十三之皿 『オニダルマオコゼ①』
①のオカルト要素は少なめ、表題のオニダルマオコゼは②以降の登場。
問題が有るのを御了承の上、お楽しみ頂ければ幸いです。
R04/6/25 追記
こちらにも「いいね」を頂きました。
自分でも、かなり気に入っている作品なので嬉しいです。
本当に、有り難う御座いました。
十三之皿 『オニダルマオコゼ①』
火曜日の朝、星野さんを空港に送ってから出勤。
職場での星野さんは、控え目だが極めて有能。
しかも、配置されているのは比較的出張の多い部署。
帰ってくるのは金曜日の午後。結構寂しいが、まあ仕方ない。
退勤後の帰り道。
俺と星野さんが結婚したとしても、星野さんが仕事を辞めるのは難しい。
賭けてもいい。例えば事業所長の○山さんにそんな事言ったら、
『お前が仕事辞めて主夫になれ』と勧められるだろう。本気の本気で。
まあ、共働きって道も有るし...いや、何時までもそれだと、子育てが。
運転しながら、そこまで考えて思わず赤面。
結婚? まあ色々有って、俺達は結ばれたけど結婚について具体的な話は全然。
うん、当然だな。第一、俺、未だプロポーズしてないし。
でも何時かは、ちゃんと区切りを付けないと。
寮の駐車場。車を降りて、気付いた。
部屋に灯りが点いてる。何で?
一瞬パニックになりかけた所で、眼に入った。
駐車場の隅の、ミニバイク。
多分、瞳ちゃん。 でも何で留守の部屋に、鍵は?
ドアの前で、考える。
鍵を開けて入るか、ドアチャイムを鳴らした方が良いのか。
...俺はアホか。何で自分の部屋に入るのに気を遣って。
いや、もし空き巣が入って、偶々そこに瞳ちゃんが来たとしたら?
深呼吸。
そっと鍵を差し込み、出来るだけ静かに回す。
鍵が、開いた。中から施錠されていたって事だ。
万が一に備えて、ドアを一気に開き、中の様子を把握する。
もし、瞳ちゃんに何か。
突然、ドアが開いた。心臓が。
「お帰りっす。何で入ってこないんすか?」
すっかり見慣れた、綺麗な顔。でも、何となく違和感。
「あ、灯りが点いてたから、空き巣かと思って。」
「ああ、ええと...これ。」
瞳ちゃんが差し出したのはキーホルダー。
星野さんが持っている合鍵だ。
その時、駐車場に入ってくる灯りが見えた。
この状態を見られたらマズい。星野さんが出張なのは職場の皆が知ってる。
いや、別に疚しい事は何も無いけど。
「詳しい話は中で。」 「了解っす。」
素早くドアを潜って一息。疚しい事は1つも無いけどね。
「ちょうど今、御飯が出来た所ですけど、お風呂先にしますか。」
その時、違和感の原因に気付いた。 見慣れない、エプロン姿。
「それとも、ワ・タ・シ?」
思わず、力一杯デコピンを喰らわす。何言ってんだ、コイツ。
「イッタ~い。何すんですか!!」
「聞きたいのはこっちだよ。『それともワタシ』って、一体何?
大体、何で瞳ちゃんが部屋の鍵持ってんのさ。」
「頼まれたからですよ。先生に。」 何か、ドヤ顔。
先生って、星野さんだよね。どういう事?
「頼まれたって、何を?」
「司さんの御世話ですよ。直接頼まれたんです、昨日。
二人はメッチャ仲が良いから、さっきみたいにお迎えしてるんだろうなって。」
軽い、目眩。反論、する気にもなれない。
「...取り敢えずシャワーにする。」
「じゃ、その間に御飯食べる準備しま~す。」
風呂場から出ると、良い香り。
色々考えたのはすっかり忘れて、腹の虫が鳴く。
今日は肉体労働系の仕事が中心だったし。
「自分は魚料理出来ないから、チンジャオロースにしました。
先生が『時々二人で中華料理食べに行くよ』って言ってたから。」
うん、これは文句なし。
しっかりしたピーマンと、見るからに上質な牛肉を炒め合わせて飴色に。
白っぽく見える細いのは竹の子。薄切り椎茸も良いアクセント。
前から思ってたけど、瞳ちゃんの料理は、かなりの腕だ。
「これは美味しそうだな...話は食べてからにしよう。
白ワイン取ってくるから、グラス準備してくれる?」
「は~い。」
青椒肉絲は最高に美味しい、白ワインとの相性も抜群。
でも、事情聴取を忘れちゃいけない。今の、この事態は一体?
