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past memory1

「んあ……」


騒がしくなった教室を契機に、俺は目を覚ます。どうやら授業中に眠ってしまっていたようだ。

そうだ、カナは………。カナって誰だ? まだ寝ぼけてるのかな。


「珍しいね、君が寝るなんて」


「愛か…。別に夜更かしとかしてないんだけどなぁ」


休み時間に入ってすぐに俺に声をかけてきたのは、俺の親友である親元 愛(したもと めぐみ)だ。腐れ縁で、ある意味で俺の唯一の友人と言っても過言ではない。細身で儚い感じの男で、実は密かに女子人気があるやつでもある。まあそれを言ってしまうと調子に乗らせてしまうだろうから、あえて俺は言ってない。別に愛に彼女ができたら寂しいからとか、そういう理由ではない。断じてない。


事実、愛がいなかったら俺の学校生活は物凄く虚しいものになってしまう。一応クラスメイトとは一通り話せはするが、友達だって断言できるほど仲がいいかと問われると微妙だし。


「次の時間はLHR(ロングホームルーム)だから、絶対起きときなよ」


「何するんだっけ?」


「文化祭の係決めだよ…」


俺の言葉に愛は、『はぁ』とため息をつきながら、呆れたような表情をして言う。

毎回そうだ。俺は関心のないことに対する物忘れが激しくて、いつも愛に頼ってしまっている。

妹のことなら何でも覚えてるんだけどなぁ。なんて風にぼーっと考えていたら、愛がまたジト目でこちらを見ていた。うん、ごめん。せっかく話しかけてくれたのに、無視するのは良くなかったな。まあ正直、愛ならそれくらい許してくれるかっていうのがあったからそうしたんだけど。


ま、かと言ってこのまま何も話さないのもなんだし、残りの時間は愛と話そうかな、なんて考えていたらチャイムがなった。


愛がすごいムスッとした表情をしていた。ごめんて…。





☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






「というわけで、本日のLHRでは文化祭の係決めを行いたいと思います」


教卓の前で凛々しく佇みながら話すのは、このクラスの委員長である深丸 麗華(みたま れいか)だ。クラスの皆から好かれており、善性をその身で体現したかのような完璧美少女、というのが客観的な評価だろう。


「まずは……」


深丸が前に立つ時、普段ははしゃいでいるはずのクラスメイトも、妙に落ち着き払った様子で、真面目な態度を見せるようになる。これも深丸の人徳だろう。皆彼女のことを好いているから、彼女の困るようなことはしたくないと考えている。そのおかげか、係決めは思ったよりもスムーズに進んでいるようだ。


「すんません遅れましたー」


そして、間延びした口調で教室に入ってくる少女が1人。

彼女の名は楽山(らくざん) カミラ。弓道部所属で、自由人なところがある。授業もしばしば飛ぶが、地頭がいいのか、定期考査では学年10位以内には毎回入っており、模試でも良い判定を出し続けている猛者だ。ただ、同級生と絡むことは少ないため、彼女を目の敵にする輩も一定数いる。


当然、うちのクラスでも一定数彼女のことを快く思っていない層はおり、何人かは今まさに、楽山に対して非難の目を向けている真っ最中だ。


「カミラちゃん来たんだ! 良かった〜。体調が悪いって聞いてたから、心配してたの」


しかし、そんな視線も、深丸の一言ですぐに引っ込む。深丸は楽山の遅刻を気にしてなどいないということをアピールすることによって、楽山への非難の目を少し軽減させたのだ。おそらく、深丸は計算してこれを行っている。このクラスがいい雰囲気でいられるのは、間違いなく深丸のおかげだろう。いじめなんてものも存在せず、割と快適な学校生活を送れるので、深丸には割と感謝している。


