表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/35

十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯②』

体力の問題で集中力が低下。

作業の精度に自信が有りませんが、問題が見つかり次第、修正していきます。

この点を御承知の上、お楽しみ頂ければ幸いです。

十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯②』


「最初、母親に電話が有った時には、民俗学者って。」

「民俗学者、ね...それで、どんな依頼?」


木曜の夜。

空港で星野さんをお迎え、俺の部屋で晩御飯。

いつもなら3人で賑やかな、楽しい雰囲気なんだろうけど。

流石に今夜は、そうもいかない。


「この島の風俗とか、妖怪の伝承とかを取材したい。

古い霊媒者の家系なら、そういうのに詳しいだろうから。そんな感じで。」

「何て言うか、あからさまに胡散臭いな~。」

「そうなんすよ。あと『今度の3連休を利用して島に来るから、

どうしても日程だけは合わせて欲しい』って。

その代わりギャラは前払いで50万。破格だし、その日の内に母親の口座に。

何かもう、断れないっすよね。」


「瞳ちゃんも依頼主と話をしたの?」

「はい、母親に『電話して話を詰めろ』って言われて。

母親がメモってた番号に電話しました。そしたら、何か話が違うんですよ。

依頼してきた人は、民俗学者じゃなくて『陰陽師』だって。」


「陰陽師?3連休で、この島に来る...」


星野さんは難しい顔で考え込んでる。

オレは気まずい沈黙に耐えられなくなった。


「陰陽師って、霊媒師と同じような仕事だよね。

依頼主は瞳ちゃん達と同業者、って事?」

「陰陽師、自分は映画とか漫画とかでしか知らないっすけど。

まあ、同業者っぽいですよね。オカルト系?」


「霊媒師なら、占い師と同じで個人営業が普通。

瞳ちゃん達みたいに一族で運営してるのは珍しいと思う。」

「陰陽師は、違うの?」


「正当な陰陽師だとしたら、個人営業は有り得ない。

本来、陰陽師の称号を許されるのは、陰陽道を継承し力を認められた者だけ。

陰陽師を育成し、その力を判定して陰陽師を認可する制度が有るって事。

相当大きな『組織』が関わってると考えた方が良い。」


背筋が冷えて、両腕にトリハダ。

星野さんの話。多分、オレにホントの意味は分からない。

だけど、そんな大きな組織が、わざわざこの島に陰陽師を派遣する。

だったら、それは。


「島の風俗と妖怪の伝承の取材。それ以外にも依頼が?」


瞳ちゃんは驚いた顔でオレを見詰めた。


「司さん、鋭いっすね。

ホントの依頼は、兄貴と祖父ちゃんの件です。

何を知ってるか、どう考えるか。それを聞かせて欲しいって。」


星野さんは何だか吹っ切れたような表情になった。


「会うのは明日よね、相手は1人?」

「2人、っす。」

「私も一緒に行く。依頼主には、明日の朝電話して。」

「良かった~。一緒に行ってくれるように御願いしたかったんです。」

「私はあなたの先生、当然でしょ。それに司君も一緒だし。」


何で!?


「あの、どうしてオレが。」

「海神様とビーチパーティーの件。司君は大事な目撃者。

私も証言するけど、証人は多いほど良い。」


「目撃者...それに証言とか証人って、裁判じゃ無いんですから。」

「まさに裁判みたいなもの。事情聴取って言った方が良いかな。

陰陽師を派遣した組織は、2つの事件と瞳ちゃんの関係を疑ってる。

もし、瞳ちゃんが事件の犯人だと判断されたら。」


「判断されたら?」

「間違い無く、瞳ちゃんは大変な事になる。そんなの、絶対ダメでしょ?」


星野さんには『護り神様』がついている。瞳ちゃんだってあの妖を。

その2人が本気で対応しなければならない事態。

というか、星野さんの口調では相手の方が優位らしい。


オレはようやく、事の大きさを実感した。



翌朝、瞳ちゃんは9時丁度に電話をかけた。

電話の相手は陰陽師。星野さんとオレを同行させるという交渉。

呆気ないほど簡単に同意してくれたらしい。少しだけ、ホッとする。

オレはともかく、星野さんが一緒なら心強いだろう。



指定された待ち合わせ場所は繁華街の中心部。

大きなカラオケハウス。去年の年末、職場の忘年会で2次会の会場。

約束の時間は12時30分。

15分早く到着。3人とも黙ったまま、相手の到着を待つ。

カラオケハウスで事情聴取、それも、わざわざ昼ご飯の時間に。

何だか変な感じもするが。


そうこうしている内に、近付いてくる二人連れが見えた。

男女2人...確かに、これはマズい。

雰囲気っていうかオーラ?特に女性の方。

星野さんからも瞳ちゃんからも、緊張が伝わってくる。


きっと星野さんも、瞳ちゃんも、強い。

だけど、この2人を目の前にすると、2人に欠けているものが分かる。

星野さんは本家以外に生まれた『例外』。

そして瞳ちゃんは、一族が本来の在り方を外れて。だから2人には


脇腹に軽い肘打ち。星野さん?

