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Adrian Blue Tear ―バー・エスメラルダの日常と非日常―  作者: すえもり
Ⅰバー・エスメラルダの日常と非日常 October

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ABT2. ヘビースモーカーが禁煙した理由 (3)

「どうでしょう……」

「うーん、懐かしい香りがします。辛口なコメントをさせていただくと、これは失敗のしようがないカクテルですけど、それでも大事な最初の一歩です。美味しいですよ」

 フランツはホッとして胸を撫で下ろした。

「やっぱりティーンが言うことじゃないわね」

 アストラが再び煙草に火をつけながら言う。

「アルコールは飲めないっていうけど、味見はしてるでしょ?」

「それは聞いちゃいけませんよ?」

「そもそも、マスターはバーで働いてはいけない年齢のはずですよね?」

 フランツは根本的なことを訊いた。

「ですから、看板を出していないんですよ。書類や申請関係は、まあ、ちょちょっとね」

 彼女は胸を張って言う。


「ところで、ブレンさんはまだ禁煙続いてるんですか?」

 彼は煙をくゆらせているアストラを恨めしそうに見遣ると、「一ヶ月」と答えた。

「何でやめたんですか? 健康のため?」

「いや、飲んでたやつが廃番になったんでね。あと仕事柄、匂いがするのがまずい時もある」

「私も同じのだったけど、別のに乗り換えたわ。試したらって勧めたけど、浮気はしないんだって」

 アストラが肩をすくめる。ルピナスは目を輝かせた。

「いいですね、そういうの。痺れますね」

「かっこつけてるだけよ」

「うるせえ。全部試して選んだやつだ。あれ以外はスカだ」

「失礼しちゃう。ね?」


 ルピナスはにこにこと笑いながら、フランツに小声で囁いた。

「ブレンさんは一途なんですよね。うふふ」

「つまり……お二人はそういう関係なんですか?」

「それが、素直じゃない同士なので、本っ当にもどかしいんです」

「何コソコソ話してるの」

 アストラに咎められ、ルピナスは「お店のルールを説明しています」と嘘をついた。


「それにしても、今日は土曜なのに他にお客さんが来ないので寂しい限りです」

「来週はうちの仲間を連れてくるわ。ちょうどハロウィンだし、仮装でもしましょ」

 アストラの意見にルピナスは嬉しそうに手を合わせた。

「いいアイディアですね! アストラさんはもちろんセクシー魔女でお願いします♡」

「何言ってるの……」

 確かに彼女のジャケットの胸元のボタンは苦しそうだ。

「ブレンさんはドラキュラでどうですか? お髭があるから似合いますよ」

「仮装なんかしねーよ」

「ノリが悪いー、そう仰らずに。うちの見習いさんは、もう決めたので! うふふふふ」

「マスター、その顔、怖いです」

「そういうルピナスは?」

「どうしましょうね。魔女っ子はありきたりなので、ミイラにでも……いや、ここはゾンビかな? お菓子も出しますので、ぜひお誘い合わせの上お集まりください」


 ルピナスは冷蔵庫の上にあるメモを取ると、楽しそうにペンを走らせ始めた。フランツはメモに『メイド風ドレス 大きめ』と書かれているのを見つけてしまい、嫌な予感がした。

「あの、それは?」

「ん? 気にしないでください」

「いや、気にします! なぜ大きめなんですか。まさか……」

「勘のいい子は嫌いですよ……」

 ルピナスは凶悪な笑みを浮かべてメモを仕舞った。

「勘のいい子? あの、」

 ルピナスはアストラに呼ばれて笑顔に戻った。

「いつもの、お願いね」

「承知いたしました。スメラルダ・ヴェルドをお二つ。さあ、フランツさん、手伝ってください」

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