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ABT3. アマギ2.51の欠陥 (4)

 モニカはレベッカという少女を連れてやって来た。友人と言っていたが、彼女もやはり船員であるらしい。大人しそうな見た目に反して、ブレンと同じ硝煙の香りを纏っていたが、ルピナスと年齢の近い二人の少女は仲が良いようで、楽しそうに談笑している。


フランツは邪魔しては野暮だと思い、カウンターの端で銀食器を磨いていた。外はこの地域では例年より早い初雪が降っているらしく、室内はガスヒーターで暖められている。これもフランツにとっては見慣れないものだ。


 入口の辺りで物音がして、冷気とともに客が入ってきた。初めてここに来た日のフランツのように、汚れた外套に身を包んだ少年だった。手にはこれまた薄汚れた布で包まれた長い荷物を持っている。

「ルメリ」

 ルピナスより先に気付いて声を掛ける。彼女に目線を向けると、首を振ったので、来店は初めてかと聞くと、彼はフードを下ろして頷いた。顔も髪も薄汚れている。彼は戸惑ったような表情で店内を見回した。

「確かにここに来るように言われたんだけど……」


 やや東部訛りのゲルマン語だった。モニカとレベッカも、彼が常連ではないと聞いて興味を持ったらしく、様子を伺っている。

「どなたかと待ち合わせされていらっしゃいますか?」

 フランツがゲルマン語で聞くと、彼は一瞬ほっとしたような顔をした。この街では、どちらかといえばアルビオン語の方が通用しやすいからかもしれない。彼はフランツの顔を数秒間見つめて瞬きした。

「どうかなさいましたか?」

「いや……気のせいか。何でもないよ。店主さんっている?」

 ルピナスが「私ですが」と歩み出ると、彼は一瞬不思議そうな顔をしたが、グレン・スプリングフィールドを知っているか、と尋ねた。ルピナスは、さっと顔色を変えた。


「お客様のお名前を聞いても?」

「ランス・スプリングフィールド」

 ルピナスは安堵と緊張の入り混じった表情を浮かべた。

「ランスさん。お待ちしておりました。よくぞご無事で」

 彼女は、彼にヒーターに近い席に座るよう言うと、フランツに暖かいココアを入れるよう指示し、少し連絡をすると言って電話のダイヤルを回し始めた。その時、再び扉が開いて冷気が容赦なく吹き込んできた。黒い外套を纏った男が入ってきて、室内を見渡すと、嫌な金属音と共にモニカの頭に何かを突きつけた。

「何……」

 レベッカが「モニカ!」と悲鳴を上げた。男は銀色に光る拳銃を少女のこめかみに押し当てると、抑揚のない声で少年に告げた。

「ランス・スプリングフィールド。その荷物を置いてこちらへ来い」

「お前……どこから……」


 ルピナスが受話器を置くと同時に、モニカを盾にして立っている男の眉間に赤い光が現れた。

「ハミルトン、下がれ。クロイツァーもだ」

 いつのまにか現れたアーノルドが背中越しに言う。レベッカは背中側に拳銃を隠したまま、じりじりと後ろに下がった。電話が鳴るが、ルピナスは受話器を取ってすぐに切った。


「ずいぶん物騒な店だ。私はただ、盗人を捕まえに来ただけだというのに」

「ここにいるのは当店の大切なお客様たちです。お引き取りください」

 ルピナスは怯える様子もなく、強い語気で言い放った。少年は腰を浮かせた。

「俺がそっちに行く。だからその子を離せ」

「いけません!」

 ルピナスが叫ぶとほぼ同時にフランツはナイフを放っていた。男の指が引き金に掛かったのが見えたからだ――


 耳をつんざくような爆発音がした。アーノルドが男の膝を撃ち抜こうとコンマ一秒ほど遅れて放った弾丸は、的を逸れて壁を穿った。悲鳴を上げたモニカの頭上一センチほど上を掠めた銀色の軌跡は、すんでのところで男に叩き落とされる。男の姿は影のように消え、ピンが抜ける涼しい音がした。

「モニカ!」

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