そうか、二人連れが、もう目の前に。


『御免なさいね。』と、その女性は言った。

『そこそこの防音設備がある場所はカラオケハウスしか思いつかなくて。』と。


女性の口調は穏やかで優しい、そして、凄い美人。

その声を聞いた途端、気分が楽になった。

確か、星野さんは、このカラオケハウスで構わないと応えたと思う。

ここの料理は美味しいから、そんな感じで。


だから、事情聴取の前に全員で昼御飯。

ピザ、唐揚げ、サラダ。思い思いに好きな料理を注文した。

今日車を出した星野さんだけがウーロン茶。

他は全員、アルコール飲料。とても和やかな雰囲気。

そして、自己紹介。


女性はS、男性はRと名乗った。

名字を省略したのは2人が『陰陽師』だからか。


「どれも美味しい。下手なホテルのレストランにしなくて良かったわ。」

「特に唐揚げは絶品ですね。本題の前に追加しておきましょうか。」


2人とも、体格からは想像できない食べっぶり。見ていて気持ち良い位だ。

ふと、女性が真顔になった。


「本題、そうよね。じゃあ早速、聞かせてもらおうかしら。

サメの被害者が3人、その後意識不明で見つかったのが3人。

どちらも男性、計6人。全部、あなた達の仕業?」


あまりに突然でビックリしたが、大丈夫。

昨夜の打ち合わせは完璧だ、多分。


最初の証人は星野さん。

『瞳ちゃんは経験不足だから、失言をするとマズい。』

昨夜の打ち合わせで、星野さんはそう言った。

当然、瞳ちゃんもオレも完全同意。



「サメに襲われた男の人達、あれは海神様の祟りなんです。

意識不明で見つかった3人を含めて、6人とも『自業自得』というか。

この娘...瞳ちゃんは自分の業と真摯に向き合っただけで。」


いや、やっぱ最初から『海神様の祟り』は無理があったか。

何かこう、もう少し背景を説明してから。

星野さんと瞳ちゃんの生まれとか、そういう。


「大体予想通りだけど、もう少し詳しく聞かせてもらわないとね。

その前に、飲み物を追加で注文。みんなも如何?」


予想、通り?

この女性は、島に来る前から海神様の関わりを考えていたのか。


「◎間の海岸、釣りに行った小学生の女の子が行方不明。

その話を聞いたのが最初です。

以前、一緒に釣りをした子かも知れないと思ったら、酷く胸騒ぎがして...

