Memory138
触手の少女が触手を扱い、櫻の腕を拘束。そこに『色欲』がたたみかけるように攻撃し、ミリューが去夏と古鐘に牽制をしながら、櫻が万が一触手から脱出した時に備えておく。
この布陣によって、櫻は触手の少女にも、『色欲』にも、ミリューにも、手を出すことができない。ただただ一方的にやられるだけだ。
「あまり時間をかけてしまうと、反撃が怖いからね。はやく殺さないと」
ミリューは櫻が妙なことをしでかさないように観察しつつ、周囲を警戒しておく。
「ほらほらどうしたの? 反撃しないと……死ぬわよ?」
『色欲』は容赦なく、櫻の腹部に膝蹴りを続ける。触手の少女も、櫻を拘束するだけにはとどまらず、自身の触手で、櫻の首を締め付ける。
「あ……いき……が……」
「さっさと諦めて死んでよ。私の触手だってタダで動いてるわけじゃないんだから」
櫻に抵抗はできない。それだけ触手の拘束力は強力なのだ。触手を束にすれば、コンクリートも鋼鉄も、その全てを貫くことができるだろう。それだけの力を、櫻は自身の魔力を全て防衛へと回すことでなんとか耐えている。
「見てられるかっ!」
「させないよ」
その光景に耐えきられず、去夏が櫻を助けようと動くも、ミリューの魔法によって、牽制されてしまう。
「ミリュー様、さっさと殺しませんか? その無能達を生かしておくメリットがあるようには思えないです」
「分かってないなぁ。こういうのが一番楽しいのに。まあそうだね、そろそろ決着をつけようか」
ミリューは『色欲』を押し除け、触手によって拘束されている櫻の前に出る。
「念の為……魂融合………と。ああ、首周りの触手は退けてあげなよ。最後に話をしたいからさ」
言われた通りに、触手の少女は櫻の首を締め上げていた首周りの触手の拘束を緩める。
「けほ……けほ………。はぁ………はぁ……。どうして、貴方は、こんなこと……するの…?」
「どうして? 楽しいからだけど? そうだなぁ………君にもわかりやすく言うなら、私は全部自分の思うがままにしたいんだよ。思う通りに、人を動かしたいんだよね。従わないやつ、嫌い。わかる?」
「だからって、こんなやり方…!」
「もう一つ言うとしたら、私は別に人を人として見てない。私以外の人間は、皆私を楽しませるための人形に過ぎないって、そう思ってるから。だから、私を楽しませてくれない人形はいらないってこと」
ミリューはナイフを取り出し、櫻の喉元に向ける。ナイフといっても、ただのナイフではない。魔力によって強化され、刃物としての機能を保持しつつも、周囲に炎を纏ったナイフだ。炎といっても、魔力によって作り出された炎であるため、止血はされない。
「それは……」
「気づいたかな? 茜の魔法だよ。君は、今からお友達の魔法に殺されるんだ。仲間の手で死ねるんだ、よかったね」
「なんで、茜ちゃんの魔法を…」
「茜の魂を私が取ったことを忘れたのかな? 残念だけど、私に取られた魂は皆私の所有物になるんだ。意思がないわけじゃないけど、所有者たる私の意思には逆らえないんだ。あ、ちなみに、魂融合って言ったでしょ? これは、魂を融合させる術でね。普段は魂達は私の深層意識で現実世界の情報をたたれた状態なんだけど、私の魂と融合すると、外界の情報に触れれるようになるんだ。つまり、私が今見聞きしている情報の全てを受け取ることができるってこと。まあ、何が言いたいかって言うとね………………茜は、今から味わうんだよ。大切な友達を手にかけるって経験を、さ」
ケラケラと、ミリューは楽しそうに笑う。自身の手のひらで人を思い通りに操ることに、快感を得ているのだ。だからこそ、どこまでも非情で、どこまでも自己中で。絶対に櫻達とは分かり合えない、そんな人間なのだ。手を取り合う余地など、一切ない。話し合いは、通じない。
「残念だけど、貴方に茜ちゃんのことは任せられない」
「そうかい。でもそれを決めるのは、君でも茜でもないんだ。魂の所有権は、私にあるんだから」
「茜ちゃん、聞こえてる? 私の声」
「問いかけなくたって聞こえてるだろうね。ま、だからどうしたって話なんだけど」
「そっか。だったら…………私も同じようにやるしかないみたい」
「?」
「魂融合……茜ちゃん、私のところに来て!!」
ミリューの魂から、何かが抜け落ちる。いや、何か、ではない。決まっている。
茜の魂だ。
「今すぐ櫻から離れろ! 巻き込まれる!」
ミリューは咄嗟に触手の少女に呼びかける。少女は何が起こっているのか、理解はしていなかったが、ミリューの言う通り、すぐにその場から距離を取る。
櫻の体が、爆炎に包まれる。
