表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/172

Memory100

状況を整理しよう。

まず、アストリッド、シロ、光の三人がいた。敵だね。

で、こちら側の戦力は茜だけだったわけだが、マドシュターちゃんが乱入してきた。そして結果的にこちらの戦力にマドシュターちゃんが加わって、茜は辰樹と愛を運ぶために戦線離脱。で、敵側の光は腰を抜かしていたわけだから、事実上アストリッド&シロvsマドシュターちゃんの戦いが始まったわけだ。


まずマドシュターちゃんがシロの光の防御壁を打ち破って、そのままアストリッドの脳天をぶち抜こうとしたわけだけど、アストリッドが時間停止の魔法でマドシュターちゃんの攻撃を避けたことで、失敗。その時、アストリッドは(クロ)の近くまで時間停止でやってきていて、そのまま俺を人質にした。


そして、ここから何が起こったか、なんだが……。


まず、今現在の状態を考えてみよう。

俺は今、マドシュターちゃんに片手で抱えられた状態で、屋根の上にいる。さっきまではちゃんと地上にいたのに……。

さっきまで俺がいた場所には、アストリッドとシロが立っていて、下から俺とマドシュターちゃんのことを睨みつけている。


マドシュターちゃんの手には、さっきアストリッドが俺の首元に突き立てていた、血狂いの魔刃(吸血鬼のナイフ)が握られている。アストリッドから取ったんだろう。


そして、先ほどのマドシュターちゃんの発言。『私も使えた』という部分についてだ。

話の流れ的に、時間停止の線が濃厚だろう。つまり、マドシュターちゃんはあの時、時間停止を使っていたのではないだろうか?


以上のことから、さっきの状況を説明してみると。

まず、マドシュターちゃんは人質になった俺を助けるために、時間停止の魔法を使い、アストリッドが手に持っていたナイフを取り上げた。


その様子を見たアストリッドとシロが、反射的にマドシュターちゃんに攻撃を加えようとするが、マドシュターちゃんは攻撃をくらう前に時間停止の魔法を使い、ついでに俺を抱き抱えて屋根の上まで登った、とか、そんな感じだろうか。


いや、何が起きてるんだほんとに。


「よーしっ! 人質も助けたし、今から本気、出しちゃうぞー! 本気本気!!」


マドシュターちゃんはぐーんと伸びをしながら、呑気な声でそう告げる。というかむしろ今まで本気じゃなかったのか。


「本気、かぁ。君、さっきから調子に乗っているみたいだけど、言っておくが、(アストリッド)もまだ本来の実力の7割も出していない状態なんだ。本気を出せば、私は君のことだって……」


「私は3割くらいかなー。うん。3割3割」


「……………」


アストリッドが急に物凄く小物に思えてきたのだが、大丈夫だろうか。

いや、だが油断はできない。あのアストリッドのことだ。


勝てる、勝った。そんな状況に持ち込んだとしても、奴はしぶとかった。今回もマドシュターちゃんが規格外の力を持っているみたいだが、それでもどうなるか分からない。


「アストリッド様。(シロ)があの生意気な小娘をやります。アストリッド様の手を煩わせるまでもありません」


シロ、すっかりアストリッドの眷属に染まってしまってるな…。

最悪、アストリッドは倒せなくとも、シロだけでも取り戻したい。もう一度、2人で笑い合っていたあの頃に、戻りたい。


それを叶えるためには、他人(マドシュターちゃん)の力を借りるしかないわけだけど。


「マドシュターちゃん、シロは洗脳されてるだけだから、あんまり痛めつけないであげて」


ってあれ? 無視? マドシュターちゃんが反応してくれない……。助けたのは助けたけど、別にお前と仲良くしたいわけじゃない的な……?


