十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯③』
物語の都合上、
別系統の作品を追いかける形での投稿になります。
ネタバレ済みにはなりますが、お楽しみ頂ければ幸いです。
十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯③』
「あの2人に、何を頼んだんですか?」
「指導。私だけじゃ、どうしても中途半端だから。」
「中途半端って...
星野さんは『海神様の巫女』、陰陽師にも引けを取らないんじゃ。」
「瞳ちゃんの考え、司君も聞いたでしょ。」
「はい、一応は。」
「伝統的な儀式や祭祀のプロデュースとコンサルティング。
この島の文化と資料の研究・保全。自治体との繋がりも。
本気でそれを目指すとしたら、決定的に足りないものが有るの。」
「決定的に足りないもの。一体、何が?」
「山神様の祀りっす。」 「山神、様?」
海神様の他に、山の神様が...いや、有り得るか。
「元々、この島には巫の一族が2つ有ったんす。
海神様を祀るのが自分達、そして山神様を祀る一族。
だけど50年位前、山神様を祀る巫が絶えてしまって。」
「その一族に、力を持つ子が生まれなかった?」
「はい。だから『海神様と山神様を一緒に祀って欲しい。』って依頼が来て。
でも、祖父ちゃんがそれを断ったんですよ。」
「報酬が十分じゃ無い、そういう事?」
星野さんの表情は厳しい。
「その通りっす。それで、山神様を祀る巫は絶えました。
今はもう、山神様を祀る行事も殆ど絶えてしまって。」
「ちょっと待ってよ。じゃあ瞳ちゃんは山神様の祀りも?」
「じゃないと、島全体のバランスが取れないっす。」
確かに...
海神様と山神様がいるのに、海神様だけを祀るのはマズいかも。
でも、瞳ちゃんの一族は代々海神様を。
それに星野さんも『海神様の巫女』。 と言う事は。
「山神様を祀る行事には詳しくないから、あの2人に指導を?」
「そう。歴史有る一族の陰陽師なら、どちらにも詳しい。」
成る程。だから、この機会に。納得だ。
翌日。指定された待ち合わせ時間は午後2時。
まずはホテルのカフェで打ち合わせ。
夕方からビーチパーティーを開く。それは聞いていた。
準備をするのはオレ1人。それも予想済み。
だって星野さんと瞳ちゃんは生徒。SさんとRさんは先生。
幸か不幸か、ビーチパーティーの準備は2度目。
ただ、主賓は神様。しかも今夜は神様が2人。
プレッシャーは半端ない、でも、やるしか無い。
パーティーの料理、準備は順調。予定は5品。
一品目はクレソンと豚肉と木綿豆腐の白和え。
二品目はアヤメエビスのカルパッチョ、皮は湯引きして糸作りに。
先日食べるつもりだったけど、今回の件で先送りになっていたから。
三品目は鶏肉の煮込みディアブロ風。
四品目は牛肉のステーキ。水菜のおひたしを添えて。
そして最後はレタス卵炒飯。海神様のお気に入り。これは外せない。
夢中になっているうちに時間が過ぎていく。もう五時過ぎ。
急がないと、そう思った時。声を掛けられた。
「何か、手伝う事は有るかな?」
振り向くと、Rさんが立っていた。1人で、先に此処へ?
「いえ。準備は順調なので、大丈夫です。」
「そうか、じゃあ暫く海の様子を見てくるよ。」
「はい、ごゆっくり。」
Rさん。無愛想、という感じじゃ無い。何と言うか、控え目?
だからきっと、口数が少ないんだろう。
鶏肉の煮込みディアブロ風までは、ほぼ完成。
ステーキと炒飯はその場で完成させる料理。
今は下拵だけを済ませておく。
「司君、お待たせ。準備は大丈夫?何か手伝おうか?」
星野さん。次に瞳ちゃん、Sさん。
そして、3人の後ろにRさん。心臓が止まるかと思った。
一体、何故?
「司君...どうか、した?」
「いや。だって、Rさんは一足先に。
『手伝おうか?』って言われて、大丈夫ですって言ったら、
『じゃあ海を見てくる。』って。まだ、20分も経ってませんよ。」
「R君が?」
Sさんは切羽詰まった表情。
「瞳ちゃん。急いで!!」 「了解っす。」
大きな岩の窪み、海神様の祠。
星野さんがキャンドルを置いて、火を点けた。
瞳ちゃんは祠の前に跪いた。
一礼、目の高さで柏手を1つ。何か小声で呟いて、柏手をもう1つ。
星野さんが海神様を勧請した手順を忠実になぞっている。
『おや。今宵の亭主、星野ではないのか。』
何時の間にか、テーブルの前のチェアに海神様が座っていた。
あの時と同じ少女の姿。薄青色の病衣も同じだ。
SさんとRさんは素早く片膝を着いた。ほぼ同時に星野さんと瞳ちゃん。
慌ててオレも。
『海神様は、あの少女を『形代』にしたの。」
ビーチパーティーの翌日、星野さんはそう言った。
じゃあ、2人のRさん...1人目は山神様で、Rさんを形代に?
