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十一之皿 『年越し蕎麦②』

R04/6/29 追記

こちらにも「いいね」を頂きました。

自分としては、かなり気に入っている作品なので嬉しいです。

本当に、有り難う御座いました。

十一之皿 『年越し蕎麦②』


毒(?)棘に注意しながら魚を〆め、釣り具を片付ける。

立ち上がりかけた時、遠くから草を踏む足音。それも、多分複数。

この寒さ、この風。なのに、こんな場所を訪れるとしたら...ヤバい。


静かに、立ち上がる。聞き違いじゃ無い。足音は、もう、かなり近くに。

星野さんは...嬉しそうに微笑んでいる。これは相当、ヤバい。

背後に星野さんを庇うようにして、振り向く。


獣道を抜けた場所。人影が3つ。

先頭は老人。その後にゴツい男が2人。コイツ等、絶対、一般人じゃない。

竿を使って牽制しながら、何とか位置を入れ替えられるか。

そしたら、星野さんだけでも。


「お前達だな。あの騒ぎの中、◎間の浜でBBQをしたのは。」


口を開いたのは老人。一体何故、BBQの事を...

これは、マズい。俺達の行動を監視してたというのか?


「へえ~。アンタ、何でそれを知ってるんだ?

あの日、◎間のビーチには俺達以外、誰もいなかったけど。」

「調べる方法は幾らでも有るさ。それより、どっちかな?」


「どっちって、何が?」


「★泊の港にサメを呼んだのは、どっちだ?

あらかじめ血肉を撒いたか、それとも怪しげな術を使ったか。」


そうか...『霊媒師の家系』。これは『詰み』だ。どうする?


「お陰で孫を、跡取りを亡くした。その償いを、して貰う。」

老人の顔が、醜い笑顔に塗りつぶされた。

「それが、お前達のどちらかなのは間違いない。だから、どっちでもいい。

男は切り刻んでサメのエサ。女は...そうだな、此奴らに任せる。

その後は、やっぱりサメのエサだ。さあ、やれ。」


ゴツい男二人は一歩、前に出た。下卑た表情。


胸の奥、何かが激しく燃え上がる。

後ろ手に、ポーチに手を伸ばす。ナイフ。いつだって、完璧に研いである。

これと竿で...絶対に、痛い目を。



「祖父ちゃん、やめなよ。」

涼しい声が、夜の空気を震わせる。

何時の間にか、堤防に少女が座っていた。高校生くらい?


「祖父ちゃんも術士なんだから、『力』で勝負すれば良いのに。

そんな男、二人も雇ってさ...あ~、ホントは祖父ちゃんも気付いてたんだ。」

「何の、話だ?」 老人の表情に、動揺が見える。


「サメの件が、『海神様』の御意志だって事だよ。

でも、認めたくないから自分を騙した。

それは『海神様』と関係ない、暴力で解決出来る問題だってね。

全く、みっともないったら。」


「みっともない、だと?」

「その二人を見て『どっちか』分からないんでしょ?

それなら『力』の勝負でも勝てない。子供でも分かる理屈。」

「そんな事は関係ない。償いを、させるだけだ。」

「償いって、何の?そもそも、アイツが海神様に罪を被せたのが原因。

全部、自業自得。一族が根こそぎ滅ぼされても文句は言えない不祥事。」


「黙れ!お前は、何を。」

「アンタこそ、黙れ。血迷った老人の相手は、もう、ウンザリ。」


少女は堤防の上で立ち上がった。

強い北風になびく、長い髪。闇に浮かぶ、綺麗な顔。


「糞ジジイ、お前の時代からだってな。

海神様をないがしろにして、えげつない商売を始めたのは。」

「お前...私に、そんな口を。」


少女は低い声で笑った。


「おい、出番だぞ。欲に塗れた男が3人。最高の、エサだろう?」


突然、風が止まった。何故、こんな?

