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Memory14


(昨日は久しぶりに人と一緒にご飯を食べたな……悪くなかった)


心なしかいつもよりもぐっすり眠れた気がする。

ただ気になることが一つある。

何故爆弾のことを知っていたのか、だ。

組織の中に情報を漏らす人間がいたのだろうか。


クロが前まで住んでいた建物は組織の本拠地ではないので、シロが仮にこっそり潜入して調査をしたとしても、クロの爆弾についての情報を得られるはずがない。


(直接聞き出すしかないか……)


とりあえずは学校に行こう。

通学路が変わっているので、いつもよりも早めに家を出る。


ガチャっ


「あっ……」


ドアを開けると目の前には八重が突っ立っていた。どうやら先程から待ち伏せしていたようだ。いやインターホン押せよ。


「おはよう。折角だし、一緒に通わない?」





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★




八重からの誘いを断りきれなかったクロは、結局一緒に登校することにした。

元々押しに弱いのもあるが、何より聞きたかったこともある。


「爆弾のこと……どこで知ったの?」


直球で聞いてみる。きっと素直には返答せず、上手い具合にはぐらかされるだろう、とそう思っていたのだが、八重は案外すんなりと質問に答えてくれた。


「この前貴方が捕まった時、双山先生と来夏にお願いして、貴方の体を少し調べさせてもらったの。盗聴器とかあったら困るからっていうのが一番だったけど、貴方の体調とか、その辺も心配だったから」


どうして彼女はここまでクロのことを気にかけてくれるのだろうか。

失礼ではあるが、彼女は他人に興味を持つような人間には見えない。

考えたところで仕方がないのだが。


「ということは……もしかして先生と金髪も……」


「ええ。知っているわ。調査には来夏の雷属性の魔法と、先生の技術が必要だったから」


「そうなんだ。せっかく隠してたのに」


案外大丈夫なのだろうか。爆弾が作動していないところを見るに組織にはまだ爆弾のことが知られたことがバレていないのか。それとも爆弾のことをバラす程度なら許容範囲なのか。よくわからないが、今ここで生きているということは大丈夫なのだろう。


「貴方は私達のことを突き放して、いつ死んでも悲しまれないようにしたかったのかもしれないけど、きっと貴方が死んだら皆悲しむと思うわ。真白も、私も。それに束や来夏、櫻なんかもね。茜だって貴方に対して敵意を剥き出しにしてはいるけど、あの子は思い込みが激しいだけだし、恨んでいるからって本気で人に死んでほしいなんて思うような子じゃないから」


「でも……」


「でももだってもないでしょ。真白には言わなくても、せめて私くらいには頼りなさい。爆弾の件も、先生や来夏と相談して、なんとかするから」


(こんな………俺でも……)


助かっても、良いのだろうか。


「私はーーー貴方の味方だから」


そう言ってくれる彼女の声はとても優しくて、つい頼ってしまいそうになる。

けれど、


「その気持ちだけで嬉しい。ありがとう。ただ、私だけでなんとかしようと思う」


精神年齢的には彼女よりも上なのだ。縋るような真似はできればしたくはない。光属性の魔法の完全習得、それさえ為せればおそらく爆弾を無効化することが可能だろう。だからこそ自分の力でなんとかして見せる。とそうクロは意気込む。


「ふふっ、良かった」


「……? 何が?」


悪く言えば差し伸べた手を払い除けたにもかかわらず、八重は笑みを溢している。


「いいえ、死のうって思ってたわけじゃないんだって分かったから嬉しかっただけよ」


「そりゃ生きれるなら生きたいし……」


正直昨日までは、街を破壊してしまったことで、人の人生を滅茶苦茶にしてしまったことを考えたら、死んだ方がマシなんじゃないだろうかと思っていたが、


(こんなに気にかけてくれる子がいるんだったら……生きようって、思っても………いいよね)






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






「おいルサールカ! 不正しただろ!」


「してないわよ。貴方が下手すぎるだけよ、ゴブリン」


ルサールカと呼ばれたのは幹部の女で、ゴブリンと呼ばれた男はシロが組織を裏切った際、激怒してクロを殺すことを提案した幹部の男のことだ。


「2人して何をやっているんだ?」


そう言って歩いてくるのは幹部の男だ。

組織での仕事を終えたら、他の幹部が仕事もせず遊んでいたので呆れた顔をしている。ちなみに、注意をしてもどうせ聞かないので、もはや諦めている。


「魔法少女のボードゲームってとこかしら」


「そうか」


机の上には“火”、“水”などそれぞれの属性の文字が書かれた魔法少女をデフォルメ化したかのような小さな人形が置いてある。全て顔は同じだが、髪の色はそれぞれの属性に対応した色になっている。


「おいアスモデウス! あのクソロリをアパートに住ませたんだってな? なんでんなことしてんだ?」


「ユカリに余計なことを吹き込まれては困るからな。別居させることにした。それに、変に制御するよりも自由に動かせた方がいいと判断した」


「それにしたって自由にさせるだなんて、ちょっと甘すぎじゃない?」


「別に構わないだろう。爆弾がある限り、逆らうことはできない」


「へっ! んなこと言って、どうせあのクソロリも裏切るぜ。お前は甘いんだよ。俺は裏切りとか大っ嫌いだからな。本当はすぐにでもぶっ殺してやりてぇんだがよ。さっさと爆殺しちまえよ」


