表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/172

Memory135

ノーメドと『色欲』の戦闘が始まる。周囲には、『色欲』に敗れて倒れ込んでいる、椿達や美鈴達の姿があった。


「彼を囮にして逃げよう」


その様子を見て、古鐘はある提案をする。


「確かに、この状況じゃ私達に勝ち目はない。逃げるのはあまり好きじゃないが……」


「私は少女2人を運ぶ。君は椿君達を頼む」


去夏と古鐘は、手分けして椿達の回収を行い、撤退の準備を進める。


「『Magic Book』3ページ 属性・無 “無重力”」


古鐘は『Magic Book』を使い、美鈴とメナの体重を無にし、回収を行う。


「よし! このまま撤退して…」


「逃すと思う?」


しかし、撤退しようとした古鐘達の目の前に、既に『色欲』は立っていた。見ると、どうやらノーメドは『色欲』に敗れてしまったらしい。実際、椿やドラゴ達も一瞬で倒されてしまっているのだ。やはり、男では『色欲』の“魔壊”に対抗する術がないらしく、戦闘能力以前に“魔壊”を突破できずに終わってしまうらしい。


「櫻が来るまでまだ少しかかりそうだね。さて、どうするか……」


古鐘は考える。どうすればこの場を切り抜けられるのか。『Magic Book』は戦闘でそのほとんどを消費し、撤退に使えそうなものはほとんど残っていない。去夏も、先程の戦闘で消耗しており、足止めするにもスタミナ的に限界だ。


「詰み、か………」


古鐘達が諦めかけていた、その時。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「は?」


『色欲』は空中で舞いながらも、華麗に地面へと着地し、ダメージを食らわないようにする。彼女が自身に攻撃を加えようとしたものの面を拝もうと、周囲を見渡すと。


「あら? そういえば、脱走したんだったわね」


「“魔壊”だったか? 残念だが、それは俺には効かない」


組織の幹部、アスモデウスの姿がそこにはあった。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





“怪物”が、暴れ回る。


「刻!」


「がっ、クソ……こいつっ……!」


“怪物”は、まず意識が覚醒してから目に入った鮫島刻の首元を掴み、そのまま押し倒して締め上げることにした。止めに入った吸血鬼の男を膨大な魔力の圧力で跳ね返し、ただ目の前の男を殺すために、自身の手に目一杯力を込める。


「お……い、たすけ……ろ!……」


鮫島は触手使いの少女に助けを求めるが、触手使いの少女はそれに応じる気がないらしく。


「だから殺したらよかったって言ったのに。ほんとに無能。知ってる? 能ある敵よりも、無能な味方の方がよっぽど厄介って話。だから、無能な貴方にはここで死んでもらうことにしたわ。悪く思わないでね」


そう言って、鮫島達を放置し、この場から立ち去ってしまう。


吸血鬼の男は、鮫島を助けようと、何度も“怪物”に攻撃を加え続ける。

しばらくして、流石に吸血鬼の男の存在を無視できなくなったのか、“怪物”は鮫島の首を絞めていた手をはなし、吸血鬼の男の方へと標的を変える。


「かっ………はぁ……はぁ……クソが………調子に乗りやがって」


“怪物”はただただ無機質に、吸血鬼の男を攻め始める。恐ろしいのは、無詠唱で武器を召喚し、それを用いて戦闘を行っている部分だろう。言うなれば、”怪物“は、”最低限知性を持った怪人“と化しているのだ。だからこそ、頭を使って戦闘を仕掛けてくる。しかも、痛みに鈍感なのか、攻撃を加えても全く怯む様子を見せていない。


