Memory148
週末投稿忘れてました。申し訳ございません。
辰樹と『色欲』の実力は、互角。しかし、『色欲』には、切り札があった。
『魔壊』。男性に対してのみ有効で、対象の体内の魔力を完全に破壊し尽くし、2度と戦えない体にしてしまう、男殺しの奥義が。
「ふふっ!」
だからこそ、『色欲』は不敵に笑う。彼女の心には、常に余裕があった。
「“グランドポスト”」
辰樹は『色欲』の足場を破壊し、壊れた足場の欠片を『色欲』に向けてぶつける。
足場が崩れたことにより、体勢を崩してしまった『色欲』は、足場の破片への対処も加わったことにより、辰樹の次の攻撃に対して、対応し切ることができない。
その様子を見て、辰樹は勢いのままに、『色欲』を攻めるが……。
「甘いわよ!」
しかし、『色欲』はすでに体勢を取り戻しており、辰樹の攻撃を避け、そのままカウンターをお見舞いしていた。
「クソ……」
「魔王の力、使いこなせていないんじゃな〜い? まだまだひよっこみたいね」
「ああ、そうだな。俺は、貰い物の力すら、まともに扱えないのかもしれない。だから……言っただろ、利用できるもんは何でも利用してやるって」
辰樹は懐から『魔銃』を取り出し、その銃口を『色欲』に向けて放つ。
「こんな程度のもので…」
しかし、辰樹のそれはあくまでブラフ。本命は…。
「光!!!!」
「あんたに呼ばせる名前はないわよ!」
瞬間、銃声が鳴り響き、『色欲』の背中に対して大量の銃弾が打ち込まれる。
一発二発どころではなかった。何十発、何百発と『色欲』へと打ち込まれる。一発一発は大したことがなくても、束になればそれなりの威力にはなる。
「なっ………があ“あ”あ“! 何なのよこれ! 痛いわね……!」
『色欲』はとっさに振り返り、衝撃波で大量の銃弾を薙ぎ払う、が、ダメージは確実に負っていた。
「『魔銃・マシンガンモデル』ってやつよ。私だって、“反射”一本で戦っていけるとは思ってないわ」
「面倒ね……」
辰樹の戦闘能力は、魔王の置き土産によって底上げされている。それにより、『色欲』との戦闘を可能にしているわけだが、それだけにとらわれてしまえば、今回のように『魔銃』による攻撃を喰らってしまう。
辰樹の戦闘能力と、『魔銃』。いずれかを失わせれば、『色欲』はもっと優位に立ち回れたはずだ。だとすれば、次に『色欲』が取る行動は………。
「せっかくの戦闘だけれど、早めに終わらしてあげるわ!」
辰樹に『魔壊』を打ち込むこと。そうすれば、魔王の残した魔力は、辰樹から失われ、辰樹の戦闘能力はガタ落ちする。
「来い!」
辰樹は武器を構え、『色欲』に対して応戦する。
が、『色欲』は辰樹が武器を振るうのにも構わず、辰樹に急接近する。
「捉えたわ! もう終わりよ『魔壊』!!」
そして、辰樹に『魔壊』をお見舞いした。
『魔壊』を食らったものは、魔力を失わせ、2度と戦えない体へと変容させられてしまう。
「残念ね、せっかく力を授かったというのに」
「……そうだな。残念だよ。俺の力だけじゃ、倒しきれなさそうだったから」
しかし、辰樹は『魔壊』を食らってもなお、狼狽えることはなかった。
否、そもそも辰樹は、『魔壊』という攻撃を、受けていないのだから。
「な……に…体が、おかし……」
「上手く決まって良かったわ」
「どう………いう……」
「私の魔法は“反射”。相手の魔法を跳ね返すことができる。それを使って、貴女に『魔壊』を送り返してあげたのよ」
「そんなはず……ないわ……。『魔壊』が、私に効くはず……」
「言ったでしょ。“反射”一本でやれるとは思ってないって。私は”反射“に、”反転“の作用を加えたの。その魔法の性質を逆転させるっていうね」
