プロローグ
プロローグ
俺は今、紫色のステッキを持って街中を破壊し回っている。
隣には一緒に街を破壊している怪人。周りには逃げ惑う人たちの悲鳴が飛び交っている。
何故俺がこんなことをしているのか。
経緯は簡単。
前世で何かしらの理由で死んだ結果、転生して魔法少女になった。
ただそれだけ。
俺が新たに生まれた世界は魔法少女モノの世界だったのだ。そして俺が所属している悪の組織は武力を持って世界征服を目論む典型的な悪い奴らだ。
生まれた時、生活感のない部屋で知らない銀髪の女児と二人で入れられた時はものすごく不安だった。聞けば銀髪の女児は双子の妹らしい。
名前をシロ。ちなみに俺の名前はクロだった。犬かな?
シロと俺は毎日只管魔法の訓練を受けさせられた。
12歳になる頃にはシロも俺も魔法の使い方を覚えていた。
だがある日、俺は幹部クラスの奴らの中の一人がつぶやいた言葉を聞いてしまった。
ーーー優秀じゃない方は処分しようーーー
シロには聞こえていない。訓練に夢中だ。
しかし俺は聞いてしまった。
死にたくはない。けれどシロを見殺しにしたくはない。
シロと一緒に逃げる。それも考えた。けれどどう考えたって幹部の奴らには勝てない。
俺とシロには常に幹部のうち誰か一人が付き添っている。
隙を見て逃げるって言うのも無理そうだ。
だから覚悟した。
どうせ一度死んだ身だ。
俺の代わりにシロが生きてくれるのならそれで構わない。
「クロ、どうしたの?」
シロが首を傾げて尋ねてくる。ーーーやっぱり生きていてほしい。
「なんでもないよ」
俺はそう呟く。次の日から、俺は手を抜いて訓練に臨むことにした。
案の定、俺とシロには実力に差が出始めた。
シロはメキメキと魔法の腕を伸ばしていっている。
対する俺も魔法の腕は伸びているにはいるが、シロほどではない。
このままいけば、俺は助からないんだろう。
正直死ぬのは怖い。
なんだかんだで今回の生も楽しかったのだ。
主にシロのおかげで。
たくさん笑ったし、喧嘩もした。
二人で生きていけるならそれが一番良い。
でもそれが叶わないなら、せめてシロだけでも助かってほしい。
それが俺の素直な気持ちだった。
ある日、シロが幹部の1人に呼び出された。
なんでも、かなり実力がついてきたから、外出と魔法少女との戦闘を許可すると。
もちろんこの世界では正義の味方として魔法少女がいる。
俺とシロも魔法少女ではある。が普通は魔法少女というのは世界の平和のために活動するものなのだ。魔法少女といっても数はとても少ないのだが。
そういうわけで、シロは魔法少女との戦闘を開始した。
俺はいつ殺されるんだろうーーーとヒヤヒヤしてきたが、どうやらまだ殺されないらしい。
シロは優しい性格だ。本当は悪の組織に所属して世界征服なんてしたくないだろう。
だからいつか寝返るかもしれない。そんな時、俺がいれば、人質に使えるというわけだ。
そして結局シロは寝返った。
正義の味方の魔法少女と共に悪の組織と戦うことを選んだようだ。
しかし、それを聞いた幹部の1人が怒り狂って人質であるはずの俺を殺すことを他の幹部に提案した。
そのことを聞いた時、俺の中には死にたくないという気持ちが強く現れていた。
言っておくがこの時までは正直シロの為に死ねると思っていた。
たが、死を目前にすると人間考え方を変えるモノだ。
だから俺はプライドもなにもかも捨てて幹部達に泣いて媚び諂った。
お願いします。殺さないで
なんでもします。組織のために働きます
絶対に裏切りません。
そして、幹部たちが話し合った結果、訓練をして悪の組織のためにその力を振るうことを条件に生かしてもらうことになった。
シロの前例があったからだろう。俺には裏切らないように自爆装置が体内に取り付けられた。もし魔法少女側に寝返ったら即座に爆発するらしい。
そんな経緯で俺は悪の魔法少女をすることになった。
物思いに耽りながら街を破壊しているとこちらに向かってステッキを構える複数の少女たちの姿があった。
「ひどい……どうしてこんなひどいことができるの!?」
そう叫ぶのはピンク色の髪と髪の色と同じステッキを持った少女だ。
マジカルピンク。
魔法少女の1人だ。
周りを見ると他にも五人程魔法少女の姿があった。
その中にはシロもいた。
他の魔法少女は無視してシロにだけ話しかける。
「久しぶり。シロ。元気にしてた?」
久しぶりの再会だ。なるべく笑顔で接する。
だがシロの顔色はよくない。
「クロ……? クロ……なの……?」
「そうだよ。当たり前だよね。シロは魔法少女達と一緒に戦うことを選んだんだから、当然私は敵としてシロと対峙することになる。考えなかったの?」
「クロっ!今すぐこんなことやめて!」
「それはできない」
「っ! どうして……」
「真白、これ以上話しても無駄だわ。どういう関係だか知らないけど、今のアイツは敵、戦うしかないのよ」
赤髪の少女が言う。
真白か。どうやらちゃんとした名前をつけてもらったらしい。
安心と、少しの嫉妬。
俺は紫色のステッキを魔法少女達めがけて振るう。
流石に6対2では分が悪い。
俺は怪人を囮にして、この場を撤退することにした。
かなり暴れたし、幹部の奴らも許してくれるだろう。
「またね、シロ」
月の光に照らされた俺のステッキは不気味に、そして少し寂しそうに輝いていた。