Memory12
「しばらくお前を解放してやる。条件付きだが」
先日ユカリに言われた通り、クロはしばらく組織から離れることになった。
今まさにそのことについて幹部の男から告げられている途中だ。
「お前にはしばらく自由に行動してもらう。もちろん、組織の邪魔はしないようにしてもらおう」
「……条件っていうのは……?」
「少し厄介な組織が複数いてな。詳細は省くが、まあ我々に敵対している組織があれば潰すことだ。魔法少女達との交戦はもうしなくていい、なんなら共闘してくれてもいい。街の襲撃などもナシだ。後、学校生活を満喫しろ。できれば魔法少女達と交流を深めてほしいのだが、お前にはわからないんだろう? とりあえずは適当に友人の1人や2人でも作っておけ」
正直どうしてそんな指示を出されるのかわからない。
学生生活を満喫しようしまいが、組織には直接関係ないだろう。
まあ深く考えても仕方がない。
それよりも、
(ユカリ……置いていって大丈夫なんだろうか……)
クロにとってはユカリが組織のいいなりになってしまうことの方が気がかりだ。
(ユカリは純粋な子だから……良い意味でも悪い意味でも染まりやすい……)
ユカリのことが気になって仕方がない。できれば昨日何か一言でも残せたら良かったのだが、いや、一言残したところで、何か変わったのだろうか。
(はぁ……過ぎたことは考えても仕方がない………か………?)
思考を巡らせるクロだったが、幹部の男の後方を見た途端、思考が止まる。
「お姉ちゃーん!」
「ユ………カリ……?」
男の背後には少し焦った表情をしながらこちらに向かって走ってくるユカリの姿があった。
「別れの挨拶がしたいそうだ。少し席を外そう。手短に済ませろよ」
そう言って幹部の男はクロから距離を取る。少し離れたところで待機するようだ。
そして、幹部の男と入れ替わるようにして、ユカリがクロのところへ来た。
幹部の男はクロとユカリから少し離れたところで待機している。
おそらく会話は聞こえないだろう。
何か言い残すなら今だ。
(だけどーーー)
何を言い残せばユカリのためになるのかわからない。
それに、幹部の男も手短に済ませろと言っていた。あまり長話はできない。
できれば迅速に、簡潔に話をするべきだ。
だったらーーー
「ユカリ、1つだけ、約束してほしいことがあるんだけど、いい?」
「約束? うん。1つくらいなら全然守れるよ!」
「ありがとう。それで約束なんだけどーーー」
約束は1つだけ。
それ以上言って、ユカリが忘れてしまっては意味がない。
たった1つだけでいい。
「ーーー人を殺さないこと」
人を殺してしまえば、おそらくユカリは後戻りできなくなる。
今は魔法の訓練を組織内で行なっているだけで済むかもしれないが、そのうちクロにやらせたように街を襲撃させることもあるだろう。その時に人殺しを行ってしまえば、もうユカリは普通の日常を享受することが出来なくなってしまうだろう。
だから、これだけは、いや、これだけでも、約束を取り付けておきたかった。
「動物は?」
「………それもできればやめて」
「んーわかった。じゃあ絶対に人を殺したりはしない!」
とりあえずこれで良い。
正直不安はある。が、最悪の事態は避けれるんじゃないだろうか。
クロとユカリの会話が終わったのを見計らってか、幹部の男がこちらに近寄ってくる。
「時間だ。行くぞ」
これからクロが住むことになるというアパートは組織が契約したらしい。
場所は知らないので、幹部の男に案内してもらうことになっている。
「お姉ちゃん! いってらっしゃい!」
クロの後ろでは長い髪をサイドアップに結んだ、紫色の髪を持つ快活な少女が笑顔で手をブンブンと振っている。
クロもそれに応えるかのように手を振る。
「いってきます!」