「魂融合ってやつ、そう簡単にできるものなの?」
「そんなはずない……! 転生者でもなければ、最初から魂に関する魔法を扱えるというわけでもないはずなのに……。ふざけるなよ……そんな、許されてたまるか……! そんな横暴!!」
少しずつ、櫻の体を包み込んでいた炎の勢いが弱まっていく……。
『な、何これ!? どうなってるの!?』
「私にもよくわからないけど……なんだろう……すごい力が湧いてくる」
櫻の容姿は、先程とは少し異なっていた。
綺麗な桃色の髪には、ところどころ茜の髪色を思わせる赤色のメッシュが入っており、『色欲』に暴行され、ボロボロになっていた衣装は完璧に修復されるどころか、ところどころ金色の刺繍が加えられ、櫻の体からは、まるで魔力を体内に収め込むことができないとばかりに、魔力によって形成された炎が関節などから噴き出るように存在していた。
「茜ちゃん、多分、一緒に戦えるみたい。行くよ! 一緒に!」
『イフリートみたいな状態なのかしら? これ……って、今はそんな場合じゃないわね! 行くわよ櫻!』
櫻と茜の魂が、融合したのだ。それにより、櫻の魔力は何倍にも膨れ上がる。
「何が起こったのかわからないけど、無能が無能にくっついただけ……! どうせ私の触手の前には!」
櫻に、大量の触手が襲い掛かろうとする。
「召喚!」
『桜!』
「銘!」
『斬!』
「友情魔法!」
『炎舞!』
「一掃!」
櫻は、薙ぎ払うように『桜銘斬』を振り回し、文字通り触手を一掃する。
櫻を襲った無数の触手は、一瞬のうちにして、塵へと化した。
しかし、触手の真の能力は、その強靭さではなく、無限の再生能力にある。触手の切断自体は、クロにもできるのだから。
「何してる!? さっさと殺せ! クソっ……! これだから嫌なんだ……! この手のやつは……私に勝利の味を噛み締める時間すらくれやしない!」
ミリューが叫ぶと同時、『色欲』が櫻へと飛び掛かる。『色欲』に合わせるように、触手の少女もまた、自身の触手を数本再生させ、櫻へ向ける。
「3対1……いえ、3対2かしら? いずれにせよ、状況はこちらが優勢よ!」
「触手が…!」
『櫻! 触手の方は任せて!』
櫻は櫻銘斬によって、『色欲』の相手をする。触手やミリューからの援護射撃は、全て…。
『バーニング・ボム!!』
茜が対処してくれる。だからこそ、櫻はただ、目の前の敵に集中するだけでいい。
「互角……? いえ……まさか………」
「今すぐ攻撃をやめて、降参して。そしたら、命まで取るつもりはないから」
「アハハ………アッハハ!! 駄目だわ! 押されちゃう! 私より強い! 強いわぁっ!」
『色欲』は戦闘する相手の性別が女性かつ複数であれば戦闘力が上昇する。加えて、マドシュターのような、2人で一つ! な魔法少女については、通常の数倍に戦闘力が跳ね上がるという特性も持ち合わせているのだが、それでも……。
「負けちゃう! やばーい! アハハ! でも、でも、降参なんてしないわぁ! 殺す気で来なさい!」
「やっぱり、力づくでやるしか……ないのかな……」
『櫻! 触手の数が増えてきてる! 再生してるみたいよ!』
「茜ちゃん、一気に決めるよ」
『わかったわ!』
櫻は『色欲』が攻撃してくるタイミングでカウンターをかまし、カウンターを食らったことで『色欲』が隙を見せたその一瞬のうちに後方へ大きく下がり、距離を取る。
「友情魔法!」
『奥義!』
「桜!」
『炎!』
「斬!」
炎の斬撃が、触手を、『色欲』を、ミリューを、薙ぎ払う。
「なっ……触手が、再生しない!? 私の、私の触手が……! 破壊されたっ……そ、んな……」
「魔力の流れが断ち切られた……? アハハ! これじゃ魔力が使えないじゃない!」
「もう一度、言う」
『ひれ伏しなさい!』
「お願いだから」
『これ以上抵抗しないことね! 大人しく……』
「降伏して!」『降伏しなさい!』
◎マジカレイドピンク・サードフォーム
マジカレイドピンク・百山櫻と、彼女と絆が深い魔法少女の魂が融合することで変身することができる姿。絆が深ければ深いほど、その強さは通常の数百倍、数千倍にも及ぶ。繰り出す魔法は全て『友情魔法』となり、繰り出す魔法には櫻の『無』の属性に加えて彼女と融合している魔法少女の属性も追加された状態になる。
・『バーニングブロッサム』
櫻と茜の魂が融合した姿。櫻の髪色に茜の髪色が混じり、ところどころ身体から漏れ出るような炎が出ている。『奥義・桜炎斬』は全ての魔力を焼き尽くす、滅魔の炎であり、奥義を食らったものは、数時間一切の魔力の行使が封じられる。