Memory156
先週攻撃があったみたいなので、ちょっと様子見で送らせて投稿しました。今後はちょっとずらして月曜投稿とかかもしれません。
突然倒れた櫻をベッドに運んだ後、来夏達と合流する。櫻が倒れた原因は、おそらくミリューが知っているであろうことは彼女の反応からも明らかだったため、ミリューから事情を聞くことにした。
ただ、大方予想はついている。
原因は、おそらく俺だろう。俺には前世があるし、その上、怪人強化剤によって体が怪人化してしまっている。
そんな、何者なのかもわからないような、不安定な存在の俺と、魂の融合をしたのだ。異常が起こったっておかしくはない。
「そんな深刻な顔をしなくても、原因は分かってますし、対処法は簡単なので、もう少しこう、顔を上げて話を聞いてください」
ミリューは説明する前に、わざわざそんなことを言う。それぐらい、皆櫻のことが心配なのだろう。彼女は人たらしだから、大抵の人は、櫻のことが好きだし、仲も良い。
「なら焦らさないで結論を言ってくれ。話を聞いてみないと、落ち着くもんも落ち着かないからな」
来夏がそう急かす。その表情からは、櫻のことが心配で仕方がないという思いがひしひしと伝わってくる。
「なら、結論から言いますと、櫻は先輩…クロと融合したせいでこうなりました。具体的に言うと、融合したことで櫻の魂の約2割がごっそり削れちゃったわけです。まあそんだけ魂削れたら、そりゃ倒れるよねって話です。2割なら日常生活は送れます。ただ、戦闘を行うのは難しいでしょうね。やり方はありますが。対処法は2度とクロと融合しないこと。それと、戦闘を行わないこと。これくらいです」
櫻はもう、戦えない…?
櫻の強さは、皆の支えだった。希望だった。櫻は、確かにその存在だけでも、他の皆に大きな影響を与えれる存在だ。けど、その戦闘能力だって、他の追随を許さないくらいずば抜けて高い。
それが、失われた。
俺のせいで。
俺と、融合したせいで。
ガバっと、いきなり胸ぐらを掴まれる。
「お前……お前の、せいか!!」
俺の胸ぐらを掴んだのは、人造の魔法少女、アルファだ。彼女は確か、櫻に助け出されて今ここにいるんだったか。俺に対して、憎しみの目を向けてきている。当然だ。俺が櫻の戦闘能力を奪ったんだから。
それだけじゃない。櫻の魂の2割を、俺が削ってしまったのだ。大切な人の魂を削られたのだ。魂と聞くと、実感が湧きにくいのかもしれないが、それでも、怒りを買って当然の事実だ。
「おいアルファ、クロに突っかかんなよ。クロが融合しなかったら、ミリューの対処はどうなってた? それに、融合したら櫻がこんなことになるなんて誰も分かってなかったろ」
俺の胸ぐらを掴む腕を、ガンマが横から掴む。
彼女は、アルファが俺を責めるのが気に食わないらしい。
「そもそも、そこのクロがいなければ、当初の作戦通り、茜がミリューの魂に干渉するはずだった。茜は以前にも櫻と融合しているが、その時は何も問題は起きなかった。そうだ、クロさえいなければ、作戦は何もかもうまく行っていたんだ!!」
その通りだ。アルファの言っていることは、何一つ間違ってない。
俺は……櫻達の邪魔者にしかなっていない。
肩を並べて戦うなんて、そんなこと言っておきながら…。
分かってる。いきなり、そんな都合よく振る舞えるはずないんだって。
「アルファ、それいじょうクロのことわるくいったら、ゆるさないから」
「……首、飛ばないと良いね」
アルファが俺を糾弾する様子を見てか、カナが俺とアルファの間に割って入り、さらにはユカリが、手に持つ大鎌をアルファの首元に向け、物騒なセリフを吐きながら警告する。
「ユカリ、カナ、良いから。アルファの言ってることは、全部事実だから」
「でも……」
「いいから。櫻がこうなったのは、全部私のせい」
「……別に、お姉ちゃんがいいなら、私はそれでいいけど」
カナは少し不服そうだが、ユカリは本当に俺が気にしていないのなら良いと思っているようだ。
……そうだ。事実なんだ。俺のせいで、櫻が倒れた。
櫻がもう、戦闘に介入できないのも、全部俺のせいだ。
だったら……。
「アルファ。認めるよ。全部私が悪い。だから、私は………櫻の分まで戦うよ。櫻の代わりなんて務まらないかもしれないけど、その穴埋めくらいはさせて欲しい」
もう、迷うのはやめたい。
櫻が、俺のことを認めてくれてるんだ。だったら俺は、そんな俺を否定したくはない。
……正直、メンタルにきてないわけじゃない。けど……それで折れてちゃ、いつまでも組織にいた頃のまんまだ。
