Memory111
ゾロ目じゃ〜
魔法省の持つ倉庫に、その最奥の部屋を調べるためやってきた俺だったが、やはりそう簡単には入れてくれないらしく、倉庫の入口前には4人の魔法少女の姿があった。
「カナ。多分アレ、報告にあった奴だよ」
「わかってる。ころす?」
「私達に殺す以外の選択肢はないよ。命令されたでしょ? 外敵は何があっても殺せって」
「……始末する」
まあ、明らか道を開けてくれそうではないな。
そして見たところ、全員何かしらの武装をしているようだ。カナと呼ばれた少女は、短めの双剣持ち。両隣に弓矢使いと槍使い。寡黙そうで首元が襟に隠れた少女は背中に大きな斧を背負っている。君達、本当に魔法少女? 誰1人としてステッキ持ってないんだけど。いや、そういう俺も大鎌だから人のこと言えないんだけどさ。
ふー。仕方ない。予定通り、『還元の大鎌』で魔法少女の魔力を全部奪って無力化した後、倉庫の奥の部屋に侵入するしかなさそうだ。
ユカリから貰った仮面をつけ、俺は『死神』になる。
なんて、カッコつけて言ってはいるが、まあ普通に気分転換だ。今まで死ぬか生きるかの戦いばかりだったが、今回に関しては、そうでもなさそうだからね。勿論、油断はしないけど。
俺が仮面をつけ、大鎌を取り付けている間に、カナと呼ばれた少女は俺の目前にまで迫っていたようで、殺気の籠った目をしながら、俺の首元にその双剣を向ける。
………っぶねぇ………。
咄嗟に後方に避けたから何とかなったものの、もし少しでも反応が遅れていたら俺の首が飛んでいた。さっきの発言は撤回しないとな。今回は魔衣さんの手で力が制限されているから、『動く水』で相手の攻撃を無効化することができないんだった。
にしてもあのカナって子、あまりにも気配がなさすぎる。
「いまの、ぜったい仕留めたとおもったんだけど。よけたんだ。でも、べつにいいよ」
瞬間、カナの後方から、俺めがけて複数の矢が放たれていた。
「ころすのは、わたしじゃなくても」
そうだ、敵は4人。それも、1人ずつ相手してくれるわけじゃない。
俺は、“ブラックホール”を展開して、敵の矢を取り込む。
「おぉ! かっこいい……」
「そりゃどうも!」
まずはこのカナって子から無力化する…!
俺は、『還元の大鎌』をカナに向けて振るうが……。
「後ろがガラ空きだよ! ブラックガール!!」
後方からの攻撃っ!
いつのまに背後に回ったんだ。いや、そんなことはどうでもいい。とにかく逃げないと……!
「始末する!!」
槍を持った少女とカナと呼ばれる少女から距離を取るため、横へ受け身を取りながら転がる俺だったが、そこにピンポイントで大きな斧を持った少女が、俺に向けてその大きな暴力を振るう。
まずい………これは避けれな
その場は一瞬にして煙に包まれる。
周囲の地面には亀裂が走り、その斧の破壊力がどれほどのものかを知らせるいい指標となっていた。
「決まったー!!!! 今までタマの一撃をモロにくらって生き延びたやつは、誰1人としていない!! いやまあ、怪人にしか使ったことないから、1人って表現はおかしいんだけど」
「ナヤもありがとう。おかげでわたしもぶじにすんだ」
「ラカが弓で奴の注意を逸らしてくれてたからね。おかげで気づかれずに背後に回れたよ」
「そうだね。こちらとしても助かった。君達が無駄にはしゃいでくれたおかげで、気付かれずに1人始末できた」
「なっ」 「そんな……」
ああ、本当に危なかった。あの一撃、正直モロに受けてたら死んでた。それぐらい威力のある攻撃だった。ほんと、魔衣さんは簡単に言ってくれたけど、魔法少女って時点で十分危険なんだよね。
一か八かの賭けに勝ったからよかったものの、成功しなかったら今頃俺の体はミンチになってたところだ。
でも、まさか上手くいくとは。“ブラックホール”に自分自身を収納するなんてさ。
「タマ……」
「悪いけど、こっちも急いでるんだ。早めに終わらさせてもらうよ」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