いくら傷つこうとも、それを気にすることもなく、ただひたすらに突撃してくる。


「刻! 加勢を!」


「うるせぇ! テメェはそこで足止めしてろ!!」


鮫島は吸血鬼の男を囮にして、その場から逃げ出そうとする。


吸血鬼の男は鮫島の加勢を諦め、“怪物”との戦闘に打ち勝つことに賭ける、が。

“怪物”にとって致命的になるであろう攻撃を加える瞬間に、“怪物”はその肉体の一部を液状化し、男の攻撃を完全無効化しながら逆に攻撃を加えてくるのだ。


持久戦でも、短期決戦でも、男よりも“怪物”の方が優勢であることは明白だった。


「シ……」


吸血鬼の男の体に、切り傷が刻まれていく。


「あ、がっ………刻、たすけ……」


「シ…………」


念入りに、“怪物”は吸血鬼の男の体を切り刻んでいく。生き返らないように、念入りに殺し切らないと、と、吸血鬼の男には、“怪物”がそう言っているように思えた。


やがて、吸血鬼の男はピタリとも動かなくなる。


次の標的は、刻だ。


刻と“怪物”の間には、かなりの距離がある。走っても“怪物”には刻の元に辿り着くことはないだろう。

だからこそ、刻は吸血鬼の男を囮にして逃げるのは英断であったと、そう安堵していた。だが。


刻の目の前に、“ホワイトホール”が現れる。


「あ……」


“ホワイトホール”から、大鎌を持った“怪物”が現れる。

刻はすぐに、“怪物”に背を向け、逃げようとするが……。


「あぐっ……!」


足を切られ、その場に倒れ込んでしまう。“怪物”は、狙って足を攻撃したのだ。

逃がさないように。確実に仕留めるために。


「ま、待ってくれ!! お、俺が悪かった! 出来心だったんだ!! ちょっとしたおふざけだろ! な? 約束は守ってるじゃないか!! だから……!」


刻は必死に訴えかける。しかし、人間の言葉は、“怪物“には通じない。

言葉で騙そうとしても、それを”怪物“は理解することがない。尤も、仮に”怪物“が”怪物“でなかったとしても、刻の言葉を聞いて攻撃の手を緩めるかと問はれれば、それはNOだろう。


“怪物”は、まず刻の両足を胴体から切り離す。先程も言ったように、逃亡できないようにするためだろう。


「あああぁあぁああァァァァァァ!!!」


刻は絶叫するが、“怪物”はそれを気にすることなく、次は刻の腕を胴体から切り離す。

かつて、アンプタがそうしていたように、“怪物”は、四肢を切断してから、刻のことを切り殺すことにしたらしい。


“怪物”には、ただただ己の力を振り翳し、暴れ回ることしか能がない。そのはずだが、“怪物”は何故か、やけに念入りに、刻のことを殺し切ろうとしている。


「誰か、助け……」


何度も、何度も、念入りに刻の体は、“怪物”の大鎌によって切り刻まれる。

刻の失敗は、吸血鬼の男を置いて逃げてしまったことだろう。元々刻は、吸血鬼の男と契約することで、力を手に入れていたのだ。


吸血鬼の男が死んだ時点で、刻は何の力も持たないただの一般人だ。そんな一般人を、ミリューは手元に置いておくつもりなどない。だからこそ、吸血鬼の男を見捨てた時点で、刻の死は確定していた。

刻の生存ルートは、吸血鬼の男と共に戦い抜き、“怪物”を倒すか、吸血鬼の男と共に“怪物”から逃げるか、その二択だったのだ。


そもそも、刻が愛に手を出さなければ、ただただ邪魔な妨害をする者を1人戦闘から除外するだけに済んだのに、余計なことをしたせいで、こんなことになってしまっているのだから、自業自得だろう。


「ごめん………なさい………」


刻は涙を流しながら、謝罪の言葉を述べる。しかし、“怪物”はニタニタと不気味に笑みを浮かべながら、刻を切り刻むだけだ。


刻も同じように、気色の悪い笑みを浮かべながら、同級生を刺し殺していたことを思い出す。刻も、同じことをしていたのだ。つまり、因果応報。刻は、自分のやっていたことを、今やり返されているだけなのだ。


(ああ、そうか……)


自分が殺してきた同級生も、こんな気持ちだったのかと、刻は感じる。


(でも、そうだな……)


「おま………えも…………俺……とおん……なじだ………くく………はは………」


そう言い残して、刻はその命を落とした。





“怪物”は、刻を殺して満足…………とはいかない。

“怪物”は、死ぬまで、自身の力を振り翳すことをやめはしない。


次に“怪物”が標的にしたのは………。


「ク……ロ………お前……」


櫻から連絡を受け、この場へとやってきた、朝霧来夏だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