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十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯①』

新作、『ビーチパーティーⅡ/交錯』の投稿を開始します。

物語の都合上、別系統の作品と交互に投稿予定。

初めての試みですが、皆様に御楽しみ頂ければ幸いです。

十六之皿 『ビーチパーティーⅡ/交錯①』


「これこれ。毎回ホッとするんだよね。

司君の料理を食べると『帰って来た』って感じ。」


相変わらず、いや、前にも増して星野さんは忙しい。

最近は、月に二度か三度の出張が当たり前。

『能ある鷹は爪を隠す』のは変わらないみたいだけど...


『星野さんがいると、何故か仕事が上手くいく。』


それに気付く人は必ずいる。結果、星野さんは『幸運の女神』扱い。

さすがに、その評判までは抑えようが無いんだろう。



遅い夕食を食べ終え、食器を洗っていると...

星野さんがオレの背中にピッタリと張り付いてきた。


「何、してるんですか?」 「補充。」 「補充って、何の?」

「司君成分。5日間も供給が絶たれて、ホント、死ぬかと思ったんだから。」


...オレも、同じだ。5日間も星野さんと離れて、寂しかった。

ホントは今すぐ星野さんを抱き上げてベッドに。

いやいや、その日のうちに食器は洗っておかないとね。魚料理は特に。


「それで、今回もダメだったのはどうして?」


突然、雰囲気と話題が変わった。これは。


「私の出張は、あれからもう3回目。

なのに、一度も瞳ちゃんの部屋に行ってない。どうして?」


つまり、星野さんと瞳ちゃんはキッチリ連絡を取ってる。


「ええと、それは...オニダルマオコゼの件が引っかかってるから、で。」

「オニダルマオコゼって、私が出張の間に二人で釣った魚よね。

三人で食べたし、すごく美味しかった。何が問題なの?」


「瞳ちゃんは、オニダルマオコゼを『自分に似てる』って。

グロテスクな姿で岩に擬態してエサを狙うとか、猛毒を持ってるとか。」


「なるほど、瞳ちゃんらしいかも。あの娘、ああ見えて結構真面目だし。」


「それで、本当に瞳ちゃんに似てる魚を、探そうと思ったんです。」

「瞳ちゃんに似てる魚...どう言う事?」


「例えば、シロギスは『サーフの女王』って言われてるでしょ。

でも『シロギスに似てる』と言われても、女の子は多分嬉しくないですよね。

口のあたりの造形とか。何て言うか、その。」


「似てるって言われて嬉しい魚か~。確かに、難しい。

マダイやイトヨリダイは綺麗だけど、体全体の造形はゴツイし、微妙。」

「そうなんですよ。ハマダイも考えたんですけど。」


「ハマダイ...船の深場釣りだから、司君の釣りとは違うし。

ちょっと待って。似てるって言ったら、瞳ちゃんが喜んでくれる魚。

まさか、それを見つけて釣るまで瞳ちゃんの部屋には行かないつもり?」

「行かないつもりって言うか、行けないかなぁ、と。」


左頬に、キスの感触。そっと囁く声


「やっぱり、ヘタレじゃない。私の彼氏は、優しいね。」



次の火曜日から星野さんは出張。帰ってくるのは木曜日。

一人で夕食。その後、夜釣り。


当然、瞳ちゃんも星野さんの出張を知っているけど、連絡は無い。

やっぱり、オニダルマオコゼの件を気にしているんだろう。

女の子が『似てる』と言われて嬉しい魚を何とか。

しかも、食べて美味しい魚。


間違い無い。今までで一番の難題。



今夜の釣り場は島で一番大きな港。沖に伸びる波止の先端。

渾身の力を込め、更に南南東の追い風に乗せた大遠投。

対岸の波止(こちらは立ち入り禁止)の際ギリギリに仕掛けを沈める。


それは、狙って釣れる魚じゃ無い。でも何となく、心の中に浮かんでいた魚。


仕掛けを投げ込んで約20分。竿先が派手に揺れた。

しかし、その後が続かない。エサを取られたか?

更に5分待って仕掛けを回収。なんというか、違和感。


カニかと思ったが、上がってきたのは小さな魚。

鮮やかな紅白の縦縞、大きくて澄んだ瞳。アヤメエビスだ。

ネンブツダイと同じく夜釣りのお友達。小さくて可愛いゲスト。

これはリリース。いや、待て。確か、食べた事が有る。あれは父と...


そう、凄く美味しかった。

『可愛くて美味しい』

これなら条件にピッタリ。


その後一時間程で、計6尾のアヤメエビスを釣った。

一尾一尾は小さいけれど、これだけあれば...

しかし、いくら夜釣りの友達でもアヤメエビスばかり6尾。

一種の奇跡、いや、海神様の御加護かも。

それなら多分、大丈夫だろう。


釣り具を片付けながら電話を掛けた。

瞳ちゃんの部屋に着いたのは約20分後。



「小っさ~い。それにすっごく可愛い。この魚は?」

「アヤメエビス。綺麗だし...ええと。

つまり、この魚は瞳ちゃんにピッタリだと思ってさ。

前に釣ったオニダルマオコゼじゃなくて、こっちの方がずっと。」


「へへ、凄く嬉しいっす。司さん、色々気にしてくれてたんすね。

アヤメエビス。小さいけど、ちゃんと食べられるんですか?」

「うん。それは保証する。とっても美味しいよ。鱗を取って湯引きとか。

それでも皮は固いから、剥いだ皮は別の料理にしよう。」


「えええ、そんな。」 「そんなって?」


「湯引きにして、皮を剥いで...食べるんすよね?」

「そのつもりだけど。」 「結構、大胆っすね。」 「だから何が?」


「この魚、自分に似てるんでしょ?」 「そう。」

「じゃあ自分、今夜皮を剥がれて食べられちゃう...司さんに。」


何言ってんだコイツ?

思い切りデコピンを喰らわせようとして、気付いた。

瞳ちゃんの顔と耳が真っ赤だ。 スッと、気持ちが落ち着く。



『妊娠』だの『新しい家族の在り方』だの・・・


衝撃的な言葉を発した理由は、瞳ちゃんの生まれと育ち。

そして、それ故に背負った『業』。

衝撃的な言葉とは裏腹に、この娘には経験が無い。

ホントの恋。心の繋がりも体の繋がりも。


可愛い。そして、愛しい。そうか、オレ、ヘタレで良いんだ。

オレに出来る事、すべき事。

それは多分、瞳ちゃんの『選択肢』を守ること。


その時、部屋に明るいメロディーが響いた。着信音?

オレのケイタイじゃ無い。


「あの、御免なさい。」


慌てて電話に出た瞳ちゃんの表情が翳っていく。

それから数分後?電話を切った後。


「母親からっす。何か、自分を名指しで依頼が有ったって。」

「瞳ちゃんを名指しした依頼?」


瞳ちゃんの家系は、この島で一番有力な霊媒師の一族。

でも、去年の夏。当主を継いだばかりの兄は海神様の祟りで...

そして先代の当主、瞳ちゃんの祖父。こちらは瞳ちゃん自身が手を下した。


で、今になって瞳ちゃんを名指しの依頼。だとしたら、それは。


「瞳ちゃん達の、今の状況を知った上で依頼してきたって事だよね?」

「間違い無いっす。間違い無く、面倒な事に。」


『ビーチパーティーⅡ/交錯①』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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