よいか
喰ろうてよいか
いいよと言えば、台に乗せたものは消えてしまう。
今も、煌びやかな賞状の束がどこかへと消え去った。
生きることを望まずに、林へ入ったその先に、偶然見つけた鳥居の奥の、苔生した石の台と小さな社。
その台に、持っていた鞄を置いたら声がした。
喰ろうてよいか
「……いいんじゃない?」
考えることを放棄して、軽く答えた少し後。
鞄は丸ごと消えていた。
今まで長らく運んだ鞄は影さえ残っていなかった。
軽い。
柵が一つなくなった。
私はなんというものを持っていたんだろう。
あの鞄をいつから運んでいただろう。
何度も反芻した過去の苦味をまた味わう。
周りの望みを叶えても、次の望みが返るだけ。
産声上げれば生きるよう。
四肢が動けば歩くよう。
言の葉真似れば語るよう。
ずっと、ずっと繰り返し。
きっと、きっとこの先も、永遠に求められるだけ。
次の次まで分かるなら、その次もきっと同じでしょう?
ぐるぐると私を苛む重い渦。
その渦の流れが一つ消えた。
私はもうあの鞄を運ぶことはない。
まだ。
私にはまだ柵がある。
全て消え去ったなら、どれだけ自由になれるだろう。
帰らぬ決意を翻し、散らかる様を気にもせず、大事だと教わった物を持てるだけ持ち再び社へ赴いた。
よいか
いいよと言えば、成果と呼ばれた物が消えていく。
よいか
いいよと言えば、努力と呼ばれた物が消えていく。
よいか
いいよと言えば、基礎と呼ばれた物が消えていく。
蟠りはもうない。
私を満たしていた渦はどこかへと流れていった。
とても軽い。
この軽さが愛おしい。
私は空になりたい。
苔生した捧げ台へとよじ登り、告げた。
「たべて」
宵渦は随分久しぶりに、望んだ。