表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/172

Memory158

朝霧来夏は、大規模侵攻に参加している魔族達を相手取る。その数は1や2では収まらず、到底1人で相手できる量だとは思えない。だが、それでも来夏が魔族に押し負けることはなかった。


「立派だな。たった1人で、この量の魔族を相手するとは」


魔族の中でも、一際冷静に立ち回っていた男が言う。


「1人の方が気楽なんだ。いちいち周りに目を向ける必要もないしな」


雷撃を浴びせ、魔族との戦闘を繰り広げながら来夏は話す。会話をしながらでも魔族の相手をできている様子を見るに、彼女には相当余裕があるように見える。


「大した実力だ。だが、1人では何もできまい。大規模侵攻の大多数を占めるのは、怪人だ。翔上市全体を覆い尽くすほどの怪人の群れを、少人数の魔法少女とその他戦力で凌げるとは思えん」


男は諦めろと、暗にそう告げる。こちらの優位は絶対に揺るがないと、そう確信しているような発言だった。そして、口にした男自身の目にも、どこか諦めのようなものが浮かんでいるように思えた。


「なんでいちいち無駄な会話を挟んでるんだ? 私の集中力でも削ぎたいのか?」


「……無駄な抵抗はやめればいいと告げているだけだ。降伏するなら、命までは取らん」


「降伏だって? ハッ、死んでもごめんだ」


来夏は手のひらに電撃を集める。

男との会話に、大真面目に取り組むつもりは、来夏には毛頭なかった。


「そちらの戦力は割れている。百山櫻とその一行。協力の可能性のある魔法少女や魔族の情報も押さえている。そちらに勝ち目はないと思うが?」


大規模侵攻に対抗する上で櫻達がぶち当たった課題は、圧倒的な戦力不足。いくら実力がトップレベルとはいえ、数の暴力には対応しきれず、街全体を守ることなど不可能。だからこそ、魔族の男は勝利を確信しているし、来夏がなぜここまで前向きに戦い続けるのか疑問にさえ思い、と同時に敬意を払った。だが……。


「さっきから、知ったような口聞きやがって」


来夏は電撃を集めつつ、魔族の攻撃を掻い潜りながら、言葉を紡ぐ。


「魔法少女ってのはな。全国にいるんだ。それも、テメェらじゃ把握しきれねぇほどにな」


瞬間、スピーカーによって強調されたかのような、大きな物音……いや、人の声が、辺りに響く。


『皆ー!! 街の住民の避難は完了したよ!! 怪我しない程度に、思う存分暴れちゃいな⭐︎』


その音声は、ここら一帯だけに響いた音ではない。

翔上市中、いや、他の市にも響き渡るよう、複数の箇所から鳴らされた音声だった。


声の主の名は、朝霧千夏。

来夏の妹で、魔法少女アイドルとして全国的に有名な人気者だ。


結局、櫻達は魔法省との交渉には失敗した。だが、魔法省の協力を取り付けられなかったからといって、他の魔法少女の協力を得られない、というわけではない。


「魔法少女は命懸け。そんなもんになるやつなんざ、よっぽど深い事情があるか、それだけ人のために動けるような勇気と度胸を持ったやつばっかだ」


親の反対や、距離的な関係で参加できなかった魔法少女も多いだろう。だが、それでもなお、大規模侵攻を止めるためにと、何の見返りも求めず、翔上市に駆けつけてくれた魔法少女も大量に存在した。


きっかけは、アイドルの朝霧千夏による、必死な呼びかけ。インフルエンサーでもある彼女の発信力はすさまじく、瞬く間に全国の魔法少女に大規模侵攻の話が届いた。


最初は半信半疑、しかし、数々の櫻達の戦闘記録や実際に組織の計画を一部知っていたと言うアルファやベータらの証言もあって、真実であると気づくものも多くいた。


そんな現状を見て、魔法省も認めざるを得なくなったのか、魔法少女達に救援の許可を出すまでに至った。


「誰かのために動ける奴がこんなにいるなんて、正直言ってびっくりした。皆、危険な現場にわざわざ駆けつけてくれてる。私が逃げるわけにはいかない。それに、私は決めたんだ」