そうなると、男に対する効果から、女に対する効果へと『魔壊』を“反転”させ、『色欲』に対して有効な攻撃手段にしてから、『色欲』に“反射”することにより、『色欲』は2度と魔力を扱えない体にされることになる。
「ま、厳密には“反転”も“反射”の応用の範囲内でしかないんだけどね」
辰樹と光対『色欲』の戦いは、光の“反射”魔法によって、辰樹達の勝利となった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「束ちゃん! お願い! 正気に戻って!」
櫻が必死に訴えかけるも、束は虚な目をしたまま、こちらを攻撃し続けるだけだった。
ミリューが何かしたのは明らかだ。が、具体的に何をどうされたのかがわからないせいで、対処のしようがない。とりあえず、シロが洗脳された時のように、一度戦闘不能に追い込んでから考えるしかないのかもしれない。
「………………」
…厄介なのは、束の周囲に存在する、死体人形だろう。こいつらがいるせいで、束の元に行きたくても辿り着けない。
死体人形を操っているのは束だ。だから、束さえ叩けば、死体人形も動きを止めるはず。
「櫻、“ブラックホール”で束の背後に回るから、その間、束と死体人形の意識をひいてて欲しい。いける?」
「わかった!」
“ブラックホール”経由なら、死体人形をフル無視して束の背後に回ることができる。今現状を打開するなら、この方法が一番良いだろう。辰樹達の方がどうなっているのか、今は状況を伺えるだけの余裕はない。そんなに距離こそ離れていないはずではあるが、それでも死体人形に囲まれているせいか、周囲の様子を伺うのが困難になっている。
「“ブラックホール”!!」
櫻が死体人形達の相手をしている間に、“ブラックホール”内に入り込んだ俺は、そのまま束の背後に“ホワイトホール”を出現させて、移動しようとする、が……。
「ガンマ…?」
俺の前に立ち塞がったのは、カナ達と同様に、人造の魔法少女であるガンマだった。
「…………」
ガンマは別に物静かな性格をしているわけではないが、俺の目の前にいるガンマは一言も発さず、目は虚で、まるで束が今そうなっている状況とそっくりだった。つまり、ガンマもミリューによって何かされたと解釈するのが正しいんだろう。やはり洗脳や支配の類だろうか。とにかく、ガンマも敵に回るというなら少々厄介だ。
ガンマは俺の戦闘データを学習しているらしく、“ブラックホール”や“ホワイトホール”は当然コピーされてるし、他の魔法だってある程度は使いこなせるはずだ。加えて、来夏の戦闘データも学習しているようなので、雷属性の魔法もある程度は扱えるはず……。
といっても、怪人強化剤を大量に摂取した今の俺なら、勝てない相手ではないはずだ。
俺は大鎌を手に持ち、ガンマと向き合う。ガンマの方は、何も武器を持たず、ただぼーっと俺を見つめているだけで、何もしてくる様子はない。
………無視しても良いのだろうか。
「向かってくる様子もない……。ならまあ、とりあえずは良いかな」
俺は束の背後に”ホワイトホール“を出現させる。
……ここまで来ても、ガンマは何もしてこないみたいだ。
「よし、行くか」
俺はそのまま“ホワイトホール”から束の背後へと出ていき、彼女の背中を『還元の大鎌』で攻撃する。
「……」
束は一言も発することはなく、そのまま地面へと倒れ込む。と同時に、死体人形達も、まるで地面へと溶けるようにして消えていく。
……不意打ちは成功した。けど、束どころか、ガンマの様子までおかしいと来た。だとすれば、他の皆も……。
「クロちゃん! 後ろ!!」
考え事をしていると、櫻がそう叫んだので、咄嗟に後ろを振り向く……が。
「あ……ぐっ……」
体中に電撃が走り、身動きが取れなくなってしまう。
段々と意識も朦朧としてきて、気絶する寸前で、俺は……。
虚な目をしながら俺に雷撃を浴びせた、来夏の姿を最後に見た。