続いて背後から、水が滴るような、音。


『確かに、良いエサだな。』


聞き覚えの有る声。寒気を堪えて、そっと振り向く。

濡れた、長い髪。黒っぽい着物。

襟元と裾。胸の谷間も、脹ら脛も、仄白く光って。

この妖...あの河口で遭った


「それ以上、見ちゃダメ。」

肩を掴まれて、体が反転する。目の前に、星野さんの、笑顔。

「星野さん。何、で?」

「『なるべく使わない』そういう、約束でしょ。だから、待ってたの。

警告文の送り主を。この後の始末は、私達には関係ない。」


「関係は無くても『縁』は有るよ。海神様が結んで下さった『縁』が。」

少女の声に、星野さんが振り向いた。

「確かに、縁は有る。だから?」


少女は堤防から飛び降りた。向かい合う、星野さんと少女。

呆けた顔で妖に歩み寄っていく男達とは対極。

凄まじい緊張感。


「サメに食われたのは、私の兄。」

「そう、気の毒に。でも、自業自得でしょ、あなたの言った通り。」

「頭だけでも、戻して下さったんだから、海神様の御心には感謝してるよ。

そして私は、かんなぎの一族を一から作り直すつもり。

だから力を貸して欲しい。『海神の巫女』に。」


「...私は未だ、『巫女』じゃ無い。

ホントは、あなたのように真っ直ぐで可愛い人の方が、向いてると思う。

始末がついたら、『警告』と同じ方法で、名前と連絡先を教えて。

今度は、私だけに。そしたら、出来るだけの事はする。」


少女の返事を聞く前に、星野さんはオレの手を引いて歩き出した。



帰り道、コンビニの駐車場に車を駐めた。

オレなりの、決意。


「温かい飲み物と、他にも少し買い物をしてきます。

あ、コーヒーと紅茶、どっちが良いですか?」

「...コーヒー。」


『何でそんな事聞くの』って感じ。

普段、星野さんは紅茶を殆ど飲まないから、ね。



翌30日、二人で年越し蕎麦の準備に専念。特にスープ。


「ホントに綺麗な出汁。水と昆布だけなのに。」


昨夜から昆布を水出ししておいた鍋。

蓋を取り、中を覗き込んだ星野さんの笑顔。

そう。この笑顔を見られるだけでも、手間暇掛ける甲斐が有る。


「その鍋を火に掛けて、沸騰する直前で昆布を取り出して下さい。

昆布と入れ替えで、バケゴン(ゴンズイの化物)のアラを入れます。

アラは今から炙るので、そのまま投入で大丈夫。」


「はい。」 あまりに素直な返事に、戸惑う。


バケゴンを捌き、アラをバーナーで炙る。後は星野さんにお任せ。

問題は、身。こんなにデカいゴンズイを料理した経験はない。

蕎麦に合わせるとしたら...アレ、だな。


軽く蒸した身を、甘辛の特製タレに漬け込む。

これを焼いてチャーシューっぽく、ニシン蕎麦のイメージで。

「アクは、どの位取れば良いかな?」 お玉を持った笑顔。

「ざっとで良いです。アクを取ったら火を止めて、明日まで寝かせて、完成。」


不意に、星野さんはオレの肩に頭をもたせ掛けた。

「楽しみ、だね。」 ちょっと、焦る。

「バケゴンの味が心配ですけど。」

「釣ったのは私だから、美味しく無くても司君のせいじゃない。大丈夫。」



遂に大晦日。

星野さんは朝から張り切って、サイドメニュー(?)を準備している。

予約していた蕎麦を昼前に受け取る。それがオレの任務。

星野さんには内緒で予約していた海鮮オードブルも。

時間までクーラーボックスに入れておくから、計画は完璧。

そして。


格闘技イベント、そして釣り。TVの特番を見ている内に時は過ぎていく。

バケゴンチャーシューも完成した。後は待つだけ。


「年越し蕎麦って、夕食の時間に食べる?

