは、百山櫻。彼女は、そう、はっきり言って異常だったわ。

明るくて、まっすぐで、歪みなんてない、綺麗な少女。


魔法少女は、お世辞にも綺麗なことばかりでは終われないわ。時に血で汚れ、時に埃に塗れ、中には、その過激な労働から、加虐性を身につけてしまったり、身体を壊してしまったりする子だっているくらいだったもの。


そんな中でも、一切揺るぐことなく、ただ只管に理想を掲げていく姿は、異常だったわ。そしてこうも思ったの。彼女の輝きは、どうすれば消えるんだろう。どうすれば、汚れるんだろうって。


そして、私は見たの。


百山櫻の隣に、綺麗な真っ白の髪を持った少女が、並び立っている様子を。


『千鶴ちゃん、行くよ!』


『櫻ってば……いつも無茶ばかりする。まあ、そこがいいところなんだけど』


2人の息は、ピッタリだった。

怪人を前に怯むことなく、完璧な連携を魅せ、見事に討伐してみせた。


怪人を討伐した後の、2人の笑顔が、今でも鮮明に思い出せるわ。


だって、ゾクゾクしたんだもの。

百山櫻を壊せるかもしれないって。


壊したい。壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい。



虚な目をした彼女が見たい。絶望して輝きを失ってしまった彼女を見たい。全て投げやりになってしまった彼女が欲しい。私に、力ではなく、精神的に屈服させたい。


私が彼女を、終わらせたい……。


だからこそ私は、禁忌に手を出した。


世界をやり直す大魔法。

魔族の誰もが、魔王さえもが使うことをやめ、禁じ、話すことすら嫌った、世界の理を書き換える大魔法。


それで私はやり直した。どうすれば、百山櫻を徹底的に潰せるのか。どうすれば、彼女の輝きを、1番無残で、無慈悲で、救いようのない方法で蹴散らせるのかを。


何度かやり直した。


ある世界線では、彼女の仲間を殺し尽くした。けれど、彼女の輝きは消えない。彼女は屈服しなかった。


別の世界線では、今度は百山櫻を赤子の時点から拉致監禁し、その輝きが失われるのかを検証した。けれども、彼女はまっすぐで、歪みのない、異常な少女だった。


一つの世界線では、彼女の大切な存在である、白い髪の少女を拉致し、敵対させてみた。Dr白川があの性格で助かったわ。おかげで簡単に拉致できたもの。けれど、元からの関係値がない状態の2人では、百山櫻の最大の輝きを失わせるには足り得ないと思ったわ。


そうして、5つ目の世界線で、私は、クローンを生み出すことにしたわ。

真っ白な少女……シロには、一度組織を裏切ってもらう。

そして、クロと対峙させることで、シロの輝きを奪う。


そう、私は、一つの結論に至ったの。

百山櫻の輝きを失わせるのは、これだって。


彼女自身の心だけに傷をつけ続けても、彼女の心の輝きを奪うには足り得ない。なら、彼女を取り巻くもの達もまとめて、その輝きを失わせてしまえばいい。


目を向けて見れば、百山櫻以外にも味わい深い存在はたくさんいたわ。


ある意味櫻と異なって歪みのない、純粋な真っすぐさを持った津井羽茜。


劣悪な家庭環境でも折れることなく、芯を持ってその両の足で立つ、家族想いな蒼井八重。


物腰丁寧で、友達のために命をかけることができる、どこまでも友達思いな深緑束。


そして、1人で何でも抱え込んで、他人のために自分を犠牲にすることを厭わない、優しい優しい朝霧来夏。


私はいつの間にか、貴女達の虜になっていたの。


茜ちゃんはまっすぐで可愛らしくて好きだし、目の前で人を殺して激昂させてあげたいって思ったわ。

八重ちゃんは母親でも人質にとれば、いい反応をしてくれるかしら?

束ちゃんは、友達を殺してその死体を利用でもすれば、その心をぐちゃぐちゃにかき混ぜることができそうね。

来夏ちゃんには、散々1人で傷ついてもらった後、皆に傷ついてきたことぜーんぶバラして、おまけに自分が傷ついてきたことは全て無意味だったって告げれば、壊れてくれるわよね。

シロも、クロといういい調味料ができたし、その幼くて健気な心を、きっと痛めて、歪んで、堕ちていってくれるに違いないわ、なんて。


クロには特に輝きは感じなかったし、そこまで固執はしてないけれど、まあ、適度に加虐心を満たしてくれるおやつ感覚の玩具の役目はこなしてくれたわ。それに、櫻やシロの輝きを奪う上で、かなり有効活用させてもらえてるわね。


もちろん、メインディッシュは百山櫻だけれど、私はいつの間にか、貴女達に魅了されていたわ。


といっても、クローンを作ってからも、何度か世界をやり直すことにはなったんだけれど。


最初はクロの中にある爆弾を爆発させてみたのだけれど、中々いい反応で、私も正直クるものがあったわ。でも、櫻の輝きが十分な状態じゃなかったし、正直ちょっと時期尚早感はあったかなと感じたわ。


