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Memory160

「んもー!!! ちょっとは手加減してよー!!!」


カナと光は、魔族であるミルキーと対峙していたが、彼女との戦闘は、概ねカナと光の勝利といっていいような状態だった。というのも、ミルキー自体の戦闘能力は通常の魔族を逸脱するようなものではなく、少なくともアストリッドや組織の幹部達と比べれば圧倒的に実力で劣るものだった。気をつけるべきは、その手に持つ魔封じの槍と、彼女の魔法である、“思考誘導”や“視線誘導”であったが、光の“反射”の前では全て無意味だった。


光の“反射”を破ったことがあるのは、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターのみであり、その魔法の精度は、魔族相手だろうと有効だということだ。


基本的に、カナは光の“反射”の適用範囲内に待機しつつ、安全地帯からラカの形見の弓を用いてミルキーを撃ち抜き続ければ、無傷で勝利を掴むことができる。


矢の消費についても、心配する必要はない。ラカの弓には、矢の自動回収機能が搭載されている。いや、ラカが最後に搭載していた、というのが正しいのかもしれない。ラカはカナに託すため、最後の最後に矢の自動回収機能の魔法を付与しておいたのだ。


「ひぃ! 矢の嵐だぁ〜! 助けてルールー!」


「助けがきたところで、るなの”反射“を破れるものなんていないわ。ふんっ、ざまぁないわね。るなのシロをいじめたこと、後悔させてあげるわ」


「ころしはしないから、あんしんしてほしい。でも、クロたちがぜんぶおわらせるまでは、おまえにじゆうにさせるわけにはいかない」


ミルキーとの戦闘は、完全勝利であり、仮に他の勢力が来たとしても、人質を取られない限りはカナ達の勝利は確実だろうと思われた。が……。


「本当なら、私が一番優越してるはずだったんだよ。それがさぁ……。どいつもこいつも、くだらない能力に、くだらない馴れ合いに……。虫唾が走るよね。ねぇカナ、そうは思わない? 親を裏切る子なんて、酷いよね……。あーあ。君達のせいで、私の人生台無しだ。どう責任を取ってくれるのかなぁ?」


容姿こそ異なる。だが、そのまとう雰囲気、話す口調。その全てに、カナは心当たりがあった。


「どう……して、おまえが…」


「櫻達と合流できて幸せですってか、ムカつく、ムカつくなぁ。あの時、クロとお前で相打ちしておけば、恨みあって、最後に絶望して死んでいけばよかったのに。本当にムカついて仕方がないよ」


「っ! ラカたちの……かたき!!!!」


「あっ、ちょっと! バカなの!?」


カナは勢いのまま、その場から飛び出していく。

憎き敵に復讐するため。

仲間の仇を討つために。


「なんでおまえが……おまえだけは……わたしがとめてやる!!!」


「あはは……あはははあははははっははあああああ!!!」


少女は狂ったように笑う。

その様子は、とても理性があるとは感じられなかった。

しかし、対峙するカナもまた、冷静さを欠いてしまっている。それゆえに、わざわざ光の“反射”の有効範囲外へまで飛び出てしまったのだ。


「“思考誘導”」


ミルキーも、そのチャンスを逃しはしなかった。

“反射”の有効範囲外へと出たカナに対して、すかさず“思考誘導”をかけ、カナを惑わせる。


「参ったわね……」


光としては、カナがどうなろうと知ったことではない。しかし、カナが欠けてしまえば、光からミルキー達への有効打はない。攻守共に満たすには、カナの手が必要なのだ。


怪人化寸前の少女は、順調にカナのことを追い詰める。

カナの方は、ミルキーの“思考誘導”によって、まともな戦況判断ができていない。


カナ自身でこの状況を覆すのは不可能だろう。そんなことは光にもわかっている。だが……。


(あの子はしろとの関係も薄いし、死んだところで……るなには関係ない)


