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Memory144

千夏の攻撃は、音を媒介にしたものだ。歌を歌ったり、単純に叫んだりして、音に魔法を乗せている。

手口走ってる。千夏の方も、俺との間に実力差があることくらい知ってるだろう。


俺と戦って、勝てないことだって分かりきってるはずだ。


「千夏、本当に止められると思ってるの? 勝てもしないのに」


「私1人じゃ、無理だろうな。だから、助っ人くらいは呼んでる」


そういえば、千夏の人脈は結構広いんだったか。組織に身を置いていた時期もあったし、そもそも魔法少女アイドルとして世間で大人気の千夏のことだ。たくさんの魔法少女から尊敬と憧れを抱かれているだろうし、そんな千夏に協力する者だって当然存在するだろう。


けど、どれだけ束になろうと、俺はもう普通の魔法少女の実力を、大量の怪人強化剤(ファントムグレーダー)によるドーピングによってとうに超えている。俺に対抗できる魔法少女なんて、実際には魔族との戦闘を経験している櫻達くらいなのだ。


なんなら、今の俺なら、単体で戦えば櫻にすら勝てる可能性すらあると言っていいだろう。そんな俺に、いくら助っ人を呼んだところで、勝てるはずもない。


しかし、無理もないか。千夏からしたら、そんなこと分かりもしないんだろう。実力が離れているからこそ、具体的にどれだけ差をつけられているのか、それを測ることができない。だから、数で押せば勝てると、そう勘違いしてしまうんだろう。


「さっさと終わらせよう。こんな茶番」


「酷い言い草だな。後悔するなよ。電撃音波(ライジングボイス)!!」


前情報通り、音による攻撃。雷属性の魔法だから、『動く水(スライム)』での回避は不可能。だけど、遠距離攻撃なら“ブラックホール”で全て無効だ。


「全部無駄だよ。こんなことに時間を割きたくないし、千夏をあまり痛い目には合わせたくない。大人しく、引け」


千夏に反撃の余地を与えないよう、魔法で牽制しつつ、強めの口調で千夏に警告する。


音で攻撃の時点で、千夏の攻撃は基本全て遠距離のものとなる。だが、遠距離の攻撃は全て“ブラックホール”で無効化することができるせいか、俺と千夏の相性は、千夏からすれば最悪なのだ。


大体元々、色々あるせいで負け越していることが多い俺だが、魔法自体は理不尽で強力なものを結構持っているのだ。大抵の魔法少女相手には負けはしない。実際勝てているかどうかは別として。


「傷つけたくないって言って、こんなとこで燻る、その程度の覚悟だっていうんなら、最初っから1人で突っ走るなって話だろ。どうしても大臣のところに行くっていうんなら、私のことをちゃんと倒してからいけ」


……仕方ない。助っ人とやらが来る前に、さっさと片をつけよう。千夏には悪いが、少々痛い目を見てもらう。


俺は千夏めがけて、大量の魔法をぶつける。量は無制限に、逃げ場を用意せず、ただ蹂躙するために。


「ごめん。でも、こうでもしないと……」


きっと千夏はまた、食い付いてくるだろう。


さて、さっさと魔法省の大臣のところに……。


友情魔法(マジカルパラノイア)!」

『雷臨!』

「一薙!」


友情魔法(マジカルパラノイア)……?」


まさか……。


「千夏ちゃん、連絡くれてありがとう。後は私達に任せて」


俺が千夏に向けて放った魔法は、全て1人の魔法少女によって薙ぎ払われてしまっていた。

いや、()()()1()()()


確かに、目の前にいるのは、櫻だ。だけど、その姿には少々の違和感がある。

綺麗な桃色の髪には、ところどころ黄に染まっているし、彼女の周囲にはバチバチと、まるで魔法がこぼれ出るかのように、電撃が飛び散っている。


まるで、雷属性の魔法でも発動させているかのようだ。極めつけに、どう考えても、彼女の気配には、何か別の者の存在を感じる。


具体的には、そう……。


「来夏…?」


朝霧来夏。今さっきまで俺が相手していた、千夏の姉で、雷属性の使い手の魔法少女。

もしかして、千夏が言っていた助っ人というのは、櫻と来夏のことだったのか。


それにしても、櫻のその姿は………。


「なんで来夏ちゃんと融合してることが分かったんだろう……。とにかく、クロちゃん。話は全部聞いた。魔法省の大臣を脅してでも、他の魔法少女との協力を取り付けさせるって。私は、クロちゃんが何を考えてるのかなんて、全然分かんない。でも、1人で抱え込まずに、私にも相談して欲しいの。私だけじゃない。皆にも……」


