Memory129
あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
「何とかなったわね……」
「来夏さんが敵の気を引いておいてくれたおかげです。もしあそこで隙が生まれなければ、私達は全員死んでいましたよ」
8人の少女達は、お互いに胸を撫で下ろしながらも、少し暗い表情をしながら、会話を交わす。
最初に言葉を発したのは、八重。その次に言葉を発したのは束だ。
「しばらくは潜伏しましょう。来夏や櫻のことは心配だけれど、私達がいても足手纏いになるだけだわ」
「悔しいですが、そうするしかないですね」
「お姉ちゃんはどうしてるんだろ…?」
「櫻さんが探してくれています。ただ、その件も私達にできることはなさそうですね」
アンプタと邂逅し、魔衣が四肢をもがれた光景を見て、束はすぐにアンプタの特性を理解し、戦闘することではなく、逃げる方向へと思考を変更した。
アンプタの特性は、“一点特化型の魔法少女”、だ。
“一点特化型の魔法少女“は、通常の魔法少女と違い、強力な一つの魔法に長けた魔法少女のことを言う。
例として、『反射』によりどんな攻撃でも相手に弾き返すことのできる、閃魅光などがいる。
アンプタの場合、相手の四肢を切断する、というその一点に縛った魔法の行使を行う“一点特化型の魔法少女”であると、束は早々に見抜いた。“一点特化型の魔法少女”は、通常の魔法少女が扱う魔法が扱えない代わりに、強力な一点の魔法を扱うことができる魔法少女だ。故に、その一点特化された魔法は非常に強力で、例えば光の場合、自分よりもはるかに格上の相手の攻撃でも、ある程度反射することが可能である。
それはアンプタも例外ではなく、彼女の場合、一度四肢を切断する対象を選んでしまえば、必ずその効果が相手に生じる。という非常に強力なものとなっていたのだ。つまり、彼女に目をつけられた時点で、自身の死が確定する。それほど強力な魔法を、彼女は所持していたのだ。
要するに、アンプタの攻撃を防ぐことは不可能。一度設定されてしまえば、必ず誰かの四肢がとぶ。それは誰であっても変わらない。アストリッドや魔王であっても、アンプタに設定されてしまえば、必ず四肢を切断されてしまうだろう。
故に、束は前々から用意していた保険によって、自分達の死体を偽装し、その場から逃走することに成功したのだ。
具体的に言えば、かつてリリスの使っていた死体人形を使ったのだ。自身らの姿に似せた状態で用意しておいた死体人形を、アンプタが来夏に気を取られているうちに取り出し、束が遠隔から操作することによって、死を偽装した。
「魔衣さんの分も用意しとくべきでした…。片腕は既に持って行かれていましたが、もし魔衣さんの分も用意しておけば……」
「逆にアルファ達の分はよう用意できたな。そんな急に作れるもんなんか?」
「アルファ達の分に関しては、以前から櫻さんと相談していたので。実は死体人形を身代わりにしてアルファ達を魔法省から連れ出すという案もあったんです。今回使ったのはその副産物ですね」
「いや、事前に相談してた言うけど、そんな簡単に本人に似せた人形作れるもんなんか? 恐ろしいなぁ」
「まぁ私は記憶力がいいので」
「そういう次元ちゃうやろ…」
照虎は少々引き気味にそう言う。確かに、自分と全く容姿の同じ人形が簡単に作られてしまうのは、少しゾッとする部分はあるかもしれない。しかし実際それによって自分達の命が助けられているのは事実であるため、なんとも言えない気分になる照虎だった。
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光が来てくれたおかげで、かなり立ち回りやすくなった。アンプタという名前らしい少女の四肢切断は、光の反射によって完全に遮断することができる。ただ、“反射”自体はできないらしい。というのも、アンプタの四肢切断は非常に強力なものらしく、“反射”しきれずに四肢切断と“反射”で相殺することしかできないらしい。つまり、アンプタに四肢切断を“反射”して彼女の四肢を切断することはできないのだ。