来夏は足を止めることはない。動き回りながら、確実に自身の手のひらの雷撃の質量を大きくしていく。


「今回の大規模侵攻、誰1人として、死者を出さないって、なっ!」


来夏の手の中で、一つの大魔法が完成する。


「だから、手加減はしない!!」


彼女は、その大魔法の名を叫ぶ。


「雷槌・ミョルニル!!」


その必殺の名を。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「ねぇ、もう終わりなのー?」


紫色の綺麗な髪を持った少女は、ケラケラと高笑いしながら、相手を小馬鹿にしたかのように振る舞いながら、言う。


少女の周囲では、大量の魔族達が、咳き込んだり、喉を抑え苦しむようにして地面に倒れ込んでいた。


「ちょっとこの毒、効きすぎたかな〜?」


少女の名は、ユカリ。

毒の魔法を扱い、敵を翻弄する、人工の魔法少女だ。


彼女に敵う魔族はいなかった。誰も、毒への耐性を持てていなかったのだ。

いや、厳密には、彼女の開発した毒が、魔族にだけ効く、魔族特化の洗練された毒であったから、誰も対抗することができなかった、と言うのが正しいだろう。


「魔族の無力化、簡単な仕事だったな〜」


少女は手に持つ大鎌をくるくると回しながら、無邪気に笑う。

魔族にとっては、少女の姿は悪魔のように見えた。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「ったく、民間人の非難も、雑魚の魔法少女の救援も、全部やらないといけないなんて。ま、別に良いんだけど」


閃魅光は、少し気だるげそうにそう話しながら、淡々と怪人の処理を進める。


「やることは、みんなおなじ。クロたちは、そしきのアジトでたたかってくれてる。わたしたちも、それにこたえないと」


「できればるなもしろと一緒がよかったわ。なんて、言ってもしょうがないけど」


ここら一体は怪人がいないおかげか、比較的楽に処理が進んでいる。ある程度かたをつけたら、他の場所の救援に移ろうと、光もカナも、そう考えていたのだが……。


「やあやあ失礼お嬢さん方」


しかし、そうも楽には終わらせてくれないらしい。


「魔族、ね。ちょうど退屈してたのよ。るなのストレス発散に倒されてね」


「ゆだんはだめだから」


光とカナは、それぞれ臨戦体制へ。そんな様子を楽しげに見ながら、女は笑う。


「自己紹介をしよう。私の名はミルキー。キミ達はどんな声で鳴いてくれるのかなぁ?」





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「いやーほんま助かったわ。八重が急に櫻と一緒に行く言うから、指示役1人減って困ってたんよ」


七色の髪を持つ、関西弁のような口調が特徴の少女、照虎は、隣にいる少女にそう話しかける。


「いやいや〜。私も『Magic Book』がないとただの役立たずだからね〜。こういう場で活躍させてもらえるだけ、ありがたいさ」


答えるのは、限りなく最古に近い魔法少女を自称する、古鐘だ。彼女もまた、サポート役として、今回の大規模侵攻の作戦に参加していた。


「2人とも、作戦はもう始まってるんだ。雑談は後で」


双山魔衣は、真剣な表情で2人に支持をする。彼女は指示役兼、2人の護衛役だ。一応古鐘は戦えなくはないが、ほぼ戦力として見込めず、基本的に2人とも無力だ。そんな2人が、魔族や怪人に襲われては、ひとたまりもない。そんないざという時のために、2人の護衛ができる人材として、魔衣が選ばれた。


「そうやな。申し訳ないわ」


「作戦に戻ろうか」


ちなみに、護衛は魔衣だけではない。

櫻の兄、百山椿や、その盟友で魔族のドラゴ。龍宮メナの父親で元組織の幹部、ノーメドや、アスモデウス。そして、茜の肉体を借りたイフリートも護衛として滞在中だ。椿達は魔力を失ってこそいるが、それでも戦う意志は削がれていなかったらしい。他の魔族を相手するのに、魔力を扱えないのは致命的なので、護衛という形で落ち着いてもらった、というわけだ。


『あー、あー。地点A。えーガンマ隊。問題はない。適当に怪人狩ってていいかー?』


「せやな。周囲の怪人を適当に狩りながら、アルファとベータは地点Aで待機。ガンマは地点Cでクロコ達の加勢。問題がなさそうやったら地点D〜Gまで見回って、苦戦してる魔法少女がおらんか見回ってくれ」


