ABT2. ヘビースモーカーが禁煙した理由 (3)
「どうでしょう……」
「うーん、懐かしい香りがします。辛口なコメントをさせていただくと、これは失敗のしようがないカクテルですけど、それでも大事な最初の一歩です。美味しいですよ」
フランツはホッとして胸を撫で下ろした。
「やっぱりティーンが言うことじゃないわね」
アストラが再び煙草に火をつけながら言う。
「アルコールは飲めないっていうけど、味見はしてるでしょ?」
「それは聞いちゃいけませんよ?」
「そもそも、マスターはバーで働いてはいけない年齢のはずですよね?」
フランツは根本的なことを訊いた。
「ですから、看板を出していないんですよ。書類や申請関係は、まあ、ちょちょっとね」
彼女は胸を張って言う。
「ところで、ブレンさんはまだ禁煙続いてるんですか?」
彼は煙をくゆらせているアストラを恨めしそうに見遣ると、「一ヶ月」と答えた。
「何でやめたんですか? 健康のため?」
「いや、飲んでたやつが廃番になったんでね。あと仕事柄、匂いがするのがまずい時もある」
「私も同じのだったけど、別のに乗り換えたわ。試したらって勧めたけど、浮気はしないんだって」
アストラが肩をすくめる。ルピナスは目を輝かせた。
「いいですね、そういうの。痺れますね」
「かっこつけてるだけよ」
「うるせえ。全部試して選んだやつだ。あれ以外はスカだ」
「失礼しちゃう。ね?」
ルピナスはにこにこと笑いながら、フランツに小声で囁いた。
「ブレンさんは一途なんですよね。うふふ」
「つまり……お二人はそういう関係なんですか?」
「それが、素直じゃない同士なので、本っ当にもどかしいんです」
「何コソコソ話してるの」
アストラに咎められ、ルピナスは「お店のルールを説明しています」と嘘をついた。
「それにしても、今日は土曜なのに他にお客さんが来ないので寂しい限りです」
「来週はうちの仲間を連れてくるわ。ちょうどハロウィンだし、仮装でもしましょ」
アストラの意見にルピナスは嬉しそうに手を合わせた。
「いいアイディアですね! アストラさんはもちろんセクシー魔女でお願いします♡」
「何言ってるの……」
確かに彼女のジャケットの胸元のボタンは苦しそうだ。
「ブレンさんはドラキュラでどうですか? お髭があるから似合いますよ」
「仮装なんかしねーよ」
「ノリが悪いー、そう仰らずに。うちの見習いさんは、もう決めたので! うふふふふ」
「マスター、その顔、怖いです」
「そういうルピナスは?」
「どうしましょうね。魔女っ子はありきたりなので、ミイラにでも……いや、ここはゾンビかな? お菓子も出しますので、ぜひお誘い合わせの上お集まりください」
ルピナスは冷蔵庫の上にあるメモを取ると、楽しそうにペンを走らせ始めた。フランツはメモに『メイド風ドレス 大きめ』と書かれているのを見つけてしまい、嫌な予感がした。
「あの、それは?」
「ん? 気にしないでください」
「いや、気にします! なぜ大きめなんですか。まさか……」
「勘のいい子は嫌いですよ……」
ルピナスは凶悪な笑みを浮かべてメモを仕舞った。
「勘のいい子? あの、」
ルピナスはアストラに呼ばれて笑顔に戻った。
「いつもの、お願いね」
「承知いたしました。スメラルダ・ヴェルドをお二つ。さあ、フランツさん、手伝ってください」