それでも、アンプタの四肢切断を気にしなくていいわけだし、戦いやすいことには変わりない。ただ、流石に触手の少女の方までは“反射”は回せなかったらしく、とりあえず光は常にアンプタの動向を伺い、四肢切断を行ってきそうならば“反射”で防ぐ。俺は光がやられないように触手の少女を相手取り、可能であれば倒すという方向性で動くことにした。
「るなの“反射”の効果はるなの半径3m以内よ。これでも頑張って伸ばした方なんだけど…。とにかく、3m以上離れたら知らないから」
「分かった」
やはり距離制限はあるらしい。距離制限がないならば、光の“反射”で守ってもらいながら俺の“ブラックホール”でアンプタの背後に回って首を取る、なんてこともできなくはなかったのだが、流石に“反射”なしでアンプタの元に突っ込んでいくのは無謀だろう。それに、仮に“反射”に距離制限がなかったとしても、俺と光が近くにいれば、2人とも“反射”が適用されるが、離れてる場合はそうはいかない。俺がアンプタの首を取りに行っている間に光が触手を扱う少女にやられてしまうかもしれない。
どちらにせよ、こちらとしては触手の少女→アンプタの順で倒すのが一番良いルートだろう。
そう思い、触手の少女が繰り出してくる触手を手に持つ大鎌で切り落とし続けていたのだが……。
「キリがないわね……。というか、そっちの触手娘どうなってるのよ? いくら切っても手数が尽きないじゃない」
「多分切ってもすぐ再生してるっていうのが正しい。しかもあれ、多分無条件に再生してると思う。魔力の消費が一切感じられない」
「無限ってこと? じゃあいくらこうしてても無駄じゃない! はやく言いなさいよ」
確かにこのままこの場で戦い続けていても、少しずつこちらの魔力が削られ、粘り勝ちされるだろう。なら……。
「一か八か……。ワープしてアンプタの後ろに回る。速攻で殺して、戻ってくる」
これしかない。“ブラックホール”を経由してアンプタを殺害後、光が触手の少女にやられる前にまた“ブラックホール”で元の場所に戻り、触手の少女も狩る。かなりハードワークだ。リスクもある。けど、これくらいしないと勝てないのも事実。
一応、俺の後を追ってきているはずの魔王の力を借りるという手もなくはない……が、あいつは不確定要素すぎる。いつ裏切っても不思議じゃないし、当てにするべきではないだろう。
「行ってくる」
「あっ、ちょっと!」
“ブラックホール”内に入る。幸い、中はほとんど空っぽ状態にしてある。ワープに伴う危険はない。丁度アンプタの背後あたりに“ホワイトホール”を用意する。急げ、時間はない。
「死ね!!」
俺は大鎌を振るう。
「馬鹿な奴」
避けられた……。流石にいきなり消えれば警戒もするか。だが、近距離であることに変わりはない。この勢いのまま、アンプタの首を取る。
「死ぬのは、お前だ」
アンプタの指が、俺の方へと向く。
避けられない。そもそも“設定”されてしまっている時点で、光の”反射“以外で対処できるものではない。
確実に、俺の四肢のうちどれかはダメになる。でも、このチャンスは逃さない。相討ちになってでも、ここでこいつは殺す。
「っ! 『反射』!!!!」
アンプタが俺に指を向けてきたその瞬間に、光の声が響く。
「何で、五体満足でいる…?」
3m以上は“反射”できないんじゃなかったのか。
いや、あれは……。
「ったく、るなに無理、させるなっての………」
鼻血………。多分、今の“反射”は体に負荷をかけて無理矢理発動させたものなのだろう。その証拠に、光の鼻からは血が垂れている。
でも、そのおかげで。
「お前を、殺せる」
俺は大鎌を振るう。
やけに俺達を苦戦させてきた少女の首は、意外にもあっさりと、その体から切断されていった。