Memory116
「なるほど、その子達の生命維持装置を作ってほしいと」
俺は早速、カナ達のことを魔衣さんに話した。生命維持装置を作ることができるのは、多分この中だと魔衣さんだけだ。
「別に作れないことはないけど………今調達できる材料で、なるべくはやく作る場合、できて4つが限界だよ」
となると、愛の分は作れなくなってしまうのか……。かといって、カナ達の誰かを見捨てることはできないし……。
「クロ、僕のことは気にしなくていいよ。アストリッドに造られたからか、実はかなり持つんだよね、この体」
「嘘ついてないだろうな…」
「いや、そんなに急いで生命維持装置が必要なら、君と仲直りした時点で要求してるよ。あ、別に生命維持装置が必要ないってわけじゃないからね? あくまで優先度が低いってだけで」
「そっか。ならいいけど」
聞いている感じ、嘘はついてなさそうだ。というか、愛の性格的に、もし本当に今すぐ生命維持装置がないとヤバいのなら、全くの赤の他人より自分を優先しそうな気はするから、愛の性格的にも嘘はないだろう。
「助けに行くときは、僕もついていこうかな。一応僕も同じ人造の魔法少女ではあるからね。ま、弱いんだけどさ……」
「愛の友達作りにも丁度いいし、いいかもね」
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最近カナが笑顔でいることが多くなった。理由は知ってる。確か、クロって魔法少女が、私達を助けてくれるって約束してくれたんだとか。そう、この前やり合った、あの魔法少女だ。私としては直接会話したわけじゃないから、本当のところどうなのかはわからないけれど、聞いたところ、クロも私達と同じ魔法少女らしいし、信用はできるらしい。
ま、カナは私よりも鋭いから、騙されてる線はないと見ていい。といっても、カナは結構純粋な部分もあるから、感覚が鈍っていたら騙されるかもなんだけど。
私としても、このまま魔法省に使い潰される未来なんて嫌だったし、クロって子には感謝はしてる。
お礼はしておかないとね。
ちなみに、今はラカが見張りをしていて、私とタマ、カナは休憩中だ。
といっても、そろそろ交代の頃合いのはずなんだけど………。
ラカのやつ、またサボってるんじゃないかな。
「ラカと交代してくる」
私は2人にそう告げて、ラカが見張りをしている場所まで向かう。歩いていると、なんだか鉄の匂いがしてくるような気がする。なんでだろう?
そんな風に疑問に思いながら、ラカのいる場所まで向かう。
そこには……。
「う……そ………」
ラカが血まみれになって、倒れている姿があった。
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「タマ! カナ! た、大変なの!! ラカが、ラカが息してない!! し、心臓も動いてなくて……ち、血まみれで……私どうしたら!」
ラカと見張りの交代をしに行ったはずのナヤが、ひどく動揺し、カナ達に訴えかける。
「敵…!」
タマとカナは、すぐに敵襲だと判断し、武器を構える。
「ナヤ、おちついて。ラカのことは……あとで。いまはてきにしゅうちゅう。じゃないと、つぎにやられるのはわたしたちだよ」
「そう、だよね。落ち着かなきゃ。ラカ………。ううん、今はそれどころじゃない。敵に集中。よし。行ける」
ナヤはカナの言葉を聞き、深呼吸をして、自身を落ち着かせる。
「うんうん。冷静さを欠かせないのは偉いね。流石は私の……いや、ここまで言うとまずいか。ま、何にせよ、これで2人目かな」
カナとナヤが冷静さを取り戻しているうちに、敵はいつの間にかこちらへとやってきていたようで、その手には、タマの首が握られていた。
カナとナヤは、2人とも動揺を隠しきれない。
仲間の死、それもそうだ。今までずっと一緒に過ごしてきた、半ば家族のような存在が、目の前で殺されたのだから。
しかし、彼女達の動揺の理由は、それだけじゃない。
「あんた……私達を騙して……!」
「なんで………ゆびきり………したのに……」
ラカとタマを手にかけたのは……。
