十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ②』
今回は、料理がメインとなります。
興味のない方は、料理の手順を読み飛ばして下さい。
6/04 追記
投稿当日に「いいね」を頂きました。
次の投稿に向け、何よりの励みになります。
本当に有り難う御座いました。
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ②』
大物っぽい魚がヒットしてから、既に5分を過ぎた。
もう何度目か分からない、高速の走り。ドラグは大丈夫か、心配になる。
引きは、大型のレディーフィッシュに似ている。
でも走りは重々しく、そしてジャンプをしない。
これは、レディーフィッシュとも、ターポンとも違う。
今まで体験した事のない引き。
更に数分後。ようやく魚が寄ってきた。桟橋に置いてあったタモを取る。
「星野さん、竿をお願いします。」
「え~、引きが強過ぎて、チョット怖いんだけど。」
「もう大丈夫、多分。」 「ホントに?」
不安そうな星野さんに竿を託し、海面ギリギリにポジショニング。
星野さんは上手く魚をいなし、俺の前に誘導してくれた。
水面に、銀色の魚体が見える。
大きくて、細長い。ボラか、ぶっ込み釣りなのに?
60、いや70cmを軽く越えている。
タイミングを計り、頭からタモで掬う。
すかさずタモを持ち上げ、魚を確保。その途端、膝が笑った。
「この魚、何?初めて見た。」
「多分、ボーンフィッシュ。和名はソトイワシ。」
「ボーンフィッシュ...何て言うか、凄く格好良いね。」
「強烈なファイトで、海外では結構有名な魚です。
フライフィッシングで、メインに狙う人も多いらしくて。
俺は、初めて釣りました。」
星野さんは、じっと魚を見ている。
「司君。この魚、食べられる?」
「ボーンフィッシュの名前の通り、小骨が凄いらしいですよ。
ターポンやレディーフィッシュと同じですね、」
「でも、2人とも初めての魚。折角だから、食べたいな。」
ふと、今朝考えていた事を思い出した。
【まあ、努力を尽くしても食用に適さない魚。それは確かに有る。】
【例えば、ターポン(イセゴイ)や、レディーフィッシュ(カライワシ)。
どんなに丁寧に〆て血抜きをしても、捌く時に身がズルズルに崩れてしまう。
更に半端ない数の小骨は固く、その先端は縫い針のように鋭い。正に凶器。】
美味いか不味いかでなく、
俺自身が『調理法』を限定していたんじゃ無いのか。
鱗を取り、成る可く手数を減らして捌く。
それでも鋭い小骨を取ろうとすれば、身はズルズルに崩れる...
「フードプロセッサー。」 「え?」
「フードプロセッサーが有れば、もしかしたら。」
「私、持ってる。3月に通販で買った。」 「ホントに?」
「うん。●×の業務用。氷とかナッツにも対応してるらしいよ。
ハンバーグ作る時に使おうと思ってたんだけど、結局使ってない。」
氷も対応。それなら多分、大丈夫。
「釣り上げるのに時間がかかったから、リリースは不安です。
ここは星野さんのフードプロセッサー頼み。持って帰って、食べましょう。」
「うん。」 星野さんの、輝くような笑顔。
果たして、俺の思いつきは上手くいくのか、責任重大。
のしかかる重圧を知ってか知らずか、星野さんは上機嫌。
帰りの車の中から電話を掛けた。
「もしもし、そう、私。
ああ、御免ね。久し振りに朝から釣りに出てたから。
それで今夜、一緒に晩御飯どうかなって思って。
そうなんだ? うん...うん。それで良い、じゃ、待ってる。」
「瞳ちゃんですか、晩御飯に招待?」
「そう。きっと寂しかったと思うから。それにね。」
星野さんは、輝くような笑顔。
「今日からバイトしてるんだって。◎里の弁当屋さん。」
「弁当屋って、朝早いんじゃ。」
「朝6時から売り子。部屋に戻ったばかりだから仮眠して、
夕方には来てくれるって。司君の助言は効果覿面。」
「何て言ったら良いのか...
