表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/35

十七之皿 『ミズン&センネンダイ/矜持②』

今作は次回で完結予定、頑張ります。

十七之皿 『ミズン&センネンダイ/矜持②』


翌日、オレと星野さんが眼を覚ましたのは殆ど同時。

黙ったまま、二人で軽い朝食を食べた後、釣りの準備を調えていく。


星野さんはルアー。ロッドはミディアムパワーの9フィート。

ルアーが違うだけで、オレも殆ど同じセッティング。


当然、サビキ仕掛けも用意してある。

昨日より小さな釣り鉤にオーロラ巻き、幹糸も細い。


フィッシュイーターのリミットは二人1尾ずつ、2尾に設定した。

ただし、サイズによっては1尾で終了(これは相談してから判断)する。

フィッシュイーターが釣れなくても1時間後にはターゲットをミズンに変更。


今日の晩御飯にも、瞳ちゃんは間に合わない。

けれど、ミズンのリミット設定は50尾のまま。

今夜は釣れたミズンを全部刺身にする。

これは刺身をガンガン食べたいという星野さんの希望。


昨夜、二人で相談して決めた通りに。



夜明け前。昨日の港、西堤防の先端に入ったのは4時少し過ぎ。


凪いだ港は未だ暗い。二人並んで歩き、堤防の先端に立つ。

流石に昨日の今日だからか、俺達の他に人影は見えない。

静まり返った雰囲気、思わず声を抑えた。


「ベイト、未だ入ってませんね。」

「昨日と同じなら、あと30分位かな。釣り場は確保できたし、待つだけ。」


前髪を掻き上げて沖を見詰める横顔。

釣り竿を手に、背筋を伸ばした立ち姿が凜々しい。

吸い込まれるように、見惚れてしまう。


掛け値無しに綺麗な人。ホントに、勝るとも劣らない。

そう『あの人』にも、『姉さん』にさえ。


いや、集中。今は釣りに集中しないと、星野さんに失礼。


だって星野さんは心から信じてるんだ。

昨日と同じくベイトが港に入る、フィッシュイーターがベイトに付く。


そしてオレも、鮮明にイメージ出来る。

『時が来て』星野さんがルアーを投げれば、必ず『釣れる』と。



そのまま十数分。星野さんが肘でオレをつついた。


「何で私を見てるの?照れ臭いよ。」

「ええと。凄くキレイだなぁと思って。その、オレの彼女は。」


星野さんの頬、赤く染まるのが見えた。

空が少し、明るくなってる?


