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Memory137

死んだ、のか。

俺は確か怪人強化剤(ファントムグレーダー)を腕に刺して、それで……。


そっか。もう、終わったのか。

もう、何も考えなくていいんだ。もう、苦しまなくてもいいんだ。


そう思い、俺はゆっくり目を閉じ……。


「まだ、こっちに来るな」


聞き馴染みのある声が、俺の耳に響く。この声の主は…。


「愛…?」


「まだ、君にはやるべきことがあるはずだろ? ミリューも生きてる。大規模侵攻だって、まだ止める手段は見つかってない。ミリューどころか、その部下だってまだ動いてる。シロのことだって……」


「無理だ。どうせ、どれだけ頑張ったって、無駄なんだよ。俺がどれだけ頑張っても、愛のことは助けられなかった……。雪のことを助けようとしたら、今度は愛が……!」


「1人で戦うなよ。周りをもっと見ればいい。君が前に僕にやってくれたみたいに、君も、櫻達を頼ればいい。釣り合わないとか、そんなこと考えなくていいんだ」


「でも、でも…!」


「うるさい! 黙れ! 人に偉そうに物言うだけ言っておいて! 人の言うことを聞く気は微塵もないのかよ! 身勝手だな! 昔からそうだった! 人と積極的に関わろうともしないで、全部自分でどうにかしようとして! そんなだから! そんなんだったから! 僕はどうしても気にせずにはいられなかったんだ!」


愛は俺の襟首を掴んで、必死の形相で、訴えかけるように告げる。


「償いなんて、全部終わってからやればいい。今は、櫻達と協力して、共に戦う方を優先するべきだ」


「愛……」


「分かったら、さっさと戻れこの馬鹿! いいか? これは僕の呪いだ。ここで諦めて死ぬくらいなら、僕が呪ってでも、君を起こさせてやる」


そうだ。まだ、何も終わってない。

俺は、結局自分のことしか考えてなかったんだ。すぐに、諦めて、すぐに、投げ出そうとして。


そうだ。櫻達と比べて、俺なんてちっぽけだった。

でも、それでも、いや、だからこそ…。


最後まで、精一杯足掻かないと。


「ありがとう、愛。そろそろ行くよ」


死ぬのは、全部終わらせてからだ。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






アスモデウスは、『色欲』の攻撃をもろともせず、むしろ、逆にアスモデウスの方が『色欲』に攻撃し、ダメージを与え続けていた。


「どうして私の攻撃が、全然通らないのかしらね…!」


『色欲』の特性は、相手の性別によって、強さが変動するというもので、相手が女性であれば、『色欲』の戦闘力は飛躍的に上がり、逆に相手が男性であれば、『色欲』の戦闘力は低下する、というものだ。


しかし、それにしても、いくら『色欲』の戦闘力が下がると言っても、それでも他の7つの大罪と同じレベルの戦闘力は持ち合わせているし、ここまで実力差が開くことなどない、と、『色欲』はそう考える。