その時、大きな岩を回り込んで現れた影。
やっぱりRさんと同じ姿。顔も、服も。これが、山神様?
『姉上に先を越されたか。』
『短気な弟に好き勝手されては堪らんのでな。』
「海神様、山神様。御出で下さり、心から感謝致します。
自分の名は瞳。浜○、瞳。そして。」
順番にSさんとRさんを。そしてオレと星野さんを紹介した。
瞳ちゃんの表情は、今まで見た事もないくらい、真剣そのもの。
しかし次の瞬間、冷たい声が響いた。
『勧請の手順は良し。問題は勧請の用件。
一体、姉上と私を呼び出すのに見合う話なのかどうか。』
瞳ちゃんは額を砂に擦り付けた。そのまま、数秒後。
「始めに、海神様と山神様への謝罪を。」
『謝罪、だと?』
「はい。私達一族の度重なる悪行。
皆を代表してお詫びします。本当に御免なさい。」
瞳ちゃんの兄が海神様に罪を被せた。更に、山神様に謝罪する理由。
『海神様と山神様を合わせて祀って欲しい』
金銭問題を理由に、その依頼を断った瞳ちゃんの祖父。
だから山神様を祀る霊媒師が絶え、山神様を祀る行事も廃れてしまった。
瞳ちゃんは、その責任を感じているのだ。
山神様もチェアに腰掛けて、小さな溜息。
『恨み言の1つも言ってやろうと思っていたが...
すっかり出鼻を挫かれた。其方は、姉上を祀る一族の者だな。』
ここだ。すかさず立ち、星野さんの泡盛を。
クーラーボックスから取り出した硝子瓶を星野さんにパス。
星野さんは片膝をついて、2つの杯に酒を注いだ。
一気に杯を干した海神様、満足そうだ。
続いて山神様も杯に口をつけた。
『やはり、この酒は美味い。御前も、そう思うだろう?』
だけど、山神さまは何だか不満そう。
その時、Sさんが立ち上がった。
「今宵は別の酒も用意致しております。」
Sさんから預かった硝子瓶、中身は微かに黄色みを帯びた酒。
もう一組の杯を用意してある。
Sさんは片膝をついて、その酒を酒を注いだ。
杯に口を付けて、山神様が微笑んだ。
『これは...本当に美味い。椎の実を醸した酒、か。』
「御明察。気に入って頂ければ幸いです。」
椎の実って、ドングリだよね。
ドングリで作った、酒? 本当に、そんな酒が有るのだろうか。
『其方の名は、S、だったな。陰陽師の。』
「陰陽師の末裔。神々と人々の縁を繋ぐ事を生業としております。」
『それ故この娘に手助けを頼まれた、か。
まあ良い。ところで、この椅子。どうにも落ち着かん。』
山神様は杯を持ったまま立ち上がり、辺りを見回した。
そのまま数歩、大きな岩を背にして胡座をかいた。
『姉上。古来、酒盛りなら車座と決まっている。宜しいか?』
『それも良かろう。』
『ならば良し、皆も座れ。話はその後だ。』
大きな岩を背にして海神様と山神様。
御二人を囲み、皆も足を崩して車座に座った。
勿論、オレは立ったまま。グリルの傍で料理を準備。
「料理の一品目はクレソンと豚肉、木綿豆腐の白和えです。」
『クレソン...湧水のほとりに生える青菜か。』
「はい。豚の挽肉と木綿豆腐は湯通しして白和えにしました。」
『美味い。青菜の辛味が豚肉と豆腐に合う。』
山神様のコメント、とても嬉しい。
『相変わらず、司の料理は絶品だな。』
前回のパーティーで海神様の好みは把握している。計算通り。
『司、皆にも酒と料理を。』
海神様の指示も予想通りだ。皆に紙コップを2つずつ配る。
星野さんの泡盛。そしてSさんの、椎の実の酒。
そして紙皿、こちらには料理を。
「二品目はアヤメエビスのカルパッチョ。オリーブオイルと塩で。
皮は固いので湯引きして、糸作りに致しました。こちらはポン酢で。」
あの晩、瞳ちゃんと2人で食べるつもりだった魚。
今回の件で食べるのは延期になっていた。
でも、それで結果オーライだったのかも知れない。
アヤメエビスは最高に美味しい魚の1つ。
だからきっと、今夜のパーティーに相応しい。
十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯③』了
本日投稿予定は1回、任務完了。