こうしてこの時クロが発した“いってきます”は転生してからはじめての“いってきます”となった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「束、何してるの?」
「茜さんですか。見てわからないんです? 魔法の訓練です」
茜と束がいるのは、双山魔衣の家の地下室だ。
ここでは魔法で特別な結界が展開されており、ある程度の魔法なら打ち放題なのだ。
どうやってこんな施設を作り出せたのか、謎は多いが、せっかく利用できるのだ。使わないことに越したことはないだろう。
「毎日欠かさず魔法の訓練なんて、真面目ねぇ〜」
「私のせいで誰かが死ぬのは……もう……嫌なので……」
そう呟く束はどこか遠い目をしている。
懐かしさを感じているかのような目をしているが、その目は悲しみに染まっているように見える。
「あぁ……そういえば……昔一緒にたたかってた子がいたんだっけ……」
束には、櫻達と一緒に魔法少女として活動する前に、2人で魔法少女として活動していた時期がある。
しかし、2人ともまだ未熟だったせいか、怪人に対して中々苦戦してしまっていた。
「はい………あの子は…………散麗はいい子でしたよ」
束と散麗は魔法少女としてまだまだ未熟だった。
「束ちゃん、束ちゃんって言って、いつも後ろをついてきてたんです」
そもそも散麗は戦闘向きの魔法ではなかったし、束もまだ風魔法を使いこなせていなかった。
「本当、いつも私の後ろをチョロチョロついてきて、少し鬱陶しいくらいでした」
案の定、怪人との初戦では歯が立たなかったため、2人して全力で逃げた。
「人懐っこい子かといえばそうではなくて、私以外の子には人見知りしちゃう子だったんです」
しかし、人目に付かない場所を見つけて、2人でこっそり微量の魔法を打ったりして、なんちゃって特訓をしたりしていたのだ。
「私以外の人には野生の猫みたいになるんですよ。正直この先人間関係とか大丈夫なのかなって思ってました」
なんちゃって特訓で調子に乗った2人は、二度目の怪人討伐に向かっていた。
「本当に……心配してたんですよ……」
しかし、これが良くなかったのだろうか。怪人を前にして恐怖で足がすくんでしまった束は、動くことができずに、怪人の持っていた武器を振り下ろされて……
「ああ。でも……もうそんな心配をする必要もないんですよね……」
動けない束を、散麗が押し退けて……代わりに怪人の武器の餌食となった。
その後、放心状態になってしまった束の元に、櫻達が駆けつけてきた。
それ以降櫻達と共に行動するようになったのだが、もしもう少し早く櫻達が駆けつけていたら、結末は変わっていたのだろうか。
いや、考えても仕方がない。それに、この言い方だとまるで早く駆けつけてこなかった櫻達が悪いと言うかのような言い方になってしまう。
「なんだかしんみりとした空気になってしまいましたね! どうです茜さん! 一緒に訓練しませんか!」
ネガティブな気持ちになってしまったのを無理矢理持ち直すためか、束は無理に笑顔を作ってわざとらしい元気らしさで取り繕う。
「いいわよ。ま、私が束ごときに負けるとは思えないけどね」
「なっ! 言いましたね〜? 私だって、茜さん程度にならすぐに追いつけると思いますよ!」
「へ〜そんな大口叩いていいのかしら? 一応私、魔法少女歴でいえば最年長なんだけど?」
「真白さんと例の魔法少女を抜けば、の話ですよね?」
「言ったわね……!」
茜も束の意思を汲み取ったのか、あえて元気よく振る舞い、話題を終わらせた。
散麗という少女と面識のない茜が、土足で踏み込んでいい話題ではないと踏んだからだ。
(真白は例の魔法少女のことで病んでるし、束もこんな感じじゃ常に万全っていうのは難しそうね。来夏はキレやすいし、櫻は結構ポンコツなところあるし、しばらくは私と八重でこの子達を引っ張っていくしかなさそうね)
