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「好きにさせておけばよいだろう」
にべもなく言ってながれは、立てた片膝に寄り掛かるように体を沈める。
体から力が抜けるに従って欠伸が出た。
眠い。
「そういう訳にはゆきますまい」
反対に、ほむらは居住まいを正した。
「頭領の居ない今、兄上が威厳を示さねば一族が結束することは叶いませぬ。我らが鬼の衆はもとより有象無象の集まりに過ぎぬのですから」
生真面目な表情で、ほむらは真摯に訴える。
あのちゃらんぽらんな頭領に、よくこんなしっかりした娘ができたものだ。
何処とも行方の知れぬ父を思うながれの額には自然と皺が刻まれた。
「面倒だな……」
父の尻拭いを委されるのかと思えばなおさらに。
「兄上」
咎めるようにながれを呼ぶほむらの瞳が、不意に揺れた。
「冗談だ。そんな顔をしないでいい」
それとは気付かれぬ程度ながらに慌てて、ながれは呟く。
思わず、片手をほむらの頭にのばしていた。
「そんな顔とはどんな顔です」
拗ねたように、ほむらの唇が尖る。だが、のばした手は拒まれる事なく彼女の髪を撫でた。
「目が潤んでいる」
「灯りのせいでそう見えるだけです」
「そうか?」
強がる妹に、ながれは微かな笑みをこぼした。