十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ①』
体調が悪く、別系統の作品に集中していたため、
こちらでは本当に久し振りの更新。
少しでも、楽しんで下さる方がおられれば幸いです。
R04/6/03 追記
こちらの作品では初めての「いいね」を頂きました。
何よりの励みになります。明日、②を投稿出来るよう、作業頑張ります。
本当に有り難う御座いました。
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ①』
美味しい魚、不味い魚。当たり前のように、そんな表現を見かける。
その度に、何となくスッキリしない感じがするのは何故だろう。
美味い・不味い、それは人間の不遜じゃないのか。
まあ、努力を尽くしても食用に適さない魚。それは確かに有る。
例えば、ターポン(イセゴイ)や、レディーフィッシュ(カライワシ)。
どんなに丁寧に〆て血抜きをしても、捌く時に身がズルズルに崩れてしまう。
更に半端ない数の小骨は固く、その先端は縫い針のように鋭い。正に凶器。
ただし、ターポンもレディーフィッシュも一般的な釣魚ではない。
それらは、一部の釣り人だけが、釣り上げる楽しみのために狙う魚。
強烈な引き、信じられないような連続ジャンプ。
その魅力は文字通り『別次元』。
当然、『食べる』事を前提として釣る魚ではない。
そもそも美味いか不味いか、という判断の範疇に入らない。
じゃあ、アブラソコムツやバラムツは?
いや、ダメだ。両方とも人体では消化できないワックスエステルを多く含む。
だから販売が禁止されていて、食用魚として流通しない。
食べる量を制限したり、長い時間干してワックスを抜いたり。
手間暇かけて珍味とする地域は有るが、それは『例外』と言って良いだろう。
良く釣れて、食べるのに不都合も無く、不味い魚...
どんなに考えても、思いつかない。
例えば、この魚。キュウセン。
いわゆるベラの仲間で、一般的には食用としての人気が無い。
特に東日本では、釣り人にとって『不味い外道』の代表的存在。
市場への入荷量も少なく、商業的な価値も低いとされる。
敬遠される理由は2つ。『ヌメリの強さ』と『磯臭さ』。
だけど、塩で丁寧にヌメリを取った後、酢洗いで下処理をすれば激変する。
シンプルに刺身でも良いし、出汁を含ませた煮物でも良い。
ああそうか、関西では高級魚として扱われる事も有るんだっけ。
ふと、時計を見る。朝、6時少し過ぎ。
休みの日の朝。何でこんな早い時間から料理をしているのか。
しかも、こんな事を考えながら...
その原因は昨日の夜に遡る。
午後6時着の最終便。空港で星野さんのお迎え。
あらかじめ『お土産に弁当を買った』というメール。だから料理は封印。
部屋に帰り、お土産の弁当を二人で食べた。お酒は控え目。
食後、お風呂に入るという星野さんを待つ。
いつも通り、ソファに寝そべって、TVで釣りchを見ていた。
番組がクライマックスに入る直前だったから、多分、待ったのは45分位。
「あ~、気持ち良かった。ワイン、ワイン。」
風呂上がりに、ワインの一気飲みはヤバい気がするけど。
パジャマを着て、髪にタオルを巻いた星野さん。
頬がほんのりピンクで、可愛い。今夜は、このまま寝室のベッドに。
と思ったら、少し...いや、全然違う。
突然、ドサッと。星野さんが覆い被さってきた。
慌てる俺に構わず、腕の中、穏やかな息遣い。
「あの、星野さん?」
「...アリガト、凄く、嬉しい。」
「嬉しいって、何が?」
「私、信じてた。絶対、大丈夫って。でも、やっぱり、少し怖かった。
瞳ちゃんは...年下だし、凄く可愛い、から。」
「いや、大丈夫って。それは。」
確かに俺は希代のヘタレで、だから半年以上かかったけど。
しかし、それ以上の反応はなし。星野さんは熟睡。
さすがに、この状態で手を出す訳にはいかない。
ベッドから持ってきた掛け布団を、ソファの星野さんに。
俺はベッドの傍、床で毛布にくるまった。
少しだけモヤモヤして、何となく、早く眼が醒めた訳だ。
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「美味しい。司君の御飯食べたら実感するな~『帰ってきた!』って。」
「それはまあ、一昨日から仕込みをしてたんで。」
瞳ちゃんと一緒に釣って、でも結局、その日は使わなかった魚。
メッキは刺身、ベラは塩昆布煮と味噌汁。
三品とも御飯との相性は最高。
星野さんの食べっぷりを見てると、昨夜からのモヤモヤも吹き飛ぶ。
「メッキの刺身とベラの塩昆布煮は、お代わりも有りますよ。」
「御飯も?」 「勿論、3合炊きましたから。」
突然立ち上がり、台所に立つ後ろ姿。
「あの、星野さん?」
「塩昆布煮はそのまま、刺身は漬けにして具にするね。」
「え、具って?」 「お弁当、お握り。」
「お弁当...一体何処に行くんですか?」
「決まってるでしょ、釣り。一昨日の場所以外で。」
「一昨日の、場所?」
「休日、朝から瞳ちゃんと二人きり。
それは気まずいから釣り。司君なら多分そんな感じだろうな、って。」
全く、シャーロックホームズ顔負け...でも、何でこれから釣り?
