十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯④』
別系統作品との交錯、交互の投稿。
どちらも初めての試みでしたが楽しかったです。
読んで下さる皆様にも楽しんで頂けたなら、望外の喜び。
心からの感謝を。
十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯④』
『美味い酒と料理。油断すると今夜の用件を忘れてしまいそうだ。
今宵の亭主。瞳、といったな。用件は謝罪だけではあるまい。
其方の用件を聞こう。』
オレの料理を評価されるのは嬉しい。でも、この流れはマズいかも。
瞳ちゃんは正座して、砂に両手をついた。
俺達も瞳ちゃんに倣う。辺りの空気がぴぃんと張り詰める。
「山神様を、お祀りさせて下さい。
山神様をお祀りしていた一族の巫が絶えて50年余り。
お祀りの行事も殆ど廃れてしまいました。
どうか自分に、そのお役目を。」
『虫が良すぎる。其方達は姉上の威光を笠に着て金儲けに走り、
挙げ句は姉上に罪を被せて痴れ者を庇うなど...言語道断。
そもそも、私を祀っていた巫が絶えた時。
姉上と私を合わせて祀って欲しいという依頼を断ったのは其方達だ。』
『依頼を断ったのは瞳ではないぞ、瞳の祖父だ。』
『いいや姉上、言わせて頂く。人は同じ過ちを繰り返してきた。』
多分、海神様は瞳ちゃんの味方。だけど山神様は怒ってる。
山神様を祀る巫が絶えた時の経緯を考えれば、それも当然だろう。
そっと星野さんを、それからSさんの様子を伺う。
しかし2人も俯いたまま動く気配は無い。これも打ち合わせ通り。
『稀に、人にも姉上や私と心を交わせる者が生まれる。
その者が媒となって多くの人が宴を催し、姉上や私を祀るのは愛しい。
しかし、巫の立場を利用して権威を笠に着る輩は許せん。
その力を鼻に掛けて思い上がり、穢れと横暴を招く。
其方には力が有り、姉上や私を祀る資質に不足は無い。それは認めよう。
しかし、いや、それ故に其方も思い上がり、やがて祖父や兄と同じ道を辿る。
其方は、一体どうやって...』
山神様は言葉を切り、瞳ちゃんを見詰めていた。
瞳ちゃんの肩が震えている。そして、涙?
「・・・・ても・・・なんか、偉くなんかない。ちっとも。」
『何、だと?』
『瞳、落ち着いて話せ。吾は其方の話を聞きたい。』
「力が有ったって、ちっとも偉くなんかない。
神様を見る事が出来ない人でも、信じる事は出来る。
神様を信じて、島の皆の幸せを祈る事は出来るんだから。」
『うむ、良いぞ。それで?』
瞳ちゃんは頑張った。本当に、頑張ったと思う。
海神様と山神様を前にして、自分の考えを堂々と。
だからこそ、海神様は微笑んで下さった。
『人に宿る『力』など無ければ、
吾が其方の兄を始末する道理は生じ無かった。
其方が祖父に手を下す因縁も生じ無かった。そう言いたいのか。』
「...はい。」
瞳ちゃんは泣いていた。砂に両手をついて、俯いたまま。
その涙が砂に落ちる度に、胸の奥深くが痛む。
そうだ、そうだよ。当たり前じゃ無いか。
瞳ちゃんは悲しかったんだ。本当に、辛かったんだ。
だって、初めから誰かを憎む人間なんかいない。いる訳がない。
きっと、良い思い出も沢山ある筈なんだ。
お兄さんとの、そしてお祖父さんとの...暖かな記憶。
でも、お兄さんを失い、更にお祖父さんを自身の手で。
どんなに悲しかったか、どれだけ辛かったか。オレには想像も付かない。
なのにどうして、それを考えてあげられなかったんだろう。
思わず、涙が零れた。
『力を鼻に掛けて思い上がる者は多かった。
しかし吾は知っている。力をもって生まれるかどうかを、人は選べぬ。
故に吾は、決して忘れぬ。
あくまで謙虚に、心正しく力を用いた者も、確かにいたのだ。』
左手に杯を持ち、海神様は立ち上がった。
『司、酒を。』
慌てて杯に泡盛を。しかし、海神様は頭を振った。
『...いや違う、その瓶を。』
差し出した瓶を受け取り、そのまま数歩。瞳ちゃんの前へ。
『瞳、その器を持て。』
まず左手の杯に、次に瞳ちゃんの紙コップに。
酒を注いで、海神様は微笑んだ。
『吾の祀り。其方に、いや、其方と其方の仲間に託す。この酒は証。』
海神様に続いて、瞳ちゃんも酒を飲み干した。
良かった、本当に良かった。海神様は瞳ちゃんの考えを理解して下さった。
『さて、御前はどうする?吾は早く次の料理を食べたいのだが。』
『全く...しかし、姉上の言う事は尤も。
そして、その娘。瞳の、清らかな心根も分かった。』
山神様も、瞳ちゃんに『証』を授けて下さった。
それは多分、星野さんとSさんの予想を超える成果。
『司、次の料理を。』
三品目は鶏肉の煮物、ディアブロ風。海神様は少し心配そうな表情。
どうしても炒飯を食べたいらしい。でも大丈夫。
四品目は牛肉のステーキだけど、五品目、〆は炒飯だから。