「凄く嬉しいけど、続きは後で聞かせて。ほら。」


星野さんが指差した方向に眼を凝らす。

50m程先の海面に潮目、その周辺に微かなざわめき。


「来ましたね。」 「来たね、予想通り。」


星野さんが手元に視線を落とす。


「短いワイヤーリーダー、スイベルにスプリットリング。

前にマルコバン釣った時と同じセッティング。

ノットは昨夜、司君が結んでくれたし。凄い安心感。」


星野さんは微笑んでいるけれど、そのセッティングに確実な根拠は無い。


短くてもワイヤーリーダーで食いが落ちる可能性。

スプリットリングが千切られる可能性。

それは、釣り番組の『レジェンド』と呼ばれている人の意見。

オレのセッティングとは多分相容れない。


海面を割った小さなダツに50lbのフロロを呆気なく切られた。

正体不明の魚にスナップを捻じ切られた。

それらの、数少ない経験だけが、オレの根拠。


なのに星野さんは、アッサリ同意してくれた。

オレを、オレの経験を信頼してくれたんだろう。


ゆっくりと明けていく空。ベイトの大群は港の入口に近付いてきた。


もしも星野さんの信頼を裏切る事になったら...いや、大丈夫。

きっと、この人は釣る。そう、オレのセッティングなんか関係無く。



「約束通り、最初は司君ね。頑張って。」

「了解、です。」


最初に投げるのはオレ。

星野さんは、それだけは決して譲らなかった。

ペイトの大群は西堤防と東堤防の真ん中近くから港内に移動中。


ナブラが沸いてる感じじゃ無いけど、最初は定番のルアー。

港内に向かって来るベイトの大群。

その殿しんがり方向を目掛け、ペンシルポッパーをキャスト。


ゆっくり、リズム良く、ポッパーを動かす。

エラのような構造を通った水流が作る泡を意識して。

しかし、水音や泡に驚いたのか。ベイトの群れはポッパーを避けた。


足下までしっかりアクションさせて回収。そのまま2投目、3投目。


「ベイトの周りは静か。トップでは反応が無いですね。」

「未だフィッシュイーターは付いてない?」

「いや。これだけの大群、絶対に様子を見てる筈。」

「じゃあ司君の予想、プランBだね。ジグを沈めて探ろう。」


不意に、星野さんはオレの肩に頭を預けた。


「この竿貸してあげる、司君が投げて。」

「いや、星野さんが。計画通りに。」

「ホントに、良いの?」

「勿論です。タモ入れは任せて下さい。」

「もう、プレッシャー掛けるのやめてよ。釣るのが当たり前みたいに。」


すい、と。星野さんが右足を引く。

夜明け前の淡い光を纏って、細い体が揺れた。

限界まで引き絞られた弓みたいに、ロッドが撓る。

一瞬の後。

シンプルなシルバーのジグが、未明の空気を裂いて飛んだ。


やがて。左手の細い指が、ラインをコントロール。

ジグをフォールさせてカウントダウン。フォールは多分、5m位。


滑らかなリトリーブとロッドアクション。

リフト&フォールを繰り返しながら、ジグは少しずつレンジを上げていく。

丁度ベイトの群れに追い付く頃、ジグは群れの下へ入る。

そして、星野さんの身体が跳ね上がりロッドが大きな弧を描く。


既視感デジャブ

そう、予想通りに。これまで通りに、星野さんは『釣る』。


数秒後、未明の港に響くドラグ音。


ほら、思った通りだ。

いよいよオレの出番。タモを片手にランディングポイントへの距離を確認。


ランディングポイントも、昨夜二人で相談して決めた。

西堤防の内側。漁船へのアクセス用に設置された階段の1つ。

堤防先端に一番近く、近くに係留されている漁船のロープの位置も好都合。

港の外から魚を寄せて来たら階段降りてタモ入れ、障害物はない。


ヒットから数分。

断続的なドラグ音から、中々のサイズだと分かる。

星野さんは強烈な引き込みを上手くいなし、徐々に魚との距離を詰めていく。


ただ、昨夜の予想と違う点が有る。

予想していたのはヒラアジの仲間かバラクーダ。もしかしたらハマフエダイ。

それなら魚は一直線に、或いは左右に方向変換しながら。

どちらにしても海面近くを沖へ向かって...


だけど沖へ伸びるラインの角度が、かなり深い。

沖へ走るのでは無く、海底に潜ろうとしているのか?

トルクフルな引き。強いて言えば、ハタの類いか。それも中型以上。

でも、走ってラインを出すスピードがハタとは違う、そんな気がする。

この魚は、一体?


「この魚、予想と違うね。こんな感じ、初めて。」


やはり星野さんもオレと同意見。でも多分、問題は無い。

ネットの航空写真で、堤防周りの状況は既に把握済み。


西堤防はコンクリート造りで、外側にはテトラポッド積み。

テトラポッドの更に外は比較的フラットな岩盤。

なだらかに深くなって、砂地へと移り変わっていく。

例え底に突っ込まれても、ラインが根に擦れる心配は無い。


当然。星野さんも地形や底質の情報を把握してる。

そもそも、この情報の出所は星野さんの『釣りメモ』だ。

だからこそドラグを緩めにして、余裕を持った対応。


それから10分程。星野さんは堤防の突端に魚を誘導した。

更に、堤防の内側へ。ようやく、伸びるラインの周り、海面が揺らぎ始めた。

もうすぐ見える、魚の姿が。



「赤い?」 「はい、間違い無く。」


未だ薄暮い海面。なのに、眼に鮮やかな朱色。

ハタ類とは全く違う、平たくて体高が有る。

マダイ? この島で、しかもショアで釣れるという話は今まで。


「司君、見て!縞模様、赤と白!!」


確かに、幅広の横縞。白い縞に、朱色に近い赤が映える。

慎重に階段を降りてタモを構えた。

星野さんと呼吸を合わせて、一気に掬う。


「これって...」 「司君。まさか、それ。」

「はい。センネンダイ、です。」


十七之皿 『ミズン&センネンダイ/矜持②』了

相変わらず更新のペースが上がりませんが、お楽しみ頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