「マドシュターちゃん……?」


「マドシュターって、誰のこと?」


あっ……。

そっか、マドシュターって俺が脳内で勝手にそう呼んでるだけで、別に実際の名前じゃなかったんだった。

本当の名前は、えーと……。


「マジカルドラフトシュールスターちゃん?」


「マジカルドラゴンシュートスター!! 名前は大事だから覚えて! 大事大事!」


と、そうだったそうだった。

確かに、名前は大事だ。えーとドラゴンシュートドラゴンシュート。うん。多分覚えた。多分多分…。


でもやっぱりマジカルドラゴンシュートスターは長いから、頭の中ではマドシュターって呼んでおくね。


「クロ、楽しそうだね」


「シロ……」


「クロが楽しそうだと、私も楽しい。クロも一緒でしょ? 分かるよ。私もそうだから。だから、幸せを分けたいって思った。アストリッド様の眷属になれば、幸せになれる。だから、私はクロに幸せになって欲しいから、アストリッド様にクロを差し出す。大丈夫、絶対に幸せになれるから」


いくら洗脳されたといえども、根本のところはやっぱりシロなのかもしれない。

クロに幸せになってほしい、そういう想いは、元々シロが持っていたものだろうから。


でも、残念だけど、シロの願いは叶えられないだろう。

いや、シロの言う俺の幸せと、俺が思っている俺の幸せは根本的に異なっているんだ。


それは、シロが洗脳されてるとか、されてないとか関係ない。元々のシロの考えから、違っていたんだ。


だって、シロ。俺はもう……。


「いざじんじょーに勝負じゃー!!」


「すぐに後悔させてやる。私達に逆らったことを!!」






☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★





魔法少女マジカルドラゴンシュートスターが登場したことで、その光景を見ていた櫻達もまた、戦いの手を止めていた。


「人間と魔族は、あんな化学反応を起こすものなのか」


そう言葉を発するのは、先ほどまで櫻と死闘を繰り広げていた組織の幹部が1人、ノーメドだ。


「まさか……メナちゃんと美鈴ちゃんが、あんな風になるなんて……」


そして、櫻とノーメドは、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターの正体に気づいていた。


その正体は、人間と魔族のハーフ、龍宮メナと、櫻のことをしたっている魔法少女、真野尾美鈴の2人が、1つになった姿だった。彼女達の魔力は互いに惹かれ合い、混じり合い、2つであったものは完全に一つの個となって、新たに強力な魔法少女として誕生し直したのだ。


2人にあったのは、強い絆だ。魔族だとか、人間だとか、そんなものを一切気にせず、互いに、個として、『龍宮メナ』という個と、『真野尾美鈴』という個としてお互いを認識し合ったことで、起こった化学反応。


それが、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターの正体。人間と魔族の強い絆の力によって生誕した、最強の魔法少女。


はっきり言って、櫻は魔族と人間の共存を理想としていながら、心のどこかで、不可能ではないかと、そう諦めていた節があった。


誰にも頼れず、1人で抱え込み、そしていつしか、ただ亡霊のように、ただ、過去の自分が追い求めていた理想を、惰性で追い求めるふりをし続けているに過ぎなかった。


だが、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターを見たことで、彼女の心境は変わる。


示されたのだ。魔族と人間の、強い絆の形を。

種族の垣根を越え、限界をも突破した姿を。


「龍宮さん、あれが、魔族と人間が分かり合える道です。メナちゃんが………貴方の娘さんが、たった今示してくれました」


2人とも、戦意などとうに消えていた。

互いに消耗し切っていたからというのもある。だが、これ以上自分達で傷つけ合うのは、無意味だと、そう感じたから、やめたのだ。


「本当は、誰よりも望んでいた。だが、俺はもう、人間を信じることができなくなった。一度人間を信じ、裏切られたあの時から。だが、あの子なら………メナなら、人間と、魔族の、架け橋になってくれるのかもしれない……。俺にできないことを、あの子ならやってくれるだろう」


そう言って、ノーメドは自身の武器をしまう。


「龍宮さん!」


「俺はもう戦わない。メナに全てを託す。ただ、一つ頼みがある。メナと美鈴という娘の合体は、そう長くは持たないだろう。そのうち瓦解する。だからその前に、助けに入ってやってくれ」


「龍宮さん……それなら、貴方も一緒に…」


「もう、娘に合わせる顔がないんだ。父親失格なんだ。だから、俺はいけない」


そうして、ノーメドは櫻を残し、この場から去っていった。


「メナちゃんは、私が絶対に守る。あの子は、皆の希望だから」


櫻は決意する。孤独ながらに、しかし力強く。


もう、彼女の心には。

迷いなどなかった。


マジカルドラゴンシュートスター……なっが……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