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Memory134

“誓約魔法“を結び、雪のことは解放してもらった。雪は俺の”ブラックホール“を経由したりして、今はアパートに戻ってもらっている。


「はい。じゃあ契約成立ってことで。今後お前は俺たちに危害を加えないし、俺達はお前と黒沢雪には危害を加えない。これで良いだろ?」


「わかった。破ったら、その時は……」


「分かってるって。ペナルティがあるし、破れないことくらいわかるだろ? 大丈夫だ。お前らに危害を加えることはねぇよ。お前らにはな」


ああ、そうだろうな。櫻や来夏達には、この“誓約”は何の関係もない。だから、向こうからすれば、この”誓約“は、実質ほぼ無条件で俺を戦闘から排除することができるものだったんだろう。それが分かったからこそ、裏はないんだろうなと俺は思えたわけだ。


「さて、それじゃ、話は終わりだ。ま、お互い危害は加えないようにしましょうや。ククク………」


「ククク……刻、そろそろ良いか?」


「……ああ、そうだな。良いぜ。持ってこい」


吸血鬼の男が、物陰に隠れてゴソゴソと何かをしている。何をしているのだろうか。取引は終わったんだ。早く立ち去れば良いのに。


一応、櫻達のサポートは考えてある。戦闘に参加はできないが、危害さえ加えなければ、何をしたって問題はないのだ。例えば、櫻達が殺されそうになった時に、櫻達のことを守るくらいは許されるだろう。まず、カナや愛にはなるべく戦闘に参加しないように、安全な場所に避難してもらって……。


「ああ、悪いな。ちょっと一仕事残っててな。今ここで済ませたいんだ。できれば俺も、お前とはもうおさらばしたいんだが、これだけはここで済ませておきたくてよ」


見ると、吸血鬼の男が何か大きな物体を持ち上げ、こちらに持ってこようとしている。まさか、人……?






待て、まさか………そんな……。







「愛………?」


何で、愛が、ここに………。最悪の展開が、頭に思い浮かぶ。だめだ。考えるな。まだそうと決まったわけじゃ……。


「はは………ごめん。しくじっちゃった……」


鮫島は愛の首元にナイフを突き立てる。


「やめろっ!」


俺は止めようとするが、”誓約“の影響で武力行使はできない。魔法を扱えないとなれば、今の俺じゃ大の大人の男の力には敵わない。当然、止めようと鮫島に突っかかるも、軽く跳ね除けられてしまう。


「愛は魔法を扱えない! お前らの脅威にはならないから!」


必死に訴える。もしかしたら、愛が魔法を扱えると、自分達の脅威になり得ると勘違いしているのかもしれない。だから、その可能性はないと、そう伝えたかった。


「信用できねぇよなぁ」


ザクっと、鮫島は愛の首にナイフを突き刺す。


「やめっ……」


「生き返られても面倒だし、念入りに殺しきらねぇとな」


何度も、何度も。まるで俺に見せつけるかのように、鮫島は愛の首を刺し続ける。


「やめろ…………やめろやめろやめろ!!」


止めないと……これ以上は……!


「駄目駄目。ったく。殺せばよかったのに。何でわざわざ“誓約”なんて結ぶのか。やっぱり無能の考えは理解できないね」


俺の両腕は、触手のようなもので拘束されて動かせなくなってしまう。

この前、光といる時にアンプタと一緒に戦闘していた触手の少女だ。いつのまにこの場に来たんだ…。


クソっ! 動けない!

このままじゃ愛がっ!


「もう遅ぇよ」


俺の目の前に、虚な目をした愛が、いた。

もう、息はしていない。


最後に愛と話したの、何だったっけ。


『愛は足手纏いだから来るな』


こんな、別れ方ないだろ……。


何で俺はあの時、愛のこと突き放すような言葉、使ったんだ……。

何で俺は…………。


「やっぱこういうのだよなぁ」


「“誓約”の対象って私も含まれてるの?」


「わかんね。でも入ってるかもしれないし、念の為殺すのはやめとけよ」


「はぁ……ほんと無能。まあいいや。もし“誓約”の対象に私が入ってるなら、無能な貴方が死なない限りは、脅威はないと見ていいでしょ」


触手による拘束が解かれる。

でも、今更拘束を解かれたところで、俺にできることなんて何もない。


今、目の前の奴らを、殺したくて仕方がない。

“誓約”さえなければ、今、この場で、全員皆殺しにしてやるのに。


“誓約”さえなければ。











ああ、そうだ。“誓約”さえなければ、こいつらを殺せるんだ。

ある。“誓約”を、無視できる方法が、一つ。


俺は懐にあった一本の注射器を取り出す。


持ってきておいて、正解だった。


俺は今この手に持っている怪人強化剤(ファントムグレーダー)。全10本あったそれを、数本接種しただけで、理性を失い、怪人になりかけた。


今の俺の状態は、怪人と人間の間にあたるだろう。その影響か、あまりお腹が減らなくなったし、数日くらいなら飲まず食わずでも生きていける体質になった。

俺が誰の支援を受けずに生きられているのも、体が怪人に近づいた影響が大きいのかもしれない。


だったら、全部接種した場合、俺はどうなるんだろう?