「俺は係なんてやりたくないし、パスだな」


ただ、深丸はクラスメイトの皆から好かれてはいると言ったが、それも全員というわけではない。

当然ながら、彼女に対して悪い感情を抱いている、もしくは何とも思っていない層だって一定数存在するのだ。

まあ、深丸も人間だ。人なんて、誰かに好かれることも、嫌われることも、往々にしてあるのだから、そんなことは気にするだけ仕方がないのかもしれないが。


「鮫島君ならそつなく色々こなしてくれるかなって思ってたんだけど……。まあ仕方ないよね。鮫島君も忙しいし。でもま、係はやりたい人優先だから、全然大丈夫だよ」


ちなみに鮫島 刻(さめじま きざみ)は別に不真面目なやつというわけではない。特別成績が良いというわけではないが、勉強もほどほどにこなしているし、授業態度も至って普通だ。だが度々深丸を困らせる為に発言しているだろと思わせるような場面があり、何かしらの感情を深丸に抱いているのは確かだ。ただ、恋愛感情を抱いているというわけではなく、まるで深丸を探っているかのような、そんな雰囲気すら感じられる。まあ、深丸ほどの完璧超人を見れば、どこか粗探しをしたくなるものなのかもしれない。


「私もパース。忙しいしね」


鮫島に便乗するかのように発言する少女の名は、紫村 未来(しむら みらい)。成績優秀の優等生だが、無駄なことは省く主義のようで、手を抜ける場所は全力で手を抜くタイプの人間だ。ある意味要領がいいのかもしれない。ただ、クラスメイトの勉強の面倒はよく見るようなので、案外悪いやつではないのかもしれない。

といっても、本人いはくクラスメイトの勉強を見てやっている理由は、他人に教えた方が自分の理解力が上がるから、教えた方が記憶しやすいから、などなどの理由ではあったが、しかし他人にそれだけの労力を避けるのだから、それはすごいことだと思う。


ただ、こんな風にやる気のない態度を見せたとしても、深丸が前に立っている、というその事実だけで、クラス内は統一された空気感が漂い出すし、雰囲気もほとんど悪くなることはない。


だからだろうか、気づけば、LHRの時間が終わる20分前には全てやるべきことは終わっており、後は自由時間となった。各々勉強を始めたり、友人と喋るなどして時間を潰し始める。


ちなみに俺は愛の席が遠かったため、仕方なく勉強に励んだ。

適当にページ開いたら普通にわからないところで焦った。






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★






と、いった感じのが俺の高校生活だ。まあ、特別これと言って特徴的な何かがあるわけではない。ただ、俺のクラスは恵まれてはいるんだろうなとは毎度思う。おかげで今こうしているように毎日、妹のために早く帰宅することができているわけだし。


変に敵を作りにくい、というのも俺のクラスの良いところではあるだろう。俺は()に嫌われたくはない。立派なお兄ちゃんとして見られたい。だから、他人と喧嘩だとか、クラスで浮いてるだとか、そんな兄ではいたくない。妹に顔向けできるるお兄ちゃんでありたいと、そう思っているのだ。


まあそれもあってか、俺自身はめちゃくちゃまともで真面目である、と思っている。家事はきちんとこなしているし、他人の悪口を言い合うようなこともなければ、誰かに責任を押し付けたこともない。ましてや、バレてないからの精神で悪いことをしたり、なんてことも一切なかったしできる範囲であれば人助けもこなしてきた。といっても、今までの人生で人助けと呼べるものを行ったのは、たったの1、2回なんだけども。


ま、どちらにしても行動原理はほとんど妹に基づくものだったりするので、真面目というよりもただの妹思いなお兄ちゃんってだけなんだろうななんて適当に自己分析をする。


「そういえば、カナって誰だったっけ?」


んー、なんか忘れてる気がするんだよなぁ……。いやでも、毎回何かしら忘れてるのは事実だし、多分カナって子と以前会ったことがあって、今はそれを忘れてしまっているだけなんだと思う。そして、何か大切な約束をした気がするんだけど………。


「まあ、明日愛に聞いてみればいっか」


しかし、すぐさま俺の頭の中から、カナに関することは抜け落ちる。

この時起きていれば、俺はあんなに拗れることは、なかったのかもしれないと、後々そう思うことも知らずに。

多分全3話になる

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