9時を過ぎた頃。海神様がSさんに話しかけた。
『さて、其方。名をSと言ったか。
本土の陰陽師なら、謡と舞の心得も有ろう。
今宵の宴に相応しいものを、披露してくれぬか。』
海神様の言葉に、Sさんは微笑んだ。
「では、私が舞を。謡と拍子は我が夫、Rが。」
Sさんの舞は、本当に美しかった。Rさんも良い声。
『実に見事だ、美しい。』
海神様は手を叩いた。山神様もSさんを見詰めている。
何時の間にか、星野さんと瞳ちゃんは互いに寄りかかるように夢の中。
SさんとRさんが別の策を用意していた、それを知ってか知らずか。
『やはり、準備万端という訳だな。
吾が弟があまりに頑なであれば、その舞で。』
瞳ちゃんの、心からの言葉。
しかしそれが山神様に伝わらなかった時に備えて、あの舞を用意していた。
つまり、SさんとRさんの周到な準備。恐ろしい程の冷静さ。
きっとそれが、それこそが...陰陽師の『力』。
『さて、名残惜しいが、楽しい宴もここらが潮時か。』
『はい、姉上。』
『S、R。そして司。』
海神様の声が聞こえた瞬間、御二人の姿は形を変えた。
純白の海鳥、そして赤茶色の猛禽。
『今宵、吾等が此処に集ったは『良き理』の配剤。』
SさんとRさんは素早く片膝を付いた。慌てて、オレも。
『今後も、瞳と星野を助けてやってくれ。』
「お誓い申し上げます。我が一族の名において、必ず。」
Sさんの言葉と同時に、二羽の鳥は反対方向へ飛び立った。
純白の海鳥は海へ、赤茶色の猛禽は山へ。
ちょっと待って...それなら何故、さっきオレの名前が。
SさんとRさんは陰陽師だから2人を助ける事も出来るだろう。
でもオレは出来る事は何1つない。なのに。
戸惑うオレに構わず、SさんとRさんは後片付けを始めた。
何だか、怖い位に手際が良い。
多分この2人、見かけと違ってアウトドア上級者。間違い無い。
片付けを終え、眠りこけている瞳ちゃんと星野さんを車に運ぶ。
当然ワゴンの運転はオレ。ホテルに戻ったのは10時過ぎになっていた。
ホテルの駐車場。
ビーチパーティーの道具を星野さんの軽に積み替える。
もう星野さんと瞳ちゃんも起きているから、あっという間だ。
「お酒は飲んでなくても、かなり疲れてる。気を付けて帰ってね。」
Sさんの優しい声、そして微笑み...
「ハイ、ありがとうございます。」
キーを捻る、威勢の良いエンジン音。
(星野さんの軽はスポーツタイプ、しかもフルチューン。)
助手席に星野さん。瞳ちゃんは後部座席。
何だか暑い、窓を開けた。多分、頬が紅くなってる。
どうしてもあの人の、Sさんの舞を思い出す。本当に綺麗な人。
いや勿論、星野さんも瞳ちゃんも凄い美人だよ。
だけどSさんの舞は...2人に足りない何かを象徴している。
個人の力や強さでは無く、長い長い時間をかけて積み上げてきた価値。
それがSさんとRさんを生みだした一族の歴史。その重み。
その時、後部座席から聞こえよがしの話し声。
「自分に似てるって言ってくれたんすよ、アヤメエビス。
なのに今夜の料理に。幾ら神様が相手でも、酷過ぎると思うんす。」
「ええと、2品目の魚?とても美味しかったでしょ。」
「でも...2人だけの秘密かと思ってたから、ちょっとショックで。」
「成る程。それは確かに。」
全く、この2人は。
「2人とも、何を言ってるんですか。昨夜、料理は全部オレに任せるって。」
「それはそうと、私も気になる事が有るんだ。」
「ああ、Sさんですね。司さんが鼻の下を伸ばしてたし。
いやまあ確かに凄い美人で、先生より胸も大きくて。」
いや、そんな事は。決して。
「それは多分、大丈夫。今夜埋め合わせをしてくれる筈。
司君は浮気性じゃないし、私と瞳ちゃんを大事にしてくれるから。」
いや、どんな埋め合わせだよ? 全く理屈が分からない。
部屋に帰ったら、取り敢えず、今日一日我慢してた分の酒を飲む。
星野さんの泡盛。それにSさんの、椎の実の酒。
これだけは譲れない、譲らない。それと。
「そう言えば、オレも気になる事が。」
「何?」 星野さんは手を伸ばして、オレの左手を握った。
「ええと、海神様はオレにも力が有るって言ってたような。」
「司君の料理は、Sさんの舞に似てるから。」
「どういう事ですか?」
「積み重ねてきた歴史の重み。
だから、Sさんの舞も司君の料理も交渉の材料に使える。相手が神様でも。」
「オレの、料理が?」
「それより、良かったじゃ無いっすか。今は未だ、司さんは力を使えない。」
「そうね、確かに。」
だ・か・ら。一体、何の話の話をしてるんだよ。
「料理上手で釣り好き。その上、『力』を使えるとなったら...」
「そう。完全にキャラが被っちゃいますよ。司さんとRさん。」
「...」
十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯④』了
『ビーチパーティーⅡ/交錯』完
本日投稿予定は1回、任務完了。