『りょーかい! 怪人ぶっ潰しながらいっきまーす♪』


ガンマは心底楽しそうな声で話す。ある種緊張していないのは良いのかもしれないが、あまりにも楽観的すぎるのはどうなのだと照虎は思いつつも、口には出さない。


『えーと、こちら地点Bです。さ、佐藤笑深李です。あの、焔ちゃんが……』


『焔様のお通りだー!! 怪人だろうが魔族だろうが、どんときやがれー! 行くぞ2人とも! 魔族を倒せー!』


『うちらの焔が暴走してます。怪人だけ相手しろって話なのに魔族にちょっかいかけちゃってて……』


「えぇ…まじか」


思わず古鐘は呆れた声を出してしまうが、すぐに取り繕う。戦場では一分一秒が命取りになることもあるのだ。


「地点F、地点F。聞こえる? 地点B組が暴走しちゃったみたいなんで、そっちの戦力ちょいとわけてくれないかね?」


『全然おっけーっす。こっちはホークさんと死体人形で怪人魔族ともどもボコボコにしてて、ちょうど私が過剰戦力になっちゃってたんで』


古鐘の連絡に、メイド服の魔族、クロコが答える。

他の地点で起きたトラブルを、他の余裕がある地点のメンバーから、無線で協力を取り付ける。この連携によって、死者0で大規模侵攻を終わらせる。それが今回の目的だ。


「にしても、妙だね。やけに魔族の数が多い。こんなにも人間に敵対心を抱いてる魔族が多いとは……。2年前ならまだしも、今の時期にとなると……」






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






「鬼龍術・龍力爆発(ドラゴナイトボンバー)!!!」


マドシュターは、すべての魔族を薙ぎ払う。無傷で、一瞬のうちに、多数の魔族が倒れ伏す。


「な、何者なんだこいつは!??」


「ま、巻き込まれるぞ! 逃げろ!!」


魔族はマドシュターの強さに恐怖する。その誰もが、もはや戦うことを放棄しようとしていた。

格が違ったのだ。魔法少女マジカルドラゴンシュートスターは、トップ層の魔法少女と比較しても、その実力はトップ層よりも上と、誰が見ても言い張れるほどのものなのだから。彼女の実力を超えられる魔法少女は、他者と魂を融合させた櫻以外に存在しないのだ。


魔族達は逃げようとする。圧倒的な実力差の前に。

勝ち目がないとわかっている戦いに、挑む意味などないから。


だが……。


「あら、逃げちゃうの?」


魔族達が逃げることはなかった。勇敢だったから? 違う。逃げ場がないから? 違う。

彼らが逃げなかったのは。


「逃げても構わないわ。でも、逃げたらどうなるのか、わかっているわよね?」


恐怖していたからだ。

目の前の、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターよりも、深く。彼女のことを。


「お前は確か……ルンルンなんとかとかいう魔族か! 変な名前だな! スキップして跳ねてそうだ! ぴょんぴょん」


「あら、こんにちは。魔法少女マジカルドラゴンシュートスターさん。ごめんなさいね、戦いがいのない相手ばかりで。でも安心していいわ。無理にでも従わせるから」


そう、今回、大規模侵攻に参加している魔族は、人間に恨みがあったりするわけでも、侵略してやろうという野心があるわけでもない。一部、そういう輩は存在するかもしれないが、大多数は……。


「さあ、行きなさい。戦わなければ、貴方達の大切な者の命はないと思いなさい」


ルサールカに人質を取られ、無理にでも従わざるを得なくなった者達ばかりだ。

大多数が人質に取られた者なら、その者達で結託して、ルサールカに反抗すれば良いと思うかもしれない。だが……。


(あのルンルンなんとかとかいうやつ、以前より強くなってるな! しかも、ただ強くなっただけじゃない。何か……)


人数の差では埋められない、圧倒的な実力差。

マドシュターに相対して絶望したのと同じように、彼らはまた、ルサールカとの実力差に、反抗心を失ってしまったのだ。


そして、彼らにとって恐ろしいのは、マドシュターよりも、人質に取られた自身の大切な者達を殺されてしまうことだった、という、ただそれだけの話だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