「10時、いや9時かな~。このままだと瞳ちゃんが来るかも。」
星野さんは悪戯っぽく微笑んだ。
「私に聞きたい事が有るんじゃない?二人きりで。」
返事の代わりに、釣り具を準備した。
釣り場は、◎間の集落を抜けた海岸。
広い砂浜を歩いた先、石積みの古い桟橋。
釣りとは言っても、今日のメインは星野さんへの質問。
ルアーみたいに忙しい釣りはマズい。
で、ぶっ込み釣り。竿は2本。石積みの隙間に竿受けをセット。
エサを付けて仕掛けを投げ込んだら、後は待つだけ。
遠浅のサーフ、明るい時間はアタリも少ない。話をするのには好都合。
2人並んで座り、仕掛けを投げ込んだ先、海を見ている。
聞きたい事は沢山有るけど、いざとなると分からない。
何から先に、どう聞いたら良いんだろう。
少し気まずい沈黙の後、星野さんが口を開いた。
「じゃあ、先に私からの質問。良い?」 「...どうぞ。」
「司君は瞳ちゃんに、どんな助言をしたの?」
「助言?」 「司君は優しいから、あの娘、放っとけないでしょ?」
...優しいって、それなら星野さんの方が余っ程。
「瞳ちゃんには、星野さんの助言の方が。
その、指導をお願いされている立場な訳だし。」
「『力』についての指導には、とても素直よ。可愛くて、私には過ぎた弟子。
でも、一般的な『助言』は別。きっと、私の言葉は素直に聞けない。」
「それで司君は、どんな助言を?」
「ああ...ええと、バイトでも良いから、実際に働いた経験が必要。
あと、言葉遣い。TPOとか、そんな感じで。
どっちも月並みで、特別な事は言ってないと思うんですけど。」
星野さんの笑顔は、とても優しい。
「特別じゃ無いから、素晴らしい。司君だから、素直に助言が出来た。
瞳ちゃんを毛嫌いしないし、下心も無しで、ね。」
「いや、下心って。あの状況だから、かなりドキドキしてましたよ。」
星野さんは俯いて、小さい声で笑った。
「あの、星野さん?」
「そんなの、黙ってれば分からないのに...
わざわざ、『かなりドキドキしてました。』って、まさかの自白?」
「あ。」
しまった。頭の中がグルグル回る。誘導尋問、だったのか?
しかし、星野さんは座る場所をずらして、ピッタリと身体を寄せてきた。
俺の左肩に、頭をもたせ掛ける。
「大丈夫。昨夜も言ったでしょ、『信じてた』って。
それに、幾ら司君でも、後ろめたい事が有ったら自白なんかしない。」
「その話なんですけど、聞きたい事。『信じてた』って。」
「約束だから、何でも答える。質問をどうぞ。」
「『信じてた』のは、俺が瞳ちゃんに手を出さないって事ですよね?」
「そう。同じ部屋に二人きりでも、しっかり助言してくれるって。」
「そう言えば、さっきも言ってましたね。
瞳ちゃんが星野さんの助言を素直に聞けないのは、何故なんですか?」
「司君が好きだからに決まってる。
『力』に関しては私は先生。ただ、司君の事になると話は別。
まあ、ライバル関係?そんな感じ。」
...意味が分からない。
「ライバルなのに、瞳ちゃんと俺を、わざわざ同じ部屋で二人きりに?」
「私、瞳ちゃんのプランには十分な将来性が有ると思ってる。
儀式や祭祀のコンサルタント、自治体の資料館との連携。
何より、子育てと家族の在り方。」
コンサルタントや自治体との連携については完全に同意。
でも『子育てと家族の在り方』って?