「……覚悟決めてるところ悪いんだけど、別に櫻って絶対戦えないわけじゃないからね?」
「へ?」
その場の全員が、固まる。
「やり方はあるって言ったじゃないですか。そんな驚くことかなぁ……」
「ん“ん”っ“! 皆さん、一旦落ち着きましょう。仲間内で争っていても、何も生まれません。誰が悪いとかじゃないです。どうしても悪者を作りたいになら、それは組織に対して向けましょう。悪いのは全部組織なんですから」
ベータがこの場を収めるために、冷静になってそう言葉を紡ぐ。その一言に、全員納得し、ミリューの話に耳を傾ける。
「あー櫻が戦う方法? 簡単だよ。クロ以外と融合すれば良い。それだけ。誰か1人融合してもらうことにはなるけど、融合さえすればいくら戦っても問題ナッシングだよ。ちなむと、ぶっちゃけ他の子と魂融合してたらクロと融合しても魂削れたりはしないよ。魂が削れるっていうのは、相性が悪い魂同士が1対1で融合し合った後にしか生まれない現象だから。あともう一個対処法はあるけど……ま、こっちは使わないと思うから伏せとく」
ミリューの言葉に、一同は一旦ほっと胸を撫で下ろす。櫻の魂が削れたという事実に変わりはないし、そこの心配はあるだろうが、今一番皆が心配しているのは、最終決戦に向けて、櫻という主戦力が失われるということだったんだろう。
魂が2割削れたというのは衝撃的だったが、それは後からでも考えれば良いと思っているのかもしれない。
「別に、櫻の魂が削れたという事実に変わりはない。だから……負けるのは許さない」
アルファがそう、耳打ちしてくる。
分かってる。負けてたまるか。もう、これ以上。
組織に屈服なんてしてやりたくない。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「く………そ………」
「迂闊ねぇ。どうして1人で出歩いたりしたのかしら? ミルキーから聞かなかったの? このボタンは、私も持ってるんだってこと」
そう言いながらボタンを掲げる女の名は、ルサールカ。組織の、最後の幹部だ。
対して、地面にうずくまり、苦しそうにしている少女の名は、クロ。
元組織の魔法少女で、今からその組織を潰そうとして行動を起こしていたはずの、そんな少女だった。
ルサールカはクロの身体を制御するボタンを持って、単独行動をしていたそれを捕捉し、使用した。結果が、この状況だ。
「最終決戦のつもり、だったんでしょう? いいわ。最終決戦に相応しい舞台を用意してあげるわ」
「な……にを……」
「これは、百山櫻の物語。普通に過ごしていた少女が、突然不思議な魔法の力を手に入れて、正義の魔法少女として活躍する物語。私は、そんな風に錯覚するくらい、百山櫻は、まるで主人公の女の子みたいだと思ったわ」
「さくらは………そんなんじゃ……ない……。さく……らは……」
「でも、物語には、終わりが訪れるものよ。どんなものでも、ね。だからこそ、ラストに相応しい、それ相応の展開が必要になるわ。だから、私は考えたの。ラスボスが必要じゃないかしらって」
「な……にを……」
「クロ。貴女には、ラスボスになってもらうわ。最後の怪人が自身と同じ魔法少女だなんて、中々粋な計らいだとは思わないかしら? そう。貴女を殺して、百山櫻の物語は終わりを告げるの。物語の役目を終えたら、百山櫻は主人公ではなくなるわ。だから、百山櫻が主人公のままである限りは、私は彼女に手を出さないわ。だって興味深いんだもの。でも、役目を失った役者には、退場してもらうわ。新しい物語に、不要な存在だもの」
ルサールカは、注射器を取り出す。怪人強化剤だ。これを打たれれば、クロはもう。
「労いの言葉くらいはあげるわ。今までありがとう。ゆっくりおやすみなさい」
ルサールカは、優しい手つきで、クロの腕に注射器を差し込む。
「……用事は済んだ?」
「ミルキー。貴女、負けたんじゃなかったの?」
「“思考誘導”を使って、うまいこと逃げればもーまんたいってね〜。んで、私もルールーと一緒に地上で暴れとけば良い感じ?」
「そうね、どうせ、私のアジトに行けるのは、ごく僅か。それに、アジトにはクロだけ置いておけば良いわ」
「櫻にクロを殺させてジ・エンドって感じだっけ?」
「そうよ。今まで手を血で染めなかった、清らかな女の子が、自分の友人をその手にかけて、深い絶望に苛まれる。それが、彼女の物語の終焉よ」
即落ち2コマ。
ルサールカは物語に例えて語ってるだけで、メタ視点でもなんでもないです。彼女はそういう愉しみ方をしてるだけなので。