光にとって、最優先はシロだ。それ以外は割とどうでもいい。だから、自分がどこの陣営につくのかも、自分が誰を助けるかも、その行動の全てはシロに帰属する。


だから、関係なんてないのだ。


「おまえ………だけは……ゆる……さない……!」


どれだけ目の前の少女が傷つけられようと。理不尽で、一方的にやられている者がいても。そんなことは、光には、関係ない。


確かに、カナが欠ければ、攻めの手段を失うことにはなるし、魔法少女側に死人を出さないという櫻達の目標も達成できなくなってしまう。しかし、そんなことはどうでもいい。


光は、シロさえ生きていればいいのだ。シロが生きて、尚且つこの戦いに勝つことができればそれでいい。だから、多少の犠牲は仕方ない。たとえそれが、自分の命を守るためだけのものであったとしても。


「あーもう!!!」


そう、どうでもいいはずなのだ。このまま見捨ててしまえばいい。そうすれば、少なくとも自身の身は危険に晒されることはない。だというのに。


「“反射”!!」


光は無理矢理、カナを自身の“反射”の有効範囲内へと迎え入れる。本来であれば“反射”の適用範囲外であるはずの場所まで無理に適用範囲へと含めてしまったため、光の身体には負担がかかる。


「鼻血……程度か……。前と同じ程度で済んだわね」


最悪死していたかもしれない。それほどの無理をしたのだが、幸いにも光の身体にかかった負担は軽微なものであった。


「とにかく、戦況を立て直すわよ。一旦冷静になって…」


ひとまず、カナの情緒を安定させようと、カナを“反射“の適用範囲内にいれつつ、話しかけるが、カナからの返事はない。いや、それどころか。


「ラカたちの……かたき!!」


カナは、冷静になるどころか、手に持った槍を、光に向け出したのだ。


「んなっ、何考えてっ」


「ごっめんねー。“思考誘導”は一定時間持続させられるからさぁ。“反射”を展開してても、それを無視することもできるんだよね〜」


”反射“を解除するわけにはいかない。そうすれば、ミルキーや怪人化寸前の少女の魔法をモロに喰らうことになってしまう。かといって、このまま“反射”を解除しなければ、カナの攻撃に対して“反射”を展開することができない。


逃げ回ろうにも、“反射”の適用範囲をいちいち設定し直さないといけない都合上、どうしても“反射”の再展開にはラグが生じてしまう。


(クッソ!!)


結果として、光はカナの攻撃を真正面から受け流すことにした。

構える。お世辞にも、光は運動ができる方ではない。だから、おそらく負傷はしてしまうだろう。しかし、“反射”を展開できるだけの体力を残しつつ、カナが正気に戻るのを待つしかない。


が…。


「おまえ、だけは!!」


初撃こそ避けたものの、カナの猛攻は止まらず、回避した光の方へすかさず方向転換し、その手に持つ槍で光の肩を突く。


「くっ……ああ!」


傷を負ったことにより、光に一瞬の隙が生まれる。

その隙を逃すカナではない。すかさず手に持つ武器を槍から、大斧へと変える。


(やば……これ、死……)


カナが光に対して大斧を振り翳す。光に避けるだけの余裕はなかった。


(クソ……結局こうなるんじゃない。なんで、なんでるなは、こいつのことを助けようだなんて……)


光は、いずれ来たる痛みから逃げたい思いから、その目を閉じる。


だが、いつまで経っても、その時は来なかった。


「一応、これでも私の僕となった子だからね」


目を開けると、そこにいたのは。


「吸血姫……」


カナの大斧を掴み取った、吸血鬼の女王、アストリッドだ。


「敗走はゴメンでね。だから、帰還する前に勝利の一つや二つは持ち帰ろうかなって思ったんだ。ちょうど、適当に転がせそうな魔族もいることだしね」


アストリッドの視線の先には、ミルキーの姿がある。どうやら、光達に協力してくれるようだ。


「例は言わないわよ」


「いらないよ。上に立つ者は細かいことは気にしないからね」


「……ごめん。おかしくなってた」


アストリッドの介入のタイミングで、カナも正気を取り戻す。


3対2。アストリッドが加わることにより、戦況は再び光達の優勢となった。


「嘘でしょも〜聞いてないよ吸血姫だなんて…。助けてルールー!」





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