突然、鮮明に甦る、瞳ちゃんの言葉。
【先生は司さんと結婚したいし子供も欲しい。私も子供が欲しい。】
【これまでの例から言って、産めるのは二人が限界。】
【共同で子育てするんです。先生と、私が。
私は在宅勤務だから、先生は育休取らなくて良い、と。】
「...じゃあ『妊娠しにくい』って話、ホントなんですか?」
「鋭~い。瞳ちゃんが聞いていた話と、私の認識は大体一致してる。
それなら『力』を持って生まれる子が極端に少ないのは当然。
私の『力』を知って本家が干渉してきたのも、それが間接的な理由。」
「何でそんな...『力』と妊娠に何か関係が?」
「さあ、それはどうかな。でも、私や瞳ちゃんは『異端』でしょ?」
「異端?」
「社会秩序という側面からすれば、『力』は一種のチート。
『力』を持つ人がゾロゾロいたら世界中が大混乱。
人類はとうに滅亡、地球が荒廃しててもおかしくない。」
「『力』を持つ女性が妊娠しにくいのは、それを防ぐための、制限だと?」
「あくまで私の仮説。
ただ、『力を持つ子供』という異端を排除するためだけなら、
『妊娠しにくい』じゃなくて『妊娠出来ない』の方が効率的よね。
でも、そうはなってないし、その理由は全然分からない。
じゃあ、次の質問をどうぞ。」
少し、胸の奥がザワザワする。でも、まずは聞かないと始まらない。
「ええと、星野さんは構わないんですか?
その、瞳ちゃんと俺が...そういう事になっても。」
小さな、溜息が聞こえた。
「確かに、自分でも変だと思う。
もし、普通に生まれていたら、『力』を持っていなかったら...
きっと、こんな風には考えなかった。
でも私は『力』を持って生まれたんだし、それは変えられない。
だから『私に取っての幸せは何か』か、それだけを考える事にしてる。」
「星野さんにとっての、幸せ...」
「この島で、こうして司君と出逢えた。今は司君の彼女で、とっても幸せ。
いつかお嫁さんになれたら、私達の子供を抱けたら、もっともっと幸せ。
でも、私が子供を産めるかどうかは分からない。
それなら、私が産んだ子じゃなくても『司君の子供』を抱きたい。」
お嫁さんになれたらって、これ、事実上のプロポース?
いや、今はそっちじゃなくて。
「瞳ちゃんも、同じ意見って事?」
「そう。だからあの娘のプランに将来性を感じてる。
ある程度、経済的な基盤が保障されてるのも大きいかな。」
「ある程度...軍資金ですか、5億円の。」
「ほとんどは一族を再建する事業の資金。子育てじゃなくて、ね。
だけど、あの娘の『危うさ』を解決出来たら、再建事業の見通しは明るい。
そうなれば、子育ての経済的基盤も万全。」
『危うさ』。俺自身もそれを感じたから、瞳ちゃんに。
そうか!
「だから、瞳ちゃんと俺を二人きりに?」
「そう。ライバルから『こことここを直しなさい』って言われたら反発する。
『上から目線』/『司さんなら直す必要は無いって言ってくれる』
多分、私が瞳ちゃんの立場でも同じ。
だからどうしても、司君から言って貰う必要が有った。
でも、ちょっとビックリしたかな。」
「ビックリした?」
「だって過不足なしにピッタリだったから。
『実労働の経験』と『言葉遣い』、さすが司君。」
その時、大きな音がした。
右側、俺の前にセットした竿受けがズレ、竿が大きく曲がっている。
そして重々しいドラグ音。
「何?大物?」 「そんな感じです!」
足場を固め、竿を持つ。ラインから、魚の動きが伝わってくる。
一呼吸待って、思い切りアワセを入れた。
十四之皿 『キュウセン(ベラ)&ソトイワシ①』了
本日投稿予定は1回、任務完了。




