Memory119
「召喚・風弓」
ミリューは風弓を召喚し、同じく弓を持つラカに対抗する。
お互いに弓を放ち、牽制し合う。が……。
「ヘタクソ!! 弓が簡単に扱えると思うなバーカ!!」
「うざ……」
ミリューとラカでは、射撃技術に差がありすぎたようだ。ミリューはラカに矢を当てることが一切できていないが、逆にラカはミリューにピンポイントで矢を当てに来ている。しかも、矢の飛んでくる間隔も、なんとかギリギリ避けれる程度の頻度で矢が飛んでくるレベルであり、そのせいもあってか、ミリューの射撃の精度は最悪になっていた。
「弓は向こうの土俵ってわけね。戦い方を変える必要があるか……」
ミリューは風弓を捨てる。
「特別召喚・絶対防御装甲」
そして、ミリューは魔法によって作り出された鎧を全身に纏い、自身の防御力を強化する。
「さあ、仕切り直しといこうか」
ミリューは鎧を纏ってすぐさま、ラカに接近する。
真っ直ぐに向かってくるミリューを見て、ラカは何度も矢を放つが、ラカの矢ではミリューの絶対防御装甲を突破することはできない。
「カナ、借りるよ」
弓が通じないと気付いたラカはすぐさま、カナの武器である短剣を拾い、その短剣でミリューに対抗する。
が……。
(押し負ける……!)
「ここででしゃばらずに、死んだふりしてればよかったね。そしたら殺されることもなかったのに。じゃあね、死ね」
ミリューの武器が、ラカに振り下ろされる。
回避手段はない。自由に動き回るために、身に纏っているのは、軽装で、とてもミリューの攻撃を防御しきれるような衣服ではない。それに加え、ミリューは絶対防御装甲を纏っている。カウンターをしようにも、今のミリューにはそのカウンターが通ることはない。
だが、ラカの表情から、笑みが消えることはなかった。
「背後に気をつけな」
突如、ミリューの背中に、とてつもなく大きな衝撃が走る。
気づけば、ミリューの絶対防御装甲にはヒビが入っており、もし装甲がなければ、確実に絶命していたであろうことがわかるほどの威力の衝撃が、背中に走っていたことがわかった。
「な………にが……」
「タマ、お手柄」
ミリューが後ろを振り返ると、そこには……。
「なんだそれ……」
ミリューは、困惑した声でそうぼやく。
だってそこにいたのは……。
首から上のない、胴体だけの存在が、大斧を持ってその場に鎮座していたのだから。
「生き……てる? いや……魂は死んでる……」
「そうだよ。生きてはいない。けど、タマもあんたにやられっぱなしはいやだって。だからこうやって化けて出たんだよ」
ラカはわざとらしくそう告げる。本当にタマが化けて出たわけではない。
タマはあらかじめ、自身の身体に魔術を施しておいたのだ。
タマのモットーは、敵の始末。しかし、自分が死んでしまっては、敵の始末が完遂することができない。だからもし万が一自分が死んでしまった時の保険として、タマは自身の身体が死後も、魔力がある限り駆動し続ける。自動稼働型死体人形としての魔術を施しておいた、というわけだ。
ナヤは臆病だし、カナも怖がるだろうから、という理由で、このことはラカにしか告げられてはいなかった。だからこそ、ミリューにタマの存在がバレることもなかったのかもしれない。
「クソっ、この死に損ないが……!」
ミリューは感情のままに、タマ(の死体)に拳を振るう。
しかし、もはやタマの身体は、ピクリとも反応しなくなっており……。
「もらったァ!!!!!!」
背後のタマに気を取られているミリューの隙をつき、ラカはカナの短剣をもって、ミリューの絶対防御装甲を完全に破壊し尽くした。
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「ほぼ互角……」
「当たり前だろう。私は貴方の戦闘データから作られた存在なのだから」
櫻とアルファの戦いは、互いに譲らず、拮抗した状態が続いていた。互いに構える武器は同じ『桜銘斬』。背は若干アルファの方が高いが、しかし、ほとんど変わらない。
