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Adrian Blue Tear ―バー・エスメラルダの日常と非日常―  作者: すえもり
Ⅰバー・エスメラルダの日常と非日常 November

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ABT8. ロシアン・ブルー (4)

 ブレンは注文したビールを一口だけ飲むと、廃番の銘柄の煙草をアストラにあげた理由を話した。

「買い占めてた残りをやったら、吸ったときに懐かしそうな顔をしたんだよ。だから最後の一箱も渡した。そのほうが価値があると思ったからな」

「ほほう。素敵なプレゼントですね」

「プレゼント? そこまでじゃないが、大事にしてくれてるなら、怒る理由にならねえだろ。もしかして、あいつに猫を預かってくれないか聞かなかったのが悪かったとか?」

「いや、違うと思いますよ」

 ルピナスは即、却下する。

「そうか? うちの猫、支部局に迷い込んだやつでさ。あいつ、隠れてよく世話してたんだよ。誰もいねえ時はニャーニャー言いながら喋りかけててさ、おかしいの何の」

 口元を緩めつつ、彼は思い出し笑いした。ルピナスは目を細めて微笑んだ。

「ふふ……ほんとは可愛い人ですよね。それで、どうしてブレンさんが貰うことになったんですか?」

「くじ引きだよ。あいつの、あんな悔しそうな顔を見たの、あれが初めてだったな」

「あら、まあ。アストラさんがその子にまだ未練があるなら、とってもいいアイディアがあるんですけど」

 ルピナスは満面の笑みを浮かべる。ブレンは首を傾げた。

「アイディア?」


 そこで、入り口のチャイムがけたたましい音を立てた。

「ルメリ、アストラさん」

 ぼんやり話を聞いていたフランツは、慌ててカクテルを用意する。アストラはハイヒールの靴音を響かせながら、ブレンに歩み寄った。いつも通りのクールな表情だが、フランツの目には、少し覇気がないように映った。

「一体何の用? こっちがまだ話してる途中で切るし……」

「早かったな。晩飯食ったのか?」

「食べてないわよ」

「まあ座れよ。マスター、悪いけど食うもんも頼む。軽いのでいい」


 ルピナスは少し悩み、ソーセージや(まかな)いで作っているオムレツなら用意できると言って準備を始めた。フランツは「ブレンさんからです」と言いつつ、アストラにグラスとおつまみを差し出した。アストラは困ったように眉根を寄せた。

「何? 至れり尽くせりね。私に頼み事でもあるの?」

「いや……そういうわけでもない。わざわざ来てもらったし」

 ブレンは決まり悪そうに言う。

「俺、お前に何か余計な事でも言ったか?」

「いつも言ってるじゃない」

 アストラは(あか)いカクテルを見つめながら、冷たく答える。

「じゃ、何で最近不機嫌なんだよ。俺がお前にミルヒの世話を相談しなかったからか?」

「頼まれたら受けたかもしれないけど? そんなことで怒るほど幼稚じゃないし、不機嫌でもないわ」


 沈黙。ブレンがお手上げだという顔でビールを飲む。ルピナスは出来上がった即席オムレツとソーセージを出した。フランツは個人的に、オムレツもメニューに追加すべきだと思っている。彼女のオムレツは、なかなかの逸品なのだ。

「熱いので気をつけてください。ブレンさん、私はミルヒちゃんの世話、アストラさんにお願いするのがいいと思います」

「いいのかよ? いや、アストラの部屋がペット可なのか知らねえし、毎日残業だから頼みにくいと思ってさ」

 アストラは彼と目線を合わせないまま、ルピナスに礼を言うとフォークでオムレツをつついた。

「私は構わないけど」

 ルピナスはフランツに目配せした。たぶん、二人きりにしろという意味だ。フランツは二人に軽く頭を下げてから裏に下がった。

ABT.8 (4)(5)のBGMは A Star Is Born: Soundtrackより、Lady Gaga/Always Remember Us This Way です。

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