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「それで、わたしはどうすりゃいいんだ?」
「少し実験に協力していただきたくてねぇ。もちろん、貴方の体を改造したりだとか、そんなことは致しません。契約ですからねぇ」
Dr.白川は魔法少女の研究のために、とある少女の手を借りることにした。
歳はまだ12歳くらいだろうか、金髪の髪をバードテールと言われるツインテールの形で結んでいる。可愛らしい見た目に反して、表情は反抗的で、常に張り付いているような少女だ。
「それで、属性はなんでしたっけ?」
「地」
「はい?」
「地属性だっつってんだろ。つんぼか」
「いえいえ、舌打ちしたのかと思ってました。なるほど、地属性ですか」
Dr.白川はメモ帳らしきものに文字を書き連ねていく。
「そういえば、貴方はどうして我々に協力しようと思ったんですかねぇ?」
「はぁ? 聞いてないの?」
「私は研究の専門ですからねぇ」
「はぁ。まあいいや。家出してたんだけどさ」
「はい」
「最初はネットで適当に住ませてくれる奴探して住ませてもらってたんだけど……」
「ほぉ。典型的な現代の家出少女をやってたわけですねぇ」
「そうなる。んでまぁ善意で匿ってくれてる人もいたんだけど、中には私のことをそういう目で見てくるロリコン野郎もいたわけ」
「逆によく善意で匿ってくれるような人を見つけれましたねぇ……」
「んでまぁ、昨日襲われかけて、ちょっと危ないなって思ってたんだけど、その時にあんたらのこと見つけて、住ませてもらおうって思ったわけ」
「ちなみに襲ってきた人はどうしたんです?」
「魔法でぶちのめした。一発で気絶したから、まあなんともなかった。ただ顔が良いやつだったから、腹いせに顔に3発くらい殴り入れてやったよ」
「物騒ですねぇ。というか、そのことがトラウマになったりはしなかったんですか?」
「ねぇよ。ただ男って本当に気持ち悪い生物なんだなって思っただけだ」
「それを男の前で言うなんて肝が据わってますねぇ。というか、善意で匿ってくれた人に対しても同じように思ってるんですか?」
「そういう奴もどうせ私が美少女だったから家に追いとけば眼福だとでも思って置いてただけだろ。男なんて皆そんなもんだ」
どうやら彼女は自尊心がとても高いらしい。それに加えて男を毛嫌いする性格でもあるようだ。というか、彼女の理屈だと世の中の男性は皆ロリコンだということになるのだろうか。
「そうなんですか。ちなみに根拠は?」
「ないが。必要あるか?」
彼女は物凄く思い込みが激しいというか、頑固だというのか、とにかく彼女の性格についてはなんとなくだがわかった。
「いえ。まあこれくらいでいいでしょう。部屋は用意してあるみたいなので、好きに使ってくれればいいでしょう」
「わかった」
そう言って少女は立ち去ろうとする。
「少し待ってください。そういえば聞き忘れていたことがありました」
「何?」
「貴方の名前です」
「チカ」
「はい?」
「聞こえなかったのかよ……。お前本当につんぼなんじゃねぇの?」
一呼吸置いて、少女は呆れた顔をしながら、今度ははっきりと名前を告げた。
「朝霧千夏。それが私の名前だ」
【魔法少女】
クロ
組織に属する魔法少女。主人公。
使う属性は光→闇→闇×光
・黒い弾
普通の攻撃では分裂してしまい、また自動追尾の機能も搭載されている魔力の塊。
・ブラックホール
相手が大規模な魔法を形成してきた際に、その全てを吸収して自身の魔力に変換することができる魔法。
ただし、容量を超えると身体に多大な負担がかかり、場合によっては死に至る可能性も持ち合わせている為、慎重に使用しなければならない。
・還元の大鎌