行方不明になったのは日曜日。

木曜日の朝になっても、見つかったという話は有りませんでした。

でも、木曜日の夕方、見つけたんです。

病院の外科に入院してて、やっぱり、一緒に釣りをした女の子でした。」


「あなたの『力』を使って、その病院に見当を付けた?」


星野さんが固まった。

「どう、して。」

無理も無い、まさか『護り神様』の事まで。


「あなたには強い『力』が有る、その娘にも。

私達は陰陽師。そんな事も分からなきゃ、危なくて仕事ができないわ。

だからホントの事を話してね。嘘ついたら、すぐに分かるから。」


そうか、この女性には自信があるんだ。

星野さんと瞳ちゃんを相手にしても心配ない。それだけの『力』を持ってる。

だからこんなに穏やかに、話が出来る訳で。


「...釣りから帰る途中、女の子は2人の男に襲われそうになりました。

必死で逃げて、海岸の大きな岩まで。その岩に海神様の小さな祠があるんです。

祠の前で女の子は転んで、倒木に頭を強く打って意識を失いました。」


「その状態で、海神様が女の子を護ったって事?」

「そうです。男達は女の子を海岸から少し離れた崖の上に運びました。

小さな崖だけど、そこは海岸からも道路からも見えない場所なので。」


「手慣れてるわね。サメのエサ、確かに自業自得かも。」


「崖の上で男達は錯乱。酷く怯えて、動けなくなったみたいです。

3人が発見されたのは翌日の夕方、すぐに病院へ運ばれました。」

「それなら海神様の祟りは終了、じゃないの?」


「女の子の病室の中から、男の声が聞こえたんです。

『女の子は海神様の下へ逝く。それは『誉れ』で、

女の子の命と引き換えに、海神様は豊漁をもたらす。』って。

その声の主が霊媒師の当主だったんじゃないかと。」


その女性、Sさんは初めて表情を曇らせた。

俯いて額に右手を当てる。


「成る程、男達の罪を海神様に被せた訳ね。」

「2人の男の家族、どちらかが依頼したんだと思います。

性犯罪未遂と傷害罪の隠蔽。あと、錯乱状態からの回復。

それで霊媒師の当主が禊ぎだと言って男達を連れ、夜の港へ。」


「それで、3人はサメに襲われた?」 「そうです。」

「とても興味深いけれど、誰がそんな話を信じるかしら?」


Sさんは穏やかな笑顔に戻っている。

『誰がそんな話を信じるかしら?』

多分それは、疑念からの言葉じゃ無い。星野さんに話の続きを促す言葉。


「私と、私の...水野君が、海神様から直接聞いたんです。

2人でビーチパーティーをして、海神様を呼び出して。」


Sさんは俯いてクスクスと笑った。

キラキラした眼、子供のような笑顔。


「ビーチパーティー?海神様を呼び出した?」


テーブルの下、足を踏まれた。星野さんだ。

次の証人はオレ。これも打ち合わせ通り。


「はい。僕がパーティーの料理を作ったんで、間違い無いです。」

「水野君、だったわね。どうしてビーチパーティーを?」


「一緒に釣りをした時、星野さんが女の子から聞いたそうなんです。

『何十年かに一度、海の神様に人身御供を捧げないといけない。

でも『神様の肴』を捧げる事が出来れば、人身御供の代わりになる。』

それなら、出来るだけ豪華な料理を作って海神様に捧げようかと。」


「本当に人身御供に選ばれたんだとしても、

そのパーティーに海神様が来て下されば女の子を助けられる。

...良い案ね。で、実際に海神様が現れ、事の次第を話して下さった。」

「そうです。」


「あなた、とても料理が上手なのね。」 「え?」

「料理を気に入って下さったから、星野さんが交渉出来たんでしょ。

そうで無ければ、霊媒師の一族も男2人の家族も、まとめて滅ぼされた筈だもの。

事も有ろうに、神様に罪を被せるなんてね。」


Sさんはクスクスと笑った。

笑顔の無邪気さと、言ってる事のギャップが怖い。

そして不意に、背筋が寒くなった。

そうだ。確かに、あの晩、海神様は言った。


『罪人共とその係累を纏めて滅ぼし、

穢れた魂を全て、焼き尽くすつもりでいた。』


「ここまでは良いとして。意識不明の3人は?」

「それは自分が説明します。」


3人目、最後の証人。

ここから先は、瞳ちゃんに頑張ってもらうしか無い。



「サメに襲われて死んだ霊媒師の当主は自分の兄です。

兄が死んだ後、祖父ちゃん...祖父は犯人捜しを始めました。

『サメを操って兄を殺した人間がいる。』

そんな力を持つ人間は島にはいない。余所者だ。』

それで必死になって彼方此方嗅ぎ回って、やっと情報を掴んだんです。

『事件の後の週末、◎間の海岸海岸でビーチパーティーしてた人間がいる。』

それが先生と司さんで、2人とも島の出身じゃ無いから。」


「2人を犯人だと決めつけて復讐しようとした。

でも、星野さんの『力』で返り討ちって所かしら。」


「いえ。やったのは自分です。」

「あなた、が?」


Sさんは真っ直ぐに瞳ちゃんを見つめた。

怖い、でも正直に話すしか無い。後は運次第だ。


「ずっと前から、ウチの一族は駄目になってたんです。

祖父の代から金目当ての仕事ばっかりやってたと聞きました。

引退したり島を出たり、まともな霊媒師はいなくなって。

自分、何とか一族を立て直したいと思ってたんです。

だから兄貴が死んだ時、正直チャンスだと思いました。」


「チャンス?」

Sさんの表情が真剣味を増した。だけど瞳ちゃんは怯まない。


「自分の力は兄貴よりずっと強かったし、

復讐だとか言って、祖父が人殺しをするなら、

その前に自分が...そう思いました。」


「そう。ちゃんと『覚悟』が出来てたのね。

話は変わるけど、あなたが星野さんを先生って呼ぶのは、

星野さんの指導を受けているから?」


「はい。先生は優しいし、凄い力を持ってて。」

「先生の力も借りて、あなたの一族を立て直す。」

「そうです。」

「具体的な計画があれば、聞かせてくれる?」


「はい。自分は一族の新しい在り方を考えました。

伝統的な儀式や祭祀のプロデュースとコンサルティング。

勿論、今までの仕事もやります。良心的な料金設定で。

その上で伝統的な文化とか資料の研究・保全の役割を果たしていけば、

自治体との繋がりも作れると思うんです。」


Sさんはニコニコしながら瞳ちゃんの話を聞いていた。


ただ、株での資金造成は二度とやらない。

それで得た資金は絶対に他の目的に流用しない。

その2つを瞳ちゃんに強く言い聞かせた。

『きんじゅ』とか『げほう』という言葉の意味は分からない。

だけどオレと星野さんの考えもSさんと同じだったから、結果無問題。



瞳ちゃんの話を聞き終わって、Sさんは言った。

「全部、話を聞いて納得した。特に、私達がすべき事は無さそう。

だから、これで失礼するわ。有り難う。」


『納得』してくれたなら、瞳ちゃんは大丈夫なんだろう。


Sさんは立ち上がり、ドアへ向かう。Rさんも後を追った。

何か、いきなりというかせっかちというか...


2人がドアを出た途端、星野さんが席を立った。部屋の外へ。


星野さんが話しかけたのは聞こえたけど、内容は分からない。

そしてドアが閉まった後は、何も聞こえなくなった。


十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯②』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