表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Adrian Blue Tear ―バー・エスメラルダの日常と非日常―  作者: すえもり
Ⅰバー・エスメラルダの日常と非日常 November

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/93

ABT7. 鬼教官 (1)

挿絵(By みてみん)


「酷いですよ。青二才だなんて」

 フランツはウォーターサーバーに氷を放り込みながら師匠に抗議した。彼女は涼しい顔で弟子のほうを振り返った。

「第一義はティタンの名産の果物の名前ですよ? 青いプラムのことです。あのカクテル、プラムのシロップを使っていたでしょう。美味しかったですよ。こんなに素晴らしいダブルミーニングがありますか?」


 フランツは半眼で無言のまま、再び氷を入れた。

「遠回しに揶揄(からか)うのは、よしてください。あなたに(かな)わない事は分かっていますので」

「うふふ、認めましたね。減らず口を直さないと、いい熟し方ができませんし、素敵なあの子も落とせませんよ」

「何の話ですか」

 ルピナスは、青年が手元を狂わせるのを見逃さなかった。

「女の勘を舐めちゃダメですよ。今日は金曜日ですね。ちゃんと前髪をセットしてるじゃないですか。決まってますねえ」

「な……」


 入り口のチャイムが涼しい音を立てた。

「ルメリ、お足元が悪い中ありがとうございます」

 ルピナスは一瞬で笑顔に切り替えると、現れた男女を出迎える。シャロンと一緒に現れた連れは、引退も間近そうな年齢ながら背筋がピンと伸びた男性だ。

「シャロンさん、そちらのお方は?」

「こんばんは、ルピナス、フランツ。こちらは私の……」

「先生」

 フランツは硬直して、鷹を思わせる鋭い目つきの男に呼びかけた。彼もまた、中折れ帽を脱ぎかけた手を止めた。

「……こんなところで何をしとる。するとあれか? フラクスが言っていた剣士とはお前か」

「え? フランツ、教官と知り合いなの?」


 シャロンは驚いて二人を交互に見た。フランツは次の瞬間、素早く体を(ひね)った。一瞬前まで頭があった位置を風が()ぎ、白金の髪が数本、宙を舞う。

「ほう。いちおう怠けては、おらんようだな」

 フランツの喉元で銀色の切っ先がぴたりと止まる。

「だが、死んでおるぞ。二千三百七十四回目だ」

「お、お客様、店内では、どうかおやめください」

 ルピナスが言うまでもなく、彼は素早く剣を鞘に仕舞っている。シャロンは警察に見つかったら銃刀法違反で捕まると(たしな)めた。

「うむ、だが、これはさっき買った東洋の刀の模造品だ。なんか、うっかり余計なものが切れちゃったけどね。これは意外と危険だな……あー! 腰が。いてて」

「老体を鞭打つからです」

 フランツが言うと、「相変わらず生意気な」と睨みつつ、教官は腰を折りながら椅子についた。


「はあ……ようやく再試の試験官候補が見つかるかもしれんと思ったのに、このヘナチョコ弟子じゃあな」

 フランツは小声でシャロンに尋ねた。

(まさか言ってませんよね? あの時の衣装のこと)

(う、うん)

「何をコソコソ話しとる」

「いいえ。先生はウイスキー一択でしたね」

 フランツは誤魔化すように言うと、グラスに氷を投入する。

「無論だ。で? お前がここにいる理由は? 裏仕事から尻尾巻いて逃げ出したんか」

「いえ。それは断じて違います。残念ながら理由はお話できません。俺の姿を見たことは一切口にしないでください」

 先生は切れそうなほど鋭い眼光を放ち、たっぷり十数える間フランツを睨みつけていたが、ふっと息を吐いた。

「お前、嘘をついているときは分かりやすいからね」


 ルピナスがシャロンに作ったサングリアと先生の分のウイスキーを出した。フランツはようやく緊張が(ほど)けるのを感じた。

「フランツさんには用心棒もやっていただいています。剣術は先生に教わったんですね」

「まあな。用心棒には向いとらんだろう? 確かにこれは儂の一番弟子だが、木を見て森を見ず、自分の身を守るので精一杯だからな」

「ふふふ、そうですね。でも、腕はうちの古参の用心棒が保証済みです」

 ルピナスはいつも通り、「サービスです」と言いつつナッツの小皿を出す。先生は、シャロンにも食べるよう勧めた。


「教官、昔は個人の指導もなさっていたんですか」

 シャロンが訊くと、先生は意外なことを言った。

「いや、こいつの場合は父親に頭を下げられたから、仕方なくだ」

 フランツは氷を割る手を止めた。

「頭を下げた? あの人がですか?」

今回のBGMは、ドールズフロントラインOSTより、Vanguard Sound/Make Senseです。

私が好きなアプリゲームです。一番気に入ってる曲がOST2に収録されていればいいのですが!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