「悪いけど、櫻。この世界は、理想を掲げるだけで何とかなるほど、甘くできてない。汚い部分も、確かに存在するんだよ。大丈夫。櫻達は、手を汚さなくていいから。汚れ役は、私がやる」


櫻の純粋さを、馬鹿にしてるわけじゃない。櫻のその綺麗な志は、きっと必要なものだと思うから。でも、それだけじゃ、どうにもならないくらいに、この世界にはどうしようもない奴が多い。櫻がどれだけ心を通わせようとしても、それを拒否する奴は存在する。わかり合えない奴だって存在するんだ。だから……。


「そっか。分かった。今口で言っても、きっと伝わらないんだと思う。だから………()()()()()()()


「んな……」


目視することができないほどのスピードで俺に接近し、手に持つ『桜銘斬』を俺に向けて振るう櫻。俺が反応できたのは、本当にたまたまだった。


偶然、大鎌を前方に構えていたおかげで、すぐに櫻の攻撃を防ぐことができた。もちろん、正確に攻撃が来る位置がわかっていたわけじゃない。ほぼ反射的に、本能でたまたま腕を上げて、たまたま防ぐことができただけだった。


………いや、違う。


偶然なんかじゃない。櫻は……。


「ちゃんと防げたみたいだね」


俺が攻撃を防げるように誘導していたんだ。

俺への戦闘開始の合図と、俺と櫻の今の実力差を知らしめるための行動だろう。


これは……勝てない。


本能でわかる。今の、櫻には。櫻達には……。

逆立ちしたって、勝てっこない。


「悪いけど、本気で行くよ。……友情魔法(マジカルパラノイア)

『奥義!』

「桜!」

『雷!』

「斬!」


………無理だな……。

やっぱり俺じゃ……。


櫻の眩しさには、敵わない。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






「ごめんね、こんな無理矢理な手段を取っちゃって…」


「別に、同じ立場だったら、多分同じようにしてるだろうし、気にしてないよ。体が痺れて動かないのは不便だけど」


「ご、ごめん……」

『櫻、今なら多分、落ち着いて話せるだろ? 私じゃ、クロを説得するのは………無理だからな……櫻が話してやってくれ』

「うん。分かった」


「それは何? まるで櫻の中に来夏がいるみたいな……」


「あはは。私もよく分かってないんだけど……なんか、魂と魂の融合? みたいな」


よく分からないが、まあ要は合体してパワーアップ的なノリだろう。マドシュターちゃんみたいなものか。


「そんなことより。クロちゃん、どうして、魔法省の大臣を襲うなんてこと…」


「……そうでもしないと、多分大規模侵攻は止められないから。でも、絶対櫻達はそのやり方には賛成しない。だから1人で動いた。……大体そんな感じ」


「……別に、真っ向から否定なんて………するかもだけど、でも、相談くらいしてくれたっていいのに……。一緒に考えれば、良い方法が見つかるかもしれないでしょ?」


櫻と協力するのが一番だって、そう思いたい。でも、俺はもう……櫻の隣にいる資格なんてない。だから…。


「…ごめん」


「……一旦、皆と合流して、ゆっくり話そう? 私は別に、クロちゃんと争いたいわけじゃないから」


櫻が手を差し伸べてくる。その手を、取りたいとも思う。でも、俺は一度、その手を振り払ったんだ。今更、元通りになんて、無理だ。だから……。


「悪いが貰って行くぞ」


「貴方は……」


「魔王……」


魔王が俺の手を取り、櫻の元から引き離す。


「あ、待って!」


「しつこい女は嫌われる、だったか? 求められてもいないのに、引き止めようとするのは、しつこい女だと思うぞ」


「っ……」


櫻は魔王の言葉を受け、それ以上俺を追おうとはしなかった。

・『ライジングブロッサム』


櫻と来夏の魂が融合した姿。『奥義・桜雷斬』は、辺りに強力な電撃を撒き散らしながら、周囲を薙ぎ払う一撃で、食らったものは、一時的に体の自由が電撃により奪われる。やろうと思えば、『桜雷斬』を食らったものの身体を強制的にコントロールすることすら可能。






ちなみに茜はこの間に元の身体に戻されました。来夏は途中で拾ったみたいです。櫻が他の魔法少女と融合する流れができてます。さて次は誰と融合するのやら……。

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