2度目は、リリスを放置してしまったのが悪手だったわ。

思ったよりもクロの精神が脆かったのが盲点ね。あまりにも他の魔法少女ばかり見ていたからか、私の中で人間の精神性への理解度がバグを起こしてしまっていたのよね。玩具として楽しんでいたけれど、思ったより繊細な玩具で、扱いが難しいと感じたわ。


3度目は櫻が死んでしまったから論外。あの吸血姫、いい感じに盤面を引っ掻き回してくれるのは嬉しいんだけれど、正直調子に乗りすぎなのよね。素直に百山櫻に倒されておけばいいものを。


結局、今の世界線に落ち着いたわけだけど、いい感じに百山櫻とクロの仲が進んでいるようでよかったわ。


あくまで私は傍観者。当事者でもあるけれど、基本的には介入しない方向で行きたいの。彼女達の、素の交流で築き上げた絆を、壊して、踏み躙って、私色に汚して染め上げて……絶望させてあげたいの。


さて、長々と話してしまったけれど、とにかく私は、貴女達が大好きで、だから、大規模進行において、重要となる怪人には、貴女達をモチーフとしたものを作っておきたかったの。貴女達のこれまでの戦闘データから、貴女達の魔法を組み込んで、ついでにいらなくなったクローンの残骸を適当に詰め込んで完成した怪人が、今櫻と戦っている怪人というわけよ。


そして、その怪人は、貴女達全員が揃わないと討伐できない。1人でも欠けてしまっては、討伐することができない。もし、1人死んでしまったら?


そう考えると、ゾクゾクするでしょう?


だから、私はこの怪人を用意したの。

1人1人の、命の重みを感じさせたい。




★☆ ★☆ ★☆ ★☆ ★☆




「つまり、なんだ。この世界は、お前が何度もやり直した後の世界だったってことか?」


「そうなるんじゃないかしら? といっても、これまでの道程は全て貴女達が掴んできたもので、それが嘘であるわけではないわ。別に、この話で貴女達が絶望するとは思っていないし、されたらされたで興醒めよ。私が真に味わいたいものは、そんなものじゃないもの」


「慰めのつもりか? まあ、確かに衝撃的な話ではあったが、今の私達には関係ない話だ。お前がなんで前線に出てきているかも、なんとなく理解した。要は私を足止めしたいんだろ? 今櫻達が戦っている怪人を倒させないために。結局やることは変わらない。ルサールカ、お前を叩き潰す」


来夏はルサールカの話に、特に動揺することなく、魔法少女として、彼女との戦闘を開始する。元より、ルサールカ自身掴みどころのない存在ではあった。だからこそ、来夏は彼女が何を隠していてもおかしくないとは考えていた。むしろ…。


(得体が知れた分、前よりもずっとやりやすい)


来夏は、ルサールカのことを、多少なりとも知ることができた。彼女の目的、行動原理、思考。それを知ることができたのならば、ルサールカはもう、“何をしでかすかわからない正体不明の強敵”などではない。ただの倒すべき敵だ。


「お前は時間稼ぎのつもりで私に話をしたんだろうが、私がお前の話を聞いたのも、私が時間稼ぎをするためだ」


来夏は、体中から、できる限り最小限の、かつ高質な魔力を一点に集約させる。


「ちょっと痺れるぞ…。『簡易必殺』雷槌・ミョルニル!!」


必殺の一撃。これを放つための時間稼ぎでもあった。しかし、完全な『雷槌・ミョルニル』を繰り出すだけの体力も魔力も、もう残っていない。故に、必殺技として機能するための最低限の魔力量を計算し、無駄な魔力を割かずに繰り出す『簡易必殺』としての『雷槌・ミョルニル』を用いたのだ。


これでルサールカを倒せるとは思っていない。だが、全くノーダメージということもないはずだと、来夏はそう確信して、なけなしの魔力をルサールカに叩き込んだ。が……。


「残念ね、昔の私なら、きっと貴女の今の攻撃で、死んでしまっていたんでしょうけど……。残念ながら、今回のループの私は、今までのどの世界線よりも強靭なの」


ルサールカには、来夏の必殺は通用しなかった。少しも、全然、これっぽっちも。


「なっ……」


「ふふっ。残念だわ。私はどうやら、強くなり過ぎてしまったようね……。それじゃ、さようなら、朝霧来夏」


「くっ……! そう簡単にやられるかよ!!」


来夏は全力でルサールカから距離を取ろうとする、だが、ルサールカは来夏を逃そうとはしない。


「援軍なら来ないわ。貴女の無線は、既に破壊させてもらってるもの」


「くっそ…………」


「これで最後なのよ。貴女も……私も、ね」

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