きっと、もう人間じゃなくなるだろう。

じゃあ、そうなった時、俺は何となるか?


“黒沢始”か? “クロ”か? “人間”か?


いや、違う。そこにいるのは、ただの“怪人”だ。

理性を失い、ただ己の力を思うがままに振りかざすだけの、怪物。


そんな怪物相手に、“誓約魔法”が効力を発揮するわけがない。


“怪人”になって、ここにいるこいつらを全員殺す。


俺は、怪人強化剤(ファントムグレーダー)を、自身の腕に刺す。


「お前、何やって………」


「ああ、そうだ。約束、だったよな……。お互いに、危害は加えないって」


でも、先に約束を破ったのはそっちだろ。


確かに、直接俺や雪に危害を加えられてはいない。


でも、愛に。

俺の大事な人を傷つけるっていうのは……。


それはもう、俺にとっては危害を加えられているも同然なんだよ。


「約束は守るよ。俺はお前達に危害は加えない。でも、そうだな……。俺じゃないナニカは、きっとお前らを許さない」


意識が、失われていく。

自分が、自分じゃなくなっていく感覚がする。


死、なのだろうか。

でも、これで良い。


お前らも、道連れだ。


全員仲良く、あの世行きにしてやる。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






マドシュターと『色欲』の戦いは、長期に渡っていた。『色欲』はただ純粋に戦闘を楽しむだけだったが、マドシュターの方には徐々に焦りが見られていくようになった。


戦闘自体は、互角で、どちらが優勢か、なんてはっきりと言えるものではないし、実際実力は拮抗している。だが……。


「時間制限まで、あといくらかしらね?」


「バレちゃってるね。やばいね。やばいやばい」


真野尾美鈴と龍宮メナの合体には、時間制限がある。戦闘能力自体は強力だが、制限時間が存在してしまうのが、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターのデメリットなのだ。大抵の敵は、おそらく瞬殺可能だろうから、そういう意味ではデメリットはほぼ存在しないようなものだったのかもしれないが、強敵相手ではそうはいかない。


「もってあと3分ってとこかしら?」


「全部バレてるー!?」


『色欲』はマドシュターの時間制限に、大体のあたりをつける。そしてそれはマドシュターの反応からも実際に、その通りなのだろうとわかる。


「でも、あと3分、ねー。時間制限まで待つなんて、姑息じゃない?」


「はえ?」


「ええ、そうね。あと3分よ。3分以内に、貴方を仕留めるわ。だから、覚悟しなさい」


『色欲』の攻撃の手が、強まっていく。


「わわっ。あれ? 実力は同じくらいなんじゃないっけ? 騙された? 詐欺だ! 詐欺詐欺!」


「私自身生まれたばかりで自分の実力をよく理解していないの。でも、そうね! そうだわ! 私は多分、貴方よりずっと強いわ!!」


『色欲』の猛攻はおさまらない。先程まで拮抗していた実力は、既に『色欲』が上回る形となった。


マドシュターも、『色欲』の猛攻を抑えることができない。


「アハハハハ! これで終わりよ」


「まずいよ! まずいまずい!」


そのまま『色欲』は、マドシュターにとどめの一撃を入れる。

マドシュターは、『色欲』の攻撃を喰らい、そのまま壁に打ち付けられてしまう。


「どう? 中々いい一撃が決まったと思うのだけれど」


マドシュターが倒れていた場所には、真野尾美鈴と龍宮メナが転がっていた。2人とも、目をぐるぐると回しながら気を失っている。


「はぁ……。これじゃ合体中に倒したのか、合体が解けそうだったから倒せたのか、分からないじゃない。ある意味私の負けね。まあいいわ。あとは、殺し切るだけなわけだし」


『色欲』はそのまま2人に、正真正銘、殺し切るため、トドメを刺そうとする。


が……。


「うちの娘に、手を出さないでもらおうか」


『色欲』の手は、龍宮メナの父親、元幹部の男、ノーメドによって止められるのだった。

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