ローテープルをはさんでソファに座り、テレビを見ながら話を切り出した。
「それで、俺の『御世話』って、一体どういう事?」
「『4日間出張で留守だから』って言われて。御飯・御弁当・掃除とか。」
「いや、そんなの俺でも出来るし。」
「だ・か・ら、先生は自分に頼んだんですよ。」
「...『だから』って。」
「仕事が出来て、料理も上手。何より優しい。
司さん、最近、職場の女子に人気らしいじゃないですか。
それでもし、先生が4日も留守にしたら悪い虫が...ねぇ?」
「『悪い虫』って。それを言うなら、この状況が問題でしょ。
瞳ちゃんと二人きり。他の人が見たら、俺、絶対疑われるよ。」
「あ、自分は大丈夫っす。ちゃんと話は付いてるんで。」
「『話が付いてる』って、全く意味が分からないんだけど?」
「司さん、結構、鈍いっすね。
今、悪い虫が訪ねて来たら、自分がドアを開けるんですよ。
『はい、何方?』って。そしたら悪い虫も一発撃退、と。」
「いや、だから。それだと俺が疑われて。」
「それで良いじゃないですか。司さんの人気が下がるんで。」
酷い、目眩。
「確かに悪い虫は困る。でも『浮気者』って濡れ衣も、かなり。」
「浮気じゃ困ります。きっと先生も怒りますよ。」
「酔ってる訳じゃ無いけどさ...肉体労働系の仕事で疲れてるのかな。
さっきから、瞳ちゃんの話が、全然理解出来ないんだけど。」
瞳ちゃんはソファから下りて床に座り、白ワインを飲んだ。
「まあ、そうですよね。ちゃんと話したら、聞いてくれますか?」
ローテーブルに載せた両腕を組み、真っ直ぐに俺を見詰める。
釣られるように、俺もソファから下りて床に胡座をかいた。
白ワインを一口。
「じゃ、聞かせて貰おうか。」 「了解っす。」
瞳ちゃんの話は、文字通り、驚くべき内容だった。
「今日、自分は2時に部屋を出て、買い物して、此処に着いたのは3時過ぎ。
どう、思いますか?ヒント、今日は火曜日・平日です。」
そう言えば...明日も平日。明後日は公休日だけど。
それに瞳ちゃんは20歳、でもこの島の学校は高校まで。
何処かで働いているとしたら、昨日急に言われても休みは取れないだろう。
「学生じゃないし、就職もしてない?」
「正解。調子出てきたっすね。」
瞳ちゃんは嬉しそうに手を叩いた。
「自分、高卒で就職はしてないっす。
何て言うか、働く必要が無いんですよね。お金持ちなんで。」
旧い巫の一族。この島では、様々な権限を持っているだろう。
しっかりした経済的な基盤を持っていてもおかしくない。
それに瞳ちゃんの祖父の代で、阿漕な事業を始めたらしいし。
「あ、でも家のお金じゃないですよ。自分で稼いだんです。
ずっと前から、家業をまともにしたいと思ってて。
でも、それにはお金が必要だから、取り敢えず商業科に入りました。高校の。
経理とか資格を沢山取ったら、少しでも良い条件で就職出来るかと思って。」
「成る程。ちゃんと考えてたんだ。偉いな。
でも、それだけでお金持ちになるってのは無理だよね。」
「2年生の夏休みの自由研究。テーマは『株式の運用』。」
「株?」 高校2年生が、株の運用って...
「最初は興味本位っていうか、遊び感覚で。
自由研究のテーマが見つからなかったから、丁度良いかなって感じ?
口座は、母親に頼んで○×証券に開いて貰ったんですけど。
元手は自分の貯金から、10万円。」
にしし、という擬音語がピッタリな笑顔。
「3週間で20万ちょっとに増えたんです。凄く無いっすか?」
「凄いね。ちょっと信じられない位。」
瞳ちゃんの笑顔に、薄い自嘲の色が混じった。
「狡いってのは分かってます。チートそのもの、なんで。」
「チート...株で、それも、初めての運用だったのに?」
「○×証券のホームページに株のリストが有るんですよ。
そのリストを見てたら、文字の色が違って見えるのに気付いて。
緑色に見えるのは、翌日以降に値が上がる。
赤っぽく見えるのは、翌日以降に値が下がる。
それが分かったら、簡単でしょ?」
あの夜、瞳ちゃんは妖を使役した。
ならこれも、『海神の巫女』の資質に由来する、特殊能力...
「取り敢えず緑色のを買って、値が上がったら売却。
その資金で、赤色だったのが緑色になったら買う。」
「そう。それを繰り返すだけ。ちょっと空しいけど。」
「空しいって...それで、一族を立て直す資金を手に入れたんでしょ?」
瞳ちゃんは右掌を開いて見せた。指が5本、五百万?。
でも、一族再興には、ちょっと心許ない。
「もしかして、5千万?」 「いや、5億っす。」
「5億?」 「それ位有れば、色々使えますよね。」
違和感。一体、何だろう。この感覚は?
「信じられませんか?」
「いや、信じるよ。今、瞳ちゃんはとんでもないお金持ち。
そして星野さん、凄く優秀な先生にも恵まれた。」
「...その、通りですね。」
俺は、少し酔っていたのかも知れない。
違うな。正直に言えば、俺は舞い上がっていたんだろう。
星野さんが『彼女になりたい』って言ってくれて。
色々有ったけど、星野さんと結ばれた。
それだけでも、過ぎた幸せ。なのに...
今、目の前に、こんな可愛い女の子がいる。それも、二人きりで。
だから思わず、聞いてしまったんだよ。それこそ、分不相応の問い。
「じゃあさ。何で瞳ちゃんは今、此処にいるの?よりによって、俺の部屋に。」
「答えますけど、それは司さんが聞いたからですよ?」
挑発的な、微笑。何だか、ちょっとムカつく。
「うん、その通り。だから理由を是非、聞かせて欲しいな。」
十三之皿 『オニダルマオコゼ①』了
本日投稿予定は1回、任務完了。
体調と相談しながら、なるべく早く②を投稿出来るよう頑張ります。




