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Memory113

タマ、ラカ、ナヤ。3人の魔法少女を倒した今、残るのは双剣使いのカナのみだ。最初に戦った時と比べて、相手の戦力は単純計算で4分の1。ここまで来れば、追い詰められることはもうないはずだ。


「降参した方がいいんじゃない? 仲間は全員倒されてるけど」


俺としては、ここに気絶した魔法少女達を放置していくのは少し罪悪感があるし、できればここで降参して、3人の魔法少女と一緒に退いていてほしいって考えなんだけど……。


「引く気はなさそうだね…」


ダメか…。なら仕方ない。

なら、こっちも本気で…。


「なっ…!」


さっきまでカナがいた場所は、既に誰もいない。俺が気づいていない間に、カナは移動していたのだ。俺の背後に。

咄嗟に後ろを振り返り、『還元の大鎌』を横に薙ぎ払うが、既にカナはそこにはおらず……。


「向こうか!」


今度はタマが気絶している場所に移動していた。その手には、先程まで握った双剣ではなく、タマが使っていた大斧が握られている。


「まさか……」


カナはそのまま、大斧を振り回し……。


華奢な腕で、その大斧を俺に向けて投げつけた。


「無茶でしょそれはー!!」


どこにそんな怪力があるのか。とにかく俺は全力で走って斧の射程から外れる。


「はぁ………はぁ…………」


本当にただの魔法少女じゃない。めちゃくちゃ強いんだけど? っと、そんなことより、カナの居場所は…。


「わたしのかち」


気づけば、カナは再び俺の背後に回っていて。


俺が振り向いた時には、既に彼女は手に持つ双剣を、俺の眼前まで迫らせていた。


ああ、これ無理だ。

“ブラックホール”での回避は間に合わない。横も後ろも、逃げるスペースは十分ある。が、今の俺の体勢的に、とても避けれる状態ではない。ここが、死に場所になるのか。油断していたのかもしれない。普通の魔法少女になら、負けないだろうと。相手にそんなに強い奴はいないだろう、なんて。そう思ってた。


心なしか、カナのむけてくる双剣のスピードが、遅いような気がする。まるで減速しているかのようなスローモーションだな、なんて……。あれ、本当に減速して……。


「な、なんで、そんなはず………」


気づけば、カナは俺の顔面手前でその双剣を止めていて、ひどく動揺した様子で、その場に立っている。特に俺が何かしたというわけではない。じゃあ、なんで彼女は…。


「あなた、わたしたちとおなじ……」


おなじ?


「それって、どういう……」




「グアァアアァアッァアアアアアアア!!!!」





突然、大きな咆哮が、俺とカナの耳に届く。

2人して、音の聞こえた方向へと目を向けると、そこには…。


「怪人……」


二足歩行の大きな熊型の怪人。


「い、いったんたたかいはちゅうし。あのクマをやっつけないと」


「分かった」


怪人を見て、カナは俺との戦闘を中止し、怪人を先に倒そうと提案してくる。一応俺、悪の組織の魔法少女として魔法省からは認知されてると思うんだけど、この子そのこと忘れてないだろうか? 俺が本当に悪の組織の魔法少女なら、今ここで怪人と一緒にカナを叩き潰していたところだったし、普通にピンチの状況だったんだけどね。危機感あんまもってなさそう。


「わたしがひきつける。だから……」


「いーや。お…私がでるよ」


確かにカナは強い。近接戦も得意だ。けど、流石にそんな危ない役回りをさせるわけにはいかない。彼女の持つ短めの双剣じゃ、あの図体のでかい熊に対応できなさそうでもあるし、ここは俺が熊の相手をするべきだろう。


「あぶないよ」


「大丈夫。それに、作戦ならある」


「さくせん?」


あの大きな熊にダメージを与えるには、今の俺じゃ少し難しい。けど、カナならそれができる。

先程俺に向かって投げつけた、大きな斧。あれであの熊型の怪人に一撃を加えれば、かなり大きなダメージを与えることができるはずだ。


「タマって子の武器。あれで熊にとどめをさしてほしい。陽動は引き受けるから、お願い」


「うん。わかった」


物分かりが良くて助かるな。さっきまで敵対していたのに、すごい素直だ。さっきまで殺そうとしてなかったっけ? まあいいや。やりやすいに越したことはない。俺は大鎌を持ち、熊と対峙する。