プレッシャーが、『激辛・旨辛料理』の比じゃないっす。
俺の思いつきがポシャったら、一体どうなるか。メッチャ怖い。」
「それは大丈夫、司君が一生懸命に頑張ってくれる。
だから、ちゃんと『大人の対応』をするよ。
私も瞳ちゃんも、司君が大好きだから。ね。」
「何の救いにもならないし、プレッシャーは、増大っす。」
星野さんは楽しそうに笑った。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「皆の者、待たせたな。これが天下の●×。控えおろう。」
「はは~。有り難き幸せに御座いまする。」
大袈裟な...ただ今回に限って、俺の計画はフードプロセッサー頼み。
取り敢えず、星野さんに合わせておくのが吉。
さて、釣り場で血抜きをしたソトイワシ。
まずは丁寧に三枚おろし。そして鱗ごと分厚い皮を剥く。
あとはフードプロセッサーに仕事をしてもらおう。
具体的には、小骨ごと身を粉砕。予め、身には塩を振ってある。
部屋での計測で78cm/3850g。
血抜きする前なら多分、軽く4kgオーバー。
ソトイワシとしては文句なしの大物。三枚におろした身だけでも3kg近い。
フードプロセッサーの取説から余裕を見て、300gずつに小分け。
時間をかけて、しっかり小骨まで粉砕出来るように。
「師匠、ソトイワシのアラと昆布、大鍋で火に掛けました。」
「ありがとう。昆布は」
「沸騰直後に取り出します。」 「お、OK。」
ソトイワシのすり身は、300g×9で2700g。
つくねとつみれ汁。全部火を通して、余ったら冷凍保存すれば良い。
つくね用に1800g、つみれ用には900g、
すり身を2つのビニール袋にわけて、冷蔵庫に。
作業の傍ら、交代でシャワーを使う。
星野さんは大鍋につきっきりだから俺が先。
シャワーから出ると、星野さんが長ネギを刻んでいた。
「代わろう、シャワー使って。」
「大鍋、昆布は取り出しました。今は弱火です。」
「了解。」
やっぱり、このやり取りが凄く気持ち良い。
ピッと気合いが入って、心が引き締まる。さて、此処からが本番。
残りの長ネギを刻む、計2本分。
終わったらショウガ1個をすりおろし、キッチンペーパーで絞る。
つくねとつみれなら、絞り汁だけを使う方が雑味が出難くて良いと思う。
次はナガイモ1本(約300g)、皮を剥いてガンガンすりおろす。
更に出汁を取るのに使った昆布をみじん切り。
これで下準備は完了。
しかし...すり身2700gって。もし不味かったら、かなり。
まあ、間に合わせの料理は用意できるけど。
「お待たせ。未だ料理は始めてないよね?」
「丁度、下準備が終わった所。」 「良かった~。」
いつ見ても、風呂上がりの星野さんは...いや、集中集中。
「じゃ、師匠。先ずは何から?」
「焼く手間がかかるから、つくねを先に。」
「これ、さすがに1回じゃ無理だね。」
「そうだな...900gずつ、2回に分けようか。
ボウルに入れて、酒と塩を少々。よ~く混ぜて。」
「他の材料は?」
「片栗粉60g、長ネギみじん切り1本分、ショウガ汁を少々。
全部すり身に加えて、更に混ぜる。」
星野さんは丁寧にメモを取っている。
嬉しいけど、プレッシャーが半端じゃない。
もし...いや、ネガティブ思考はNG。
絶対美味しくなる、それを信じて作るのが第一。
「しっかり混ざってタネが出来たら、濡らした手で成形。
50~60gのハンバーグ型...こんなもんかな?」
最初の1個は計量、54g。合格、あとはこれを目安に。
2人で成形。星野さんの手際が良いし、メッチャ速い。
出来たのは16個。8個ずつ、フライパンで焼いていく。
「師匠、残りの半分はフライにしたいです。」 「フライ?」
「唐揚げというか、フライドチキンっぽく。絶対美味しいから。」
確かに、良いアイディアだ。
「その案、採用!」 「了解、フライは任せて。」
