十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ③』
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ③』 完結。
明日からお休みを頂き、別系統の作品を投稿する準備にかかります。
R4/06/20 追記
こちらにも「いいね」を頂きました。何よりの励みになります。
張り切って、次作の準備を進めたいと思います。
本当に有り難う御座いました。
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ③』
「涙の痕に気付かれたら恥ずかしいから。」
星野さんは、そう言ってシャワールームに。
それから僅か5~6分。ドアチャイムが鳴った。
ドアを開けると、立っていたのは瞳ちゃん。
「いらっしゃい、待ってたよ。さ、入って。」
「あの、お邪魔します。
自分...私、来ても良かったのかなって。」
「星野さんが招待したんだから無問題、早く早く。」
「あ、瞳ちゃん。来てくれたんだ。
もうすぐ御飯炊けるよ。今日は土鍋御飯。」
「土鍋で、炊いた御飯?」
「そう。今日は特別な魚が釣れたし、
瞳ちゃんが来るから、司君も張り切っちゃってさ。」
「あ、あの、有り難う御座います。」
何て言うか、瞳ちゃんはガチガチ。必死で笑いを堪える。
「ええと、偉そうに色々言って御免。
一昨日の、言葉遣いの話は『公的な場で』って事だから。
3人の時はいつも通りで話してよ。瞳ちゃんも、その方が楽でしょ。」
「本当ですか?ってか、ホントにホントっすか?」
「ホントにホント。そうだよね、星野さん?」
「訓練は弁当屋さんのバイトで十分、だから此処では何時も通りで。」
「良かった~。もう、朝から弁当屋さんで注意されっぱなしで。
頭の中がグチャグチャだったんす。私、商業科卒なのに。
3年間、高校で一体何やってたんだろうと思って...」
椅子に座った瞳ちゃん。グラスに、白ワインを注ぐ。
チリのワイン。軽めのソービニヨン・ブラン。
「まあ、駆けつけ一杯。今夜は泊まってくでしょ?」
「...出来れば。明日は日曜で、バイトは休みだから。」
「御飯、炊けたよ。」
土鍋に張り付いていた、星野さんの声。
「じゃ、晩御飯にしよう。」 「はい。もうお腹ペコペコで。」
3人分の御飯をよそって、まずは、つみれ汁。
「俺も星野さんも初めての魚なんだ。お先にどうぞ。」
瞳ちゃんは躊躇うこと無く、つみれ汁を一口。
それから立て続けに、つみれを頬張る。
「どう、かな?」
「これホントに魚っすか?鶏みたいな、豚みたいな。
初めての味だけど、凄く美味しい。」
心の中でガッツポーズ。
「じゃあさ、次はこれ食べてみて。つくねだよ。」
「焼き色がキレイっすけど、このタレは?」
「3種類作ったんだ。ポン酢醤油、味噌山椒、オリーブオイルベース。」
「司さんの、御勧めは、どれですか?」
「最初はオリーブオイルベースかな。残りの2つはその後で。」
恐る恐るという感じで、一口。
次の瞬間、瞳ちゃんの顔色が変わった。
「何すか、これ、美味い以外に、言葉が無いっす。」
そうだろう。此処までは大好評。
「最後は私の料理だよ。」 「先生の?」
一瞬強張った瞳ちゃんの顔。しかし一口食べて、表情は緩んだ。
「このフライ最高。優しいカレー風味で。
御飯と一緒に食べたら、◎×タッキーより断然美味いっす。
ていうか、3つとも御飯にメッチャ合う。美味しい。」
そうだろう、そうだろう。
特に星野さんの、カレー風味のフライ。
試食した時、あまりの美味しさに、2人で絶句した程だ。
カレー風味だから、当然、御飯との相性は最高。
「じゃあ、そこで白ワイン。チリのシャルドネ。」
「え~、カレー風味に白ワインっすか?」
「まあ、騙されたと思って一口。」
「嘘。これ、最高の相性。
カレー風味のフライだけじゃ無く、つくねもつみれも。」
「そうかい?姉さん、分かってるねぇ。ささ、もう一杯。」
「頂き、ます。でも司さん、少し変ですよ。」
「全然変じゃない。」 ただ少し、ペースが早すぎたか?