答えは明確だ。


「俺の遺伝子を使って造られたお前が、俺に勝てるわけがないだろう」


偽物は、本物には勝てない。


アスモデウスは、次々に攻撃を繰り出し、『色欲』を追い詰めていく。


「っ! 『魔壊』!」


「それは俺には効かんと言っただろう」


アスモデウスは、『色欲』を壁に叩きつける。


「ぐっ!」


「終わり、だな。ミリューの居場所を教えてもらおうか」


アスモデウスは、『色欲』を戦闘不能に追い込んでから、拷問をしてでもミリューの場所を聞き出そうと、拳を振り上げる。が……。


アスモデウスの拳が、『色欲』に振り下ろされることはなかった。


「残念。有能でも、味方が無能だとこうなってしまうなんて。現実って非常だね」


アスモデウスの腕は、触手を扱う少女によって拘束されてしまっていた。


「……新手か……」


ただ、アスモデウスは冷静に、触手の少女から片付けようと、標的を『色欲』から職種の少女へと変え…。


「やあやあ、元幹部のアスモデウスさん。わざわざ私のことなんて探さなくても、こちらから出向いてあげに来たよ」


アスモデウスの腹を、突然背後に現れた、ミリューが、その手に持った剣によって、貫いた。


アスモデウスの体が、前へ倒れ込む。放っておけば、勝手に死んでいくだろう。それくらい深い傷だった。

もはや、この場において、ミリュー達に対抗できるものなんていない。


「さて、誰から殺そうか。先にあの2人を戦闘不能にさせてからの方がいいかな?」


ミリューの標的は、未だこの場から逃げることができずにいた、古鐘と去夏へと移る。


「『色欲』は私の触手で回復させておきました。とりあえず、体力は全快。不安要素はありません。無能()の報告によれば、クロについては“誓約魔法”によって私達との交戦は不可能に。百山櫻や朝霧来夏以外の、脅威になりそうな魔法少女はアンプタが処理しました。なんなら、朝霧来夏についても、怪人強化剤(ファントムグレーダー)を使って怪人化したクロと交戦しているので、後は百山櫻さえ処理してしまえば、残りはルサールカだけです」


「報告ありがとう。まあ、正直、まだ魔王とやらが彷徨いてるのが気になるところだけど……。ま、ルサールカと手を組まれたりしない限りは、私達の脅威になり得ることはないと見ていいかな。あーそうそう。アストリッドはちゃんと処分できてるのかな?」


「無能に任せているので、詳細は分かりません。もしかしたら、失敗しているかもしれませんね。まあいいでしょう。あの男は、魔法省の無能な大臣の秘書なんてしていたものですから、失敗は初めから予想していましたし」


「うーん。まだまだ不安要素残っちゃってるなぁ。アストリッドは目的のためなら櫻達と組んでもおかしくはないと思うんだよね。……あーでもやっぱ大丈夫だ」


「?」


「来てる。櫻が。単身で、ここに、ね」


ミリューがそう呟いてすぐに、物凄いスピードで、櫻がこの場にやってくる。


「ごめん、古鐘ちゃん、状況を教えて」


「見ての通りだよ。状況は絶望的。椿君達はもう魔力を扱えない。いくらこの場を切り抜けたとしても……」


「わかった。古鐘ちゃん達は、倒れてる人たちを連れて逃げて。あいつらは、私が相手する」


櫻は、ミリュー達の前に立ちはだかる。敵うわけがない。それでも、櫻は諦めなかった。


「油断はしないでよ。相手はあの百山櫻だ。どんな奇跡を起こしたっておかしくない。だから私は、本気で君を潰すことにするよ」


3対1の時点で、櫻に勝ち目がないことは明白だ。そもそもそれぞれの実力的に、櫻が1対1で戦ったとしても勝てるかどうかわからないスペックをしているのだ。『色欲』については魔法少女マジカルドラゴンシュートスターを打ち破っている。その時点で、少なくとも櫻は『色欲』には勝てない。それでも…。


「妙なことをする前に、できれば諦めて自害して欲しいんだけど、駄目かな?」


「そう言ってるってことは、まだ私にも勝てる可能性があるって、そう言いたいの? もし、少しでも勝てる可能性があるなら、私はそれに賭けたい」


ほとんど確率なんてない。なんなら、0%だと言い切ってもいい。それでも、櫻は立ちはだかってくる。

それが、恐ろしいのだ。絶対にないと思っていても、櫻ならもしかしたらひっくり返してくるんじゃないか、そんな気がしてならないのだ。


だからこそ、ミリューも容赦はしない。


魂融合(ソウル・リ・ユナイト)


本気で、櫻を潰しに行く。


たとえ、過剰戦力だと言われたとしても。


それでも、ミリューは慎重に、櫻を確実に殺すために、全力で挑む。


「櫻は無能ではない。有能だ。だから、油断はしないように」


「分かりました。ミリュー様がそう言うなら、相手は厄介な敵、と認識しておきます」


「そうね。油断は禁物、全力で潰しにかからないと、ね?」



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