「ゆびきり? 何それ知らない。騙したも何も、敵なんだから騙される方が悪いでしょ。もっと頭働かせな」
カナ達を助けると約束したはずの少女、クロだった。
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「カナ、逃げるよ!」
私は、動揺して動けないでいるカナの手を無理やり引っ張り、その場から逃走する。逃げ足だけは、私の得意分野だ。
正直、今のカナじゃクロには勝てない。それが分かっているから、逃げるしかなかった。本当は、ラカとタマの遺体も、ちゃんと持っていってあげたかった。
逃げないと、はやく、どこか遠くへ。
誰か、助けてくれる人。誰でもいい。誰でもいいから、私達を…。
「げー。めっちゃはやいじゃん。追いつくのが精一杯だよ」
敵はどこまでも私を追ってくる。
どうする? このままじゃ2人ともやられる。
私だけなら、全然逃げられる。けど……。カナが………。
「おっ、急に止まった。何するつもり?」
「お前の相手は…………私がしてやる!」
だったら、私が囮になる。
怖くて足は震えてる。正直、今すぐにでも逃げ出したい。
けど……。
これ以上、大切な家族を失いたくない。
「ナヤ? 何して……」
「カナ、逃げて」
「なんで、ナヤをおいていけない……」
「いいから。逃げて」
「でも……」
「いいから。逃げろ!! 大馬鹿!! 私のことなんかかまうな!! さっさと逃げろバカ!!!!」
普段大声を出さない私に驚いたのか、カナは私の言葉に従って、拙いながらもこの場から逃げ出していく。
「凄いね。自分を囮にして、仲間を守ったんだ」
「私1人なら、あんたから逃げるのも簡単だからね。逃げる上で、カナは足手纏いだった。だから逃がしただけ」
「いつまでそんな態度が取れるか、見ものだね」
結局、私は最後まで臆病だったのかもしれない。
正直、ラカとタマが死んだ時点で、限界だった。
心が壊れてしまいそうで、感情もぐちゃぐちゃで、正直、これ以上仲間の死を見たくないって、そう思った。
だからこれは、逃げだ。
私は、カナの死を見たくない。
だから、私は先に死ぬ。
そんなことをすれば、カナが悲しむなんてこと、分かりきってるのに。
「ごめんね、カナ。最後まで、臆病な私で。でも、楽しかった。ありがとう」
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かつて、ナヤと呼ばれていた、槍使いの少女が、虚な目で血の海の中倒れ伏す。そんな様子を、楽しそうに見る少女が、1人。
「やっぱり最後は無様に命乞い、か。ははっ、あんなに勇敢だったのに、ダサいね」
「終わったみたいですね」
「あ、影。うん。終わったよ。いやーよかったよ、影がロキを回収してくれておいて。この能力、めっちゃ便利。使ってみたら案外面白くてさー」
瞬間、少女の姿が霧に包まれる。
クロと呼ばれる少女の姿に変身していた少女は、また別の少女の姿へと戻っていく。
「お疲れ様でした。ミリュー様」
「やっぱ慣れないなぁ。その名前。いっそのこと開示しちゃおうかな。私の本当の名前」
「……? しかし、1人とり逃してしまっていますが、いいのですか?」
「別にいいよ。どーせ“失敗作”だし。それに、あの子多分、勘違いしたままだろうからさ」
「と言いますと?」
「面白いものが見れるよ。やっぱり、人間の絆っていうのは崩してなんぼだよね。ほんと、理解できないよ。他者とわかりあうなんて。他人より上に立った方が、絶対気持ちがいいのに」
ミリューは笑う。
その笑みは、お世辞にも少女らしい純朴さは感じられない。
「……少し昔のことを思い出しちゃったな」
「昔のこと……ですか?」
「うん。まだ私が、いい子ちゃんぶってた頃のこと」
「それは、ルサールカ様……ルサールカに従順だった頃のはなしでしょうか?」
「さあ? どうだろうね……」
ミリューは……。いや、ミリューではない誰かは。目を閉じ、懐古する。
「いい子ちゃんぶってるのは、君も同じか。ねぇ、クロ……。いや…………黒沢君」
黒沢始・・・クロの前世。シスコン兄貴。