「司君は嬉しいんだよ。瞳ちゃんが頑張ってるから。」
「え、私が?」
「そう。俺が話した通り、バイト始めてくれたんでしょ?
素直に聞いてくれるか不安だったから、凄く嬉しいよ。」
「だって、司さんが...私。」
突然、瞳ちゃんの眼に涙。
これ、どういう事?一体、どうしたら。
狼狽える俺を尻目に、星野さんは瞳ちゃんの肩を抱いた。
「偉かったね。ホントは、バイトしたくなかったのに。
司君に言われたから、一生懸命、頑張ったんだよね。」
瞳ちゃんは何度も頷いて、涙が止まらない。
その様子を見ていると、胸が痛む。
俺が、『働いた方が良い』なんて言わなければ。
「最初は、言葉遣いに、気を付けようと思ったんだけど。
そしたら『声が小さい』って怒られて。
それで一生懸命、声を出したら、今度は『笑顔!』って。」
「弁当、売れなかったの?」
「弁当は、売れたんです。時間が経ったら、何だか急にお客さんが増えて。
8時過ぎには全部売り切れました。それで、今日は早上がりに。」
そりゃそうだろう。
朝イチだから、『大きな声・笑顔』という弁当屋さんの指導は当然。
多少言葉遣いに問題が有っても、元気の良い接客の方が。
というか、その初々しさが堪らない客も多数。特におじさん達は。
「瞳ちゃん、月曜日は絶対に遅刻しちゃダメ。
多分、開店直後から満員御礼だから。」
「え...何で?」
「こんな可愛い売り子さんがいるんだから、当然だよ。
楽しみにしてくれる人達のために、絶対遅刻しちゃダメ。分かった?」
「私の事、楽しみに?」
「そう。司君の言う通り。瞳ちゃんは可愛いから。」
「星野さんが出張の時とか、俺も弁当、買いに行こうかな。」
「あ、あの、有り難う御座います。」
俯いた瞳ちゃんの顔は真っ赤で、とても可愛かった。
食後、暫く3人で他愛も無い話をした後。
星野さんは『眠い』と言って寝室に、瞳ちゃんはシャワーを。
俺はソファに寝そべって、釣り番組を見ていた。
お目当ては10時から、ちょっと気になる釣りガールの番組。
でも、眼が覚めて時計を見ると、既に11時過ぎ。
番組が始まる前に寝てしまったらしい。
その時、気付いた。左肩から左腕に感じる、温もり。
床に横座りした瞳ちゃんが身体を預けて、俺の顔を見詰めている。
「あ、もうシャワーは。」
もう一時間以上過ぎてる。何言ってんだ、俺。
瞳ちゃんも、小さく笑った。
「もう、シャワーは終わって、髪も乾かして。」
星野さんも瞳ちゃんも...
風呂上がりの女の子は皆、こんなに綺麗なのかな。
「そうか、道理で。すごく、良い匂いがする。」
「私、頑張ったんです。」
ええと、弁当屋さんのバイトの事だよね?
「そうだね、瞳ちゃんは、すごく頑張ったと思うよ。」
「だから、ご褒美が欲しいです。」
「ご褒美?」
「今度、先生が出張の時は、司さんが。
司さんが、私の部屋に、来て下さい。」
そこまで言って、瞳ちゃんは立ち上がり、寝室に駆け込んだ。
可愛い、綺麗。星野さんと、瞳ちゃん。
この部屋、瞳ちゃんの部屋?
酔いが回った頭の中、幸せなイメージがグルグルと。
幸せ? それは本当に、幸せなのか?
確かに今、俺達3人は、悲しい涙を流していない。
このまま、ずっとこのまま、平穏な日々が続けば良いのに。
眠りに落ちる直前。
姉の、『あの人』の笑顔が、見えた気がした。
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ③』了
『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ』完
本日投稿予定は1回、任務完了。




