Memory131
光と別れた後も、まだ魔王は俺に追いついてくることはない。いや、正確に言えば、追いついていないのではなく、あえて追っていないんだろう。理由は知らない。まあ元々はアンプタと俺が戦うのを止めるために追いかけてきてたんだ。そのアンプタを倒したのだから、もう追う理由はないということなのかもしれない。
「あっ、やっと見つけた!」
「愛……」
「ったく、どこほっつき歩いてたんだよ。結構探したんだからな。櫻だって今必死になって君のこと探して……」
櫻が、探してる?
そういえば、ユカリ達の遺体があった周辺には、櫻や来夏の姿は見当たらなかった。来夏がどこに行っていたのかはわからないが、櫻は俺のことを探してユカリ達と別行動をとっていた。もし、櫻がユカリ達といれば。櫻なら、アンプタにそう簡単にやられることもなかっただろう。それに、櫻なら絶対に、仲間を死なせるなんてことはしない。
もし、櫻が俺なんか探さず、ユカリ達のところについていれば。
もし、俺が自分の感情のままに、何も告げずに櫻達の元から離れなんてしなければ。
ユカリ達は今頃、死んでいなかったんじゃないか?
つまり、ユカリ達が死んだのは……。
「俺の、せい………」
……そっか。結局、俺には誰も守ることなんてできないんだ。
俺にできることは。
ただ、敵を殺す。それだけだ。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
7つの大罪の出来が思ったよりも良かった。当初の予定では、魔法少女達とルサールカをぶつけさせて漁夫の利作戦、だったわけだが、そんなことする必要もなさそうだ。特に『色欲』アスモデウスは異常。流石は元幹部アスモデウスから遺伝子を採取しただけはある。アンプタを失ったのは痛い、けど、もういいだろう。
7つの大罪を保持していれば、ルサールカに負けることはもうないはず。問題なのは、魔法少女と組織のボスくらいだろう。まあ、組織のボスはスルーでいい。アレは大したことがなさそうだ。問題は、魔法少女の方だ。
魔法少女の可能性は、無限大と言ってもいい。元々大した力を持っていなかったくせに、いつの間にか魔族をも凌駕する力を手に入れている。特に私が危険視しているのは、百山櫻、真野尾美鈴、後は朝霧来夏くらいか。とは言うものの、彼女らだけが危険というわけでもない。深緑束も、状況判断に長けていて、それに、櫻達ほどではないが、魔法少女として順調に成長している。双山真白だって、私の目が正しければ、アレは天才と呼べるタイプだ。放置しておけば、とんでもない力を手にするに違いない。
津井羽茜だってそうだ。今でこそ私が彼女の魂を保持しているが、もしあの時魂を取っていなかったら、どれだけ成長したのだろうか、末恐ろしい。
「怖いなぁ、ほんと」
本当に、不確定要素ほど恐ろしいものはない。ああいう不安の種は、はやめに潰しておかなければ。
元は櫻と来夏以外は潰しておいて、2人をルサールカにぶつけるつもりだった。櫻や来夏以外は殺しておかないと、後々成長した時に厄介だろうし。でも、むしろ2人の方が危険だろう。櫻と来夏も、始末しておかないと、後々私の障害になる。
まあ、確かに魔法少女達は危険だが、全てがそうだというわけではない。私が作ったアルファ達は、確かに強力な力を持っているが、アレの限界値は知れている。他の魔法少女も、櫻達ほどの脅威になることは99%ないと言える。黒沢君も、アレは怪人強化剤の過剰使用で無理矢理櫻達の実力についていっているにすぎないし、才能も可能性も微塵も感じない。
ま、かといって完全無警戒でいいって相手でもないけど。
とにかく、魔法少女は残しておけば、確実に私の首を取りに来るだろう。あまり放置しておくべきではない。
「全員、皆殺しといこうかな」
そうと決まれば、7つの大罪に伝えておかないと。
もう殺してもいいよってね。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「そっか。色々あったんだね」
俺はとりあえず、今まであったことを全部愛に話すことにした。カナ達のこと、ユカリ達のこと、そして、もう櫻達とは行動を共にはしない、いや、俺のわがままでしたくないということ。もう、元には戻れないこと。