「結局、お前も私と互角。それじゃ、ミリュー様にも、ルサールカにも勝てない。結局、私は………」
「そう……だね。確かに、私じゃ貴方を助けられないのかもしれない」
櫻の言葉に、アルファはびくりと、まるで今まで縋っていた希望が崩れ去ってしまったかのように怯え出す。
その様子を見て、櫻はそっとアルファを見て微笑む。
「でも、うん。助けるのは、私だけじゃないから」
「そんなの……意味がない。私は見た。アストリッドという吸血鬼が、弱者を蹂躙する光景を…! 肉眼ではない。だが、データとして見た。あれが意味するのは、弱者がいくら束になろうと無駄だということ……。結局、圧倒的強者の前には、誰も逆らえない!」
「ううん。それは違うよ」
櫻は『桜銘斬』を手放し、戦いを放棄する。
「確かに、私達は何度も、協力したって突破できない壁に出会ってきた。でも、それでも、皆で協力して、諦めずに、挫けずに、乗り越えてきた」
櫻はアルファに近づき、その体を抱き寄せる。
「きっと、怖いんだよね。でも大丈夫。安心して。私達が、貴方を守るから」
初めて感じる、人の温かみ。アルファはそれに触れて、戦意を喪失する。
「信じて。約束する。絶対に、貴方を怖い目には遭わせないから」
いいのだろうか、委ねても。そう、アルファは思案する。
「やっぱり……私には……」
「“誓約魔法”。“私は、アルファちゃんを怖い目に遭わせないこと、また、そのために、その身をもって、全力で障害を取り除くことを、誓います”」
「待て………それは……」
“誓約魔法”。
それは、強力な自信への縛り。
それを行うことで、何かメリットを得られるわけではない。ただ、その行為を行わない状態になった時にのみ発生する、強力な自分自身への呪いのようなものだ。つまり、自身の不作為を咎めるための究極のルールだ。
もしそれを破った場合、自身の死、もしくは、魔力行使の不可能化という、大きな代償を負わせられることになる。
「そこまでして……私を……」
「安心して、約束は、守るから」
櫻は、再びアルファに微笑みかける。
屈託のないその笑顔を見て、アルファは、ついに、決心する。
この人なら、信頼できる。
きっと、求めていた希望は、これなのだと。
アルファはそのまま、欲望のままに、櫻の腕の中で眠りについた。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「魔法省と協力? ハッ。やっぱり頭お花畑のガキどもはお気楽でいいな! やっぱ生意気なガキは潰したくなるぜ」
そうぼやきながら、ポケットに手を突っ込みながら乱雑に歩く彼の名は、ゴブリン。かつては組織の元幹部として働いていた、魔族だ。
アストリッドに用済みだと言われ殺されかけた後、茜の手によってその命を救われた彼だったが、恩を感じることもなく、再び魔法少女たちに牙を向くことを考えていた。
そんな彼の元にやってきたのは……。
「ゴブリンさん、悪いけど、貴方のことは見逃せないっす」
メイド服の魔族、クロコと……。
「俺ァ前々からお前のこと気に食わなかったんだ。丁度いい機会だ。ここで終わらせてやる」
鷹の魔族、ホークだ。
「おいおい、まさか人間に協力するつもりか? 正気かよ」
「そうらしいぜ。ま、俺はどっちでもいいけどなァ」
「私は人間のこと、そんなに嫌いじゃないっすからね。人間と魔族の共存も、案外悪くないんじゃないかなって思ってるっす。けど、貴方はそうじゃなさそうなんで」
「ならいいぜ。かかってこいよ。俺に勝てるなら、だけどなぁ!」
ゴブリンは懐から、一つの道具を出す。
それは……。
「怪人強化剤!!」
ゴブリンは、その腕に怪人強化剤をさしこむ。
「さぁ! 殺し合いの始まりだ!!」
魔法少女たちの預かり知らぬところで。
魔族たちもまた、それぞれの思想のもと、対立を始めていた。