真っ黒色の大きな鎌。イメージでいうと死神の鎌的なもの。攻撃力が高いわけではないが、攻撃した相手の魔力を奪うことができる。
・『ルミナス』
闇属性の魔法と光属性の魔法の複合魔法。相手の魔法によって拘束された場合に、それを解除する効果を持つ。ただし、友情魔法などの特殊な魔法には効果がない。
・『魔眼・無効魔法』
闇属性の魔法と光属性の魔法の複合魔法。相手の目と自身の目を合わせることで発動できる。相手の魔法を全て無効化することができる。
シロ/双山 真白
クロの双子の妹。たった1人の大切な家族であるクロを組織から助け出したいと考えている。
使う属性は光。
百山 櫻
ある日突然魔法少女の力に目覚めた普通の女の子。皆が手を取って仲良くなれる平和な世界を目指している。
使う属性は無属性。
・『桜銘斬』
桜の模様が入った日本刀。魔力で強化されているため、普通の日本刀よりも強い。櫻がメインで使っている武器。
・『大剣桜木』
桜の模様が入った黒い大剣。体の大きい敵や、敵に対して大ダメージを与えたい際に用いる。
・友情魔法
櫻と他の魔法少女のうち誰か一人が揃った時に使える必殺魔法。
『春雨』 櫻×八重
敵に対して局所的な魔力の雨を降らせる魔法。食らった敵は無属性魔法の特性によって体を無に返される。さらに水属性の特性の闇属性の魔法を浄化する効果も備えている。
『春風』 櫻×束
風の弓で無数の矢を放って攻撃する。全ての矢は風に乗って相手を追尾し、迎撃されない限り必ず命中する。さらに、一つでも命中すれば相手の動きを封じることができる。
津井羽 茜
最初に魔法少女として活動し始めた赤髪ツインテの少女。
面倒見のいい性格をしており、束や八重からはよくいじられている。
使う属性は火。
蒼井 八重
茜の次に魔法少女になった少女。常に冷静で、仲間に的確な指示を出す。
学校では委員長をしており、成績は優秀である。
使う属性は水。
・『結界・アクアリウム』
特定の形を地面に描くなど、何かしらで表現した際に魔法陣を発動させ、簡易的な結界を施す魔法。結界内には水魔法で生成された雨が降っており、その結界内の闇魔法を浄化する作用を持っている。自身の魔法力ではなく、地脈の魔力を利用するため、魔力が少ない時でも条件さえ満たせば発動可能である。
深緑 束
一番最後に魔法少女になった少女で6人の中で最年少である。
怪人を前にして放心状態になっていたところを櫻達に助けられ、以降共に戦うようになった。
使う属性は風。
・ウインドバインド
風魔法の力で相手を拘束する技。拘束している間、他の魔法を行使することができないので注意が必要。
・風薙ぎ
風魔法の力で相手を斬りつける技。視認できず、音もないため、敵に気づかれずに攻撃することができるところが強み。威力もかなり高く、くらえばただでは済まない。
朝霧 来夏
金髪の髪をローテールにした活発な少女。
使う属性は雷。
・『雷槌ミョルニル』
体中に電気を纏わせ増幅させた後、手のひらにいっぺんに電気を集中させて一つの槌を作り、そこから高圧の電撃を浴びせる技。
ユカリ
クロのデータを基にして造られた魔法少女。
使う属性は闇。
朝霧 千夏
Dr.白川の研究に協力している魔法少女。
使う属性は地。
???
使う属性は◻︎
???
使う属性は◻︎
???
使う属性は◻︎
???
使う属性は◻︎
【その他】
風元 康
シロとクロの担任の先生。目の下にクマができていて、いつも怠そうに授業をしている。
双山 魔衣
保健の先生で、魔法について詳しい謎の人物。
幹部の男
クロを見張っている組織の幹部。
幹部の女
5人いる組織の幹部の内の1人
Dr.白川
組織に属している科学者。自分の娘ですら実験体にする根っからの科学者。
散麗
束と一緒に魔法少女として活動していた少女。怪人との戦闘で死亡した。