「俺はもう、何も考えたくない。だからただ、7つの大罪ってやつを皆殺しにしようと思う。櫻達じゃ優しすぎて、あいつらを殺せないと思うから」
「殺したこと、そんなに気に病む必要ないと、僕は思うけどな。だって、どうせ擁護しようのないクズ共だったんだろ? それに、そいつら殺さなきゃ、今頃何人の罪のない人が亡くなっていたかわからない。正しいことをしたんだ、何も気に病む必要なんて…」
「殺してから言えよ。それ」
「っ…………」
「ごめん。言いすぎた」
愛は励ましてくれようとしただけなのに、どうにも感情の制御ができない。こんなに子供だったのか、俺って。
切り替えよう。俺はただ、7つの大罪とかいうのを全部殺せば良い。人を助けるとか、そんなの向いてない。俺には、こういう薄汚いのがあってる。
「とりあえず、櫻には適当に伝えといてほしい。俺は、あっちで多分誰かが戦っているだろうから、加勢に行く。多分、相手してるのは7つの大罪だろうから」
「だったら僕も」
「愛は足手纏いだからくるな」
「……」
言い方はきつかったかもしれない。でも、俺には愛を守り切る自信がない。愛が足手纏いだとか、そんな風に思ってるわけじゃない。けど、俺にはもう、誰も守れない。
誰も守れる気がしない。
どうせ俺には、誰かの命を奪うことしかできないんだから。
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7つの大罪が1人、鮫島刻と人造魔法少女のカナの戦いは、カナの方がやや押され気味だった。
カナが古鐘から託された『Magic Book』には限りがある。それゆえに、そう何度も使える代物ではなかった。おまけに、相手は鮫島だけではない。鮫島の後ろに控えている吸血鬼の男も、鮫島がピンチに陥れば即座に援護射撃をし、カナを苦しめる。
このままではカナは負けるだろう。
だが、そんな状況はひっくり返されることになる。
「カ………ナ……?」
「クロ……」
愛と別れ、戦場へとやってきたクロが、カナに加勢することになるためだ。
「なんで………生きて……」
「クロ、おねがい。たすけて。あいつは敵」
カナは鮫島の方を指差し、自分達が倒すべき敵を共有する。
「生きてたんだ……。良かった……」
「うん。こがねってひとにたすけてもらった。でも、せつめいはあと。いまはあいつをたおさなきゃ」
「うん。そうだね……うん。というか、あいつは……」
クロの表情が、少し明るくなる。既に死んだと思っていたカナが生きていたことが、嬉しかったんだろう。
「しってるひと?」
「……いや。今は知らない人。それよりカナ。あいつら、どれぐらい強い?」
「カナじゃかてないくらいには、つよい。でも、クロがいれば、かてるかも」
「そっか」
クロは少し考える。鮫島と魔族の男の顔を交互に見ながら、最後にカナの顔を見る。そして…。
「カナ、逃げよう」
「え?」
「2人で戦うのは危ない。だから、他の魔法少女と合流して、一緒にあいつらを倒す。そっちの方が確実だ」
結果、クロは逃げる判断を下した。普段のクロなら、素直に戦う判断を下しただろう。だが、せっかくカナと再会できたのだ。もう二度と失いたくはない。そんな思いが、クロの中にはあった。だからこそ、逃げの選択を取る。実際、2人で戦うよりも櫻や来夏と合流して戦う方が勝率は高い。
(櫻とは共にいないって言ったけど、そんなこと今はいい。俺の変なわがままで、カナを死なせるわけにはいかない)
「カナ、今から“ブラックホール”を開く。それで、こいつらから距離をとって、他の魔法少女と合流する」
「うん、わかった」
クロはカナの手を取り、“ブラックホール”を開く。
そのまま2人で中に入り、クロとカナは鮫島達の前から姿を消した。
「刻、いいのか? 追わなくて」
「そもそもどこに行ったかわかんねぇよ。それに、面白い収穫はあった」
「?」
「ったく、誰の仕業なんだか。どうしてこうも昔の顔見知りが姿を変えて出てくるのか。でもま、あいつの対処の仕方はわかってる」
「何するつもりだ?」
「あいつの大事なものっていったら昔から決まってるだろ。人質をとりに行くぞ」