「そうカリカリするな。魔法少女はいずれ消したい存在ではあるが、まだその時じゃない。サンプルも必要なことだしな。時が来たらちゃんと殺してやる。それに今はまだルサールカもイフリートも納得していない。起爆の権利だって今パリカーが握っている。もし起爆させたいならパリカーに頼むんだな」


「そうねぇ。もう少し楽しませてほしいのだけれど……」


「大体、最初は白いクソロリと黒いクソロリで殺しあわせて楽しもうって話だったじゃねぇか。それが何だ? 魔法少女とは交戦しなくていい? むしろ協力しろ? 最初の約束とちげぇじゃねぇか」


「厄介な奴らがいるんだ。そいつらの処理がしたかったのでな。協力してでも潰すように言っておいたと言うだけのことだ」


「へっ。んなもん俺に頼めばいいだろ。パリカーとルサールカは忙しいかもしんねぇが、俺には何の仕事も与えられてねぇんだからよ。顔だけの幹部だ」


顔だけの幹部と言っているが、ゴブリン自身が仕事をしない男なため、自然とゴブリンに仕事が与えられなくなっただけなのだ。それを指摘しても逆ギレされるだけだろうから、特に言及はしないが。


「厄介ではあるが、わざわざお前が表に出る必要はない」


「まさかアスモデウス、お前あのクソロリに入れ込んでんのか? はっ! なるほどな! 道理で殺したがらないわけだ。厄介な組織って奴を理由に、あのクソロリを生かそうとしてんだろ!」


「そんなことは言ってないが」


アスモデウスと呼ばれている幹部の男は否定するが、それを無視してゴブリンはどんどんとヒートアップしていく。


「へっ。いいぜ。なら、しばらくは我慢しといてやる。けどな、その時が来たらーーー」


ーーーお前が殺せ。


そう言ってゴブリンは部屋から出ていく。言いたいことだけ言って去っていくのはこの男のよくやることだ。とにかく自分が気に食わないことがあればとことんそれを否定する。


「どうもあの男とは馬が合わないな……」


クロのことも最初は処分しようとしていたわけだが、アスモデウス、ルサールカ、パリカーの3人の反対によりそれは実現されることはなかった。それ以降、アスモデウスとゴブリンの仲は悪くなってしまった。元々性格的に合わないというのもあったが、クロの件で完全に仲違いしたのだ。ルサールカやパリカーはそんなことはなかったようだが。


「ねぇ」


物思いに耽っていると途中から会話に参加していなかった幹部の女、ルサールカに声をかけられる。


「貴方ロリコンだったの?」


「違うが」


不真面目な同僚に、今日も振り回される幹部の男だった。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





「何の用?」


「少し依頼を、と思いまして」


明かりがパソコンだけで薄暗く、床には何の資料なのか大量の紙が散らばっている部屋に魔法少女である朝霧千夏と、研究者であるDr.白川が立っていた。


「依頼ぃ? なんで私にそんなこと頼むんだよ」


「頼める相手が貴方しかいなかったんですよねぇ…」


はぁ? と千夏は声を上げる。組織に頼めばいいのにとそう思っているのだろう。しかし実際Dr.白川には簡単に依頼を受けてくれる相手がいない。幹部の男に研究素材を要望しても、他の幹部の女の研究が優先されるため、Dr.白川の要望はいつも後回しにされてしまうのだ。自身の娘を実験体として使ったのも、組織がいい素材を提供してくれなかったからだ。Dr.白川の娘には魔法少女としての能力が宿っていたため、いい実験材料になったのだろう。


「まぁいいか。で、頼み事っていうのは?」


「魔法少女の研究素材が欲しいんですよ。特に無属性、雷属性、心属性のものです」


「ふーん。それで?」


「貴方が連れてきてくれませんか? この3つの属性を持つ魔法少女なら誰でも構いません。必要であれば戦闘して無理矢理連れてきてもらってもいいですよ。大丈夫です。素体に悪いようにはしませんから。私もそこまで外道ではありませんからねぇ」


「はぁ。やっぱり男って気持ち悪いな。特にお前みたいな奴は」


千夏は嫌悪感を隠すこともなくDr.白川に向ける。

自分達魔法少女を研究材料としてしか見ていない異常者を目の前にすれば、そのような感情を抱くのも無理はないだろう。


「まあ強制はしませんよ。できるならやってほしいってだけですから。でもやっぱり残念ではありますねぇ…」


「いや、やってやるよ。流石に何もしてない魔法少女を研究材料としてお前に渡すのは癪に触るからやらないが、雷属性の使い手なら心当たりがある」


「おおっ! それはありがたいですねぇ……!」


「言っておくが私が契約しているのはあくまでお前が所属している組織であって、お前自身じゃない。連れて来れなくても文句言うなよ?」


「文句だなんてとんでもない! 私は依頼を受けてくれただけでも貴方に感謝していますからねぇ。できれば素材は確保してほしいところですが………」


「そうか。他に用件は?」


「特にありませんよ」


Dr.白川が答えると同時、千夏はこの陰気臭い部屋からそそくさと退出する。

いつまでもこの気持ち悪い男と話していたくなかったのもあるが、1番は少し気分が高揚していたからだ。なぜ高揚していたのか? それはーーー




「ハハッ! あのクソ姉を実験材料にできるなんて……最高だな…!」




ーーー嫌っている肉親に、最大限の嫌がらせができることになったからだ。

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