と言う事は、もう一つコンロが要る。テーブルにカセットコンロを用意。
つくねの作業はテーブルの予定だったから、好都合だな。
さて、つみれ。
まずはアラのスープを中鍋に取り分ける。上澄みを、そおっと、丁寧に。
中鍋をカセットコンロに掛けて強火。沸騰するまでに、タネを作る。
フライパンの様子を見ながら慎重に準備。
すり身は900gだから...溶き卵3個分、すりおろしたナガイモ。
片栗粉・味噌・酒を45gずつ。それとショウガの絞り汁を少々。
今回は食感のアクセントを狙って、刻み昆布も15g。
まとめてボウルに入れ、よく混ぜる。
此処でフライパンのつくねを偵察。
うん、中々の焼き色。ひっくり返して、もう片面も焼く。
...良い音が聞こえてきた。そうか、星野さんのフライ。
このまま第一陣のつくねが焼き上がったら、第二陣をセット。
良い感じに鍋が沸騰したところで、つみれを作成。
「つみれだね。作るとこ見たい。」
「もうすぐ鍋が沸騰するので、それからです。」
「楽しみ~。」 「フライは大丈夫ですか?」
「大丈夫、音を聞いてたら分かるから。」
この人。やっぱり、俺より料理上手いんじゃ?
「ね。鍋、沸騰してるよ。」
「じゃあスプーンでタネを掬って、これも濡らした手で丸めま~す。
40g見当だから、大きさはこの位かな。」
俺だけなら、もう少し大きく作るけど...星野さんと瞳ちゃんが食べるし。
やっぱり最初の1個は計量。44g、少し大きいか。
「これより少し小さめで、作り次第どんどん鍋の中へ。」
「面白~い。私もやって良い?」 「どうぞ。」
2人、黙々とつみれを丸め、鍋の中へ。アクが浮いたらこまめに掬う。
そのまま、つみれで水面(?)が埋め尽くされたら小休止。
作業の途中、星野さんは何度か、フライの鍋に戻っている。
約1時間後、3品が完成。
フライ10個、つくね16個、つみれ22個。
つくねに竹串を打って、フライはそのまま、キッチンペーパーを敷いた皿に。
つみれは瞳ちゃんが来てから仕上げて、つみれ汁に。
時計を見る。午後7時15分前、計画より少し早い。
特に、星野さんの手際が素晴らしかった。俺より正確で、速い。
「さて、そろそろ瞳ちゃんも来る頃ですね。あ、ヤバい!」
「どうしたの?」 「御飯、炊いてない。」
「大物にテンションが上がって...すっかり忘れてた。どうしよう?」
「土鍋で炊きます。浸水時間は15分、ちょっと手抜きで時短。
炊きたてを食べられるから、不幸中の幸いって事で。」
米は4合、手早く研いで浸水を
突然、背後から抱き締められた。
「あの、星野さん?」
星野さんは黙ったまま。背中に感じる、温かく湿った吐息。
少し待つと、俺を抱き締める力が緩んだ。
ゆっくり身体を反転させて、星野さんを抱き締める。
「御免なさい。俺、また何か?」
星野さんは黙ったまま、首を振る。
「じゃあ何で?」 「...私の、我が儘だから。」
「星野さんの我が儘って、一体どんな。」
「えへへ。1つ御願いが有ったんだけど、言い出せなくて。」
「言って下さい。俺に出来る事なら、何だって。」
「あのね。司君が瞳ちゃんと、そういう事になるのは、良い。」
だってそれは、星野さん自身が。
「でも、でも御願い。この部屋ではやめて。
この部屋には、司君との思い出が一杯だから...」
「信じてた、って言ってくれたのに。」
「え?」
「初めての、大好きな女の子が相手で、
それでも半年以上かかった、希代のヘタレですよ、俺。
しかも、この部屋でなんて、絶対無理。
俺だって、この部屋には星野さんの思い出が沢山。」
Tシャツの左肩が、じんわりと濡れる。
星野さんの、涙?
「ありがと。司君、大好き。」
「俺、も。」
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ②』了
本日投稿予定は1回、任務完了。