裏切り者であるロキの行方を探るため、オーディンはひとまず魔法省へ向かおうとしていた。魔法省に組織の幹部であるミリューが出入りしているのは知っていた。だからこそ、ミリュー経由でロキの動向を探れるかもしれないと、そう考えたのだ。
しかし、何事にもイレギュラーは存在する。彼が魔法省へ向かう上での障害は、本来であれば0だった。現在魔法省へ向かっている束や魔衣は、アストリッドとの戦闘で負傷しているため、万が一鉢合わせても対処が可能だし、クロの方と出会っても、クロはクロで力をセーブしている状態である。そのため、オーディンの障害は何一つなかった。
……彼さえいなければ。
「そこの者。クロという名の魔法少女を知らないか? 探しているんだが」
オーディンに話しかけてきたのは、中高生くらいの青年だった。オーディンの記憶には残っていないようだが、彼の名は辰樹。魔法少女達と行動を共にしていた一般人、のはずだが……。
「おい、質問が聞こえないのか?」
辰樹を知っている者であれば、人が変わったかのようだと思うだろう。だって以前の彼は、ここまで高圧的ではなかったのだから。
「ガキの相手をしている暇はない。悪いが他をあたれ。クロなんて奴、オレは知らん」
オーディンは彼の異変に気付くことはない。そもそも、彼のことを詳しく知らないのだから。
今のオーディンの興味は、ロキのことだけである。しかし、オーディンはこの後、後悔することになる。
もう少し、彼に意識を向けておくべきだったと。
「ガキ……か。俺からすれば、お前の方がガキだぞ。無礼者」
彼がそう言った瞬間、オーディンの四肢が吹き飛ぶ。
四肢をなくしたオーディンの体は、そのまま地面へとべちゃりと、不快な音を立てながら落ちる。
「は……?」
突然の出来事に、オーディンも唖然としてしまう。痛みが来るのは、数刻遅れてからだった。
「あ、あがぁあぁあああぁぁっぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
「ふん。久しぶりに表に出ることができたと思えば、いきなり魔王に不遜な態度をとる輩と出会うとはな。暫く力を示していなかった弊害か……」
「はぁ……あぐ…………はぁ………ま……おう……だと……」
「何だ、気がついていなかったのか? 無礼な奴ではなく、ただの間抜けであったか。あーそういえばお前の顔、見たことがあった。プライドの高いやつだったな、確か」
魔王は何でもないことのようにそう呟く。
オーディンは、改めて彼……魔王の魔力の質を確かめる。
よくよく調べれば、どこからどう見ても、彼の魔力の性質は魔王のそれであった。
少しでも気をつければ、すぐに気付けたことだったろう。しかし、オーディンは裏切り者に夢中で、気付くことができなかった。
「ただのまぬけならば、まあ許してやろう。ただし、俺の質問に答えろ。クロという魔法少女の所在を知らぬか?」
「はぁ……はぁ………なんで………そいつを……さがして……」
「何だ? 将来の嫁を探して何か悪いか?」
「…………は? よ……めだと………あの……まおうが……?」
「不満か?」
(魔法少女を嫁だと? あんなガキの何がいいっていうんだ………)
「おい、今、無礼なことを考えたな?」
瞬間、オーディンの胴体が弾け飛ぶ。瞬殺だった。たった一瞬、魔法少女のどこがいいんだと、そう考えただけで、オーディンは殺された。
「『グングニル』か。残しておいて得することはない。壊しておくか」
魔王は、オーディンの持っていた『グングニル』を、いとも容易く破壊する。まるで、そこら辺にいる蟻を、気まぐれで潰してしまうかのごとく。
「興味のない奴はとことん覚えられん。俺の悪い癖だな。しかし、まさか俺が嫁にしたいと思う相手が、人間とはな……。この体の影響か……。やはり肉体は精神に影響を及ぼすのか? まあいい。久しぶりの外だ。じっくり堪能するとしよう」
歩く理不尽が、解き放たれる。
暴君・魔王の足は、魔法省へと向かっていた。