「うへぇ〜。でっかい…」


正直ちょっとびびってます。まあ、守りに徹すればいい。攻める必要はないからね。


「来い、熊野郎!!」


大熊は血走った目をこちらに向けたと同時、その拳を振り上げ、俺に向かって振り下ろす。が……。


「遅い!」


正直避けるのは簡単だ。あの熊、二足歩行なんてしてる割には足が遅い。

あ、でも火力は凄いや。さっき熊が振り下ろした場所、ひびはいってら。


「当たったらひとたまりもない……」


でも逆に言えば、当たらなければどうということはないってやつじゃないかな? 地面は悲惨なことになるけど。そういや今俺仮面つけてるな……。


「やーい間抜け! 悔しかったら当ててみろーい!」


熊は俺を追って、何度も何度も拳を振り下ろす。うん。やっぱり、鈍足だし、下手な行動をしなければ熊の攻撃は当たらないような気がするね。まあこれは俺が守りに徹しているからっていうのが大きいんだろうけど。実際に攻めようとした場合は、多分どこかしらで熊の攻撃は喰らうことになりそうだ。いくら遅いっていっても、それは避けに徹した場合の話だからね。実際こっちから仕掛けようとすると、熊の攻撃は割と厳しいものになってるような気はする。


多分1vs1かつ近距離戦想定した怪人なんだろうなと予想。遠距離相手だと手も足も出なさそうだし、2vs1だったら今俺とカナがやってるみたいに、1人が陽動をしてもう1人が攻撃みたいな風に動けばどうにかなりそうだし。


と、そんな風に熊の攻撃を避けながら考え事をしていると、気づけばカナが大斧を大熊に対して振り下ろしており……。



「アグァアアアアアアァアアアアアッァァァァアアアアア!!」



大熊は絶叫し、その場で崩れ落ちるようにして倒れた。


大熊は倒したけど、ここからどうするんだろうか。戦闘再開の流れか、それとも……。


「なまえ」


「へ?」


「なまえ、なんていうの?」


「クロ、だけど」


「わかった。クロ、かえって」


名前聞かれたから、もしかしてこれから仲良くなる流れなのかなとか一瞬期待しちゃったんだけど……。

帰って、だと……。今共闘してちょっと絆が生まれる的な流れじゃなかったの? 期待してたのに……。


「かえって。じゃないと、わたしはクロをころさないといけなくなる」


って思ったけど、どうやらカナは別に俺が嫌いでそう言ったわけじゃないらしい。いや別に、そこまで深い関わりがあるわけでもないから、嫌いじゃないだけで、好きでもないんだろうけど。


でも、俺は『原初』の魔法少女を探さなきゃいけない。それが、この街や茜を救う鍵になるかもしれないから。

あとちょっとだけ、シロの洗脳を解く手がかりが手に入るかもなんて勝手に期待している節はあるけど、まあ多分ないだろうな。


「ごめん。帰れない。『原初』の魔法少女を探さないと。それに、殺したくないなら殺さなくてもいいと思うけど……」


「それは……できない。ころさなかったら、わたしたちがころされる……」


それは、魔法省に、ってことだろうか?


いくらなんでも、それはおかしいだろう。魔法少女だろうがなんだろうが、人間であることには変わらない。ミスしたからって、普通殺すなんてことしないだろう。それに、仮に魔法少女を任務のミスなんかで殺したら、家族が黙っていないだろうし、そもそも国としては魔法少女を1人失うことになるから、悪手のはずだ。


「殺されるって、それはないと思うけど……。そんなことしたら、世間からの非難は免れないと思うし……」


「どうせわたしたちのそんざいなんて、みんなしらないから……」


「どういう……こと……」


まさか、さっきの同じって発言は……。


「わたしたちは、魔法省でじんこうてきにつくりだされた、じんぞーにんげんだから…」


カナの口から出されたのは…。

協力できると思っていた魔法省の、闇の部分そのものだった。

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