それとも、年越しの時間に食べた方が良いのかな?」

「星野さんの家では、どんな?」

「夕食の時間、だったけど...今年は特別だから、正式に。」

「大丈夫。正式かどうかは別として、全国的にそれが多数派です。」

相談の結果、年越し蕎麦は午後7時と決定した。


「良い、匂い。」 「スープの味も中々ですよ。」 「じゃあ、蕎麦を。」


その後、オレ達は無言で蕎麦を完食した。

あまりに美味しくて、喋っている間に冷めるのが怖い位。


「美味しかった~。こんなにスープが美味しいなんて、ビックリ。」

「チャーシューっぽい身も蕎麦と合ってましたね。」

「うん。流石は、師匠。」 


その後はソファに並んで座り、TVを見た。

時々オレが星野さんの肩を抱いたり、星野さんがキスをしてくれたり。

絵に描いたような、幸せな時間。



そして夜も更け、公共放送の年越し企画が始まった。

いよいよ、計画発動。


「何の、準備?」 「年取り魚です。」 「年取り、魚?」

「オレも、これが初めてなんですけど、全国的にそんな風習が有るみたいで。」

「凄~い。豪華なオードブルだね。」 「特注、ですから。」


星野さんの好きなネタを選りすぐった寿司。数種の魚の刺盛り。

ハタ系の煮付け。イトヨリダイの丸揚げ。紅白蒲鉾。

そして、この地方で一般的な、衣の分厚い天ぷら。タネはソデイカとタカサゴ。


「ワイン、取ってくるね。」 星野さんは、すごく嬉しそうに見えた。


「3・2・1。オメデトー。」 「御目出度う御座います。」

「あの。ホントに、アリガトね。」 「え?」

「蕎麦だけじゃ無くて、年越し全部が特別。すごく、嬉しい。」

「お礼を言わなきゃいけないのは、オレの方ですよ。

星野さんと出逢ってから、色々な事が有って、ホントに楽しかった。」

「私も、楽しかったよ。」


蕎麦の後に食べる。それを考えて、オードブルの量は控えめ。

年が変わって30分程で完食。うん、大満足。


「飲み過ぎないように、しないと。」

星野さんが席を立つ。きっと、浴室で顔を洗って、歯を磨いて。

その間に、オレはキッチンのシンクで歯を磨く。


数分後、星野さんが戻ってきた。

「あ~、お腹いっぱい。良く眠れそう。」

「じゃあ、一緒に。ソファが良いですか?それとも、ベッド?」

「え?『一緒に』って...」

「もう、年を越しちゃいましたけど、『約束』を果たそうと思って。」


細い体を抱き締める。

「これ、29日の夜に買ったんです。」 男性用の、避妊具。

「嫌、ですか?」 「ううん、嫌じゃない。嬉しい。」

「ソファ?ベッド?」 「...ベッド。」



翌朝、元旦。

夜明け前に起きて初詣。

初詣と言っても、神社やお寺ではない。◎間の集落、浜辺の大きな岩陰。

星野さんが岩の窪みにアロマキャンドルを立てて、火を付けた。

『海神様』の祠。 二人並んでお参り。作法は星野さんの指導に従う。


お参りの後、海の向こうに初日の出。

二人、砂浜に座って肩を寄せた。突然、脇腹をつねられる。


「痛。何で?」 星野さんは俯いていた。

「昨夜、司君、少し意地悪だったから。」

「『意地悪』って...その、星野さんが、とても可愛くて。」

「ゴムが、足りなくなるかと思った。」

「いや、それは。オレ、初めてで、何度か失敗、したせいで。」


「帰りに、コンビニ寄ろうね。」 「え?」

「足りなくなったら困るでしょ?」 「はい。」

「昨夜、初めて、長生きしたいと思ったの。

これからもずっと、夜は司君が一緒にいてくれるならって。」

「勿論、ずっと、一緒にいますよ。嫌われるまでは。」


「痛!!」 脇腹に、全力の肘打ち。息が詰まる。

「嫌いになんか、なる訳ないでしょ。」

「はい...是非、その方向で。」


十一之皿 『年越し蕎麦②』了/十一之皿 『年越し蕎麦』完

本日投稿予定は1回、任務完了。

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